はじめまして、笠尾です。
私は東京工芸大学の芸術学部でコミュニケーションキャラクターについての授業を行いながら、学生をクリエイティブにするのに効果的な方法は何か? についての研究も進めてきました。
私が日ごろ創造性トレーニングとして効果があると考えている「みたて」をテーマにしつつ、一般の方にも取り組みやすくした「西新宿を『みたて』で遊ぶ」という連載をスタートすることになりました。ちょっとおバカな企画ですが、楽しく皆さんの頭脳を揺さぶりたいと思っています。お付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。
さて、まずは、「西新宿を『みたて』で遊ぶ」とはどういうことかを、簡単にお話いたします。
ひと言でいうと、皆さんと一緒に、
西新宿の街の中にある、自然や人工物など“いろいろなものを別の何かに見立てて絵にして楽しむ”
という遊びです。まだ、西新宿には私のみたて作品が少ないので、以前、青山の骨董通りのすべての建物を動物にしてアクリル板に印刷した「たてもの動物」作品を参考にご紹介します。
一番下が当時の骨董道りをもしもほぼ真横から見たらこうなるはずという絵です。この建物すべてを強引に何かしらに「みたて」をしていくのですが、すべてというのが結構難しく、ここが一番効果的なトレーニングになる部分なのです。このトレーニングはあるきっかけで中国のCCTVで流されたことがあり、中国の大学の先生から訪問を受けたり、先生や学生から問い合わせを随分受けたりもしました。
しかし、慣れない人がすべての建物を何かのキャラクターにするというのはなかなか大変です。ですが、一つの建物でも「みたて」を見つけられれば、子どものような気持ちに戻って楽しくなれますし、お子さんなら、僕のマンションは恐竜なんだよと友達に紹介することもできるようになります。というわけで、できるものから少しずつやって行こうと思います。
「みたて」という行為は人の頭をクリエイティブにするので、実は、子供よりも、学生や社会人社内人にとってとても有益なものになります。ぜひ皆さん、一緒に「みたて遊び」にご参加ください。
では、「みたて」のコツについてお話しましょう。「なるほど、確かにそう見える」というものよりも、こじつけのおもしろさを狙ってほしいのです。そのままだと「えー、それは無理があるよ」と思われるようなもの、つまり一部分だけが何かに似ているようなものでも、それをどのように自分以外の皆さんに思い込ませるかを考える方が味わいも深みも出るというものだからです。そして、なにより、そのような無理な「みたて」を強引に考えることが先にご説明したようにトレーニングになるのです。
ではさっそく今回のお題を発表しましょう。
さて、今回のお題は「都庁」です。西新宿といえば都庁ですからね。
まずはこの写真をみてください。そして「都庁って何に似ているかな?」と言葉で考えるのではなく、目でしっかり実物か写真を見ながら、頭をリラックスさせてそこから何かを感じてください。考えるより感じることが大切なのです。すると全体ではなく、一か所ぐらいは何かしらに似ているなと感じる部分があるものです。目でしっかり見るためには、写真や実物の細部を順に見ていくのが効果的です。つまり詳細な観察です。これが普通の人にはできないのです。できないのですが大切なことなのです。そしてたまに、引いて全体や周囲も見てみます。すると何かしら最初は見えなかったものが見えてくるはずです。これを繰り返すと、「みたて」が見つかりやすくなります。
私の場合はこの写真を見ていたら「可愛くてごめん」が聞こえてきました。この曲ご存じでしょうか。ご存じないと「この人何をいっているのかしら」ということになってしまいますよね。ちょっと説明させていただくと、この曲の踊ってみた動画がたくさんYouTubeに出ていますので、それをご覧いただけると分かるのですが、その中の曲のタイトルでもある「可愛くてごめん」の部分のフリが投げキッスなのです。
都庁をじっと見ていたら、その曲が頭の中に流れてきて、都庁が私に投げキッスをしているように見えてきた、という感じなのです。私ぐらい長く「みたて遊び」をしている人間からすると、先に書いたプロセスは無意識に実行されてしまいます。はじめのうちは難しいと思いますので、よく見ること以外のヒントもお伝えしておきましょう。それは皆さんが心を自由にすることです。自分の心が自由になっていることが大事なのです。心が自由になっていれば、連想も自由に頭の中に広がり何かを感じやすくなります。
まあ、方法論はこの程度にして、この「みたて物件」に投げキッスをしている線を描き加えてみました。かわいいので色はビンクにしました。
