戦国LOVEWalkerでお城&メタ散歩を楽しもう②
大阪城の天守閣は、昭和の名建築として、バリアフリー、耐火性、耐震性でも先頭を走っていた
2025年12月03日 12時45分更新
2025年12月22日刊行の「戦国LOVEWalker2026」の大きなテーマは2026年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」の主人公である豊臣秀長と豊臣秀吉の天下人兄弟だが、豊臣家の居城と言えば、言わずと知れた大坂城(当時は“大坂”)。
実は、大阪城の復興天守は、復元天守ではない。現在建っているのは、徳川時代の天守台の上なのだが、外観の意匠は、「大坂夏の陣屏風」(当時は黒田家蔵。現在は大阪城天守閣所蔵)に描かれた豊臣時代の天守にもとづいている。市民の寄付金により昭和6年(1931)11月、鉄骨鉄筋コンクリート造でエレベーター付きの博物館施設として3代目の大阪城天守閣が完成した。当時の最新技術を駆使した、きわめてユニークな近代建築、「ビル」ともいえる。
最上階は展望台、下の各階は展示室という形式は大人気を博し、この後に続く復興天守や模擬天守に大きな影響を与え、各地で手本とされた。今は、昭和の名建築として平成9年(1997)に国の登録有形文化財、さらに令和7年(2025)には大阪市指定有形文化財になっている。
今の姿になったのは、平成7年(1995)12月から平成9年(1997)3月にかけての「平成の大改修」。老朽化が進んでいたこともあったが、平成7年(1995)に起きた阪神・淡路大震災の揺れにも耐えられるように構造が補強され、外観は壁の塗り替え、傷んだ屋根瓦の取り替えや鯱・鬼瓦の金箔の押し直しが行われた。
また、中部も大きく拡充され、バリアフリートイレが備えられ、従来の館内エレベーターのほかに館外エレベーターが小天守台西側(御殿二階廊下跡)に取り付けられた。昇降路の透明なエレベーターが天守閣の横に加わり、足の不自由な方でも、最上階までスムーズにいけるようになった。デザイン的にも秀逸だ。総費用は展示関係の費用も含め約70億円、「昭和の天守閣復興」と同じく市民の寄付も集まり、費用に貢献した。
天守閣(左)とミライザ大阪城。旧第四師団司令部庁舎(もと大阪市立博物館)で、復興天守閣の建設と同じ年に出来た建物。ショップや、レストランが入っており、屋上には、目の前に天守閣が迫るバーベキュー「BLUE BIRDS ROOF TOP TERRACE」が楽しい。地下1階には、令和4年(2022)12月にオープンした「海洋堂フィギュアミュージアム ミライザ大阪城」が待っている
復興天守第一号の大阪城天守閣が切り開いた博物館としての天守閣の可能性
最近は、失われた天守を、当時と極力同じような素材、造りで復元する「復元天守」が重んじられ、木造にこだわった大洲城(愛媛県)や白河小峰城(福島県)といった「木造復元天守」も作られた。名古屋城など、いくつか計画中のものもある。
しかし、これらの城(天守)は、当時を知るには伝わりやすいが、耐震性、耐火性に問題があり、更にはエレベーターの設置が難しく、バリアフリーの観点からは厳しい。観光的には、やはり、窓が大きい方が天守閣の上からの眺めがよく、来城者には喜ばれるだろう。復興天守の価値は今一度、見直されるべきだと思う。
大阪城の天守閣の構造は、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)が採用されている。これは、鉄骨の周りに鉄筋を組み、コンクリートを流し込んで一体化させる当時最新の耐震・耐火建築。この強固な構造により、天守閣の重量を支えつつ、地震や火災に強い近代的な博物館としての機能が実現された。これは、当時木造が主流だった日本の古典建築において、安全性を最優先する重要な決定だった。
また、天守閣内部にエレベーターが設置された。博物館としての機能が考慮されたため、多くの来館者が容易に上層階へアクセスできるよう、現代的なバリアフリーの概念を先取りしたようなアイデアが取り入れられた。伝統的な建造物の中にエレベーターを組み込むという発想は、当時の復興建築としては非常に先進的だった。
設計は大阪市土木局建築課の波江悌夫や古川重春らが担い、武田五一・天沼俊一・片岡安といった建築界の実力者がアドバイザー的にこれを支えた。この体制により、歴史的建築物を総重量11,000トンのSRC造という近代建築物によって再現するという困難な課題に立ち向かったのである。施工は大林組が担当し、当時の最先端の土木技術を駆使して建設された。
