19万3000人が訪れた『ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2025』 企画性が増し、よりリラックスした音楽祭に
2025年05月08日 12時00分更新
今年も大盛況だった「ラ・フォル・ジュルネTOKYO2025」(5月3日、4日、5日)の来場者数が3日間で約19万3000人を数えた事が主催者から発表された。今年のテーマは「Mémoires(メモワール)―音楽の時空旅行」。筆者は、5月3日、4日の2日間、メイン会場の東京国際フォーラム(東京・有楽町)でまるまる過ごしたが、天気にも恵まれ、幅広い年齢層の人たちで賑わった。

ヴェネツィアが生んだ“赤毛の司祭”ヴィヴァルディの不朽の名曲に、我らが“渋さ”が挑む!地上広場のキオスクステージでも大人気だった
LFJ TOKYO Photo by Taichi Nishimaki
今年も会場は、東京国際フォーラムと、その周辺エリア(大手町•丸の内•有楽町、東京駅、京橋、銀座、八重洲、日比谷、みなとみらい)。今年の数字が発表された。この数字はまさに、世界最大級のクラシック音楽祭と言えよう。
1.来場者総数(延べ人数)
約19万3000人 [内訳]東京国際フォーラム約15万5000人、周辺エリア約3万8000人
2.チケット販売数
8万3851枚 東京国際フォーラム90公演(有料チケット総数10万4616枚/販売率80.2%)
3.出演者総数
1910人 [内訳]東京国際フォーラム/海外アーティスト(有料公演)141人、国内アーティスト(有料公演)662人 無料イベントアーティスト(地上広場キオスク/ホールEキオスク)511人 周辺エリア(LFJエリアコンサート)596人
4.総公演等回数
268公演(回) [内訳]東京国際フォーラム 有料公演90公演(回) 無料公演(講演会含)44公演(回) 周辺エリア134公演(回)
ラヴェルがこんなに面白い人だったとは!
「メモワール ―音楽の時空旅行」と言うテーマは、音楽史において重要な役割を果たした都市(ヴェネツィア、ロンドン、ウィーン、パリ、ニューヨークなど)とその時代に焦点を当て、音楽を通じて時空を超えた旅を体験するコンセプトで、各都市の文化的・歴史的背景を反映したプログラムが組まれ、クラシック音楽の多様な魅力を伝えていた。音楽自体や音楽家ではなく、豊かな音楽を生み出した背景、場所、エリアに着目をしたプログラムは、一つの場所に様々なレイヤー(層)が重なる観光を主張している「メタ観光」としても実に面白かった。
今回、その中でも、筆者は生誕150年のラヴェルにこだわったパリの話が面白く、5月4日の「異端児!~“アパッシュ”ラヴェルに捧げるスキャンダラスな演奏会」をおすすめした記事も書いたのだが、実際に、このプログラムに参加して、改めて、モーリス・ラヴェルと言う人のおかしさ、人柄に惚れた。
彼が如何にユニークかと言えば、2024年に公開された映画『ボレロ 永遠の旋律』を思い出す。1928年のパリを舞台に、スランプに陥っているラベル(ラファエル・ペルソナ)が、ダンサーのイダ・ルビンシュタイン(ジャンヌ・バリバール)から、新作バレエの音楽を依頼され、超名曲「ボレロ」を作曲する話だが、一音も書けない。彼は過去を振り返り、戦争や愛、母との別れなどの記憶をさまよい、曲を書き上げる。
この日のプログラムは、そんなラヴェルが絶好調だった1900年初頭のころ、「レザパッシュ(Les Apaches)」という芸術家集団で暴れていたころのことで、「アパッシュ(ならず者)」という名にふさわしい、革新的で既存の枠にとらわれない、この時のパリだからこそ生まれた音楽ともいえる。アリエノール・フェイクス(メゾ・ソプラノ)による歌曲やオーケストラに編曲されたピアノ曲を、アンサンブル・レザパッシュ!の日本人メンバー(ヴァイオリン)が解説を入れながら進めていき、最後には「レザパッシュの『ボレロ』」。
工場のインスパイアを受けた15分余り全く同じリズムを刻み、メロディも二つしかない奇妙な曲の官能性、感動。初演では、曲の途中で女性ダンサーが立ち上がり、「ラヴェルはおかしい」と叫んだそうで、このことにラヴェルが「彼女はこの曲をわかっている」と喜んだ、と言う逸話を解説で紹介したのも盛り上がった(実話ではないという話も)。
「ボレロ」を、自分のリサイタル公演のために依頼したイダはバレエ・リュスのダンサーとして活躍した人物で、マルセル・プルーストやガブリエル・ダヌンツィオらが熱狂的に支持した人。ダヌンツィオは1911年にクロード・ドビュッシーと『聖セバスチャンの殉教』をイダのために手掛けている。

モーリス・ラヴェル(1925年)
パブリック・ドメイン。
原典:Bibliothèque nationale de France。作者不明。The image holder, the Bibliothèque nationale de France has not identified a photographer.
許可 (ファイルの再利用):Gallica gives 1925 as date; assumed published in 1925.
アナログレコードの魅力再発見から
映画「ベートーヴェン捏造」まで堪能
今年初出展だった東京国際フォーラム・ガラス棟4階の「オルトフォンジャパン×ステラ×ステレオサウンド」も覗いてみた。アナログレコードの魅力を、最高峰のハイエンドオーディオで体験するブース。視聴コーナーはミニホールのようになっていて、デジタルやストリーミングに慣れ親しんだ耳には衝撃的な音を聴くことが出来た。アメリカでは2022年に、アナログレコードが35年ぶりにCDの売り上げを上回ったというニュースもあるが、筆者も実家に6000枚ほどレコードを持っていて、新たにプレイヤーを買う予定だ。
また、2025年9月12日公開の話題の映画『ベートーヴェン捏造』コーナーも設置され、小道具も設えられ、大いに盛り上がっていた。
4年ぶりに戻ってきた2023年の「ラ・フォル・ジュルネ」(LFJ)から3年目。ようやく、コロナ禍前の空気に戻ってきたのではないだろうか。今年の”音楽旅行”のLFJは実にリラックスした音楽祭になった。都市をテーマにしたことで、企画性が上がり、毎回多くのファミリーが参加する中、子供たちも世界の楽しさに触れられたのではないだろうか。筆者もキッチンカーで食とお酒を楽しみながら最高のGWを過ごした。
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