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「スマート東京」とは都民の生活の質を向上させること

西新宿のスマートシティ化とは何か?~都庁担当者に聞いてみた~【前編】

 西新宿エリアの新しい未来をつくる「西新宿スマートシティプロジェクト」がスタート。その目的や体制、施策などを、東京都庁担当者のみなさんにうかがった。

(写真向かって右から。敬称略)
深田幹雄(戦略政策情報推進本部 ICT推進部 次世代通信推進課 課長代理 次世代通信推進担当)
向本圭太郎
(戦略政策情報推進本部 ICT推進部 次世代通信推進担当課長)
平井則輔
(戦略政策情報推進本部 戦略事業部 デジタルシフト推進担当課長)
西村 唯
(戦略政策情報推進本部 戦略事業部 デジタルシフト推進担当課長)
玉田辰哉
(戦略政策情報推進本部 ICT推進部 次世代通信推進課 主任 次世代通信推進担当)

 

 高層ビルが立ち並ぶ無機質なオフィス街という、これまでのイメージを大きく変える「西新宿スマートシティプロジェクト」が始まった。最先端のデジタル技術等を活用して、西新宿エリア全体をスマートシティ化するものだ。働くだけでなく、遊びや暮らしにも適した環境を整え、多くの人が集まる便利で活気のある街をつくりあげようとしている。

 本プロジェクトは東京都の施策「スマート東京」の一環としてスタートしたもの。「スマート東京」は、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民の生活の質(QOL)の向上を目指すもので、国が掲げる「Society5.0」の東京版にあたる。

「Society5.0」とは、狩猟や植物採集などで生活する原始的な社会「Society 1.0」(狩猟社会)、田畑を耕して作物を育て、収穫して生活する社会「Society 2.0」(農耕社会)、機械製品が発達して工業化した社会「Society 3.0」(工業社会)、パソコンやスマートフォンなどの普及によってインターネットでつながった社会「Society 4.0」(情報社会)に続く新たな社会のこと。国が策定した第5期科学技術基本計画(2016年~2020年)で提唱された社会像で、仮想(サイバー)空間と現実(フィジカル)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指すものだ。


深田 世界の競合都市は、もっと前からスマートシティ化を進めていました。たとえばロンドンでは2010年から。ニューヨークは2011年から。シンガポールは2014年から始めています。東京都が始めたのは2019年からです。

戦略政策情報推進本部 ICT推進部 次世代通信推進課 次世代通信推進担当の深田幹雄さん

 ところが、海外でのスマートシティ化について調べていけばいくほど、その多くが、デジタル化しなくても、日本では実現できていることがわかってきたという。

平井 たとえば、ゴミ収集が効率的に行われている、ゴミが散らからない、といったことです。スマートシティにしなくても、日本は当たり前にできていました。つまり、東京都で考えているスマートシティは、海外のそれとは定義自体が違うかもしれないと。そこで、私たちが取り組む「スマート東京」は、人間中心のデジタル社会をつくることにしようと。これが、人にやさしい本当のスマートシティになるのではないか、と思いながら行っています。 

戦略政策情報推進本部 戦略事業部 デジタルシフト推進担当課長の平井則輔さん

向本 「スマート東京」を実現するためには、3つの施策を考えています。まず、1つ目は、世界最高のモバイルインターネット網である「TOKYO Data Highway」の構築です。20世紀のインフラは、道路や橋などでした。これらに加えて、21世紀のインフラとして、高速モバイルインターネット網「電波の道」を整備していきます。いつでも誰でもどこでも「つながる東京」を実現するということです。

さまざまなデータを集めて、日々の生活はもちろん、防災や教育、医療などが便利になるように役立てられる。

 道路や橋が整備されることで便利になって、さまざまなビジネスが生まれたことと同じく、この「電波の道」の上でビジネスはもちろん、いろいろなサービスや交流が生まれることを目指す。東京都では、高速モバイルインターネット網を21世紀の基幹インフラと位置づけている。

向本 2つ目は、「公共施設や都民サービスのデジタルシフト」を行うことです。データ共有と活用の仕組みをつくり、行政サービスの質を向上させます。21世紀型の新しい行政にブラッシュアップして、それを行政サービスとして届けます。3つ目は、都庁の「デジタルシフト」を進めることです。
 

 これらは、総務省が推進する自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)にもつながるものだ。災害情報や教育、医療などをデジタル化して、迅速に、かつ細やかに提供する「街のDX」と、行政手続きのデジタル化やオンライン化、納税等のキャッシュレス化等により、役所に行かなくても、紙がなくても、必要な手続きを可能にする「都庁のDX」だ。
 

