エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第41回
西新宿のSOMPO美術館が開館50周年。50周年記念事業の第一弾は開館以来初の「地元・新宿」にフォーカスした『モダンアートの街・新宿』
2026年01月14日 12時00分更新
東京・新宿のSOMPO美術館で、開館50周年を記念する展覧会「モダンアートの街・新宿」が1月10日に開幕した。1976年に損保ジャパン本社ビルの42階で活動を開始、徐々に規模を大きくし、リニューアルを経ながら、この地域のランドマークとして親しまれてきた同館が、初めて「地元・新宿」の美術史に本格的に焦点を当てた企画である。明治末期の「中村屋サロン」から昭和の前衛美術まで、新宿を舞台に交錯した芸術家たちの約半世紀の軌跡を、約40名の作家と代表作で紐解いていく。会期は2026年2月15日まで。
巨大ターミナル、高層ビル群、そして歓楽街。多面的な顔を持つこの街は、大正期から昭和にかけて、多くの若き芸術家たちが集い、議論し、新しい表現を生み出した「アバンギャルドの聖地」でもあった。本展では、約40名の作家による絵画・版画・写真・資料など多彩な作品を通じ、新宿という街が日本のモダンアートに刻んだ深い爪痕を検証する。
本展は今後1年2か月にわたって続く「開館50周年記念事業」の第一弾。同館の活動を追いかけてきた西新宿LOVEWalkerも、記念すべき50周年イヤーのスタートを確かめるべく、プレス内覧会に駆け付けた。
松本竣介《立てる像》(1942年、油彩/カンヴァス)。神奈川県立近代美術館所蔵©上野則宏。第29回二科展出品作品。竣介が描いた自画像の中で、最大級のもの。描かれた舞台は新宿である。背景に広がるのはごみ捨て場である
なぜ、芸術家たちは「新宿」を目指したのか? 本展の最大の見どころは、時代ごとに変化する「新宿と芸術家の関係性」を4章構成で丁寧に追っている点だ
かつて東京の美術の中心は、アカデミズム(東京美術学校、官展)の象徴である「上野」や、画廊が並ぶマーケットの街「銀座」だった。対して、新興の街であった新宿は、権威に縛られない自由な空気に満ちていた。そこに惹かれ、独自のリアリズムや前衛表現を模索する作家たちが自然と集まってきた歴史がある。また、2つのコラムで文学との関係や実際の新宿の風景についても視野を広げている。
本展を皮切りに、新宿で半世紀にわたって活動をしてきた同館が、5つの展覧会で2027年2月21日まで展開する「美術・新宿・ココロの再発見。SOMPO美術館50周年」の冒頭を飾るにふさわしい展覧会といえる。この1年間にわたる取り組みのテーマは「再発見」。作家・作品に新しい光を当て、見る方の感性や好奇心を呼び覚ましていく。変化を続け、時代の最先端の空気と昔からの雰囲気が混在する新宿の街の魅力をあらためてとらえ直す。本展もまさにそういうおもしろさに満ちている。
ⅰ章:中村彝と中村屋サロン――ルーツとしての新宿
物語は明治末期から始まる。新宿駅のすぐそばにある「新宿中村屋」の創業者、相馬愛蔵・黒光夫妻のもとには、荻原守衛や中村彝(つね)など、才能ある若い芸術家たちが集っていた。いわゆる「中村屋サロン」である。 本章では、重要文化財指定の作品も多い彼らの活動を紹介。特に中村彝の代表作であり、死と向き合いながら描いた《頭蓋骨を持てる自画像》(大原美術館蔵 ※期間限定展示の場合あり)などの名品からは、新宿が「芸術を志す若者のシェルター」であった側面がうかがえる。
ⅱ章:佐伯祐三とパリ/新宿――往還する芸術家
1923年の関東大震災以降、地盤の固い山の手(新宿・下落合周辺)には多くの画家が移り住んだ。 ここでは、新宿・下落合にアトリエを構え、パリとこの地を往復しながら創作に命を燃やした佐伯祐三を特集。開発が進む前の新宿周辺の風景を描いた《下落合風景》シリーズなど、佐伯独特の激しい筆致の中に、当時の「武蔵野の面影」と「都市化の予感」が交錯する様を見ることができる。
ⅲ章: 松本竣介と綜合工房――手作りのネットワーク
昭和に入り、戦時色が強まる中でも、新宿は知的な前衛芸術家たちの拠点であり続けた。 松本竣介や靉光(あいみつ)など、シュルレアリスムの影響を受けた画家たちは、不安な時代の中で「人間」や「都市」を静謐(せいひつ)なトーンで描いた。彼らが新宿の喫茶店やアトリエで交わした議論は、暗い時代における芸術の灯火であったことが伝わってくる。