大阪城天守閣は昭和年間、特に戦後に全国で相次いだ城郭の復興事業の歴史において、「復興天守の第一号」と位置づけられている。SRC造の採用やエレベーターの設置といった近代的な工法や博物館としての機能を持たせる手法は、名古屋城(1959年天守再建)をはじめ他の城郭の復興天守のモデルケースとなり、日本の戦後復興における文化財再生の方向性を示した。 このように、現在の大阪城天守閣は、外観こそ豊臣秀吉の時代を偲ぶ伝統的なものだが、中身は日本の近代建築技術の結晶と言える構造となっている。
意匠については、当時は、城郭建築の研究は今ほど進んでおらず、特に豊臣氏大坂城天守に関する資料は乏しかった。そもそも、徳川大坂城の下に豊臣大坂城が眠っていることすら知られていなかったのだ。
古川は全国に残る桃山時代の建築物や城郭建築物を調査、研究し、黒田家伝来の「大坂夏の陣図屏風」に描かれた天守をもとに全体の構成から細部にいたるまで、新たに、設計をおこなった。
大坂夏の陣屏風にも描かれている天守外壁の虎の絵については、5層目を虎のレリーフとし、竹内栖鳳が狩野永徳・山楽の描いた虎を参考に下絵を描いたものである。内部は、豊臣秀吉を始めとする大阪ゆかりの偉人や、大阪の歴史を中心とした郷土歴史館で、天王寺公園内にあった大阪市民博物館の多くの資料が、天守閣に移された。天守閣は人気を集め、戦況の悪化で入場が規制されるまでは年間で90万人を超える入場者数を誇った。
そして、昭和天皇による玉音放送が流れ終戦を迎えた日の前日にあたる昭和20年(1945)8月14日、第8次大阪大空襲により天守閣も爆弾の至近弾を受けた。南西部の天守台石垣は傷つき、北東部の天守台石垣にも大きなズレが生じた。しかし、天守閣本体は直撃を免れた。
戦後は、昭和24年(1949)に天守閣の一般公開が再開された。
8階建ての傑作ビルは、二重らせん階段や豊臣時代に想いを馳せる充実の展示まで楽しさが詰まっている
天守閣の内部は8階建て。エレベーターは2基あり、1基は1階から5階まで、もう1基は1階から8階まで行くことができ、足の不自由な方などは申し出れば8階まで行くことができる。
8階は展望台になっていて、廻縁となっており、あたかも天下人気分で、高欄を巡って360度の景色を楽しむことができる。また、車いすでの通行ができるようにもなっている。7階は、豊臣秀吉の一生が分かる展示室。 6階は回廊となっていて立ち入りできない。 5階は、大坂夏の陣を紹介する展示室となっている。
4階と3階は、特別展・企画展などが開かれる文化財展示会場。3階には、豊臣時代大坂城復元模型、徳川時代大坂城復元模型が並んでいて、比べると如何に変わったかがよくわかる。また、この階には原寸大復元の黄金の茶室があり、図録販売所も設置されている。 2階は、お城の情報コーナーになっていて、パネル展示、レプリカ展示、兜・陣羽織の試着体験コーナーなどがある。 1階は、天守閣の入口で、インフォメーションカウンター、ミュージアムショップ、シアタールームなどがある。
【大阪城天守閣・施設概要】
住所:大阪市中央区大阪城1-1
休日:年末年始(12月28日~1月1日)
営業時間:9:00~18:00(最終入館は17:30)
料金:大人 1200円、大学生・高校生 600円 要証明(学生証の提示)
※中学生以下、大阪市内在住65歳以上の人(要身分証明書)、障害者手帳などを持つ人は無料
公式サイトURL:https://www.osakacastle.net/
『戦国LOVEWalker2026 ウォーカームック』
発行:株式会社角川アスキー総合研究所
発売:株式会社KADOKAWA
発売日:2025年12月22日
定価:1,760円 (本体1,600円+税)
ISBN:9784049112979
サイズ:A4判/100ページ
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【目次】 千田嘉博先生インタビュー:「武将たちがあこがれた城」
特集:秀吉・秀長の城(長浜城、姫路城、郡山城、聚楽第、肥前名護屋城など)
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戦国メタ散歩:金沢城、三方原の戦い、河越城の戦いなど
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