第8回
映えるストリートとしての活用も広がる「Marunouchi Street Park」への情熱 <丸の内を彩る人々>第4回 乃村工藝社 山本さん
2025年04月04日 12時00分更新
夜間が長くなる冬の風物詩として日本中に定着したイルミネーション。その東京の代表的なスポットの一つである丸の内仲通り(以下「仲通り」)がシャンパンゴールドのイルミネーションで彩られると、いよいよ年の瀬が迫ってきたなと感じる人も多いのではないだろうか。そして、そのイルミネーションに合わせて毎年開催されているのが「Marunouchi Street Park」だ。
昨年末は「Marunouchi Street Park 2024 Winter」として開催され、スケートリンクやクリスマスマーケットといった催しを実施し、多くの人を楽しませていた。今回は、このイベントを4年間、陰で支えてきた乃村工藝社の山本仁美さんに「Marunouchi Street Park」への取り組みやその思いなどのお話を伺った。
最初に目指したのは丸の内に務める方が快適に過ごせる空間
「Marunouchi Street Park」は主に春、夏、冬に仲通りで開催されるイベントで、すでに10回以上開催されている。仲通りで仕事をしたり、クリエイティブな活動をしたり、くつろいだりと、訪れる人がイキイキと過ごせる空間を作り、様々な楽しみ方ができる都市型公園を実証実験として創出する目的で官民一体で実施している。この冬は交通封鎖も行い、什器や備品を設置し、このエリアの店舗と連携しながら約1ヵ月半実施された。
乃村工藝社は総合企画パートナーとしてイベント全体に携わり、企画段階からイベント中の運営などをトータルで手がけてきた。このインタビューでは、そのバックヤードの話からイベント、そして仲通りへの思いなど、「Marunouchi Street Park」への情熱が伝わる話をお届けする。
――まず「Marunouchi Street Park」における乃村工藝社のポジションなどを教えていただけますか?
山本さん:弊社のポジションとしては主催兼企画者であるリガーレ(NPO法人大丸有エリアマネジメント協会)のパートナーとして企画支援と設計、施工、運営、それから会期中の警備も担っています。弊社の他にも参画されている企業や団体がありますが、全体管理を弊社で行いながら、協力企業と共に運営をしています。今回ですとスケートリンクや大学による実証実験、設置される什器の施工条件の管理や警備などをしました。クリスマスマーケットの実施に向けて、店舗の管理や全体のデザイン、演出に携わりました。
――初めて「Marunouchi Street Park」に参加することになったときのお気持ちはいかがでしたか?
山本さん:私は2021年から参加していますが、日本、そして東京の中心である丸の内に携わることにワクワクしましたし、仲通りを、人を中心とした道路にするという取り組みに関われることが嬉しかったです。イベント関係の仕事は初めてでしたので、ワクワクしながら、何が始まるのだろう?という気持ちでした。
――初めて参加されたときはどのような企画を出されましたか?
山本さん:その当時はコロナ禍ということもあって、オフィスワーカーが外に出て快適な空間で過ごす、仲通りで楽しく過ごせるということに重点を置いていたので、オフィスで働く方々に対して、仕事ができるような空間をメインに、“実証実験”というキーワードにも注目し、卓球台、ハンモック、飲食店利用者のための屋外客席などという複数の視点で提案を行いました。道路上なので制限はあるのですが、その中でできる限りの最高のことを目指して、仕事に集中できるようなワークスペースを作ったり、電気を供給したりというようなことが最初の提案でした。
――そして年々バージョンアップしていくわけですね
山本さん:はい。仲通りのあり方をリガーレさんが毎日考えられているので、その考えられている与件や思いに寄り添う形で提案するという形で年々バージョンアップしています。私は責任者として携わっていますが、制作も運営も、デザイナーも、何か思いを形にできないか?と常にチーム全員で取り組ませていただいています。
知見の蓄積で、より快適な空間作りを目指す
――今回で4年間関わられてきたとのことですが、総合企画としてどのような変化がありましたか?
山本さん:最初はかなり作り込みをして、例えば車道に暖炉を設置し本物の火を灯してみたり、天然芝や雑草を敷くなどいろんなことにトライしました。しかし4年間の経験の中で、什器などがどのように使われているかを観察して、過度に作り込みはせずに、来街者様にいかに滞留してもらえるか、イルミネーションの中で楽しんでもらうのに必要な物は何かという視点で提案するようになりました。例えば、アーバンテラスにテーブルとイスを出すのですが、作り込んだ物ではなく、日常のグレードアップ感を体験していただけるような提案をしています。
――想定していたことと実際の使われ方が違った提案を、経験を踏まえてよりよく修正しているということですね
山本さん:そうですね。我々大人の視点ではある程度使われ方を想定し設計しているのですが、実際に設置してみると子どもが大型ベンチの背を滑り台にしていたり、物を落として遊ぶとか、想像していない使われ方をすることがあります。提案段階では思ってもいないことを現場で体感して、それがノウハウになるという感じです。
他にも、会場の一部でいい写真を撮るために寝そべって撮影されているのを見ると、公共の空間の使われ方の難しさを感じます。開催中はどのような来街者様が来ているのだろうと、デザイナーやチームメンバーで観察していたことがあるのですが、若者や学生がSNSで発信するための場所として訪れていたり、新しい見え方があってすごくおもしろいなと感じています。
――来場者以外で想定外だったことはありますか?
