新宿中央公園を今の時代にあわせて大きく変えた立役者と言える小田急電鉄。自治体や地元との連携によって新宿中央公園で1万人規模の映画フェス「Screen @ Shinjuku Central Park」を実現した小田急電鉄のキーマンに、プロジェクトの経緯や西新宿の将来像について語ってもらった。
新宿中央公園で映画フェス? 狙いは西新宿らしさを体験してもらうこと
新宿高層ビル群の一角にある新宿中央公園。うっそうとした緑が拡がる西新宿サラリーマン憩いの場所だが、以前はホームレスも多く、「暗い」「怖い」というイメージが強かったのも事実だ。しかし、新宿区の自立支援などでホームレスも減少。ちびっ子広場がリニューアルしたり、最近では交流拠点施設「SHUKNOVA(シュクノバ)」・芝生広場がオープンしたことで、以前のイメージとは大きく異なった活気あふれる公園に生まれ変わっている。
そんな新宿中央公園で「Screen@Shinjuku Central Park」という映画フェスを毎年のように行なってきたのが小田急電鉄だ。公園内に巨大なスクリーンを設置し、新宿の高層ビル街の夜景をバックに映画やアルコールが楽しめるというイベントで、毎年夏に開催。2016年の初回は3日間で1500人の動員だったが、4回目となる2019年は3日間でなんと1万2000人以上の来場者を動員したという。
もともとScreen@Shinjuku Central Parkは西新宿の楽しみ方を増進するために生まれた企画だ。プロジェクトを推進した小田急電鉄 生活創造事業本部 新宿プロジェクト推進部 北島大氏は、「このまちでしかできない体験をしてもらうことで、西新宿らしさを見せられるのではないかと思いました。地元住民だけではなく、このまちに通っている会社員や学生さんも『自分たちのまち』だと感じてもらうステップとして考えました」と語る。
こうして小田急電鉄のチームで考えた西新宿らしい体験とは、「新宿中央公園から見える高層ビルの夜景をバックに映画を観ること」だった。都庁とビジネスビル、ホテルに四方を囲まれた新宿中央公園は、確かにパノラマ環境で高層ビルの夜景を楽しめるユニークなスポット。「四方の高層ビル街の夜景を公園から楽しめる場所は、西新宿にしかない。この夜景を自然に長く楽しめるようにするにはどうしたらよいか。仲間と考えた結果、屋外の映画イベントに行き着いたんです」と北島氏は語る。
「こんな体験、新宿でできると思わなかった」
鉄道事業や都市開発を手がける小田急電鉄だが、もちろん映画イベントは未知の領域。予算の確保、イベントの運営、地元や公園との調整などすべてがチャレンジだった。しかし、まちづくりに関わってきた中で、社内での協力者やパートナーを得ていたため、社内での大きな反対はなかった。「みんなの共感を生めたのが大きかった。あとはどうやってやるかを考えることに集中できました」と北島氏は語る。
初年度は告知もプレスリリースのみで、ポスターすら作れなかった。しかし、集まった1500人は新宿の屋外で映画を楽しめるという未知の体験をSNSで絶賛したという。「『こんな体験、新宿でできると思わなかった』と言ってもらえました」と北島氏は振り返る。
認知度が高まり、社内での理解も得た2017年以降はプロモーションや規模も拡大。北島氏は、「新宿駅前側の映画イベントと連携したり、ロマンスカーの先頭車両に(上映プログラムの)ミニオンズを乗せたり、地元の店に出店してもらったり、とにかく同じことはやらないよう心がけました」と語る。そんなチャレンジの繰り返しにより、Screen@Shinjuku Central Parkは新宿中央公園に1万人を超える人を呼べるイベントに育った。
熱気が漂う夜の新宿中央公園で、ビールを飲みながら映画なんて楽しくない訳がない。「こちらはなにも仕掛けていないのに、映画を観ているお客さまから自然発生的にブーイングや拍手が沸き起こるんですよ(笑)。なんだか新しい屋外での楽しみ方を提案できたのではないかと思います」と北島氏は語る。
歴史の積み重なったまち西新宿 活動量の少なさが課題
小田急電鉄と新宿のつながりは強い。1927年の小田原線の開業以来、乗降客とも最大を誇る新宿の発展とともに、小田急電鉄は成長してきた。駅前には小田急百貨店があり、今の駅前広場も東京都からの委託を経て、小田急電鉄が整備したものだ。さらに新宿中央公園に隣接する地区にはハイアットリージェンシー東京(1980年開業時の名前はホテルセンチュリー・ハイアット)を含む、オフィスとホテルの複合ビルを保有している。もちろん、商業施設やビルだけではなく、まちを盛り上げる施策にも注力している。
