丸の内LOVEWalker総編集長・玉置泰紀の「丸の内びとに会ってみた」 第4回
若き芸術家たちの登竜門「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2023」がいよいよ開催! ここから飛躍した現代アートチーム「 目[mé]」の荒神さんと南川さんに会ってみた
2023年07月19日 12時00分更新
丸の内LOVEWalker総編集長の玉置泰紀が、丸の内エリアのキーパーソンに丸の内という地への思い、今そこで実現しようとしていること、それらを通じて得た貴重なエピソードなどを聞いていく本連載。第4回で取り上げるのは、7月21日(金)から開催される現代アート展、第17回「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2023」。全国各地の次世代アーティストたちが集う、このアワード創設初期にグランプリを受賞して以降、現在も第一線で活躍中の荒神明香氏と南川憲二氏が登場。現代アートチーム「目[mé]」のメンバーでもある両名から、本イベントに対する思いや受賞後の反響、現在の活動などについて語ってもらった。
未来を担う若手アーティストが集う「AATM」とは?
「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI(アートアワードトーキョー丸の内)」(以下、AATM)とは、丸の内エリアで行われる若手アーティストの発掘・育成を目的とした現代美術の展覧会。
全国各地の主要な美術大学・芸術大学・大学院の卒業修了制作展を審査員たちが訪問し、その中で見出された多数のノミネート作品から選ばれたものを展示。そして最終審査を経て、グランプリや審査員賞などを決定する。17回目の開催となる今回も、全国19校からノミネートされた165点もの作品群から、選ばれし原石たる22作品が展示予定だ。
――記念すべき2007年の第1回グランプリ受賞者・荒神さんにとって、当時のAATMはどんな印象でしたか?
荒神「開催前から、審査員の方々が全国の美大を巡っているらしいと噂になっていましたが、私が出展している卒業制作展にも来られていることは、よく知らなかったんです。実際に展示が始まって、アラナ・ハイスさんのような学生の時にはなかなか会えない方が来日して、ちゃんと作品を見て下さっていることにも驚きました。
作品の前で説明する時にも、審査員の方がいろいろ質問して下さった中で、ゲストの奈良美智さんからは、事前にポートフォリオを見た上で話してくれていると感じたことも、嬉しかったですね」
――受賞作は「Walk in マ・マー」ですね。パスタを使ったアートというのがユニーク
荒神「卒業制作は『reflectwo(リフレクトゥ)』という作品でしたが、展示場所の行幸地下ギャラリーの背景の色と合わなかったので、展示は『Walk in マ・マー』にしていただきました」
――「reflectwo(リフレクトゥ)」は、2021年に角川武蔵野ミュージアムの「《コロナ時代のアマビエ》プロジェクト」でも展示されました。ロングシリーズになりましたね
荒神「その後、作品をいろいろなところに展示させていただいていますが、AATMは、活動を広げる大きなきっかけになったと思います。キュレーター(展示の企画担当者)の方に声を掛けてもらって、展示が決まったこともありました」
――当時の南川さんのAATMへの印象はどうでした?
南川「僕らの時は、後藤繁雄さんたち審査員の方々が、卒業制作をリサーチしに来るようだと。‟美大甲子園”じゃないけど、全国の学生の卒業制作を網羅して、その中から選出されていくというAATMのコンペティティブな仕組みが話題になっていて、会場に来られるかもしれない日には、作品の前で緊張して待っている学生も多かったと思います。
全国の美大が、だいたい同時期に卒業制作を発表していること自体、あまり意識はしていなかったんですが、それらを全部観ている審査員の方々がいると知ると、全国で同時期に卒業制作を発表していることや、自分もその中のひとつを出している、ということへの緊張感があったように思います」
――当時は学生にとっても画期的だったんですね。南川さんと増井宏文さんによる表現活動集団「wah document(ワウ ドキュメント)」の受賞作は、これまたユニークです。各地に赴いて一般募集した参加者と出し合ったアイデアや、街で集めたアイデアを即興的に実行する集団の表現活動そのものが評価されました
南川「展示したのは活動に参加した子どもや、活動の中で描かれたA4のアイデア用紙と、そのアイデアを実現した写真か映像です。4つのアイデアを選んで展示しました」
