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新しいカタチで“音楽の力”を発信した音楽フェス「OMNIBUS ~The Circuit #回遊~」

「芸術は生きる力」と信じてアーティストや会場・施設を支援


 今回の「OMNIBUS」は、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)が主催する、文化庁アートキャラバン事業「JAPAN LIVE YELL project」の東京企画〈東京アート&ライブシティ〉の一環として開催。全国28地域で実施し、コロナ禍に失われた文化芸術活動・参加の機会を提供し、活動の再開を後押しするものだ。

「OMNIBUS」を主催した公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)の実演芸術振興部 振興事業課 課長・黒田智昭さん

 実演芸術振興部 振興事業課 課長の黒田智昭さんは、来場者もアーティストも楽しんでいる姿を見て、「主催者としてとてもうれしい」と喜ぶ。
「コロナ禍で、アーティストは舞台に立つ機会を多く失っていましたし、会場自体も閉館したり、自治体から自粛を厳しく伝えられたりしていて、思うように活動・開催できなかったので、この事業で少しでも支援できたらという思いで主催しました。今日、それが形となって見えてよかったな、と思っています」

 今回、新宿の7つのライブハウスが一丸となった、珍しいサーキット形式の音楽フェスとなったが、それにも理由が。
「新宿は、音楽だけでなく演劇や伝統芸能などもあり、多種多様な文化が共存しているところが大きな魅力ですが、特にコロナ禍で営業が厳しくなっているライブハウス文化を消してはいけない、という思いがありました。単館ではなく、複数館で開催する”回遊型”のリスクはもちろん考えましたが、地域の活性化もテーマのひとつでした。単発で行う支援や助成も大切ですが、お客さまを街に戻し、以前のようにイベントを開催できるまちにしたい、と考えました」

 自粛して活動を全て止めるのではなく、しっかり感染症対策を行えば、安全・安心に開催できるし、活動を続けていい。そんなメッセージを発信したかったという。

 開催が危ぶまれる時期もあったが、無事開催が決まり、チケットはソールドアウト。コロナ禍での観賞マナーも浸透し、観客は新しいスタイルで生のライブを楽しんでいる。
「これならまた開催しても大丈夫だな、と感じました。今回の『OMNIBUS』が、感染者も出さず、『成功』という形になれば、今後の足掛かりになります。今日来てくださったお客さま、会場となった施設だけでなく、このイベントを耳にした人たちが、イベントに行っていいんだな、イベントを開催してもいいんだな、と思ってくだされば。世の中にそういう気運が高まっていったらうれしいです」

新宿Motionに出演したYonYon

 そして、黒田さんはこう続ける。
「やっぱり生はいいですよね。振動や音圧を肌で感じるというか、おなかにズシンとくる感覚とか(笑)」。来年以降も続けて開催するべく、活動を続けていくという。

「舞台やライブは決して『不要不急』ではなく、私たちはその力を信じ、生きていくために必要なもの、という信念を持っています。新宿は音楽だけでなく、演劇や伝統芸能、お笑いもありますから、多様な新宿の文化を象徴するような、おもしろいイベントにして盛り上がっていけたら、と思っています」

人前で歌える幸せを感じながら、ライブは新時代のスタイルへ


 通常のライブより少し早めの夕刻17:00ごろから、7つのライブハウスにはトリを務めるアーティストが登場し、会場を盛り上げた。「新宿Zirco」に登場したのは、宮崎出身のクボタカイ。全10曲を披露し、熱いステージを繰り広げた。

「新宿Zirco」のトリを務めたクボタカイ。ヒップホップ、R&B、ロック、ポップスまで幅広く取り入れた音楽性と文学の香りを感じさせる歌詞で注目を集める新世代アーティスト

 ライブ中のMCでは「ライブってやっぱりいいですよねー。人前で歌えるってね」と感慨深くコメントし、「僕にしてみたら、みんなが目の前にいるのがライブで、みんなからしてみれば、僕が目の前で歌っているのがライブだよね」と語りかけたクボタ。多くの観客にとっては久しぶりとなる生のライブで、どんなことを感じながらステージに立っていたのだろうか。

「みんながきちんとマナーを守って、声ひとつもれないことに驚きました。そのうえで、歓声以外の拍手や体の揺れ方などでライブハウス特有の熱量が伝わってきて。新しいライブの形が、いい感じで成功したと思いました」
 観客の入場数規制があっても、歓声がなくても、双方のコミュニケーションが取れた「ライブ」としてしっかり成り立っており、楽しかったという。

 今日は出身地の宮崎県から参加した。
「東京のおもしろいところって駅ひとつ違うだけで、カルチャーが大きく違うところ。なかでも新宿は飛び抜けて異様。夜の街、というか。人も多いし、宮崎から来るとその差に驚きます。その新宿で、今日のように観客もアーティストもきちんとマナーを守ってライブを開催し、成功したとすれば、地方でも開催しやすくなると思います。 コロナ禍でライブやイベントの参加を控えていた人は、最初は不安に思うかもしれませんが、『新宿で大丈夫だったんだから』というのがきっかけになって、行きやすくなるのかな、と感じました」

 コロナ禍にはオンラインでライブ配信も行っていたが、そこで見えるのはコメントや観客の数。やはり生のライブはその場の感情を感じられる、という。
「生のステージに立つのは、歌うためというのはもちろんですが、お客さんの反応を見るというのも僕にとっては大きいです。配信も楽しいですが、ライブはお客さんの反応によって僕のパフォーマンスが影響されたりすることもあって、それは生ならでは。フリースタイルでいじったりもできますし(笑)。お客さんの火種は僕がつけるから、あとは自由に楽しんで、というのをしたいんです。同じ『ライブ』という言葉でも、配信と生では少し意味が違います。配信は視聴を、ライブは空間を楽しむもの、かな」

 

 アーティストも観客も、新宿で久しぶりに“生”の音を楽しんだ1日。「OMNIBUS」は、新しい時代を象徴する音楽フェスとなった。今日のイベントの成功がきっかけとなり、新宿、そして、そのほかの地域が以前のような活気を取り戻す日も、もうすぐだ。  

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