帝国劇場クロージングにファンの涙と惜別の声、生まれ変わる新劇場の姿とは?
2025年02月20日 13時00分更新
日本の演劇界を代表する舞台のひとつ、帝国劇場が2025年2月、建て替えのため、ついにクロージングを迎える。『レ・ミゼラブル』(2024年12月16日 ~ 2025年2月7日千穐楽)に続いて、オールスターキャストで人気演目を振り返るCONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』(2025年2月14日〜28日大千穐楽)で最後を飾る。
明治44年(1911年)に開業した帝国劇場は、1966年に建て替えられ、現在の劇場は2代目。そして、2025年2月28日をもって、いったんクローズし、3代目の劇場へ生まれ変わる。
丸の内の顔であり、日本の演劇史の最重要の劇場の一つである帝国劇場の支配人である中山周氏に、今の、そして、これからの新しい帝劇への想いを聞いてきた。

中山周支配人。背景は、帝国劇場内でも印象的な、現代アーティストの猪熊弦一郎による水引をイメージした電灯装飾「熨斗」や日本の祭りを表現したステンドグラス。2代目の現・劇場の全体設計は㈱阿部事務所が、建物外観と内装設計を谷口吉郎が担当しており、谷口は、東京国立近代美術館本館や東宮御所の設計でも知られる昭和期を代表する建築家
長年にわたり多くの観客に感動を届けてきたこの劇場の最後を飾る作品として選ばれたのは、『レ・ミゼラブル』だった。帝国劇場の中山支配人は、「『レ・ミゼラブル』はまさに、クロージングにふさわしい作品で、お客様にとっても特別な作品だと思います」と語る。公演終了後、観客が涙ぐみながら帰路に着く姿や、SNSで「最後の帝劇レミゼ」を惜しむ声が多く見られる。劇場としての歴史と観客との絆が深いことを改めて感じる場面だった。
『THE BEST』には、多くの豪華ゲストが出演。通常の公演では見られないキャストの組み合わせや、特別なプログラムが用意されており、まさに劇場の歴史を振り返る一大イベントとなる。中山支配人は「この公演には、帝劇に関わってきたすべての人々が関わることで、クロージングを盛り上げ、次の帝国劇場という未来へとつながっていくという意義があります」と語り、中でも、レジェンド級の俳優たちが一堂に会し、それぞれの持ち味を生かしたパフォーマンスを披露することは、ファンにとって忘れられない体験となるだろう。また、帝劇の持つ舞台装置をフル活用する演出も取り入れられ、十年以上使われていなかった「すっぽん」と呼ばれる小型のセリ装置が復活し、現在使用可能な舞台装置が最大限に生かされるステージになっている。
「帝国劇場は、単なる劇場ではなく、日本の演劇文化の象徴とも言える存在でした。その建築デザインには、歴史と伝統が感じられ、劇場そのものが『演劇の舞台』として機能しています。帝劇は私にとって家のようなもの。ほかの劇場に比べてもオーセンティックな雰囲気があり、伝統を感じる劇場だった」と中山支配人は語る。帝劇の建て替えが発表された際には「なぜ壊すのか」との声も多かった。しかし、新しい劇場には、現代的な利便性と、これまでの歴史を継承する要素が盛り込まれる予定だ。初代、2代目、3代目と日本の近現代史とともに、その時代にあった劇場として歩んでいく。
白亜の殿堂と呼ばれた初代の帝劇から、日本の演劇の歴史と共に歩んできた
1911年に開場した第一期の帝国劇場は、伊藤博文、渋沢栄一らが発起人となり、実業家・大倉喜八郎の主導で、建築家・横河民輔の設計により、日本で初めての本格的な西洋劇場として建設され、白亜の殿堂と呼ばれた。開場当時、帝劇付属技芸学校を卒業した女優たちの演じる益田太郎冠者作の「女優劇」で話題を集め、オペラ、新劇などを通じて日本の演劇・音楽文化を牽引してきた。
1923年の関東大震災で内部が焼け落ちたものの、翌年には改修を行い、モダニズムの流行を反映した「高速度喜劇」も登場。第二次世界大戦後は秦豊吉による「帝劇ミュージカルス」が話題を集め、越路吹雪主演の『モルガンお雪』『お軽と勘平』『マダム貞奴』などの演目が舞台の楽しさを伝えた。豪奢なつくりの劇場では、歌舞伎、シェイクスピア劇、バレエなどが上演された。1964年の閉館のころはパノラマスクリーンの映画館として営業し、建て替えに入った。
1966年に開場した二代目となる現・帝国劇場は、東宝の演劇担当役員で、劇作家・演出家である菊田一夫が「“ふだん着で見られる世界最高の劇場”これが帝国劇場の合言葉でございます」として陣頭指揮をとり、建築家・谷口吉郎の設計による、モダニズムの香り豊かな劇場となった。