――2009年にグランプリを受賞された時の感想を
南川「それが本当はとても嬉しかったくせに、性格がひねくれているせいで、インタビューでもあんまり嬉しくないようなことを言ってしまった記憶があります(笑)。僕らの活動はリレーショナルな展開がベースで、助成金を頑張って取ってきたり、地域の施設を活用したワークショップなどが多かったんです。ホワイトキューブや壁面に展示するということからは、ちょっと距離を感じていたのですが、ここで選んでもらえたことは大きな自信になりました。
その時は村上隆さんがゲスト審査員で、村上さんは芸大やAATM自体に批判的なコメントをされていました。そのこともすごく刺激的でしたが、何というか、穏やかに開催しようと思ったら、きっと選ばないようなゲストの方を審査員にされていることや、展示を前提としていないような活動でも、グランプリに選んでもらえたということも含めて、リスペクトしたい気持ちがあります」
――AATMはある種の覚悟を持って、本気で若いアーティストの可能性を広げるつもりだと感じたんですね
南川「そうですね。それはすごいことだと思うので、AATMはずっとあり続けてほしいと心から思っています」
丸の内で開催される意味と
サイト・スペシフィック
AATMの展示会場「行幸地下ギャラリー」の歴史は昭和に遡るが、現在の220メートルにも及ぶギャラリーは、2007年の新丸ビル開業の際に新設されたもので、AATMはこのギャラリーのこけら落とし企画だった。今では丸の内仲通りに彫刻が展示されるなど、アートと親密な丸の内だが現代アート展示としては、このAATMが先駆けとなる。
――東京の中枢である丸の内でAATMが開催されることには、どのように感じましたか
南川「学生にとっては、ひとつの最たるコンペティティブな場がAATMだと思うので、開催地はそれを象徴するような場所に受け取っていました。東京駅を降りてすぐの場所で、ストーリーとしても分かりやすい。普段のボロいアトリエから、いきなり実社会の中に作品を展示するという側面もあると思います」
――荒神さんの思いは?
荒神「オフィス街で働く人たちの近くにアートがあるというのは、今でこそ珍しくないですが、AATMが始まったばかりの頃は、丸の内にもまだそんなに置かれていなかったと思います。
行幸地下ギャラリーは、働く人たちが結構通るじゃないですか。立ち止まってくれるかな? と作品の前で観察していたら、わりと皆さん観て下さいました。移動する合間に足を止めて観てくれたことも、新鮮で嬉しかったですね」
――目[mé]の活動には、今年1月の「SHIBUYA SKY」での展示や「まさゆめ」のように、その場所でなければあり得ないような作品も見られますが、環境とアート、いわゆるサイト・スペシフィックについてのこだわりはありますか?
南川「作品の場所を考える時に、よく‟導線”を考えますね。極端に言うと観客が家を出てから、どういうふうに作品空間にたどり着いて、また次の場所へ行くかとか。その場所だけに成立するというより、そういった運動や行動の中に空間を入れるという感じで考えています。
例えば、美術館に行った日が、天気が晴れだったのか雨だったのか、周りにどういう人がいる状況で作品を観ていたのかとか。そういうことの中で鑑賞がなされていることに興味があって、そういったことを考えています。自分がお腹を下している時にフォービズムの絵画を観たら、めっちゃ体感性が高いと感じたり(笑)」
――野獣派を体で感じた!?
南川「そうとも言えるかもしれません(笑)。どんな作品も、自分があの時あのコンディションじゃなかったら、感じ方もまた違っただろうな、とよく思うことがあります。そういうことも含めて導線と考えているんですね」
――荒神さんはいかがですか
荒神「その土地のことを、事前リサーチで知りすぎるとかえって馴染みすぎるし、知らなすぎても違和感が出る。だからいつもその中間ぐらいで、作品のあり方を考えているのかもしれません。
自分の目で、その場所や地域を見るということを大事にして、調べるのはそこそこに留めておきたい。まず自分の目で確かめることが、作品を作る上ではとても大切かなと思っています。どんな人が、どんな反応でその作品を観るのか。それは地域によっても全然違ってくるし、丸の内は当然オフィス街なので人々は忙しく動いていますけど、先ほど南川が言ったように、どういう状況で作品に出会うのかということを、その人たちの生活や行動を思い浮かべながら、考えますね」
好きなこと、やりたいことを突き詰める
本気で挑戦している作品が観たい!
