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 みなさんは「よこはま子ども国際平和プログラム」をご存じですか?

 こちらは、毎年約4万人の横浜市内の小中学生が、

〇「国際平和のために自分にできること」について主張する「よこはま子ども国際平和スピーチコンテスト」に参加

〇校内選考、区予選を突破して、市本選で市長賞を受賞した4名の「よこはま子どもピースメッセンジャー」が、ピースメッセージや市長メッセージ、ユニセフ募金をニューヨーク国連本部等に直接届ける

といった活動で構成されるプログラムで、1986(昭和61)年から実施しています(途中名称等変更)。壮大なプログラムをこんなに長く続けているなんて、横浜ってやっぱり特別です。

 この連載は、本プログラムの担当者(教育委員会事務局 兵頭)がお届けする、子どもたちの「活動レポート」。  第2回は令和5年度よこはま子どもピースメッセンジャーの1人、森中学校3年(当時)の「大野瑞葉さん」の成長物語です。

前回の記事はこちら
~ピースメッセンジャーはハンバーガーに夢中~
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精悍できりっとした15歳を形作った特技とは?

 ホテルのバスルームを出ると、ビュン、と目の前に足の裏。「あ、ごめんなさい。明日、自己紹介で『形(カタ)』見せようかと思ってるんです。」国連国際学校への体験入学前夜、マンハッタンのホテルで、私と同室ステイの大野さんは、空手の『形』の確認に気合が入っています。黒帯を持っていて、全国大会では敢闘賞に入賞したこともある大野さん。リハーサルもばっちり決まっています。

 スピーチコンテストで大野さんが主張したのは、「自分を表現する自由」について。空手が得意だと、「女子なのに、すごいね」と言われる。女子なのに、ってどういうこと?
男子だったら、ふつうに「すごいね」となるのに。そういった世の中の悪気ない決めつけに対する思いを、スピーチにぶつけました。

・「僕」大野瑞葉さん

ジェンダー問題・国際平和への強い思い

 国連で、大野さんが強く会談を希望したのが、国連女性機関局長 シマ・サミ・ハバウス氏。理由は、ジェンダー問題の最前線で働く人に自分の思いを伝えたかったから、とのことです。いつも堂々としている大野さんも、会談直前は「緊張するー」を連呼。

 会談で大野さんの心に残ったシマ氏の言葉は、「自分と違う相手を知ることが大事。知ることでさまざまな差別が解消されていく。」ということ。そして、「まだまだ多くの国で女性が活躍できていない事実があり、それはとても大きな問題。男性、女性、お年寄り、若い人、みんなで協力して世界を支えていこう。」という言葉には、これから行動していく勇気ももらえたようです。

国連女性機関で、憧れのシマ氏と

 派遣4日目は、ニューヨーク市内視察でした。派遣のテーマ「国際平和」の視点で、自由の女神や9.11メモリアルを見学。そこで壁一面に貼られていた、事件で亡くなった方々の笑顔の写真を見て、大野さんは次のように思ったようです。「なぜこんなにも幸せそうな人たちが死なないといけないのか。亡くなった方の笑顔と、事件が起きた瞬間を見た人たちの、衝撃を受け、悲しみ、悔やんでいるようにも見える表情を僕は忘れることができません。忘れてはならないと、強く感じました。」

ワールドトレードセンター跡地 9.11メモリアル。事件で犠牲になった日本人の方々の名前を見て、遠い世界のことではないと感じる

ワールドトレードセンター跡地 9.11メモリアル。ここで起きたこととその理由を考えながら。左が大野さん

 スピーチのタイトルも「僕」とありますが、大野さんは自分の事を「僕」と言います。そこにも男女の垣根を超えた、大野さんなりのジェンダーレスへの強いメッセージが込められています。

 ずっと会いたかった国連女性機関局長 シマ氏を含む、さまざまなジャンルの国連関係者との会談を終え、大野さんは、「これまで、ジェンダーのことばかりに気持ちが向いていたけれど、貧困、エネルギー、世界の課題はさまざまで、それぞれの課題解決に向けて、真剣に考え、行動している大人がたくさんいることに感動し、大きな刺激を受けた。」と感想を述べました。

 結局、リハーサルまでした空手の『形』は、国連国際学校の所属クラスで披露するチャンスはなくお蔵入り。『形』を披露しなくとも、その場にあわせたコミュニケーションをとってクラスメイトと打ち解けた大野さん。柔軟さも併せもった本当の強さを発揮して、未来を切り開いていく姿が想像できます。

自由の女神像の前で。子どもピースメッセンジャーとして、これからの活躍を決意して。左から2番目が大野さん

活動を終えて

「今は子どもでも、SDGs達成の2030年には大人になっている僕。その時には戦争がないといいと心から思います。国連で働く人たちは、戦争の話をすると、とても苦しそうにしていました。それを見て、心で、耳で、目で、戦争は本当にあってはならないことなのだと感じました。これから、みんなが笑顔になれる日々の実現へむけて活動できるのは僕たちです。まずはお互いを知ろう。今、そう強く感じています。」(大野さんの言葉)

 毎晩、ホテルの部屋で、その日1日、体と頭をフル回転して全身で受け止めて、感動したこと、すごい!と思ったこと、なぜ?と思ったことをまっすぐに伝えてくれた、その時間は、私にとって、この派遣の意義を改めて感じることのできた、楽しく大切な時間でした。

 熱量をもって、周りを巻き込みながら、力強く前進する。同年代も大人も、女子も男子も、気づくと大野さんのエネルギーの渦に巻き込まれ、一緒に前に進んでいる。それは、強さだけではなく、実は誰よりも相手のことを考える大野さんの優しい心がそうさせるのだと思います。

 パソコンで仕事をしつつ、そんなことを思いながら話をきいていたら、突然静かになったので振り返ると、ポカっと口をあけてすやすや眠る大野さん。昼間は大人顔負けの主張をしていても、寝顔は、あどけない、現在成長中の15歳です。

高校生になった今も、空手は続けています。どこまで強くなるのでしょうか?

 この連載では、チャレンジする横浜の子どもたちの活動をお届けしていきます。お楽しみに!

<お知らせ>

 「令和6年度よこはま子ども国際平和スピーチコンテスト」が、小学校の部7月22日(月)、中学校の部7月23日(火)に、南公会堂で開催されます。

 連載中の令和5年度ピースメッセンジャーの4人が司会をします! 子どもたちのまっすぐな思いを聞きに、新しいピースメッセンジャーが生まれる瞬間を見に来ませんか?

一般参観には、申し込みが必要です。申込期限 7月12日(金)。

 詳細はHPをご覧ください。

 よこはま子ども国際平和プログラム 横浜市 (yokohama.lg.jp)
 

文/兵頭律子

自由の女神ミュージアムで。自由の女神顔部分(実物大)とともに。

横浜市教育委員会事務局 主任指導主事。横浜市立中学校英語科教員として長く勤務し、令和元年度より教育委員会事務局勤務。令和5年度より、よこはま子ども国際平和プログラム担当として、スピーチコンテストの企画運営、ピースメッセンジャー国連本部派遣等に従事。NY派遣の引率を終えてから、毎晩、空手、ではなく、ストレッチを実行中。写真は自由の女神ミュージアムで。自由の女神顔部分(実物大)とともに。

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