20年以上の年月をかけた「Torch Tower」はどんなビルになるの?プロジェクトをけん引する丸の内びと―― 成瀬隆彦さん、横井彩友子さん
2025年08月27日 12時00分更新
丸の内LOVEWalker総編集長の玉置泰紀が、丸の内エリアのキーパーソンに会いに行き、現在のプロジェクトや取り組みなどのエピソードを聞いていく本連載。第26回は三菱地所 TOKYO TORCH事業部の成瀬さんと横井さんにお話を伺った。
常盤橋を中心に日本を結ぶ!結節点になることを目指したまちづくり
東京・常盤橋に新しい街が開かれる。「東京駅前常盤橋プロジェクト」は、既存ビルの解体着手から数えるだけでも10年以上かけて行われる再開発事業だ。そのエリアが「TOKYO TORCH」であり、敷地面積は東京駅周辺で最大の約3.1haにおよぶ。この広大な土地を活用するプロジェクトで、常盤橋はどう変わっていくのか。プロジェクトを牽引するお二人の話から、もうすぐ私達の眼の前に現れる未来の街の姿を追ってみよう。
TOKYO TORCH は4つの棟と広場で構成される予定で、2021年6月末に「常盤橋タワー」、2022年3月末に「銭瓶町ビルディング」が竣工。「Torch Tower」「変電所棟」および街区中央に広がる約7,000㎡の大規模広場「TOKYO TORCH Park」の竣工は、2028年を予定している。
――まずはTOKYO TORCHの10年計画について詳しく教えていただけますか?
成瀬「TOKYO TORCHは、1990年代より検討が進められてきた「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」の第4次事業となります。経団連があったところから再開発を始めてビルを建て、今の大手町フィナンシャルシティのあるエリアでまたビルを建て替えて…というのを順番に行なっている連鎖型再開発なんです。その最後が、この常盤橋街区で、連鎖型再開発全体では20年超のプロジェクトです。都市計画的にも珍しいプロジェクトだと思っていますし、何よりもそれだけ時間をかけた一番最後が日本一の規模のビルになるということで、力を入れて進めているところです」
――そうだったんですね。常盤橋というエリアは、東京駅の位置関係を含めてどんな場所だと思いますか?
成瀬「東京駅の日本橋口の目の前にあって、新幹線改札もすぐそばにあるので、東京に限らず日本全国の玄関口になる場所だと思っています。通常の物件ですと“このエリアに来ていただきたい”という思いで開発を進めるんですが、TORCHの場合は“このエリアから日本全国の魅力ある地域に行ってもらいたい”という思いもありますね。そのため、いろいろな自治体との連携も行っています。
そもそもこの場所は、参勤交代の表玄関だったんですね。古くから人が集まる場所であり、諸説ありますが銭湯発祥の地ともいわれています」
――銭湯! それは面白いですね。先ほど「自治体と連携して」とおっしゃっていましたが、具体的にはどんな取り組みをされているんでしょうか?
横井「常盤橋タワーの下は広場のようになっていて、そこの池で錦鯉発祥の地である新潟県小千谷市から送っていただいた錦鯉が泳いでいたり、佐渡島の金山が世界文化遺産登録されている新潟県佐渡市の金鉱石が置いてあったり。芝生エリアには生産量日本一の茨城県つくば市の天然芝を敷いています。広場をよく見ていただくとあちこちに看板があるので、博物館のように楽しんでいただけると思います。
あとは低層部のレストランは各地域の人気店に出店いただいていたり、広場では定期的に地方自治体の方を呼んでイベントを実施していますね。国内外から東京にいらっしゃる方だけでなく、東京に住まわれている方にも日本全体の魅力を発信していきたいと思っています」
――丸の内と常盤橋って駅を挟んで反対側ですし、近いようで微妙に遠いですよね。この二つはどういう位置付けになるんでしょう?
成瀬「丸の内・八重洲・日本橋などあちこちのエリアに行きやすい広場の導線計画を行なっていて、このTOKYO TORCHがその結節点になるといいなと思っています。丸の内のオフィス街の雰囲気も引き継ぎながら、いろんなエリアの雰囲気を取り込んでいきたいですね」
――丸の内側と八重洲側で競い合っているようにも思うんですが、繋がることも大切ですもんね。
成瀬「仰る通りで、丸の内だけで閉じる必要はないと思っていますね。東京駅周辺が全体として活気づいてくることは、東京全体に良い影響があると思っているんです。東京駅というグローバルな観点としても全体の底上げになるのではないでしょうか」
「常盤橋タワー」「常盤橋テラス」はワーカー思いのビル!?
