「現代アートは難しい?」そんな思いを払拭してくれたアーティストの生の声。これはアートを見る楽しさにハマりそう!
2024年12月11日 12時00分更新
2024年に18回目を迎えたアートアワードトーキョー丸の内(以下、AATM)。若手アーティストの発掘・育成を目的に、全国の主要な美術大学・大学院の卒業制作の中から選抜作品展を開催し、これまで500名を超えるアーティストを紹介してきました。
そんなAATM2024年度のグランプリ受賞者である高田マルさん、三菱地所賞受賞者の朝井彩華さん、そして過去のAATMに参加し現在も活躍を続ける3名のアーティストの作品を展示する「Window Gallery in Marunouchi-from AATM vol.2」が現在、行幸地下ギャラリーにて2025年1月26日まで開催中です。
11月30日には、今回作品を展示されている高田マルさん、田中彰さん、山口由葉さん、さらにゲストとして第1回のAATMに参加された薄久保香さんが参加するギャラリーツアーが開催。アーティストの生の声が聴ける貴重なこのツアーに参加してきました!
記憶を反復することで生まれた作品
AATM2024でグランプリを受賞した高田マルさんが今回展示しているのは、ウィンドウ内に展示されている「わたし」という作品と、ウィンドウのガラス部分に展示している「聞き做し」という2作品。
高田さんは「絵を描く」ということは個人的な体験だと考えているそう。そういった個人的な体験を他者に見せ、パブリックな場へ持っていくということを意識して作品の制作を行っています。
「今回の作品は、ウィンドウ内を“個人的な場”、ウィンドウの外を“パブリックな場”として設定しています」と話す高田さん。
どちらも文字のような読めそうで読めない線が描かれていて、これは一体…?と不思議な気持ちにさせられます。高田さんのごく個人的な思いが作品として形に表れていて、私たち他者にはどうしても読み解くことができないのかな、と感じました。ですが、文字のような形はなんだか親しみもあって、「わからないけど懐かしい」というような感覚を覚えます。
ウィンドウ内の「わたし」という作品は、過去に高田さんが作成した8ミリフィルムの映像作品のフィルムをスキャンしてプリントした紙の上に文字のような線を描いています。その作品を撮影していた時のことを思い出しながら、線を描いたそう。
「人間のひととなりを構成する時に“記憶”がかなり重要だと思っています。経験したことはなかったことにはならず、さまざまな記憶を思い出したり忘れたり、思い出した時に反芻したり、そういったことで個性が出来上がっていくと思うんです。わたしの記憶、つまりわたし自身を具現化したような作品となっているので、『わたし』というタイトルをつけました」と高田さんは話します。
外側のガラス面の作品は、ガラス面に貼ったシートにアクリル絵の具で文字のような線を描いた作品。タイトルとなっている「聞き做し」とは、鳥や動物の鳴き声を人の言葉や文字に置き換えて覚えやすくしたもののことで、ウグイスの鳴き声に「法華経」のような意味のある言葉を当てはめたり、コマドリの「ヒンカラカラカラ」のような意味のない文字に置き換えたりすることを言うんだそう。高田さんは、人が人に何かを伝えようとするとき、受け手がそれを理解しようとする行為は、自分の知っている言葉に知らない音を当てはめる「聞き做し」に近いのではないかと考えたと言います。
このガラス面の作品はこの場で制作されたそうで、線を描く際には中に展示してある「わたし」を見ながら、さらにフィルムの撮影中のことを思い出したり、中の線を真似て書いたりしていたんだとか。
このように記憶を反復しながら生まれた作品が、「わたし」と「聞き做し」。高田さんの個人的な経験を具現化した作品だからこそ、すべてが「わかる」わけではないけれど、経験を思い出すという誰にでも共通する行為を形にしていたり、「聞き做し」のように高田さんの経験を私たちに完全に伝えることはできないながらも何かを伝えようとしていたりすることが、作品から私たちに伝わってくるから「わからないけど懐かしい」という不思議な感覚が生まれるのではないかな、と感じました。
躍動感ある筆遣いで描かれた身近な風景
AATM2020に参加し、野口玲一賞を受賞した山口由葉さんは、5点の絵画作品を出展しています。すべてに共通するのは、山口さんがバスや車の窓から見た景色だということ。その時見た風景を短時間でラフにドローイングし、持ち帰って見た時に思い出せるものを油絵として作品にしています。
パッと見た時は、躍動感のある荒々しい筆致に抽象画が描かれているのかな?と思わされるのですが、見つめていると身近に感じられる風景が立ち上がってきます。
「絵が描きっぱなしのような感じに見えるかと思うのですが、それを意識して描いています。後で絵を見た人が、どこから描いていったのか、追体験できるような作品になるようにしています」と話す山口さん。
確かに勢いのある筆の動きは、実際に絵が描かれていく過程を想起させます。絵が出来上がっていく流れを想起することは、実際に山口さんがその風景を見た時の視線の動きまで追体験するかのような感覚があり、だからこそ描かれた風景をより身近に感じられるのではないかと思いました。実物を見ると、写真以上に筆の動きを感じられ、山口さんの息遣いのようなものまで感じ取れるはずです。
実際に見るからこそ体感できる大きさで、白老での滞在を追体験
AATM2015で三菱地所賞と今村有策賞を受賞した田中彰さん。田中さんは「Drifting Scope 白老を測る」という作品を展示しています。
