エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第10回
富山県の魅力たっぷり”四つのユニークなまち”を歩いてきたぞ・最終回④ 【富山県・黒部市 今だけの楽しみがある「トロッコ電車」と「宇奈月温泉」編】
2024年10月29日 19時00分更新
富山県のメディア連携情報発信事業の一環で、県の中央から東部をめぐる旅も今回が最終回。今回の舞台は魚津市の東隣にある黒部市の黒部峡谷。北アルプスのほぼ中央の鷲羽岳に源を発し、長さ86km、標高差3000mを流れ下る黒部川の上・中流域に、切り立った深いV字峡を形成する大峡谷である。自然を体感できる人気のトロッコ電車=黒部峡谷鉄道は宇奈月から欅平(けやきだいら)までの20.1kmを結ぶ。
しかし、2024年1月1日に起きた能登半島地震による落石で鐘釣橋が損傷し、宇奈月~猫又駅間の折り返し運行となってしまった。そんな中、2024年10月5日からは、従来は乗降出来なかった猫又駅で降りられるようになった。工夫の凝らされた猫又駅や秋のトロッコ電車、始発地の宇奈月温泉の魅力を訪ねてみたぞ。
黒部峡谷は、昭和9年(1934年)12月、中部山岳国立公園に指定された。峡谷は、立山・剱岳・薬師岳などの立山連峰と、白馬岳・五竜岳・鹿島槍ヶ岳などの後立山連峰の間に、黒部川の浸食によって深く刻み込まれ、八千八谷といわれる多くの渓流を合わせながら、黒部川扇状地を経て富山湾にそそいでいる。黒部峡谷流域の平均斜度は36度と非常に勾配が強く、30度~45度の部分が全体の70%にも及ぶ。
流域が豪雪地帯に位置するため四季を通じて黒部川の水量が多く、また河川勾配が平均1/40と急で、流れも速い。黒部川は、水のきれいな川として知られており、黒部川扇状地扇端部の湧水地帯の地下水は、「全国名水百選」にも選ばれている。
【黒部峡谷鉄道】の沿革
※公式ホームページ「黒部峡谷とは」
https://www.kurotetu.co.jp/about_kurobe/
黒部峡谷は、日本でもっとも深く、もっとも大きな峡谷で、この険しい谷と厳しい自然は長い間、人々を寄せ付けなかった。 この黒部峡谷で本格的な電源開発を始めたのは、タカジアスターゼの発明で有名な高岡出身の高峰譲吉博士が起こした東洋アルミナム株式会社。会社の設立は大正8年(1919年)12月7日だった。 その後、大正11年には日本電力株式会社がこの事業を引き継ぎ、大正12年に、黒部川水系の発電所建設のための資材運搬用鉄道として、宇奈月~猫又間(11.8km)の軌道敷設工事に着手した。
以後、以下のような経緯をたどり、現在の路線となっている。
・大正15年10月/宇奈月~猫又間 運転開始
・昭和5年8月/猫又~小屋平間 運転開始
・昭和12年7月/小屋平~欅平間 運転開始
鉄道の経営は、日本電力株式会社から、昭和16年には日本発送電株式会社へ、そして、戦後の電力再編に伴い、昭和26年5月には関西電力株式会社に引き継がれた。
この鉄道は、資材運搬のための専用鉄道だったが、当初から地元の人達の利便をはかるため、「無料便乗」という形で乗車させていた。 昭和4年からは年ごとに増える観光客に対応するため、便乗料金を徴収した上で一般客にも解放することが認められ、昭和26年10月に禁止されるまで続けられた。
その後、地元の人や黒部の自然を愛する観光客から、観光用列車として利用したいとの声が強まり、昭和28年11月5日、関西電力株式会社が地方鉄道業法の許可を得て、「黒部鉄道」として営業運転を開始した。 さらに、より一層のサービス体制の充実、運転保安体制の確立を目的に、昭和46年(1971年)5月、関西電力の子会社として設立された鉄道専業の会社としての黒部峡谷鉄道株式会社が地方鉄道事業の譲渡許可を受け、同年7月1日より営業運転を開始した。
黒部峡谷鉄道の終点は欅平駅だが、ここからは、富山県黒部川水系にある関西電力の水力発電施設を管理するため、黒部峡谷鉄道本線から分岐する関西電力の専用鉄道を走らせている。このうち、黒部峡谷鉄道欅平駅から黒部川第四発電所前まで6.5kmにわたって伸びる路線は「上部軌道」と呼ばれ、黒部ルートの一部になっている。上部軌道に対し、黒部峡谷鉄道本線を「下部軌道」と呼ぶこともある。