戦後の混乱期、高度成長期、バブル期、そして現在に至るまで、小田急電鉄は一貫して新宿にフォーカスしてきた。「小田急電鉄のビジネスは単に鉄道を運営するだけではなく、沿線に住むみなさまの生活を豊かにすること。そんな沿線の方から見れば、新宿は起点でもあり、終点でもあります。そんな新宿の魅力を行政や地元の人たちといっしょに高めてきた実績は誇れると思います」と北島氏は語る。
Screen@Shinjuku Central Parkの開催においても、地元での理解やメリットを最優先にしてきた。だからこそ、イベントにおける地元店舗の出店も早々に実現できたわけだ。「公園の管理団体を始め、地元の自治体や町会のみなさんは、小田急電鉄がこの新宿でやってきたことに理解があります。映画フェスではもちろん近隣に響く音も出るのですが、『地元を盛り上げたい』という私たちの気持ちを信頼して、『小田急さんがやるのならいいですよ』と言ってくれます。 この関係は一朝一夕では難しくて、やはり先人たちが培ってくれたのだろうと思っています」と北島氏は語る。
西新宿の魅力とはなにか? 北島氏は「歴史が積み重なっているところ」と語る。「たとえば、戦後から残り続ける思い出横町のような場所もあるし、高度経済成長期に生まれた高層ビル群があります。中央公園の西側には古い住宅が残っているけど、高層マンションもどんどん建ちますよね。1つの歴史を否定せず、積み上がって、多様化しているイメージなんです」と語る。新宿中央公園の周りを歩いていて感じる新しさと古さが交わった風景はこうした歴史の積層が生み出しているのかもしれない。
裏を返せば西新宿の課題は、地元に関わる多くの人たちがその歴史の積み重ねを感じていないため、まちでの活動量が足りないということだ。「たとえば、高層マンションの人たちと、昔からの近隣住民との交流も少ないのではないかと思います。西新宿の高層ビルで働く人や学生さんも、活動といってもランチくらいでしょう。昼間人口も多く、こんなに面白いまちなのに、一人ひとりの活動量が小さいことが課題です」と北島氏は指摘する。
いよいよ始まる西口地区の再開発 空白時期をどう乗り切る?
そして2020年9月、小田急電鉄から新宿駅西口地区の開発も発表された。現在の小田急百貨店がある場所に、地上48階、高さ260メートルの複合施設が誕生し、オフィスと商業施設に加え、来場者と企業の交流を生み出すコミュニケーション&イノベーションスペースも導入される。2022年からスタートする工事は2029年の竣工する予定で、新宿は南口に引き続き、西口も大きく様変わりすることになる。
ここで懸念されるのは工事から完成に至るまでの空白期間だ。「駅直上の商業施設というにぎわいの拠点もなくなるし、人の動き方が変わることで悪影響もあります。工事期間中に西新宿のにぎわいをいかにキープしていくか、マイナス面を出さないようにするかは大きな課題です」(北島氏)。しかも、再開発になると、小田急グループが所有する既存の資産が使えない。駅前ではなく、まちの資産をどう活かしていくかを考えていくのが、まちの魅力を高めるための重要なポイントだという。
駅前にある小田急電鉄の既存資産に頼らず、地元とも連携しながら、どうやって空白期間が懸念される西新宿を盛り上げていくか? ここで生まれたのが、コラボレーションだ。「小田急電鉄単体で継続的にイベントや施策を仕掛けていくのは、現実問題として難しい。企業であれ、学校であれ、地元のコミュニティであれ、とにかく仲間を作り、同じ方向を見て協働していくことが重要だと考えています」と北島氏は語る。
具体的な取り組みとして進めているのが、NTTドコモとタッグを組み新しい新宿のイメージを作ろうという「XRシティTM SHINJUKU」だ。いよいよ離陸した5Gの通信技術とAR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを組み合わせ、新宿の体験価値を向上させようというのがプロジェクトのねらいだ。北島氏は、「リアルとデジタルの融合がすごいのではなく、デジタルをリアルに載せることで、リアルの価値を高めているところがポイントです。今でもスマホで検索すればいろいろなことを調べられますが、今後はまちを五感で感じられるようにしていきたいと思っています」と語る。
西新宿でなにかしたいとき小田急はハブになれるはず
