若手アーティストの発掘・育成を目指す次世代アート展「アートアワードトーキョー丸の内2023」が今年も開催されます。
前回の青い日記帳の推し丸アートで「アートアワードトーキョー丸の内2023」について紹介した中で、今年から新たなアート鑑賞ツール「PINTOR」(ピントル)が加わったことを紹介しました。
これまでより“深い”アート鑑賞を行えると評判のアート鑑賞アプリ「ピントル」について、その創設者である高橋大地さんにお話を伺ってきました。
端正な顔立ちからは想像も出来ない、熱い情熱がみなぎる高橋大地さんのアートに対する思いから「ピントル」を立ち上げた経緯などを語ってもらいました。
「アートアワードトーキョー丸の内2023」鑑賞前に、または鑑賞後にも是非読んでみて下さい!
中村:アート鑑賞アプリ「ピントル」を作ったきっかけ(経緯)についてお聞かせ下さい。
高橋:きっかけは、時間差になりますが2つありました。
1つ目は、母がモトクロスバイクでサハラ砂漠など大地を駆け巡る画家だったことです。母がどれだけ無謀な画家かを説明する最も簡単なイメージがこちらです。
https://tsukikaze.jp/
これは2015年にアルゼンチン外務省南極局が主催する『南極芸術プログラム』に日本人で初めて招聘され、1ヵ月間、同国の南極基地でアートレジデンスに参加したものです。
当時、私は27歳だったと思いますが、実はその前から母は画家の活動を精力的に行っており、記憶が最も古いのは私が中学生時代でした。元々、母は世界中を周り、その土地や住む人を水墨画風に(風書と名付けています)描いていました。
その頃の私は、「SLAM DUNK(スラムダンク)」の登場人物である仙道(彰)、バスケっ子で芸術から最も離れた学生でした。ある時、家に帰ったら、母がいなくなっており、それから約2ヵ月と1週間留守になり、その後、丸焦げになり痩せ細った母がサハラ砂漠横断から帰還していたのを覚えています。
料理ができない私は、その2ヵ月と1週間で当時のスーパーで販売されていたほぼ全ての冷凍食品を食べ尽くした記憶があります。
脱線しましたが、当時の私は、お金にもならない芸術活動を全く理解できませんでした。それはご飯をろくに食べられなかった反動と恨みだったのかもしれませんが、何にせよ、描くのも苦手で嫌い、学校で強制的に行かされる美術館での鑑賞も真っ先に退場する学生でした。
転機が訪れたのは、24歳くらいだったかと思います。母の個展に初めて参加した時です。
その時は、サラリーマンとなり、人生において行き詰まっていた時でした。閉塞感があり、子供の時に描いていた人生とはかけ離れており、自分の人生なのに、自分の人生のために生きていない心地がしていた時期です。誰にでもありますよね(笑)。
そんな感情で、母の作品に触れた時、物質的なものを超えて、いつもと違って見えました。
母は子宮頸がんを乗り越え、そこから、また世界で活動していたのを知っていたので、もっと、自分らしくいていいんだと作品から教えられた気がします。
大人になって、1mmだけ芸術の良さを知った瞬間です。私にとって、この1mmは大きかったと実感しています。
あとから考えると、この1mmの正体はアートに詳しくない人でも誰でも感じ取れる「アートの力」だったのだと確信しています。それを多くの人に届けるために人生をかけてみようと思うのに、そう時間はかかりませんでした。
そこから、アートに興味を少しだけ持ち始め、美術館に足を運ぶようになり、やがて海外の美術館にまで訪れるようになりした。
中村:思いがけず壮大なバックボーンが「ピントル」にあると分かり、少々たじろいでしまいましたが、2つ目のきっかけも続けて教えて下さい。
高橋:2つ目は、直接的なきっかけになりますが、25歳の時に1人旅行した際に訪れたロシア、サンクト=ペテルブルクにあるエルミタージュ美術館を訪れたことです。
今でも特別な場所で、特にこちらの「ルーベンスの部屋」は「フランダースの犬」の主人公・ネロ並みに感動した記憶があります。
この時に、
「日本に帰ったらもう一回見直したい」
「日本でルーベンス見られるところを探したい」
「自分が見たという記録をしたい」
「もっと知りたい」
みたいな漠然とした感情を日本の税関を通過し、持ち帰ってきました。
早速、そのようなサービスがないかをGoogleとApp Storeで調べたら、なかったのです。
「あったら、自分だったら絶対に使うのに! なんでないの?」
「じゃあ、自分達で作っちゃおう」
ということで開発が始まりました。
中村:なかったから作ってしまったわけですね。では「ピントル」で、現時点でどんなことが出来るのでしょうか?
