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エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第12回

帝国ホテル135周年記念企画で食べた伝統メニューで“ムッシュ”村上信夫シェフを思い出した

 帝国ホテルが東京都千代田区内幸町に開業したのは明治23年(1890年)11月3日。来年(2025年)の11月3日には135周年を迎える。帝国ホテル 東京では、2024年11月〜2026年3月の間、様々な記念プランや商品を用意した記念企画をスタートさせている。2026年春には京都に新規ホテルが開業するほか、東京の建て替え計画など、更に進化を続ける帝国ホテルならではの135周年メニューもスタートしていて、筆者もさっそく、体験してきた。

2024年6月末に閉店した料理店「ラ ブラスリー」で提供されていた帝国ホテルの歴史的なメニューの一部が2024年11月3日から、本館のレストランで提供されている。写真は「海老と舌平目のグラタン"エリザベス女王”風」。本館17F「インペリアルラウンジ アクア」の帝国ホテル伝統のフルコースから

2024年3月1日、本館1階にオープンした「THE RENDEZ-VOUS AWA(ランデブーAWA)」にて筆者。シャンパンを中心とした発泡性ドリンクに特化したバー

約1000本もの赤いバラをドーム状にアレンジしたロビー装花は、帝国ホテルの冬の風物詩。ドーム型の赤バラは、内側にプリザーブド(特殊加工を施し、長期保存を可能とする技術)、外側に生花を使用し、日々のメンテナンスで一番美しい状態を保っている

新しい国家としてスタートした明治の日本とともに始まり、今につながる様々なサービスを開発して更に未来に続く施設に変わろうとしている帝国ホテル

 日本が明治維新を経て、近代国家としての地位を築こうとして、外交施設「鹿鳴館」を建てるなどトライ&エラーを繰り返していた中、十分な宿泊施設が無いようでは、対等な外交関係などつくれない、という危機感を抱いた政府や財界人たちは、「鹿鳴館」の隣にホテル建設を計画し、明治23年(1890年)に誕生したのが「帝国ホテル」。国の威信をかけ、外交の拠点のひとつとして活用された帝国ホテルは、「日本の迎賓館」という役割を担った。初代会長である渋沢栄一の信念は「社会の要請に応え、貢献する」というものだった。

帝国ホテル初代本館(外観 正面)

 いち早く導入されたホテル内の自営ランドリー(明治44年・1911年)やショッピングアーケード(大正11年・1922年)は今も帝国ホテルの伝統の一部だ。そして大正12年(1923年)には、20世紀を代表する建築家 フランク・ロイド・ライトが設計した「ライト館」が完成した。1893年のシカゴ万博で、平等院鳳凰堂を模して建てられた「日本館鳳凰殿」などからインスピレーションを受けたというデザインは、日本建築史上最高傑作とも讃えられ、「東洋の宝石」と称された。

ライト館全景

「ライト館」で使用されていた机と椅子が、本館1階エントランスの大階段裏に展示されている

 しかし、その開業披露当日に関東大震災に見舞われるという不運に巻き込まれた。しかし大きな損傷もなく、大震災に耐えたホテルとしても世界に知られることになった。また、震災を免れた帝国ホテルは、被災者の避難場所として客室を無料で開放したほか、各国大使館や新聞社・通信社などに仮事務所のスペースも提供した。

 そして、関東大震災により、日比谷大神宮をはじめ、多くの神社が焼失したことから、神社での婚礼が主流だった当時、ホテル内に神社を設置し、挙式と披露宴をひとつのホテルの中で行うスタイルを誕生させた。これが、日本のホテルウエディングの原型になったと言われている。

孔雀の間での披露宴(1925年)

 その後も、昭和33年(1958年)、ブフェレストラン「インペリアルバイキング」を開業。このレストランは、スモーガスボードと呼ばれる北欧の伝統的な食のスタイルをルーツとして、「好きなものを、好きなだけ食べる」というテーマで誕生した。実はこの「バイキング」という名前は、北欧の海賊映画からとったもので、昼1200円/夜1500円と当時においては高額だったが、連日大行列の評判を呼んだ。その後、「バイキング=食べ放題の代名詞」として、日本中にこのスタイルのレストランが広まり、2008年、オープン50周年を記念して8月1日を「バイキングの日」と制定した。