その第一弾として行なわれたのが「XR Collection&Museum」。文化ファッション大学院大学と多摩美術大学とのコラボで実現した企画で、新宿西口の地上コンコースでARのファッションショーやアート作品を楽しめる。また、curiosity主催の「XR Wonder Park」は、ARコンテンツで新宿サザンテラスが普段と異なる風景に変わるというゲームコンテンツだ。
一方、新宿中央公園をファンタジーの森にしてしまうイベントが「CRYSTAL STORY -不思議の森と女神-」(主催スクウェア・エニックス ライブインタラクティブワークス)だ。新宿中央公園で光るクリスタルを探りながら、イルミネーションや音楽、デジタルアートなどを楽しめるという体験型ナイトウォークで、新宿区や小田急電鉄、スクウェア・エニックスなどで進めている「SHINJUKU HIKARI 2020」の1プログラムとして12月21日からスタートしている。
小田急電鉄とスクウェア・エニックスが会話を始めたのは約1年前。長らく新宿にオフィスを構えているスクウェア・エニックスは、長らくリアルのRPGを地元で展開したいという想いがあり、ロケーションとして新宿中央公園が挙がってきたという。「リアルとデジタルを融合したリアルのRPGはまちの魅力を高めてくれるだろうし、しかもスクウェア・エニックスさんであればストーリー性やコンテンツは申し分ない。それがまちの中で行なわれたら面白いはずなので、非常に共感しました」と北島氏は語る。小田急電鉄としては、長らく培ってきた自治体や地元とのパイプを惜しげなく共有し、イベントの実現を丁寧にサポートしてきたという。
ここまで読んでもらえれば、西新宿というフィールドでなにかを始めたいとき、パートナーとして小田急電鉄は最適であることは理解いただけるだろう。「リアルの場所と事業とのコラボレーション、イベントのような機会を持っていますし、自治体や地元と積み上げてきた関係もあります。だから、誰かとつながりたいと思ったときに、小田急はハブになれるはず」と北島氏は語る。工事が着工するまでの期間でパートナーと共創の実績を作り、工事期間もコンテンツや情報発信を継続的に進めていきたいという。
「移動することで幸せになる」価値を追求していく
テクノロジーを活用して新しい西新宿の魅力を表現していくこれらの取り組み。換言すれば、「西新宿のスマートシティ実験」ということになるだろうが、小田急電鉄として重視しているのはテクノロジーによって活動量を上げることだ。「テクノロジーで生活が便利になって、人は動かなくて済むという方向を狙っているわけでありません。むしろ、活動量が上がり、生活の満足度を上げることが重要だと思っています」と北島氏は語る。
とはいえ、コロナ渦の中だけに大手を振って人々を迎えられる状況にないのは事実だ。緊急事態宣言以降、ニューノーマルと呼ばれる生活様式の中で、テレワークやステイホームが求められたことで、移動すること自体が極端に減った。2020年はコロナウイルスの影響でリアルイベント自体はほぼなくなり、残念ながらScreen@Shinjuku Central Parkも中止になってしまった。しかし、鉄道会社でもある小田急電鉄としては、やはり「移動することで人は幸せになる」という価値を追求していくという。
今まで移動することは、仕事に行ったり、買い物に行くという明確な目的があった。しかし、ニューノーマルにおいて、仕事は一部在宅で済むようになり、買い物もネットで事足りるようになった。でも、果たしてこれでよいのか? 「確かにコロナウイルスで外出できなくても、生きていくための生活はできるようになった。起きて、食べて、タスクをこなして、また寝る。でも、それって人生なのか?と思うことがあるんです」と北島氏は語る。
そんな中、小田急電鉄は西新宿でのさまざまな共創プロジェクトを通じて、リアルの価値を再定義していきたいと考えている。「デジタルでできることが増えたからこそ、リアルでなければできないことを、きちんと突き詰めることが必要になっています。特に大都市は効率性を追求するがあまり、そういったことを捨ててきました。でも、歴史が積み重なっている、古きよきものを捨てていない西新宿なら、それができると思うんです。確かにいまはイベントも難しい。でも、コロナが終わった後、西新宿でなにか起こせるようにきちんと準備をしています」と北島氏は語る。
「XRシティ」は、株式会社NTTドコモの商標です。(提供:小田急電鉄)
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