先述した通り、TOKYO TORCHではすでに「常盤橋タワー」が完成し実際にオフィスビルとして稼働しているほか、ビル内の商業ゾーン「TOKYO TORCH Terrace」ではグルメも楽しめる。
ーー2021年6月末に竣工した「常盤橋タワー」「TOKYO TORCH Terrace」の魅力を教えてください。
横井「常盤橋タワーは主にオフィス用途になっているんですが、低層部に店舗が入っているんですね。東京初出店となる店舗にも複数ご出店いただいており、街に訪れる方にこの場所で地域のものを知っていただいて、その土地に足を運んでいただきたいという思いを込めています。
また、オフィスサポートフロアが充実しているというのが常盤橋タワーの特徴でもあります。8Fに就業者専用のラウンジがあったり、3Fに職域食堂があったりするんです。働いている人にこのビルで働き続けたいと思ってもらえるような、このエリアに愛着を持ってもらえたらうれしいですね」
毎年就業者アンケートを取っていまして、いただいた声を反映して改善をしているんです。この取り組みは『Torch Tower』にも活かす予定です」
――ランチも意外とリーズナブルな店も多いですし、キッチンカーも多いですよね。
横井「キッチンカーは開業1年目はやっていなかったんです。でも始めてみたら好評だったのと、就業者アンケートでランチの種類を増やしてほしいという声が多くて、現在まで続いています。就業者アプリで毎週キッチンカーの告知をしたり、職域食堂もモバイルオーダーができるので、アプリでオーダーして取りに行けるのも好評です。テラスも木が生い茂っているので、お昼時だとちょうど木陰になっているんです。夏場でもベンチに座ってランチを食べている方も多いですね」
正直、ここまで就業者のことを考えているとは思わなかった。横井さんの「働いている人にこのビルで働き続けたいと思ってもらいたい、この地域に愛着を持ってもらいたい」というコメントが言葉だけでなく、本当にそう思っているからこそ、就業者アンケートを活用しているのだ。
ビルの中の芝生!? 観光の目玉にもなるタワービル
2028年竣工の「Torch Tower」。日本一の高さ約385mとなる東京の新たなシンボルタワーで、高層部には展望台や、ホテルのロビー空間となる半屋外空間の丘が、低層部は立体的な広場が作られる予定になっている。
――まず名前ですが、「Torch」という意味にはどんな思いが込められているんでしょうか?
横井「『TOKYO TORCH』は、日本を明るく元気にしたいというのをプロジェクトビジョンとして進めているんですね。希望の光、日本の未来を灯すという意味も込めて、松明を連想させるビルデザインになっています」
成瀬「夜は松明のように光りますので、デザインでも表現できているかなと。余談ですが、映画『シン・ゴジラ』でゴジラが生き埋めになったのは『Torch Tower』が倒れたからなんですよね。ひとつ前のデザインなので、今と形は全然違いますが(笑)」――建設前からゴジラに出るのはすごいですね(笑)。ゴジラに壊される建物は一流ですから。
そんな『Torch Tower』は日本一高いビルになるわけですが、低層階は芝生の段丘のようなイメージですよね。
成瀬「いわゆる上がオフィスになっている高層建築では一般の方に閉ざされた場所になってしまうと思ったんですね。そうではなくて、“いろいろな人にこのビル全体を使ってもらいたい”というのが着想の原点になります」
――コアアーキテクトである三菱地所設計と、建築家の藤本壮介氏と永山祐子氏、ランドスケープデザイナーの福岡孝則氏が、タワー頂部、低層部、広場の設計をそれぞれ担当されるんですよね。低層部は永山裕子さんが設計されていて、段丘みたいになっているイメージがあります。都心で広場を作ろうとしているのかな?と思ったのですが、合っていますか?
成瀬「そうですね。低層部は散歩道のように一般の方に歩いていただいて、カフェが並んでいて、歩いて行くと屋上庭園につながる。お子さんを連れて皆さんに遊んでいただける、そういう施設になったらいいなと思っています。高層部分には展望台も設置する予定なんですよ」
――そうなんですね。タワー頂部の設計は藤本壮介さんですよね。藤本さんの設計にはどんな特徴がありますか?
成瀬「スカイヒルといって、ビルの屋上の部分がドーナツ状の空間になっていて雨と風が入ってくるんです。空中の丘ということで、今までなかった唯一無二の場所になる予定です。照明デザインもトーチをイメージしているということで、名前の通り松明を連想させるデザインになりました」
――永山さんは今開催中の大阪・関西万博でウーマンズ パビリオンを設計されていますし、藤本さんは大屋根リングを設計した建築家でもあります。森ビルで展覧会も開催されていますし、日本中で多くの仕事をされていますが、東京での仕事では『Torch Tower』はかなりのメルクマール(ターニングポイント)になりそうですね。
成瀬「そう捉えていただけるとうれしいですね。普通の物件ですとなかなか実現できないことだと思います。『Torch Tower』はランドマーク性があるので、このような素晴らしい方々とご一緒できる機会をいただけるのかなと思います」
――展望台部分はどんな作りになっているのでしょうか?
横井「一番上の屋外と、もう一層下の屋内の2箇所が展望台になります。約385mの高さにあるので、眺望を楽しめます。ただ、せっかく来たからには景色を見るだけではない展望台にしたいということで、今計画を練っているところです。やはり日本一の高さのビルを作るのに、一般の方がそれを楽しめないというのはもったいないので、一般の方にもいらしていただける空間を作れたらいいなと思っています」
――東京でこういうのはなかなかないので、それは楽しみですね! オフィス部分の特徴はありますか?