この鉄道は、関西電力の事業用路線であるため、原則として関西電力関係者以外は乗車できないが、当路線を含む黒部ルートが「黒部宇奈月キャニオンルート」の名称で一般に開放される予定になっている。当初は2024年6月30日より開放の予定だったが、2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震により黒部峡谷鉄道本線の鐘釣橋が損傷を受け、同路線の2024年度の全線開通が不可能となった影響で、一般開放は2025年以降に延期となっている。
2023年までは、関西電力主催、富山県協賛の「黒部ルート見学会」が開催されていて、応募し、当選すれば乗車することが可能であった。筆者は、取材で2度、見学会に参加しているが、石原裕次郎主演の映画『黒部の太陽』(1968年)などを彷彿とさせる迫力の路線を体感できる。2002年12月31日に放送された第53回NHK紅白歌合戦で、黒部川第四発電所前駅構内のトンネル内からの中継で中島みゆきが「地上の星」を歌った場所も見れる。
【宇奈月温泉】の沿革
※宇奈月温泉旅館協同組合公式サイト「宇奈月温泉について」から
https://www.unazuki-onsen.com/about
宇奈月温泉郷は、黒部峡谷の玄関口にあり、富山県随一の規模(収容人員3500名)を誇る。黒部川上流の黒薙温泉から、全国的にも珍しい7kmにも及ぶ引湯管を使った引湯として、大正12年(1923年)に開湯以来、多くの文人墨客から愛されてきた。2023年に開湯100周年を迎えた。地形的には、黒部川の河岸段丘面(標高約200m)にあたる。歴史的には黒部峡谷探検や黒部川の電源開発とともに発展してきた温泉地である。
宇奈月温泉は、かつては「桃原」と呼ばれた、桃の樹林が広がる無人の台地で、桃の木が自生している以外は音沢村の出作り小屋しか存在しなかった。黒部川の電源開発が始まった大正時代、この地に温泉地を開こうという計画が進められ、大正12年、ようやく黒部川の7キロ上流にある黒薙から引湯管によって温泉を引くことに成功した。
引湯管は旧愛本温泉(宇奈月温泉の前にあった温泉)の引湯樋に替わる物で愛本温泉の引湯ルートに沿って設置されたもので、松材をくりぬいたパイプを使い温泉が自噴する圧力を保って流れが速く、黒薙の泉源から2時間ほどで湯が届いた。このため、冬でも55℃の温度が確保されることとなった。
「宇奈月」という言葉については、諸説ある。うなづき谷という谷が温泉街付近にあり、そこから名前をとり、電源開発の功労者である山岡順太郎と山田胖の二人が話し合って漢字を当てたらしい。温泉地としてスタートするにあたり、旧来の地名「桃原」より雅な雰囲気のする名前を選んだと思われる。宇治や奈良とならぶ名月の地にしようとの思いをこめて、元々あった「うなづき」の地名に「宇奈月」の文字をあてた、と言う。
今だけ降車できるトロッコ電車の「猫又駅」はバズるの間違いなしの撮影スポットなど、楽しい設備がいっぱい
猫又駅は、全国で「猫」の字が含まれた唯一の駅。トロッコ電車(黒部峡谷鉄道)の駅は黒部ダム関連の作業員用トロッコを旅客営業化したもので、途中駅8駅のうち2駅をのぞいて一般人は利用できない。その一般人利用不可の駅のひとつが、「猫又駅」で、小屋平ダムの取水口から落ちてきた水を利用した「黒部川第二発電所」があり、発電所保守のための駅となっている。
しかし、能登半島地震による落石で鐘釣橋が損傷し、宇奈月~猫又駅間の折り返し運行となり、2024年10月5日から猫又駅でも乗降できるようになった。猫又駅は、ホームの長さが旅客列車編成に対応していなかったため、新たに全長100メートルの仮説ホームが整備され、約20分の停車時間を設けた。周辺には連山やサンナビキ山、ねずみ返しの岩壁、黒部川第二発電所などがあり、眺望を満喫できる。現在のトロッコ電車は、宇奈月~猫又間往復で約2時間の所要時間。
「猫又」の由来は、諸説あるが、その昔、猫に追われてきたネズミが、「猫又駅」のそばにある「ねずみ返しの岩壁」に阻まれて登れずに引き返したため、それを追ってきた「猫も又」引き返したということから、この地名がついたとも言われている。他にも、猫又という尾が二股に裂けた猫の妖怪が、黒部峡谷に住んでいたといういわれもある。
整備された「猫又駅」には駅名にちなんだフォトスポットも登場。手前のスマホスタンドにスマホを乗せて、広角で撮影すると、「猫に追われているネズミに追われている」写真を撮ることができる。展望台や観光案内所も新設され、トイレも用意された。
※黒部峡谷トロッコ電車
https://www.kurotetu.co.jp/
【猫又駅ギャラリー】
【トロッコ電車ギャラリー】
朝ドラ「虎に翼」もびっくりのお守りと手ぬぐいは「民法の聖地」発。こんなの見たことない、法学部出身ならみんな欲しがる!
