インスパイアは瀬戸焼からゲーミングコックピットまで 三河発デザイン会社が世界から羨望を集める理由【有限会社D-WEBER】

2023年03月01日 10時00分更新

カーデザインをさまざまなアイテムに応用し、唯一無二の作品をプロダクト

 愛知県安城市は、持続可能なまちづくりとSDGsに取り組む企業・団体と共にSDGsの目標達成を目指す「あんじょうSDGs共創パートナー制度」を立ち上げ、現在190社を超える企業と団体がパートナーとして登録している。

 そんな共創パートナー企業・団体を広く発信するシリーズ企画がスタート。事業内容やSDGsの活動をはじめ、地域との結びつきまで、「実はこんなユニークな取り組みを行っていた!」と、共創パートナー各企業・団体の知られざる魅力を深掘りしていく。

 初回は愛知県安城市に本社を置く、有限会社D-WEBER。

プロジェクトブランドを立ち上げて世界の舞台で勝負する

 2003年に設立し、自動車産業を中心としたモノづくりが盛んな三河地域において、大手自動車メーカーのデザイン開発や各種プロダクトデザイン、グラフィックデザインなどを事業としている有限会社D-WEBER。

 同社を語る上で外せないのが、輝かしいデザインコンテストの受賞歴だ。「ASIA DESIGN PRIZE」のグランプリ受賞をはじめ、デザインの本場、ドイツの「GERMAN DESIGN AWARD」と「ICONIC AWARDS」からノミネートされて受賞、アメリカの「IDA DESIGN AWARD 2022」でブロンズ受賞、最近ではロンドンで行われた「LICC2022」 (London International Creative Competition)で出品した5作品すべてが入賞し、そのうち一つは数千点の作品の中から上位30作品に選ばれている。

 デザインコンテストに目を向けたきっかけについて、プロダクトデザイナーであり、代表取締役も務める水野健一さんはこう語る。

「大手自動車メーカーの素晴らしいプロジェクトに参加していることもあり、正直、業界内では僕のことを認めてくれている方々はそれなりにいたと思います。でも、会社でリクルートを検討したとき、求職者はまったく目を向けてくれませんでした。『自社でデザインしたものを世に広めないと共感は生まれない』と痛感しましたね。それで、客観的に評価していただけるアワードに注目したのです」

水野さんの人生を変えたと言っても過言ではない「宝玉」シリーズ

 水野さんはD-WEBER設立15周年を記念し、自社で発信するプロジェクトブランド「4DESIGN by D-W」を立ち上げる。焼き物の町・愛知県瀬戸市出身だった水野さんは、原点回帰の想いも込めて、瀬戸焼を用いたプロダクトを考えた。しかし、いざ窯元を訪れてみると、最初はまるで相手にされなかった。

「伝統工芸に関わりたいデザイナーは世の中に多かったんです。僕もその一人と思われたのでしょう。断られてばかりで悔しい思いもしましたよ。でも、簡単に諦めるつもりはありませんでした」(代表取締役・水野健一)

 ようやく水野さんの発想と情熱に理解を示してくれる窯元と出会い、第一弾の作品として「宝玉」が完成した。伝統工芸×カーデザインのコラボレーション作品は「ASIA DESIGN PRIZE 2019」でWINNERに輝いた。優雅で独創的なデザインは高く評価され、シンガポールの最高級リゾートホテル「カペラホテル」でも採用された。

 故郷に大きなインパクトを与え、「起業した頃のスピリッツがよみがえりましたね」と振り返る水野さん。こうしてプロダクトデザイナー水野健一の第二の冒険がスタートした。

大人の本気!? 「俺のゲーミングチェア、作ってくれる?」から始まったプロジェクト

右が水野さん、左に座るのが自動車フォトグラファー北畠主税氏

 その後も「4DESIGN by D-W」から数々の作品がプロダクトされ、幾多のコンテストで結果を残していく。特に注目したいのが「GT EXPERIENCE」だ。なんとこちらはゲーミングコックピットで、世界的な自動車フォトグラファー北畠主税氏の「自分用のゲーミングチェア、デザインしてくれない?」の言葉から始まった。

 当時、北畠氏は仕事で関わっているPlayStation用ゲーム「グランツーリスモ」に夢中で、冗談半分で先ほどの言葉を口にした。しかし、水野さんにはアイデアが降りてきた。すぐにデザインを検討し、3Dプリンターの先端企業などに声をかけて仲間を募り、実現に向けて動き出す。そうして各分野のプロフェッショナルが集まり、eスポーツシーンの起爆剤となるようなゲーミングコックピット「GT EXPERIENCE」を完成させた。

没入体験が味わえるレーシングコックピットがeスポーツシーンを変えていく

デザインを通して地元企業の持続可能な経済成長や後進育成に貢献

 水野さんは「モノづくりが盛んな安城市には、あらゆる加工技術において一流の方々がいます。それなのにフォーカスされていない現状がもどかしくて…。だから、プロダクトデザインの力でサポートして、世の中に発信したかったんです」と話す。そうして誕生したのが「地域密着ものづくりデザイン相談」だ。開いたプロダクトデザインサービスで、SDGsにもある産業と技術革新の基盤作りに貢献。地元企業と共に持続可能な経済成長を目指している。

 これまでに安城市にある株式会社タキオンと協力して「no touch knob premium」を、同じく安城市にある有限会社シンケンのスチール板加工技術を生かして「TOUROU」を発表。どちらの作品もコンテストで高い評価を受け、デザインの力で企業の知名度やブランド力の向上に貢献した。

足で扉を開ける感染予防ツール「no touch knob premium」

まるでインテリアのような宅配ボックス「TOUROU」

 2021年から水野さんは「日本インダストリアルデザイン協会」の正会員としても活動。現在は美術系の大学で行われるコンテストの審査員や、学生・企業向けのセミナーも行い、後進の育成にも力を入れている。

 地方だろうが都会だろうが、誰にも負けない技術やセンスがあれば、居場所なんて関係ない。フォーカスされていなかった地方の企業や産業を、プロダクトデザインの力で世界の舞台へ連れていく。水野さんの冒険はこれからも続く。

(提供:安城市)

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