丸の内LOVE Walker総編集長・玉置泰紀の丸の内MEMO 第1回
東京駅の中にある美術館で近代大阪の日本画を愛でる時間空間旅行へ行こう
2023年04月19日 11時00分更新
丸の内LOVE Walkerは、丸の内を愛するファンの方、丸の内に通う方、丸の内を訪れる方、丸の内の街づくりにかかわっている方などと、地元愛=LOVEをテーマに、一緒に作っていくコンシューマー・ジェネレーテッド・メディア(CGM)である。筆者は、同じ場所に多数の観光レイヤー(層)が重なっている面白さを愛でる「メタ観光」を推進していこうという一般社団法人を立ち上げて理事も務めているが、まさに超多層レイヤーと言ってもよい歴史と文化を持ち、豊かな楽しさを実現している「丸の内」を探検していこうと思う。
第一回のテーマは東京ステーションギャラリー。この東京駅の中にある美術館で、なんと大阪を愛でるという展覧会を見てきた。「大阪の日本画」展(2023年4月15日〜6月11日)。”浪速の近代日本画、初の大規模展がやってくる!”ということで、明治から昭和に至る近代大阪で活躍した、50名以上の才能あふれる画家たちの絵が、近代の東京を代表する東京駅のレンガ造りの建物に飾られる不思議空間は見逃せない。
「商工業都市として発展してきた大阪は、東京や京都とは異なる独自の文化圏を形成し、個性的で優れた美術作品を生み出してきたが、市民文化に支えられた近代大阪の美術は、江戸時代からの流れをくみつつ、伝統にとらわれない自由闊達な表現を花開かせました」とホームページにあるが、筆者の家は、いわゆる船場で天保のころから炭問屋を営んできた家で(大阪大空襲で焼けてしまい、疎開して枚方というところに住んでいた)、谷崎潤一郎の「細雪」にも通じる、モダーンというよりは「ハイカラ」という言葉が似合う作品群に親しみを覚える。
例えば、オランダでは、独立戦争であった八十年戦争(1568年から1648年)の終わりごろから17世紀にかけて、フェルメールなど、オランダ人あるいはオランダで活躍した外国人の画家たちによってオランダ黄金時代の絵画というものがあった。市民階級、商人が勃興して、宮殿を飾るのではなく、市民の玄関を飾る美術が生まれたわけだ。首都の東京や、古い文化を誇る京都とは違う成熟した市民文化の精髄を大阪に見るのも一興だ。
大阪船場のいとさん、こいさんも、日本三大祭りの天神祭も、最高にクールな女流画家たちもめっちゃハイカラでかっこええで!
明治から昭和前期にかけて大阪で生まれた日本画を集めた同展には、大阪中之島美術館が長年かけて収集したコレクションと、全国から集めた作品を合わせて約150点が出品されている(会期中、展示替えあり)。東京や京都の画壇に比べて、あまり知られることがなかった大阪画壇から、妖艶で頽廃的な作風で人気を博し、「悪魔派」と揶揄された北野恒富(1880-1947/きたのつねとみ)や、大阪における女性画家の先駆者で上村松園とも並び称された島成園(1892-1970/しませいえん)、大阪の文化をユーモラスに描いた菅楯彦(1878-1963/すがたてひこ)、新しい南画を主導した矢野橋村(1890-1965/やのきょうそん)、女性像にモダンな感覚を取り入れた中村貞以(1900-1982/なかむらていい)などの作品が集結している。
章立て以下の通り。
第1章 ひとを描く―北野恒富とその門下
第2章 文化を描く―菅楯彦、生田花朝
第3章 新たなる山水を描く―矢野橋村と新南画
第4章 文人画-街に息づく中国趣味
第5章 船場(せんば)派-商家の床の間を飾る画
第6章 新しい表現の探求と女性画家の飛躍
【ハイカラでおしゃれな大阪の日本画壇作品群】
●北野恒富
『いとさんこいさん』(1936年) 二曲一双 京都市美術館蔵
大阪の船場では、成人に満たない商家のお嬢さんを「いとさん」、その妹を小さい「いとさん」を意味する「小いとさん」、縮めて「こいさん」と呼ぶ。この絵の姉妹は同じ色のアザミと思われる絵柄の着物を着ているが、地の色が片方が黒、片方が白という対比が楽しい。恒富は「古い頃、大阪の船場島の内あたりでしばしば触目する情景で懐古的気持ちが強く働いて」いると残している。
『宝恵籠(ほえかご)』(1931年) 一面 大阪府立中之島図書館蔵
宝恵籠は、大阪で1月10日の十日戎(とおかえびす)に行われる駕籠行列のこと。白塗りの顔に下唇のみに紅をつけていることから、舞妓を描いたものとみられる。
『風』(1917年) 二曲一隻 広島県立美術館蔵
思わぬ風に着物の合わせを手で押さえ、困ったような笑顔でこちらを見る女性。江戸時代の浮世絵師、鳥居清長の絵に登場する女性に似ており、その錦絵を参考にしたという推察もある。
●ほかの画家たち
生田花朝
『天神祭』(1935年) 一面 大阪府立中之島図書館蔵
日本の三大祭りの一つ、大阪の天神祭。花朝が描いているのは徳川末期の天神祭の光景。市内を流れる大川(旧淀川)に浮かぶ船渡御は今も盛んで、その花火大会は大阪を代表する花火だ。
