新宿中央公園に設置されたテントで、疑似たき火を見ながら、1日の仕事のふりかえり? これはKDDI総合研究所が2月~3月にかけて行なった新しい働き方の実証実験だ。参加者のコメントともに、実証実験の内容や目指すところをひもといていこう。
テントの中で静かに内省 成長を促せるワークスペースとは?
春うららな3月上旬、都庁を見上げる新宿中央公園の「眺望のもり」に出向くと、不思議なテントが二棟設置されていた。木製のドアを開けて中に入ると、巨大なディスプレイに赤々とたき火の映像が流れており、その前に机とノートが並んでいる。窓もあるので、外光は入ってくるし、音も聞こえてくるが、基本は外と隔離されたスペースだ。
実証実験の参加者が、このテントの中で行なうのは「内省」と言われる自己の経験のふりかえり。有名なロミンガーの法則によると、人の成長の7割は経験から培われるのだが、実際は経験に基づいた内省が重要になる。経験をふりかえることで、人は気づきを得て、経験と知識にできるというわけだ。
問題はこの内省をどこで行なうか? 果たして、オフィスや家のような日常空間なのか、もしくは普段行かないような非日常空間なのか。これを検証するために設置されたのが、今回のテントになる。実際、実証実験の参加者はオフィスとテントでそれぞれ2回、合計4回の内省を実施し、その効果を検証する。
ふりかえりの実証方法は、うまくいったことを書く「Keep」、改善すべきことを書く「Problem」、経験やProblemを踏まえて解決すべきことを書き出す「Try」というKPTフレームワークを用いる。モニターに映し出された疑似たき火を前に、「ある1日の仕事」をテーマに、このKPTフレームワークでふりかえりを行ない、アンケートを回答するという。
KDDI総合研究所が西新宿スマートシティ協議会の一員として、こうした実験を実施するのは今年で2回目。2021年度はオンライン会議に特化したスペースとして新宿中央公園にテントを設けたが、今回は逆にクローズな環境として用意し、内省による自己成長を促せないかと考えた。西新宿エリアにとどまらず、日本の労働者が高い生産性で働けるような環境を考えるのがプロジェクトのテーマとなっている。
非日常空間だからこそできるふりかえりの重要性
今回、実証実験の参加者としてお話を伺ったのは、コクヨの三村和香さん。普段も働き方やワークスペースにかかわるお仕事をしているので、こうした取り組みにも積極的で、参加を決めたとのこと。今回は品川のオフィスから、新宿中央公園に足を運び、内省を終えたところでお話を聞いた。
まず普段こうした内省を行なっているかという質問に対しては、「なかなか時間がとれない」とのこと。確かに通勤電車の中で内省に近いようなことをわれわれもやっているのかもしれないが、なかなか集中できる環境にない。その点、今回はクローズな環境で、アンケートの回答まで含めて、45分の時間がとられているので、集中してふりかえりができたという。
今回テーマとなる内省スペースに関しては、非日常性が感じられたという。そもそもテントの中でたき火というのも日常ではあり得ないし、靴を脱いで、1人のみになる機会はサラリーマンにはなかなかない。モニターに映った疑似たき火とは言え、パチパチという木がはぜる音で臨場感も感じられたという。「普通、たき火は夜にやりますけど、小窓から光が入ってくるので、不思議な感じ。でも無心になれるし、明るいたき火もいいなと思いました」と三村さんはコメントする。
オフィス外に設置されたこうした内省スペースについては、「Web会議や執務スペース以外に、こういうスペースがあってもよいのでは?」と、普段から働き方やワークスペースについて考えている三村さんならではの意見。コロナ禍でオフィスの位置づけは変わったが、その1つとして内省スペースという役割はありだろう。(疑似とは言え)たき火を見ながら、1人静かに仕事を振り返る時間と場所は、今後AIでは難しいようなクリエイティブな仕事で必要になるのかもしれない。
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