大丸有エリアを「楽しいSDGs」に巻き込む仕掛人の丸の内びと―― 大林悟郎さん、天野友貴さん
2025年12月01日 12時00分更新
5つのテーマの中でも特に注目を集めるのが、食や環境を通してSDGsを身近に感じてもらう「サステナブルフード」と「環境」分野。それぞれの活動には、街の特性を生かした独自の工夫があるという。
――「サステナブルフード」について、どんな取り組みをされているか教えてください。
大林「『SUSTABLE〜未来を変えるひとくち〜』という名称で展開しています。生産者、シェフ、そして消費者の三者が揃い、“サステナブルフードの背景”を学びながら、実際にシェフが調理した料理を味わうというイベントです。毎回テーマを変えて開催していて、たとえば『能登の震災復興』や『発酵』『食の未来』など、食を切り口に社会課題を考える内容にしています。『能登』では里山里海が育んだ食材を使い、『発酵』では日本の伝統技術を現代のサステナビリティとつなげました」
天野「農業や漁業など、生産地の取り組みは気候変動の影響を強く受ける分野。“食”を通して環境課題を考えるきっかけにもなっています。『SUSTABLE』では、生産者の声を直接聞けるので、参加者の満足度も非常に高いです」
――『食の未来』というと、どんな内容になるんですか?
大林「『食の未来』では、気候変動や一次産業の担い手不足など、食を取り巻くさまざまな課題をふまえ、これからの食のあり方を考える場にしました。日本の食が直面する現実は厳しいですが、それでも乗り越えていこうという前向きな気持ちに、会場全体が包まれていたのが印象的でした。まずは現状を知ること。それ自体が大きな一歩になるということを、多くの参加者が実感されたのではないかと思います」
――次に「環境」についてですが、「丸の内循環ひろば」という企画を行っているとお聞きしました。これはどのような内容なのでしょうか?
大林「街全体を舞台にしたイベントで、「循環」をテーマにした2日間限定の体験型フェスティバルです。古着回収やリペア体験、アップサイクル素材の展示やロスフラワーを使ったワークショップ、エシカル商品の販売なども行っています。誰でも気軽に参加できるコンテンツを通じて、楽しみながら、循環型ライフスタイルを体験できる場を用意しました」
――「環境」の中で、これはぜひ知ってほしいという取り組みはありますか?
大林「『濠プロジェクト』ですね。これは東京・皇居のお濠をフィールドに、環境省と三菱地所が協定を結び、希少生物や生態系の保全活動を行っているプロジェクトです。環境省の特別許可を得てふだん人が立ち入れないお濠を調査し、採取した泥のまき出しや、光学顕微鏡で水中生物を観察したりと、体験的に学べる内容になっています。エリアワーカーの参加も多く、都市インフラを活用した環境教育の試みとして高く評価されています」
――私自身、外濠水辺再生協議会にも参加しているので、すごく親近感があります!
大林「ぜひ来年はご一緒できれば! この“濠”という都市インフラを活用した環境教育は、丸の内らしい試みだと思っています」
心身の健康や多様性をテーマにした取り組みも、ACT5の大きな柱のひとつ。「ひとと社会のWELL」では人と街の健やかな関係を、「ダイバーシティ&インクルージョン」では多様性を楽しむ文化を育んでいる。
――「ひとと社会のWELL」では、どんな活動をされているんでしょうか?
大林「いくつかありますが、代表的なのは『プロギング』ですね。スウェーデン語の“プロッカ・アップ(拾う)”と“ジョギング”を掛け合わせた造語で、走りながらゴミを拾うスポーツです。丸ビル前に集合して、有楽町側と大手町側の2チームに分かれ、ジョギングしながらゴミ拾いをし、最後に戻ってゴミの量を計測・共有します。チームビルディングにもつながりますし、テナント企業の参加率も非常に高いです」
天野「環境にも良く、自分の健康にもなり、社会貢献にもつながる。“楽しい社会貢献”として人気です!」
――朝や夕方など、開催時間はどうなんですか?