――第17回のAATMが、いよいよ7月21日(金)から開催です。今回参加するアーティストたちにメッセージを
南川「本当に挑戦しているな、という作品が観たいですね。『こんなの本当に発表してしまっていいの?』とか、搬入中に戸惑うぐらいのヤツを持ってきてほしいですね(笑)。マルセル・デュシャンが便器(『泉』)を持って美術館だかギャラリーだかに行った時、本人がどんな気持ちだったのかは分かりませんけど、作家自身が戸惑うぐらい挑戦しているものを期待したいです」
荒神「卒業制作の時に、友だちや他学科の学生たちが、たくさん作品を展示するのを初めて目の当たりにして、みんなそれぞれ独特で面白いな、と思いました。
コンペティションの性質には良し悪しもあると言いますか、賞に輝くものを作ろうとしなくても、それぞれが自分のやりたいことを追求していけば面白いと思います。私はちょっと気後れもしたけど、みんなの作品を観てからは、好きなことをやればいい、自分が信じるものに向かえばいいんだ、と強く感じたんです。
あんまりコンペということは気にしないで、これだ! と本心で思えることを突き詰めてほしいですね」
10月開催の「さいたま国際芸術祭2023」では
ディレクターを初体験
そして、さいたま市を舞台にした「さいたま国際芸術祭2023」も、今年の10月7日(土)から開催予定。3回目となる今回のディレクターは、目 [mé]が担当する。
――ちょっと気が早いですが、今秋の「さいたま国際芸術祭2023」の見どころとは
南川「研究者や編集者、盆栽師など、いわゆる現代美術家だけではなく、多様なアーティストが参加されます。目[mé]は展示会場としては、主にメイン会場をディレクションします。
メイン会場は『旧市民会館おおみや」という今は使われていない、いわゆる劇場です。その劇場に、新進気鋭の演出家やサウンドアーティストの発表などに加え、市民文化団体による演奏、詩吟を発表される方たちもいて。その同じ舞台にミニマルミュージックの巨匠、テリー・ライリーの公演もあります。
それからいろんな演目や、その準備作業自体を見ることができるようにしようと計画していて、連日動いている会場になりそうです。アート作品の展示室でも、会期中に変わっていく作品があったり。とにかく、営みが続いていくような芸術祭になる予定です」
荒神「私は、いろいろなアーティストのリサーチをしたり、実際にアーティストの制作のプロセスに関わったりしています。たまに、自分たちがこれまでワガママを言ってきた罰が、自分に返ってきたんじゃないかと思うこともあったりしますが(笑)。
今回、芸術祭のテーマとの親和性のあるアーティストを自分たちなりに厳選した上で、すごくモチベーションを持って下さるアーティストに参加いただいています。ぜひ楽しみにしていて下さい」
AATMはただの展覧会じゃない。次世代を担う原石の発掘方法からして、全国の芸術系大学の卒業制作発表を、審査員が現地に足を運んで観た上でノミネートするという、実に手間暇の掛かったプロジェクトで学生たちに大きな刺激とやる気を与えている。最終決戦が行われる丸の内エリアには、今年も個性的な作品が集結。厳選された若き魂の結晶が一挙に観られる絶好の機会だから、足を止めて眺めてみてはいかがだろう。毎日同じに思える通勤タイムに、今まで感じたことのない刺激を受けられるかもしれない。
目[mé](め)●アーティストの荒神明香(こうじん・はるか)、ディレクターの南川憲二(みなみがわ・けんじ)、インストーラーの増井宏文(ますい・ひろふみ)を中心とする現代アートチーム。個々の技術や適性を活かしたチーム・クリエイションによる制作活動を展開。観客を含めた状況/導線を重視し、「我々の捉える世界の‟それ”が、‟それそのもの”となることから解放する」作品をさまざまな場所で発表している。主な活動に、個展「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー、2014年)、《Elemental Detection》(さいたまトリエンナーレ2016)、個展「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館、2019年)、個展「ただの世界」(SCAI THE BATHHOUSE、2021年)、《まさゆめ》(Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13、2019-21年)、《matterα》《matterβ》(ハワイ・トリエンナーレ2022)などがある。第28回(2017年度)タカシマヤ文化基金タカシマヤ美術賞、VOCA展2019佳作賞受賞。今年10月の「さいたま国際芸術祭2023」ではディレクターに就任。
聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・戦略推進室。エリアLOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。大阪府日本万国博覧会記念公園運営審議会会長代行。産経新聞〜福武書店〜角川4誌編集長。
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