向本 「TOKYO Data Highway」「街のDX」「都庁のDX」、これら3つの取り組みを通じて、都民の生活の質を向上させることが「スマート東京」の大きな目的です。

戦略政策情報推進本部 ICT推進部 次世代通信推進担当課長の向本圭太郎さん

 しかしながら、これら3つの施策を東京都全体で一気に実施するのは難しい。そこで、東京都では、まず先行的に実施するエリアを5つ定めた。そのひとつが、東京都庁のある西新宿だ。

西新宿と南大沢は「TOKYO Data Highway」の重点整備エリアになっている。

 

向本 西新宿のほか、経済・金融の中心で交通の結節点である都心部、スポーツやイベントの多い臨海部のベイエリア、東京都立大学のある南大沢、そして島しょ地域です。これら5つが「スマート東京」を早期に実現する先行実施エリアに選ばれました。西新宿では、5GやWi‐Fi等のモバイルインターネット網の上で様々なデジタル技術を活用することで、人と人、人と都市をつなげ、西新宿に関わる人たちの生活の質の向上への貢献を目指しています。また、スマートシティ化の取り組みを始めるにあたっては、技術を前面に出すのではなく、技術を意識せずにサービスが受けられる状態になることも目標にしています。
 

 西新宿をスマートシティ化するために動いているのは、東京都、新宿区、(一社)新宿副都心エリア環境改善委員会7社、通信事業者6社で組織された「西新宿スマートシティ協議会」だ。2020年5月に立ち上げられ、 複数の目で総合的に西新宿の課題を把握し、デジタル技術等を活用して、その解決を進めている。

人と人、人と都市をつなげ、西新宿に関わる人たちの生活の質の向上に貢献する。

 同協議会の活動は、まず西新宿エリアの抱える現状の課題は何か、を調べることからだった。
 

深田 最初は、デスクトップリサーチを行いました。過去の資料や文献をあたり、西新宿の課題についてどのような調査がされてきたのかといった、過去の取り組みを調べたのです。その結果、たとえば、ビジネスエリアとしてのブランディングが弱い、徒歩の動線が分断されて目的地までのルートが効率的でない、高齢者やベビーカー利用者等にとっての動線が不便でバリアフリー環境の満足度が低い、公共交通機関としての路線バスはあるが運行頻度はそれほど高くなく短距離移動に使いづらい、災害後の帰宅困難者の対応施策が不十分、などといったことがわかってきました。
 

 続いて行ったのは仮説を立てること。その過程では民間の経営者やアーティスト、外国人などのクリエイティブ層19名へのインタビューも行いニーズを把握した。
 

深田 デスクトップリサーチの後は、外部の方々から西新宿がどう見えているのか、with/afterコロナにおける都心部の役割は何かなど、インタビューを重ねていきました。その結果、「働く」「暮らす」「遊ぶ」「ブランディング」の4つの分類で西新宿の課題仮説を立案しました。

西新宿に仕事をしている人たちへ、多様な働き方を実現するビジネス環境を提供。

西新宿に遊びに来た人たちへ、非日常での本物体験を提供。

西新宿で暮らす人や通勤している人へ、安心、安全、快適に過ごせる空間を提供。

西新宿ならでは、といったブランドイメージを発信。

 

深田 立てた仮説を西新宿で働く、暮らす、遊ぶなど、それぞれの観点から検証。本当にその課題は存在しているのか、存在するとしてそれは強い課題なのか、それとも弱いのかといったことをアンケートしました。アンケートの対象者は、西新宿への通勤者、来訪者、居住者など約3000名にもおよびます。こうした方法で、明らかになってきた課題の数々を整理すると、「働く」「暮らす」「遊ぶ」「ブランディング」の4つの分類のなかで、西新宿で解決すべき13の課題が分かったのです。

アンケート調査から課題解決に向けたテーマ案を導き出した。

平井 たとえば「働く」なら、必要なときにチームで集まって議論ができる環境の提供、「暮らす」だったら、清潔感が保たれている環境の提供、「遊ぶ」は、屋外で飲食できるスペースの拡充などが求められています。また、西新宿というエリアに特徴が乏しいこともわかりました。東京都内の他のエリアに比べて特徴が弱く、はっきりとしたブランドイメージがないのです。西新宿エリア全体で統一的な情報を発信するなどを行い、「ブランディング」を強化することが必要だと考えています。(後編に続く)

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