高橋:機能で列挙すると以下のようなことができます。
1.パブリックドメイン(著作権切れ)の作品を中心に10万作品以上をいつでもどこにいても見ることができる
2.好きな作品を記録できる(「いいね」や自分だけの絵画コレクションを作成できる)
3.アートイベントを検索することができる
4.他の人のアートレビューやアートコレクションを見ることができる
5.毎日おすすめの絵画4枚が特集され、それを楽しむことができる
6.作品のレプリカ絵画やグッズを購入できる
そのほかにも細かい機能をあげればまだまだあるのですが、もう少しビジョン的なことを言えば、アプリ利用者が好きな画家や作品を見つけられることを支援したいと考えています。
中村:それは具体的にどのようなサービスとなるのでしょう。
高橋:あるカテゴリ内で「自分の“好きなもの”/“好きになりそうなもの”」を探せるサービスです。
現在、そのようなオンラインのサービスが、
食=「食べログ」
音楽=「Spotify」
洋服=「ZOZO」
映画/ドラマ=「Netflix」
のように、それぞれのカテゴリで存在していると思っています。
アート=「???」
我々は食べログがなかった時代を知らない、あるいはそんな時代を忘れてしまっているかもしれませんが、「知っている選択肢」を「無理やり好きになる」しかなかった時代でした。
それから食べログのようなサービスが出てきて、「今まで知らなかった選択肢」を「好きになる」機会が増えていきます。
これは、実は大きな革命だったと思います。
現時点では、アートのカテゴリにはそのようなオンラインのサービスはなく、その役割を果たしているのは「美術館」だと思います。
「美術館」が最も優れている点は、「実物を見られる」点だと思います。これはアプリだと到底、実現することができません。実物を見て、自分が感動した作品を見つけることができます。
一方で欠点もあると思っていて、それは、作品数の少なさです。美術館にはせいぜい多くて150作品くらいです。アプリ(PINTOR)であれば、パブリックドメイン(著作権切れ)の作品を中心に10万作品以上をいつでもどこにいても見ることができます。
中村:実物を観る鑑賞体験の「次」をこのアプリは提示してくれるのですね。
高橋:そうです! なのでPINTORでは、アートに興味を少しでも持っている人が、その興味の幅を広げたり、深めたりするため上記のような機能を設けています。
例えば、先ほど紹介した「4.毎日おすすめの絵画4枚が特集され、それを楽しむことができる」もそういった理由から機能を作りました。アプリ利用者が興味の幅を広げて、深めていけることにより、新たな発見があり楽しんでもらえるようなアプリにしています。
中村:「アートアワードトーキョー丸の内2023」と「ピントル」についてもお聞かせ下さい。
高橋:ズバリ、PINTORを使って鑑賞した際の感想や疑問をコトバにすることです。騙されたと思って、やってみていただきたいのですが、コトバにする前提で鑑賞すると、作品の感じ方が変わります。
PINTORでは、アプリ上で気軽に自分の感想を残したり、疑問を投稿したりできます。疑問は運が良ければ、作家さん本人からアンサーが来ることもあります。
また、他の人の感想も見ることができるので、同じ作品なのにこんなに感じ方が違うんだっていう驚きと発見があるかもしれません。
【高橋大地 プロフィール】
明治大学国際日本学部卒業
株式会社エードット(現バードマン)などでマーケティング支援やインバウンドプロモーション業務を経験。画家の母親の元で育ったことからアートに興味を持つ。現在のアート鑑賞体験に課題を感じ、PINTORを創業。
「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2023」
アートアワードトーキョー丸の内2023
開催日程:2023年7月21日(金)~8月3日(木)会期中無休
※新丸ビル会場は各日11:00~21:00、最終日8月3日(木)は全会場18:00まで
展示会場:行幸地下ギャラリー、丸ビル外構部、新丸ビル3階アトリウム
入場:無料
主催:アートアワードトーキョー丸の内2023実行委員会
特別協賛:三菱地所株式会社
協賛:株式会社大和証券グループ本社、能美防災株式会社、ホーチキ株式会社、丸の内熱供給株式会社、YKK AP株式会社
後援:三菱一号館美術館、在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ東京、OCA TOKYO
公式サイト:https://www.marunouchi.com/lp/aatm/2023/
アワード各賞:8月3日(木)発表
グランプリ:三菱地所賞、審査員賞(7名)、フランス大使館賞、オーディエンス賞(展示会会期中、公式サイトにて観覧者に投票し決定)、OCA TOKYO賞
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