大河小説『風と共に去りぬ』の世界初の舞台化を念頭に、舞台セット転換のための、地下深くまで使った盆、セリ、広大な舞台袖を備え、1960年代の演劇の大きな画期を形成した。続いて『ラ・マンチャの男』『屋根の上のヴァイオリン弾き』など、何度も再演された名作ミュージカルが歴史を飾った。1970年代以降は蜷川幸雄の演出など新たな演劇の潮流も加わる。近年は『千と千尋の神隠し』や『スパイ・ファミリー』『キングダム』など漫画・アニメから派生する舞台も若い層も巻き込みながら人気を集めている。
中山支配人は「東宝に入社後、社会人人生の4分の3をこの帝国劇場で過ごしました。このクロージングの時の支配人を務め、3代目の帝劇の準備をしているというのは、巡り合わせではありますが、感慨深いものがあります」と心境を語ってくれた。
帝国劇場クロージング特別サイト:https://teigeki.tohostage.com/closing/index.html

CC 表示 2.0 Imperial Theater, Tokyo (by Elstner Hilton) 作成: 1915年5月1日 日本の鉄骨建築の先駆者、横河民輔が造った初代帝国劇場(大熊喜邦や葛野壮一郎らが基本設計)
新・帝国劇場は皇居のお濠端を活かした「街に開かれた」ここちよい帝劇を目指す
現・帝国劇場は1966 年に開場し、59年間にわたり多くの演劇ファンを楽しませてきたが、再開発のため2025年2月末をもって休館に入り、新たな帝国劇場のための準備に入る。東宝発祥の地、日比谷から程近く、対面には美しいお濠と皇居、三方はビジネスセンターの丸の内に囲まれた、絶好のロケーションに位置する帝劇ビルの中に、世界に誇る設備と格調を有する現・帝国劇場がある。ここに新たな世紀に向け踏み出そうとする歩みを共にする設計者として選ばれたのは、小堀哲夫氏。東宝株式会社が指名した設計者が参加できる“指名型プロポーザルコンペ”を通じて選出された。
小堀氏(建築家・法政大学教授)は、1971年9月29日、岐阜県生まれ。 日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse国際建築賞特別賞、Architecture Master prizeなど国内外において数多くの受賞があり、2025年開催の大阪・関西万博では、中島さち子プロデューサーが手掛けるシグネチャーパビリオン「いのちの遊び場 クラゲ館」の設計に携わっている。
3代目の新帝国劇場は、最先端の技術を備えた世界的に最高の劇場を目指すことはもちろん、観客、俳優、スタッフにとって、また、帝劇のある日比谷の街で暮らす人々にとっても「ここちよい帝劇」を目指す。
中山支配人は、「新しい帝劇は、これまで以上に”街に開かれた劇場”として設計されます。建築デザインを担当する小堀氏は『お客様が劇場に入るまでの過程を、まるで演劇のワンシーンのように感じられる空間を作りたい』と仰っていて、新劇場は、街との一体感を持ち、より多くの人々にとって親しみやすい場所となることが期待されています」と胸中を語る。
また、「帝劇のクロージングは、日本の演劇界にとって大きな転換点となるでしょう。長年愛されてきた劇場が幕を閉じることに寂しさは感じますが、新たな劇場の誕生に期待が高まります。歴史を継承しつつ、新しい時代の劇場を作り上げていくことが私たちの使命です」と決意を聞かせてくれた。
新・帝国劇場の建築のコンセプトは「THE VEIL」。 帝国劇場は皇居に面し、水のきらめき・美しい光・豊かな緑といった唯一無二の環境に恵まれた最高のロケーションが特徴だが、それらの自然を纏い、その自然の移ろいを感じながら、ヴェールの向こう側の世界を想像させ、期待感を盛り上げる。
ホワイエからは、華やかな風景が垣間見えることで、街の舞台となるような劇場をイメージさせる。 正面性をもったエントランス・ホワイエ・客席・舞台への連続性は、新たな帝国劇場の格式をつくっていく。ヴェールのように幾重にも重なる空間をくぐり、体験が変化していくことで、客席に至るまでのアプローチ全体も含めて、この場所でしかできない豊かな観劇体験をつくり出す。
「帝国劇場のもつ華やかさを発展させながら、世界に向けて発信できる日本の劇場として、すべての人に高揚を与える、そして心地よい空間となることを目指します。それは『未来を見つめた日本らしさ』でもあります。これらのコンセプトのもと、関係者とともに現在設計を進めているところです」と、公式サイトに綴られている。
新・帝国劇場の特徴は以下のポイントになる。*公式サイトの説明より
①劇場の配置を90度回転/正面性のあるアプローチ