大林「プロギングは就業後に参加できる夕方の時間帯に実施しています。1回あたり50人~80人規模で実施しています」
天野「企業単位で参加されている方々は自社ジャンパーを着て参加し、その様子をCSRレポート(企業の社会貢献活動の報告書)などでも発信されていますね。街全体で“身近に参加できる地域貢献活動”として定着しています」
――「ダイバーシティ&インクルージョン」についても教えてください。
天野「活動の柱は、企業担当者向けセミナー『E&Jフェス』と、一般向けの『E&Jフェス』』です。E&JラボはD&Iの取り組みを、一歩先に進めて、誰もが楽しみながらE&J(エンジョイ&ジョイン)で未来の多様性について考えようというコンセプトです。E&JラボではLGBTQや障害者雇用等、主に企業担当者が取り組む共通の課題について学べるもの、E&Jフェスは「多様性を楽しみながら知り体験できるもの」を重視しています。
今年のE&Jフェスは10月17、18日に丸ビルを中心に開催しました。J-WAVEやLINEヤフー様、みずほフィナンシャルグループ様など多くの企業・団体等と連携し、映画上映やパラスポーツ体験、ドラァグクイーンショーや企業対抗のラップバトルといった表現や対話を通じた多様性を感じる企画を多数実施し、長蛇の列ができるほどの盛況でした」
大林「このように“楽しそう”から“多様性を知る”というアプローチが特徴です。例えば、企業担当者が音のないコミュニケーションを体験する聴覚障害体験『ダイアログ・イン・サイレンス』や、親子で“音と多様性”を楽しむ子ども向けワークショップも好評でしたね。このように体験型の企画を通して、“楽しみながら”多様性を理解してもらえるよう工夫しています」
SDGsの発信拠点として重要な役割を担うのが、「コミュニケーション」領域。中でも街の象徴的イベントとなっているのが映画祭だ。
――「コミュニケーション」領域では、どんな取り組みがありますか?
大林「『大丸有SDGs映画祭』がシンボル的な存在です。丸ビルホール、3×3Lab Future、DMO東京丸の内、マルキューブ、そしてKK線(旧東京高速道路)などを会場に、環境・多様性・戦争・ツーリズムなどの社会テーマを扱う作品を上映しています。上映後にはトークセッションも行い、観客の皆さんが感じたことをその場で共有できる場を設けています。都市空間を活かした“学びと出会いの映画祭”として定着しつつあります」
楽しみながらSDGsに取り組める街づくりを目指して
6年目を迎えたACT5は、着実に成果を積み重ねてきた。参加者数の増加や企業との連携拡大に加え、街全体のSDGs意識も変化しているという。
――これまで6年続けてきて、手応えや変化を感じる部分はありますか?
大林「やはり参加者数が年々増えていることですね。丸の内アプリのACT5キャンペーンも、23年度までは約4000人規模でしたが、昨年は1万1000人を超え、今年は2万人弱まで到達しました。
映画祭などのイベントで“来年も来たい”と声をかけてくださる方も多く、継続的に関心を持ってもらえるようになってきました。一度参加した方が、別のテーマのイベントにも来てくれるケースも増えています」
天野「参加企業も増えていますし、“この企画と連携したい”と声をかけてくれる企業が増えたのは本当にありがたいです。もともとエリア内に限定するつもりはなく、丸の内を発信拠点にして内外の人たちとつながりたいと考えていたので、そうした動きが生まれてきたのは大きな成果だと感じています」
――SDGsの目標達成時期である2030年まで、あと数年ですね。
大林「2030年までは3社(三菱地所・農林中金・日経新聞)で続けようという共通認識があります。毎年のテーマは少しずつ変化していますが、“街ぐるみでSDGsを発信していく”という軸はそのままです」
――このプロジェクトを通じて、やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
大林「E&Jフェスや映画祭のように、自分たちが企画したものに多くの方が参加してくれて、笑顔や前向きな反応を見られたときですね。街全体を巻き込んで新しいことに挑戦できる環境があるのも、大きなやりがいです」
天野「関わる仲間や参加企業が年々増えていくのを見ると、地道な積み重ねがちゃんと届いているんだと感じます。丸の内に勤務している人はもちろん、街に来た人がふらっと参加して、思いがけず新しい学びや出会いがある。そんな循環をこれからも作っていきたいですね」
「まだ手探りで進めているところもありますね」「骨子だけは決めますが、詳細を詰めるのは結構ギリギリかも」とお二人。6年目のプロジェクトとはいえ、その都度時代の変化や反響を取り入れる必要があるだろうと思うと、その言葉にも納得だ
――来年以降の展望を教えてください!