野田九浦(のだきゅうほ)
『川狩二題』(1917年) 二面 武蔵野市蔵
九浦は東京都台東区の生まれだが、明治40年(1907年)、初開催の文展で二等賞(一等賞は概要無し)に選ばれた同じ年に大阪朝日新聞社に入社し、夏目漱石の「坑夫」の挿絵を描きはじめ、まもなく大阪に移住した。『川狩』とは文字通り、川で魚を捕ることで、左は傘を被った釣り人二名が雨の中、竹林を歩いていて、右の絵は鵜飼を描いている。
高橋成薇(たかはしせいび)
『秋立つ』(1928年) 一面 大阪中之島美術館蔵
成薇は、島成園に学んだ女性画家。数々の展覧会で活躍し、大正末期には「週刊朝日」の挿絵も手がけた。『秋立つ』は立秋の8月半ばあたりを想定しているのだろう。広げた扇子は暑さをしのぐためか。
吉岡美枝
『店頭の初夏』(1939年) 一面 大阪中之島美術館蔵
美枝は大阪の西道頓堀生まれ。島成園に師事し、数多くの展覧会に出品し、新聞の挿絵も手がけた。路上の女性はパーマをかけカチューシャをして、真っ赤なバッグにピンク色の口紅と当時のモデルのような姿。
島 成園(しませいえん)
『祭りのよそおい』(1913) 一面 大阪中之島美術館蔵
成園21歳の作。左端の2人は着飾っていて、3人目の簡素な帯の子は羨ましそう。少し離れた右端の子は素足に草履で、髪飾りは野辺の花一輪。親の経済状況が子供の格差を作っていることを少女たちの表情や装いで描いている。
●画家たちの住んでいた場所
●ハイカラでかわいいミュージアムグッズ
展覧会の内容を反映した楽しいグッズが多く、ピンバッジスキの筆者もゲットした(写真1枚目)。
●ナビゲーターは片岡愛之助さん
大阪府堺市出身の片岡愛之助さんが、大阪に花開いた独自の日本画の魅力を関西弁で案内する。以下は、片岡愛之助さんからのメッセージ。
「今回の展覧会に登場する日本画の作品・画家たちは、明治・大正・昭和の時代に活躍されました。
そのとき大阪は、江戸時代の古き良き都市から、産業の発達により近代的に新しく生まれ変わっていく最中。芸術・文化面では西洋の影響を多大に受けたといいます。
歌舞伎も、江戸時代に京都で生まれてから同じ時代を生きてきました。私自身も大阪に生まれ育った上方の歌舞伎役者として、そして歌舞伎の伝統と新しい文化の融合に挑戦を続ける者として、今回の展覧会に携わらせていただけることをたいへん誇りに思います」
■東京ステーションギャラリー
JR東日本の発足一周年を迎えた1988年春、単なる通過点ではない「文化の場」を提供したい、という意図で、東京駅丸の内駅舎内に開設された。2006年に東京駅の復原工事に伴い一時休館し、12年にリニューアルオープンして今に至る。館内は、1914年の東京駅の駅舎完成以来、保存されてきた躯体煉瓦をそのまま使用している。活動の指針の3つの柱は、「近代美術の再検証」、辰野金吾設計による重要文化財の丸の内駅舎内にある美術館ならではの「鉄道・建築・デザイン」、新しい時代、新しい丸の内にふさわしい「現代美術への誘い」。
丸の内駅舎(丸の内ドーム)の2階回廊部分には、東京駅丸の内駅舎の歴史を紹介する模型や写真資料が展示されており、再現された天井レリーフの原型の実物を間近に見学できる。干支のレリーフ石膏原型は、ドーム部分の天井に、方位に沿って十二支のうち八支(丑・寅・辰・巳・未・申・戌・亥)の石膏彫刻が、ホールを見下ろすように取り付けられていたが(空襲によって焼失)、古写真や文献を元に見事に復元されたものが展示されている。
■開催概要
展覧会名:
「大阪の日本画」展
会期:
2023年4月15日〜6月11日
会場:
東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
開館時間:
10:00~18:00
金曜日 10:00~20:00
*入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:
原則、月曜日(祝日の場合は翌平日/ただし会期最終週、ゴールデンウィーク・お盆期間中の月曜日は開館)、年末年始、展示替期間
*詳細は各展覧会の詳細ページを参照
入館料:
一般(当日)1,400円
高校・大学生(当日)1,200円
一般(前売)1,200円
高校・大学生(前売)1,000円
*中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の人は入館料から100円引き(介添者1名は無料)
*学生は入館の際、生徒手帳・学生証を提示
■公式サイト
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202304_oosaka.html
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