アーティストが「普通に」いる街づくりを目指して活動する丸の内びと― 中森葉月さん、金森千紘さん
2025年04月01日 12時00分更新
丸の内LOVEWalker総編集長の玉置泰紀が、丸の内エリアのキーパーソンに会いに行き、現在のプロジェクトや取り組みなどのエピソードを聞いていく本連載。第23回は「アートアーバニズム」を展開し、アートと都市の融合を通じたまちづくりに取り組んでいる有楽町アートアーバニズムYAU(ヤウ)の中森葉月さんと金森千紘さんにお話を伺った。
丸の内はショッピング街、大手町はオフィス街。では有楽町はどんな街?
――――2022年2月1日に「有楽町アートアーバニズムYAU」というプロジェクトが始まりました。そもそもどういう経緯で立ち上げることになったのでしょうか?
中森「私がこのエリアに関わる前から議論されていたプロジェクトで、2020年頃に準備段階として『アート×エリアマネジメント検討会』が立ち上がり、大手町・丸の内・有楽町エリア(以降「大丸有」)の未来を考えていました。特に有楽町のビルは築60年ほど経っているものが多く、建替え検討のタイミングになっていて、三菱地所でも有楽町が重点開発拠点として発表されていたんです。
有楽町って、大きな企業のオフィスが集まる大手町やショッピングの街である丸の内と比べて、まだ完成されていない街なんですよね。他のエリアと比べて街に猥雑さが残っているというか空白の部分が多いというか、『こういう街だ』というはっきりしたイメージがあまりないんです。銀座や日比谷などに囲まれて、いろいろな要素が混在しているのが特徴的で。そこが面白くて、次の街づくりではその強みを活かして、イノベーションや新しい価値が生まれてくる場所にするために、アーティストがもつクリエイティビティを街の原動力にできないか、という話が出てきました」
――――準備段階ではどのような議論が交わされていたのでしょうか?
中森「最初は有楽町の街の再開発の話が中心で、特に『このエリアの人たちにとって、どんな街だと良いか』という点に重点を置いて議論を進めました。例えば、再開発というとビルを建てて終わりというイメージをもたれることが多いのですが、それでは街は面白くならないんじゃないか、という考えがありましたね。そこで、次の有楽町の街づくりでは単にビルを新しくするだけではなく、足下の街自体をどうすればクリエイティブな場所にしていけるのか?ということを議論したんです。
検討会には、学識の先生やまちづくりの専門家、アーティストや行政も入って、アートをまちづくりに取り入れる具体的な方法を1、2年話し合ってきました。三菱地所だけでなく、「大丸有まちづくり協議会(一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会)」が主体になってエリア全体で考えていったんです。机上の空論にならないよう、既存のビルを使って実験的な取り組みを進めようとしていました」
――――議論の場にそんなにさまざまな立場の方が入るのは珍しいですね。
中森「エリアにいる人たちと一緒に考えることが大切だと思ったんです。新築のビルに外からテナントを呼んでくるという従来型の街づくりではなく、既存ビルが生きているときから次の街についてともに考えていけたら、と実験的な実証プログラムを始めました。今も『実証パイロットプログラム』と呼んでいますが、他にも有楽町で似たような取り組みはありましたね」
――――そもそもですが、「有楽町アートアーバニズムYAU」という名前にはどのような由来があるんですか?
中森「『アートアーバニズム』という概念は、『アート』と『アーバニズム』を組み合わせた造語として、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の中島直人教授が検討会のなかで提案してくださいました。およそ100年前の有楽町でおこった『都市美運動』にもインスピレーションを受けた発案です。『アーバニズム』とは都市づくりの方法として用いられる言葉で、街を『つくり手』からの視点のみならず、『暮らし手・使い手』の双方から語るもので、両者の間を自由に行き来するような考え方です。こうした状況が、アートが街に介在することでお互いが分離せず、街を使いこなす人が増えて都市としての魅力が向上するのではないか、という仮説が「アートアーバニズム」という言葉には込められています。
ちょっと込み入った話になってしまいましたが、私たちが使っている『アート』は、アート作品が街の中に置かれていて、というような『アートのあるまちづくり』や『アートによるまちの活性化』とは少し異なるかもしれません。アーティストというクリエイティビティをもつ人そのものに着目していて、そうした人たちが起こす活動が街のそこここで展開されることで、街の中にクリエイティビティがにじみ出るようにしたいと考えていました。なので『アートアーバニズム』という言葉で、都市とアートが交わる姿が具体的にイメージできました」
――――例えば銀座にはギャラリーがあったり、丸の内には丸の内ストリートギャラリーなどパブリックアートがいっぱいあったりとイメージが湧きやすいと思うんですけど、それとは違って、もっと「街の中ににじみ出す」みたいなことですよね?
中森「そうですね。 美術館やギャラリーなどすでにあるマーケットでアートを扱うとかではなくて。有楽町という街は、住んでいる方はほとんどいないですけど、働いている方は何十万人といますよね。その方たちに対してアートをどう定着させていくか、ということを考えています」
丸の内LOVE WALKERの最新情報を購読しよう