天野「より“就業者巻き込み型”にしていきたいですね。丸の内エリアには約35万人のワーカーがいますが、まだACT5を知らない方も多いので、アクセスの間口を増やしたいと考えています。現在の参加者は女性が多く、キャンペーンエントリーでも約7割を占めています」
大林「男性の参加ももっと増やしていきたいですね。スターバックス等のカフェにマイボトル持参でポイントが貯まる仕組みなど、日常的なアクションから参加できる仕掛けを強化しています」
――最後に、お二人が思う「丸の内」という街の印象を教えてください。
大林「丸の内との関わりは10年以上になります。有楽町で勤務していた時期もありましたが、当時はまだオフィス街の印象が強かったですね。2002年に丸ビルができる前までは、平日の夕方になると人通りも少なく、シャッター街のような雰囲気でした。
でも、丸ビルの開業以降、少しずつ街の雰囲気が変わり、カフェやブティックが並び、路面店がにぎわうようになりました。さらに仲通りの活用が進み、道路が“人の広場”として機能し始めたのが2019年ごろです。あの取り組みは、日本中の街づくりに影響を与えたと思います。今では“人が主役の街”になってきたと感じます。誰もが使える広場があり、子どもが遊んでいる姿も見られる。企業やエリアマネジメント団体が協力して“新しいことに挑戦する街”だと思います」
天野「私は入社して5年目です。それまで丸の内に来る機会は多くはなかったのですが、、オフィス街という印象しかありませんでした。でも実際に働いてみると、働くだけではなく心地よく過ごせる場所が多くて驚きました。イベントも多く、街全体がつながっているような感覚があります。
丸の内には、単なるビジネス街ではなく、働くこと以外の要素や価値を提供できる“ポテンシャルを秘めた街”という印象です」
――お気に入りの場所はありますか?
大林「やはり丸の内仲通りですね。あそこは丸の内の象徴的な場所で、人や企業をつなぐ“動脈”のような通りだと思います」
天野「私も丸の内仲通りが好きです。いろんな企業の人が行き交い、偶然の出会いが生まれる場所です。それと、弊社が関わっている『3×3Lab Future』という場所も好きです。環境・経済・社会というサステナビリティの3つの視点に“サードプレイス”の概念を掛け合わせた拠点で、ここではイベントや交流会もよく開催しています。街の中に、つながりの場があるとう点は大きいと思います」
大林「三菱一号館美術館やブリックスクエアも、街の雰囲気を形づくっています。歴史ある建物が現代に再構築されていること自体が、丸の内らしいですね。“伝統と再生”を両立させる街だと思います」
天野「本当にそう思います。入る前はただのオフィス街だと思っていましたが、実際に働いてみると“柔軟でクリエイティブな街”なんです!」
大林悟郎(おおばやし・ごろう/写真左)
●2012年4月三菱地所株式会社入社。三菱地所プロパティマネジメント㈱出向、三菱地所 開発推進部、エリアマネジメント企画部を経て2022年から三菱地所サステナビリティ推進部プロモーション業務に従事。生物多様性に関するプロジェクトの他、「大丸有SDGs ACT5」では事務局長及びコミュニケーション分野を担当している。
天野友貴(あまの・ゆき/写真右)
●地方自治体の男女共同参画センター、国際協力NGO、日米の次世代育成・教育を行うNPOを経て、2020年9月三菱地所株式会社に入社。社内浸透や社内外の情報発信、サステナビリティに関するプロモーション業務に従事。「大丸有SDGs ACT5」では主にD&I分野を担当している。
聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)
●1961年生まれ、大阪府出身。株式会社角川アスキー総合研究所・丸の内LOVEWalker総編集長。国際大学GLOCOM客員研究員。一般社団法人メタ観光推進機構理事。京都市埋蔵文化財研究所理事。産経新聞~福武書店~角川4誌編集長。
■関連サイト
大丸有SDGs ACT5
https://act-5.jp/
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