メインエントランスはこれまでと同様、5th通り側になりますが、劇場の配置を90度回転することで、エントランスの正面に客席を配置した計画となります。正面性が高まることで格式高い劇場空間になるとともに、開演・終演時の混雑緩和に配慮した動線計画となっています。
②見やすくゆとりがあり一体感のある客席
この場所でしか体験できない、より一体感が感じられる客席空間とします。現在の劇場と同等数程度の客席数を設けながら、より見やすいサイトラインを備えた、ゆとりのある座席とし、今まで以上に快適な観劇環境とします。あらゆるお客様が観劇を楽しめる多様な客席を計画しております。
③最先端の技術を備えた、演出の可能性を最大限引き出す舞台
現在の劇場と同規模の舞台空間とし、演出の自由度のある設えとしております。舞台袖上部には、十分な作業性・安全性を確保したテクニカルギャラリー等を設ける計画としています。さらに世界レベルの最先端の舞台技術を導入いたします。楽屋やスタッフのスペースの快適性にも配慮し、誰にとっても心地の良い劇場を目指します。
④ロビー・ホワイエ空間・機能の強化/劇場と日比谷の街をつなげる劇場カフェの整備
ロビー・ホワイエ空間が広がり、より心地よく過ごせるとともに、カフェやバーなどの充実を図ることで多様な過ごし方ができる空間となります。またトイレ等のユーティリティ機能を拡充し、幕間も含めた総合的な観劇体験の充実を図ります。さらに、有楽町駅側の南東の一角には、一般の方も利用できるカフェ等を劇場に併設し、観劇前後や公演以外の時間も楽しめる劇場となります。劇場と日比谷の街がより一体となって、地域に親しまれる劇場を目指します。
⑤劇場全体でのアクセシビリティ強化
新たな劇場もこれまでと同様、都内の複合施設では数少ない1階に客席がある劇場となります。屋外から段差なく客席までアクセスでき、まちと劇場のつながりもより感じられる劇場となります。地下には、エレベーター・エスカレーターを設けた劇場ロビーを新設します。地下鉄からもよりアクセスしやすくなり、多様なお客様が劇場へ訪れやすい計画になっております。また施設内の商業スペース等へもアクセスしやすく、公演前後の体験も含めて、誰もがここちよく楽しめる劇場となります。
劇場スタッフが皆でアイデアを出し合ったクロージングの特別グッズや展覧会、アニバーサリーブックが熱い
今回のクロージングに伴い、多くの記念イベントやグッズ展開が行われているが、中山支配人によると「クロージングに際して、東宝演劇部員が自ら企画・開発に関わることで、より想いのこもったグッズを作る事が出来た」と言い、まさに、帝国劇場のスタッフが観客と触れ合っているともいえる。こうして出来た、従来の劇場グッズとは一線を画す、特別なアイテムが人気を集めている。グッズは帝国劇場や日比谷シャンテで購入できるほか、インターネットの東宝モールでも購入できる。
帝国劇場クロージング記念グッズ公式サイト:https://teigeki.tohostage.com/closing/goods.html

帝国劇場オリジナルデザイン2025年記念プレートby ロイヤル コペンハーゲン 32,000円(税込)。1枚1枚手作業で丁寧に色付けされているため、同じデザインでも1つとして同じ物がない、世界に1つだけの特別なプレート
さらに、三越とのコラボレーションで開催される「帝国劇場展〜THE WORLD OF IMPERIAL THEATRE~」では、劇場で実際に使われていた座席や衣裳の展示が行われ、ファンにとってはまさに「最後の帝劇」を体感できる場となる。「今日は帝劇、明日は三越」の広告で大正時代より縁のある帝国劇場と三越がコラボレーションした世界を体験できる。
会期:2025年3月29日~4月27日
会場:銀座三越 新館7階 催物会場
公式サイト:https://teigeki.tohostage.com/closing/exhibition.html
また、クロージングにあたり発行された『帝国劇場アニバーサリーブック New HISTORY COMINGTHE IMPERIAL THEATRE FROM 1966 TO 2025 AND THE BEYOND』(5,990円。税込)も大きな話題となった。総勢191名の俳優・スタッフによる帝国劇場の想い出と、未来の帝劇への思い伝説をつくった俳優・クリエイターに関する仲間たちの生の証言その全てが356ページのアニバーサリーブックに。帝劇の歴史を振り返る内容が盛り込まれ、ファンにとっては永久保存版の一冊となった。
販売:全国書店・ネット書店で、2025年1月15日より販売中
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