「宇奈月温泉木管事件」は、法律に詳しい人なら避けては通れない事件だ。土地の所有権者であるという絶対的な立場(「パワー」)に基づいて、悪質な要求をする事件が、戦前の宇奈月温泉で起きた。この事件は民法一条三項「権利濫用の禁止」が制定されるきっかけになった。法律を専門に学んでいない人たちには、ほとんど知られていない。一方でこの条文が民法の第1条にあることなどから、この地を民法の聖地と位置づけて、事件碑や木管を見るために宇奈月温泉を訪れる法曹関係者は少なくない(年間で2000人ほどが訪れるという)。
この事件は、宇奈月温泉が生まれた基である、源泉から温泉街までの「引湯管」の敷設地が一部未買収であったことが発端となった訴訟である。
そこで、この事件をフックに、何らかの「パワー」に基づいて「権利の濫用(ここではハラスメントや嫌がらせなどの人を害する者やこと)」に困っている人のための「権利ノ濫用除お守り」が2024年、企画された。ゲットできるのは宇奈月神社。
「パワハラ、セクハラなどのハラスメントはもちろん、嫌がらせやいじめなど、立場などを利用して、あなたに害を与える人やことを除けてくれる」お守りとのこと。肌身離さず携帯することで、良い人・環境・縁に恵まれるよう宇奈月神社にて祈祷している。
※黒部・宇奈月温泉観光局公式サイト「黒部めぐり・権利ノ濫用除お守り」
https://www.kurobe-unazuki.jp/news/2024/07/09/7856/
また、黒部・宇奈月温泉観光局では、宇奈月温泉開湯100周年を記念して2023年、「宇奈月温泉木管事件」をモチーフとした木管グッズ「宇奈月温泉 木管手ぬぐい」を企画、黒部市芸術創造センター セレネなどで販売を開始した。「宇奈月温泉 木管手ぬぐい」は「宇奈月温泉木管事件」をテーマに、温泉や月、引湯管である木管から温泉が出ている様子や事件の登場人物などがデザインされている歴史手ぬぐい。民法で「権利濫用の禁止」が規定されるきっかけとなった「宇奈月温泉木管事件」の略図イラストが描かれ、帯には解説書が付いている。
※黒部・宇奈月温泉観光局公式サイト「黒部めぐり・木管手ぬぐい」
https://www.kurobe-unazuki.jp/news/2023/08/21/7999/
宇奈月温泉の新名物はなんとウナギ。出荷前に温泉に入浴した「湯遊うなぎ」は身も皮もやわらかく、余分な脂も落ち、さっぱりした味わいで勝負
「湯遊うなぎ」は2024年初出荷。生まれたばかりの新名物だ。宇奈月温泉の温泉水に入れたウナギの特産化を目指す黒部Uプロジェクト協議会がスタートしたのは2021年度。ウナギを選んだ理由の一つは、道路の案内標識で宇奈月を示す「う」の文字が、細長い姿に似ていることだった、という。
取り組みとしては、温泉水ウナギと、市内河川に幼魚を放流した上で定着させ黒部産ウナギとして名物にする取り組みの2本立てで活動していて、温泉水ウナギは試験を重ねて販売にこぎ着けた。
しかし、ウナギは温泉育ちではなく、出荷前に「入浴」させている。絶滅危惧種のニホンウナギは資源管理が厳しく、許可制の養殖への参入は難しかったためだ。そこで、他県産の養殖ものを仕入れ、出荷に向けて泥やぬめりを落とす期間だけ、温泉水に入れる方法を採ったのだが、県水産研究所の協力を得て試験をすると、温泉の効果がみてとれた。
2024年7月末までの第1弾分は愛知県一色産養殖ウナギを使用。出荷前の1週間、宇奈月でユズ入り温泉水に餌を与えずに漬ける。富山県鮭鱒(けいそん)漁業協同組合(魚津市)がかば焼きと白焼きに加工、協議会メンバーの丸中水産(黒部市)が販売元になる。
また、同協議会は2024年6月12日、黒部市内の5河川などに、15cmほどの静岡県浜名湖産ニホンウナギの幼魚約1700匹を放流した。4年目の放流で、2023年には市内河川で55cm、280gにまで育った成魚が確認されている。
今回は、地元の老舗「河鹿」でウナギの釜めしを味わった。柔らかく、癖のない味わいが楽しめた。同店は、名物の釜めしやおでんをはじめ、お刺身、各種定食などが味わえるお店で、注文後ひとつずつ炊き上げる“釜めし”が人気。待つこと約15分、炊き上げるときの香りと食べた時の“おこげ”が食欲をそそる。地元の人たちには、おでんも人気だ。
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