 筆者は、福武書店(今はベネッセ)の月刊女性誌「カルディエ」(休刊)やKADOKAWAの同じく休刊した女性誌「シュシュ」や「大人のウォーカー」などで、帝国ホテルには数多く取材に訪れているが、中でも記憶に残るのは、“ムッシュ”の愛称で親しまれた、帝国ホテル第11代料理長/ 初代総料理長の村上信夫さん(1921年~2005年)。オンタイムではないが、後追いで観たNHK「きょうの料理」でハンバーグに腕を振るう姿が印象的で、何度かお会いして、言葉を交わせたのは幸せだった。東京オリンピックの選手村食堂『富士食堂』料理長を務められたのも大きくて、当時のメニューを再現する会で食べた味はまさに、日本のあの時期を切り取ったような味だった。

第11代料理長 村上信夫氏

東京オリンピック選手村にて

 そして、帝国ホテルが手掛けるオンラインモール「ANoTHER IMPERIAL HOTEL」の開業をはじめ、2026年の京都の新規ホテル開業や、帝国ホテル 東京の建て替え計画を控えるなど、これからの帝国ホテルは生まれ変わりの時期に入っている。

「美しい驚きを創る」帝国ホテルの135周年記念企画はびっくりのイベントから歴史を飾る伝統メニューの復活まで目白押し

 帝国ホテル東京では、2024年11月〜2026年3月の間、様々な記念プランや商品を用意した記念企画をスタートさせているが、135周年のロゴとスローガンを決めた。

 スローガンは「美しい驚きを創る。」

 その想いは以下のように、ホームページにある。

「帝国ホテルは、京都の新規ホテル開業や、東京事業所の建て替え計画など、かつてないほどの変化を見据えています。これからも、みなさまの新たな驚きを生み出すために進化を続けていきたい、という想いを「驚きを創る」というフレーズに込めました。
 そして、「美しい」という枕詞は、ホテルとしての建築美だけでなく、帝国ホテルが進化させたいホテル体験やホテル文化も表現しています。
 伝統にしばられず大胆に、けれど、帝国ホテルらしく美しく。未来へ向け、これからも私たちは新しい価値を創造し続けてまいります。」

スローガンとロゴ

 記念企画は、イベントから、宿泊プラン、レストラン、宴会、会員限定プランまで多岐にわたり、「お客様ひとりひとりが感動した出来事や、美しい光景、心に残る味わい(美味)など、帝国ホテルにまつわる思い出の1ページを135文字で綴っていただいた文章を募集いたします」という「135文字のストーリー」や、エンターテインメント業界の第一線で活躍する人を招くイベント「日比谷時間特別企画 ~HIBIYA RENAISSANCE~」(第2弾は、映画俳優 倍賞千恵子)など、ユニークなものも並ぶが、矢張り、利用したいものとしては、レストラン企画だろうか。

 2024年6月末に閉店したタワー館の「ラ ブラスリー」で提供されていた帝国ホテルの歴史的なメニューの一部が2024年11月3日から、本館のレストランで「帝国ホテルの伝統メニュー」として提供されている。

本館17F「インペリアルラウンジ アクア」 帝国ホテルの伝統メニュー

 今回の取材では、本館17F「インペリアルラウンジ アクア」で(本館1F「パークサイドダイナー」でも同様のメニューが味わえる)、フルコース(15,000円、会員限定13,500円)を体験してきた。村上信夫シェフをはじめ、帝国ホテルでしか味わえないメニューばかりだが、筆者も初めての状況から30年近く、折に触れ食してきた帝国ホテルの味がしっかり守られていることに感動する。

本館17F「インペリアルラウンジ アクア」。夜景が素晴らしい

メニューは以下の通り
・ ニース風サラダ 
・伝統のダブルビーフコンソメスープ 
・海老と舌平目のグラタン"エリザベス女王”風 
・シャリアピンステーキ 
・チェリージュビリー 
・コーヒー/紅茶

【ニース風サラダ】
 レタス、さやいんげん、茹でたじゃがいも、ツナ、オリーブ、トマト、茹で卵、アンチョビをフレンチドレッシングで和えた「ラ ブラスリー」を代表するメニューの 一つ。

【伝統のダブルビーフコンソメスープ】
  牛肉で取ったブイヨンに、再度牛肉を足して沸かし雑味を取り除いた、澄んだ琥珀色と 濃い旨味が特長のコンソメスープは、1890年の開業当時から基本的なレシピをほぼ変えず、歴代のシェフが代々受け継いできた伝統の一品。最初に食した時から変わらず、舌が喜ぶ深い味わいだ。
 

【海老と舌平目のグラタン"エリザベス女王”風】
 舌平目で包んだ海老に、オランデーズソース(バター、卵黄を使用したソース)をかけてグラタン仕立てにした。 魚介のうまみが効いたアメリケーヌソース(海老の殻と香味野菜を炒め、魚の出汁、生クリームを加えたソース)で味変するのも楽しい。ぷりぷりした海老も、舌平目も極上のソースでまとまって、実に美味。