成瀬「働く場所と時間がより豊かになるようにワーカーサポート機能を充実させています。食堂とワーキングラウンジを3つ作るんですよ。このビルは通常の丸の内のオフィスビルの3棟分ぐらいのオフィス面積があって、1フロアは約2000坪です。これまでになかった規模になるので、食堂、ラウンジだけじゃなく、クリニックもジムも入れますし……日本一のビルを作るんだなと実感しますね」
――ホテルも開業するんですよね?
横井「日本初でアジア初進出にもなるイギリスの『Dorchester Collection』が出店します。世界6都市で10のホテルを展開していて、直近ですとドバイにオープンしていますね。
このホテルのロビー空間は、Torch Towerの大きな特徴でもあるビル上部のスカイヒルにつながり、ここは象徴的な空間になると思います」
一方で、地上の広場のデザインはどうなのだろうか。成瀬さん曰く、「広場は制約が少ないので自由に作れすぎてしまって正解がわからなくなる」のだという。広場でどう過ごしてもらいたいか、そのためにどう導線を作るか。建物のようにハコがない分、考えることも多い。
――ちょっとしたことで憩いの空間になるかどうかが決まってくるので、重要な場所ですよね。そのために、広場で計画していることなどはありますか?
成瀬「様々なイベントを実施予定ですのでそのスペースを確保しつつ、そこに滞在してもらいたいという思いがあって。ただ“通り過ぎる道”になってはいけないと思うので、その両立が難しいですね。東京駅の正面にもなるので、ゲート感やウェルカム感は出していきたいなと思います」
横井「公園劇場というテーマをひとつ掲げていまして、単純にビル、広場、ビルというエリアになるのではなく、この広場がひとつの起点となって全体を見守っているというか。この広場に集う人たちが主役になっているような、一体感のある空間にしたいなと思っています」
「35万人が昼間を過ごすにもかかわらず誰も住んでいない」のが丸の内の面白さ
――おふたりが「TOKYO TORCH」プロジェクトに携わるようになったのはいつからでしょうか?
横井「今入社して4年目なのですが、最初から同じ部署でやらせていただいています」
成瀬「私は最初に丸の内開発部で開発をして、その後JR東日本に出向して同じく開発業務を担当しました。そこから総務部を経て「TOKYO TORCH」に配属になり、3年目になりました」
――街の開発に携わってきたおふたりの、丸の内エリアの印象を教えてください。
横井「丸の内に来るようになったのは就活していた5、6年前でしょうか。その時は憧れの街というか、キラキラした街に見えていて。正直にいうと自分一人でくる場所ではなく、就活とか目的がないと来ない場所だったんです。それが、今自分が仕事で来るようになって、丸の内アプリとかポイントアプリがあると、他の街でお買い物するよりも、丸の内でお買い物した方がお得なんですね(笑)。仕事以外でも丸の内にいる時間が長くなったなと思います」
成瀬「僕はすごく特殊な場所だなと思っていますね。丸の内って、住んでいる人がいない場所じゃないですか。毎日35万人のビジネスマンが来て帰る場所って、世界にもないと思うんですよね。それでいながら、丸の内仲通りなど親しみやすいスケールで街づくりができているというのは、貴重な場所なんだろうなと捉えています」
――好きな場所はありますか?
横井「丸の内ブリックスクエアは就活のときによく寄っていたんです。面接が終わったら『エシレ・メゾン デュ ブール』でご褒美にフィナンシェを買って、ベンチで食べたりしていました(笑)。ちょっと休憩できる場所もありますし、美味しいレストランと素敵な雰囲気に囲まれて好きな場所ですね」
成瀬「僕は飲み会の二次会になると、ガード下行こうか? となって大手町側に行っちゃうんですね(笑)。 あとは国際ビルの地下1Fにあった『クニギワ』だとか、ワイワイした居酒屋が好きです」
今後、東京駅周辺の活気のカギを大きく握りそうなTOKYO TORCH。特に今建築中のTorch Towerは日本を代表する建築家が設計しているとあって、建築デザインも非常に興味深い。完成を心待ちにしつつ、これからの丸の内・常盤橋エリアの人の流れやまちの活性にも注目していきたい。成瀬隆彦(なるせ・たかひこ/写真左)
●1989年生まれ、東京都出身。2013年、三菱地所株式会社に入社。丸の内開発部、東日本旅客鉄道で開発業務を担当後、総務部でコーポレートガバナンスを担当。現在はTOKYO TORCH事業部に配属となり、Torch Towerのオフィスや全体調整等を担当。
横井彩友子(よこい・あゆこ/写真右)
●1999年生まれ、愛知県出身。2022年、三菱地所株式会社に入社。入社後からTOKYO TORCH事業部に配属となり、Torch Towerのホテル・住宅の企画等を担当。
聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)
●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・丸の内LOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。産経新聞~福武書店~角川4誌編集長。
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