東郷青児《黒い手袋》(1933年、油彩・カンヴァス)。SOMPO美術館所蔵。第20回二科展(第九室)出品作。本作は東京火災(現在の損保ジャパン)のパンフレット表紙に使用され、東郷は同社のほかにも商業美術の分野で多数の仕事を手がけた
ⅳ章:阿部展也と瀧口修造――美術のジャンルを越えて
戦後、焼け野原から復興した新宿は、再びカウンターカルチャーの中心地となる。 岡本太郎が新宿駅のコンコースで通行人を前に制作を行ったり、吉原治良(よしはらじろう)ら具体美術協会、さらには「ネオ・ダダ」の作家たちが過激なパフォーマンスを繰り広げたりと、街そのものがキャンバスとなった時代だ。美術、写真、批評がジャンルを超えて混ざり合う、新宿特有の「雑多なエネルギー」を体感できるクライマックスとなっている。
阿部展也(芳文) 《骨の歌》(1950年 油彩・カンヴァス)。国立国際美術館所蔵。1950年(昭和25年)前後、阿部はしばしば人間や身体を描いている。本作は、帽子のような傘と骨だけが残った異様な形態である。本作と同年に、実験工房のメンバーによるコラボレーションの代表作が生まれた。阿部がアトリエ内で舞台を演出し、福島秀子がモデルとなり、大辻清司(おおつじ きよじ)が撮影を手がけた。大辻が対象に向ける眼差しと、阿部が身体を捉える眼差しには、相通ずるものがある
コラム1 文学と美術
第1章と第2章の間では、「文学と美術」という、切っても切り離せない関係に焦点を当てたコラムが展開される。当時、西洋美術の鑑賞機会が少なかった日本において、カラー図版でセザンヌやファン・ゴッホを紹介し、啓蒙的な役割を果たしたのが1910年創刊の雑誌『白樺』だ。本コーナーでは、その中心人物の一人である武者小路実篤を、盟友・岸田劉生が描いた《武者小路実篤像》を紹介。新宿を舞台に交錯した文学者と画家の深い交流を垣間見ることができる。
岸田劉生《武者小路実篤像》(1914年、油彩・カンヴァス)。東京都現代美術館所蔵。岸田劉生は、白樺派の影響をいち早く吸収し、新進作家によるヒュウザン会(フュウザン会)を立ち上げた。また、新宿ゆかりの作家・武者小路実篤とさかんに交流し、実篤の小説の装幀を数多く手がけた。劉生は、大正時代に興隆した細密描写の系譜を代表する存在でもあり、肖像画の名手であった。大勢の友人らを描いた肖像画は、「岸田の首狩り」と名されるほどの代名詞である
コラム2 描かれた新宿
もう一つのコラムでは、関東大震災からの復興と共に急速に都市化していく新宿を捉えた版画集『画集新宿』『新東京百景』を紹介。モダン都市へと変貌を遂げる街のエネルギーが刻まれている。
織田一磨は、1928年(昭和3年)から翌年にかけて『画集銀座」全2輯12図を刊行。「画集新宿』全6図は、これに続くものである。限定20部。『画集新宿』は、1929年(昭和4年)に織田が立ち上げた洋風版画会の第2回展に出品された。
「美術・新宿・ココロの再発見。SOMPO美術館50周年」グッズ
50周年をイメージしたグッズのほかに、地元の新宿ゆかりの企業や店の商品も並ぶ。
■開催概要
展覧会名
開館50周年記念「モダンアートの街・新宿」
会期
開催中~2026年2月15日
会場
SOMPO美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1)
開館時間
10:00~18:00(㊎~20:00。入館は閉館30分前まで)
休館日
㊊。台風、大雪などにより、公共交通機関が計画運休となった際には臨時休館とする場合あり。
観覧料
一般(26歳以上):1,500円。25歳以下:1,100円、高校生以下:無料
*障がい者手帳を持っている人は無料。25歳以下の人は生年月日が確認できるものの提示が必要。 来場時の年齢が適用される。 障がい者手帳の対象は、身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳・被爆者健康手帳の4種。被爆者健康手帳はご本人のみ、他3種は介助者1名まで無料。入場時に手帳を提示。
公式サイト
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/modern-art/
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