このように、お題は都庁ですが、その周囲の物も加えてみると「みたて」も変わってきます。この写真を解説しますと、手前の木が投げキッスの手のように見えて、植え込みがくちびるに見えたということです。ちなみに自分でもこの曲で踊ってみたいという方のために、踊りやすい反転動画がYoutubeに出ています。
では、次の写真はいかがでしょうか。
この写真を見ていたら、カバの鼻と牙が見えてきました。さらによく見ていたら、建物の手前の木が長髪に見えてきたので、「みたて」はついに長い前髪を垂らしたカバに結実しました。それを線画にして先の写真に描き加えてみました。
いかがでしょうか。まあ、長髪のカバなんているわけなので、おバカ感が高くなりますが、独特感は出てきたのではないでしょうか? こうやって、実例を見てくると、「あー、そういうことね。ならできそうだ」って気になってきたのではないでしょうか。その意気で、もうしばらくお付き合いください。
さて、この場所(新宿中央公園)には公園大橋という橋がありまして、この橋を渡った先には子どもの遊具のあるちびっこ広場もあります。この公園大橋を渡ってすぐのところに、まさにこれから咲き乱れるはずの桜の木があったのですが、残念ながら病気かなにかの原因で切られてしまい、今は切り株が2つ残っているだけです。そのうちの一つには切り株の真ん中の穴から笹が生えてきています。そして、この切り株に、公園の管理事務所の方が「観察札」というのを付けてくれています。
実は「ちゃいなすき」さんという方が、毎日この切り株の写真を撮影して、Twitterに観察記録を付けられているのです。
毎日同じ切り株の写真なのですが、笹の方は成長していったり、風で痛めつけられたりと変化していきます。その少しの違いをもとに、私の方もチャイナ好きさんの切り株写真をもとに見立て作品を作ってtwitterにアップし続けています。いい加減ネタも尽きてきているのですが、なんとかまだ続いています。
さて、話を戻しましょう。ここでカバが出てきたところで、次の写真をご覧ください。
カバといえばゾウということで、すぐにゾウに見えてしまいました。ゾウといえばゾウの絵本『ぐるぱのようちえん』を思い出す人もいると思うのです。ちなみに、私は絵本の絵のフカヨミ教室というのもYouTubeで配信しております。これもこの企画と似たコンセプトでして、「子供の絵本であっても、絵を読むと大人でも読み応えが生まれますし、クリエイティブのトレーニングにもなるよ」ということでいろいろな絵本のフカヨミ手法をご紹介していますので、こちらもしよろしかったらご覧ください。
ということで、また、横道にそれましたが、都庁を今度はゾウに「みたて」てみました。
さらに入口に近いところに移動すると、こちらにも新しくなった遊具のすべり台がありました。
このすべり台になる前の古い滑り台をご存じの方はいらっしゃるでしょうか。かなり急なすべり台だったのです。私がたまに行くお店のご主人が子どもの頃、このすべり台を下から上に走り上がることに挑戦しつづけ、ついに登りきった時に、「大人になったな」と感じたというお話をしてくれました。また、それと同時に「新しくなってしまったことに少し寂しさを感じる」とおっしゃっていたことも思い出しました。
さて、写真の話に戻りますと、下の黄色いすべり台の部分が黄色ですよね。その部分がアヒルのくちばしに私には見えました。そこで強引にその後ろの部分をアヒルの羽に見立ててみたら、こんな感じのアヒルになりました。
いかがだったでしょうか、「みたて」の後半部分は動物園にしてみました。このようにシリーズにしてみるのもおもしろいですよね。一つしか無い都庁ですがプラスアルファを考えることで何かに「みたて」ることができたというわけです。
これが最初にお話した、引いて見てみる効果でもあります。
また、もちろん、人によって見えるものも違ってきます。そこで、個人的に小田急電鉄の中江さんに無理に都庁の「みたて」をお願いしたところ、「ロケット」と「たけのこ」に「みたて」て、それぞれをPPTで絵にしていただけました。
「オーなるほど、いわれてみれば確かにそう見えるな」という感じですよね。中江さんありがとうございました。このように、アイデアを書き留められればいので、使う道具や上手い下手はほぼ関係ないのです。創造性のトレーニングでは視覚化することがとても大事なのです。ぜひ皆さんも、独自の発想で、都庁のおもしろいみたてをみつけてみてください。
また、現在、新宿中央公園でみなさんと一緒に先にご紹介したtwitterのspacesで「みたて遊び」の実況をしながら、実際にipadを使って見立て画像を投稿するという、リアルタイム「みたて遊び」の企画も計画しております。現在は実験的におこなっていますが、運用できるようになりましたら、こちらでもご紹介させていただきます。
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