吊り下げられた物体から糸が垂れているものが並び、ところどころにポラロイドの写真なども置かれている立体作品ですが、一体何を表している作品なのか…と興味をひかれます。
この作品は田中さんが北海道の白老町に滞在した時に制作した作品だそう。作品の1番右側にあったのは、糸の色が1mごとに変わっていて、自分で糸を引っ張って背の高さを測れるようになっているもの。この装置だと、「大体なんだけど正確に測れる」というような感覚が田中さんにはあるそう。壁際にずらっと並んでいるのは、実際に背を測った人たちの写真。
その他にもカササギがやって来る木の高さや子馬の高さ、さらには紫金山アトラス彗星の尾という測りたいけど測れないものをどうやって測っていいかはわからないけど作ってみたというものなど、田中さんが白老で出会ったさまざまなものを測っています。
また、作品の端から端まで横に長く引かれている糸はポロト湖の深さを測ったもの。湖ではカヌーに乗ったそうで、糸の始まりの部分にはそのカヌーが作品として表れています。湖の深さは糸で測ったところおよそ8メートルだったそうで、ここでも8メートルの糸を見ることができます。
最近はネット上でもさまざまなアート作品を観ることができますが、大きさというのは実際に作品と対面しなければ体感できないものの1つ。この作品はまさに実際に観に行くことで大きさを体感することができて、田中さんの白老での滞在をリアルに感じ、追体験したような感覚を味わうことができます。
実際に存在する形ではないのに、図鑑のような緻密さが不思議
ツアーには欠席でしたが、AATM2013 フランス大使館賞、オーディエンス賞を受賞した野原万里絵さんの作品も展示されています。野原さんは6点からなる「日々の集積(ホーローのための原画)」やその他にも8作品を展示しています。
「日々の集積(ホーローのための原画)」は石や貝、花びらや根っこ、地面に落ちる影などをモチーフにして、何度も何度も描いて抽象化し、野原さん自身の中で定着していった名前のない形だそう。確かに何かをそのままリアルに描いたものではないのですが、図鑑の絵のような緻密さがあり、既視感も感じる不思議な形です。この細かさは写真だけでは伝えきれないので、ぜひとも実物を見るべき!
また、この作品は3倍の大きさでホーローにプリントされたものが大阪の北加賀屋に展示されているそう。大阪出身の私としては、今度帰省した時にぜひ見に行ってみよう!という気持ちに。
別の出展作品「解体と構築01」「解体と構築02」も図鑑に描かれた絵のような緻密さを感じます。パッと見た時、私は火山やマグマを描いたものなのかな?と思ったのですが、これは今年の夏、制作中に南海トラフの臨時情報がラジオから何度も流れてきたことから制作した作品だそう。地震情報を聞いて見えてきた形に着想を得ているとのことで、地盤の崩れる様子や地球の中心でマグマがうごめいているようなイメージにもつながったそうで、私の感じたことも遠くはなかったようです。
“土化の病”で滅亡する文明を描く
AATM2024で三菱地所賞を受賞された朝井彩華さんもツアーでは欠席でしたが、「Doomsday records」という連作を展示しています。
この作品では、架空の存在したかもしれない文明のなかで土化の病によりゆるやかに滅亡していく様子を描いています。その世界の新聞とポスターのような作品で構成されていて、作品をみることで終末を見届けるような作品です。
新聞には読むことができる部分も多いので、じっくり読み入ってしまいました。紙が古くなったような加工が、“架空の文明”であるのに、実際に遠い昔に起きたことのようなリアリティを感じさせます。「外出は控えるように」という記述なども見られ、コロナ禍に通じるようなものも感じました。
作品全体に終末期の絶望的な雰囲気もありつつ、“土化の病”というのがはにわのようになってしまう病気のため、ビジュアルになんとも言えないユーモラスな雰囲気もあり、その相反する様子になんだか惹きつけられてしまう魅力があります。
というわけで5名の魅力的な作品をたっぷりと楽しめる「Window Gallery in Marunouchi-from AATM vol.2」。現代アートというと難しいもののような気がして少し尻込みしてしまいますが、ギャラリーツアーで作家たちの作品への思いや制作への姿勢を直接聞くことができ、作品との距離が近づいたような気がします。アートを見る楽しさにハマってしまいそうです。
会期は1月26日までとまだまだ続くので、ぜひとも足を運んで実物を見に来るべき! 会場となっている行幸地下ギャラリーは、東京駅から地下で直結していてアクセスも抜群なので気軽に訪れられます。鑑賞も無料なので、現代アートの面白さを知る第一歩としてとても良い機会となるのではないでしょうか。どの作品も見ごたえ十分な深みのある作品ばかりですから、きっと見る人によって私が感じたのとはまた違ったそれぞれの感想が生まれるはずです。
Window Gallery in Marunouchi-from AATM vol.2
場所:行幸地下ギャラリー
開催期間:2024年11月20日(水)~2025年1月26日(日)
時間:11:00~20:00 ※最終日は18:00まで
文 / オシミリン(LoveWalker編集部)
大阪生まれ。
趣味は読書と写真を撮ること、おいしいものを食べておいしいお酒を飲むこと。
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