 昭和50年(1975年)、イギリスのエリザベス二世女王陛下が来日した際に、帝国ホテルで開かれた午餐会で、当時の料理長・村上信夫が、魚介類の好きな女王陛下のために考案した由緒ある一品。陛下の大変な好評を賜り、 料理名に陛下の名を冠するお許しを得て以来、「レーンヌ・エリザベス」の名で愛されている。

【シャリアピンステーキ】
 玉葱に漬け込み、柔らかく仕上げたランプ肉と、ソースの代わりにたっぷりのせた玉葱のソテーが醸し出す奥深い味わいが特長のステーキ。

 昭和9年(1934年)、帝国ホテルに滞在したロシア人オペラ歌手のフョードル・イワノビッチ・シャリアピンのために、 “歯の調子が悪くても召し上がれるステーキ”として、当時のニューグリル料理長・筒井福夫が考案し、 後にその名を貰った一品である。

【チェリージュビリー】
 大粒のチェリーを煮込んでキルシュで香り付けた温かいソースをバニラジェラートと合わせて、口の中で溶ける帝国ホテルの定番。ジュビリー=ジュビレとはフランス語でjubile、50年を意味する。 近代フランス料理の父、エスコフィエが、ビクトリア 女王の即位50年の祝宴に初めて献上したことで「デザ ートの女王」とされている。

■店舗概要
営業時間
:11時30分~24時(ラストオーダー23時30分)
 ※平日前の休日は11時30分~22時(ラストオーダー21時30分) 
席数:201席 ※全席禁煙 
ロケーション:本館17階 
駐車場:3000円以上の利用で3時間無料
リンクhttps://www.imperialhotel.co.jp/tokyo/restaurant/imperial-aqua

 伝統メニューは、本館17F「インペリアルラウンジ アクア」 のほかにも、本館17F「インペリアルバイキング サール」、本館1F「パークサイドダイナー」、本館1F「ランデブーラウンジ」、 ルームサービスでも楽しめる(メニューの内容はそれぞれ違う。3日前までに要予約)。

本館1階「THE RENDEZ-VOUS AWA(ランデブーAWA)」

 そして、この長い歴史を持つ帝国ホテルが 新しい挑戦として、2024年3月にオープンさせたのが、シャンパンを中心とした発泡性ドリンクに特化した新スポット、シャンパンバー「THE RENDEZ-VOUS AWA」だ。本館正面ロビーの一部という立地の良さを生かし、コンセプトは、「“集い”の前や後の起点と終点エリア」。館内外の集いの前に待ち合わせをするスタート地点、集いの後や観劇、買い物後の余韻を味わうゴール地点として、気軽に立ち寄れる。席数は52席で、スタンディングエリアもある。

 店名は、フランス語で“前”を意味 する「Avant(アヴァン)」、“後”を意味する「Après(アプレ)」、そして「集いの前後に Wine(スパークリングワイン/シャンパン)を」の意味を込め、それぞれの頭文字を取り、発泡性のドリンクがメインであることもかけて“AWA”と名付けた。正面入り口横にある店はホテルの外側に面していて、内装は、「泡」と「金星」を想起させる煌びやかなデザインになっていることから、ホテルの外からも明るい様子がうかがえる。「金星」をイメージした理由は、金星が星で言えばVENUSであり、沸き立つ“泡”から生まれたというローマ神話の女神「VENUS」に掛けている。

 ドリンクは、シャンパンを中心とした発泡性飲料をラインアップ。豊富な銘柄を取り揃えるシャンパンをはじめ、スパークリングワインや発泡性の日本酒、強炭酸のカクテル・モクテルなどさまざまな発泡性飲料を提供し、ドリンクに合うオリジナル のスナック類やフィンガーフードも用意している。シャンパン・スパークリングワインについては、2024年に帝国ホテルが開業134周年を迎えることにちなんで、134銘柄を揃えている。

店舗概要
営業時間
:17時~22時30分(22時 ラストオーダー) 
席数:52席 ※このほかにスタンディングエリアもあり。 
ロケーション:本館1階
価格
 ドリンク:グラスシャンパン1900円~
 フード:800円~
※サービス料・消費税込み
リンク:https://www.imperialhotel.co.jp/tokyo/restaurant/awa

帝国ホテル 東京 概要
住所:東京都千代田区内幸町1-1-1
公式ウェブサイトhttps://www.imperialhotel.co.jp/tokyo

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