山本さん:2023年までは3ブロックで開催していたのですが、2024年夏から初めて有楽町側の2ブロックが追加されました。風が強いとは聞いていたものの、設置していたものが、強風(突風)でダメになったり、十分にウエイトを備えた什器が風に流されたり、日々想定していないことが発生しうるという気づきがありました。今年の冬はまた新たな知見が得られたと思います。
2022年から毎冬設置しているクリスマスマーケットは、単なる小屋のように見えますが、実は設置条件やスケジュールを鑑みて仮設建築物ではない作りにしているため、雨や風で不備が出てしまうことがあり、都度メンテナンスに足を運んでいるのですが、今回の気づきを次に活かしたいと思います。
――来場者の声は聞いたりしますか?
山本さん:会期中はいろいろな声を聞きます。毎年楽しみにしているリピーターさんがいらして、今年はこれがないのですかとか、去年のこれが良かったです、今年はこのようなことがあっていいですねというようなお話をいただきます。毎年やらせていただけるからこそ聞こえる声っていうのがたくさんありますね。
アンケートも毎年取っていて、イベント終了後にリガーレさんに報告します。その上で私たちの中で咀嚼した形で次の提案を考えるのですが、リガーレさんでも次に向けてと考えられていて、また一緒に考えるという感じです。
――「Marunouchi Street Park」に携わって難しさを感じたことはありますか?
山本さん:仲通りは東京の中心の有数のビジネス街です。そこに交通規制をかけて、空間デザインとしても都市計画としても最先端のことをやっています。仲通りにどのような潜在能力があって、今あるものをどう活かしたらオフィスワーカーに日常と違う感覚で歩いていただいたり、仲通りを知らない人たちに最先端の場所として認識してもらうために新しいことをやりたいとは思うのですけど、いろんな制約があって難しい部分もあります。都内の他の区ではできるのに仲通りではできないこともあって、それをどう実現できるかを考えていくのが我々の役目と責任だと常に思っています。
また、仲通りは道路なのでイベント開催中でも緊急車両は通ります。例えばこのビルの前に消防車が停車できるか? そういう点で企画を見送ったこともあります。他にもシャボン玉の演出を考えたのですが、どこに飛んで行くのかわかりませんし、ビルのテナントがシャボン玉まみれになっても困ります。音楽に関しても音の大きさや、どのテナントの前がいいか、どのような音ならいいか、いろいろと考えないといけません。
――イベント会場とはいえ街の一部ですしね
山本さん:空間作りはただ物を置くだけでなく、いろいろな方が利用されることを考慮して設計していきます。2022年には「みんなのMSP」という形で多様な人々が五感で自然を感じ、ついついまったり過ごしたくなるみんなの都市公園空間を目指しました。これは、前年に点字ブロックのケアができていなかったことから生まれたコンセプトでした。いろいろな方に参画してもらい、その知見を活かした空間にできるように、ハード面だけではなく、ソフト面の要素も盛り込みつつ、運営がケアしていけるような環境作りをしていきたいなと思いました。
仲通りがこのような方々に支えられていると伝えたい
――「Marunouchi Street Park」に参加してよかったと思うことはありますか
山本さん:設営は、開催前夜もしくは数日夜間、丸の内就労者の方々がご出勤される8時前までに行うのですが、朝6時ぐらいになると少し早く出勤される方や散歩される方が現れて、「あれ? 昨日と違うぞ」と写真を撮り始める瞬間があります。その光景をリガーレの方々と一緒に朝一番で見るとき、今年も始まったなという気持ちになり、すごく嬉しいです。
――最後に読者にメッセージをいただけますでしょうか
山本さん:以前、「Marunouchi Street Park」を主催するリガーレの方から「毎日仲通りのことを考えている」という言葉をいただいたときにすごくハッとさせられました。我々も毎回MSPで何ができるかを多角的に考えていますが、毎日仲通りや仲通りを利用する来街者様を見ている方にどのような提案ができるのだろうとより思考を凝らし、また乃村らしい提案を心掛けています。社内でも何回も企画を練り直していますが、リガーレさんの熱量や仲通りに懸ける気持ち、その力を借りてなんとか同じ熱量でやらせていただいています。仲通りが、このような素敵な方々に支えられているということが伝わればいいなと思いながら、日々取り組ませていただいております。次回もお楽しみに!
――ありがとうございました
リガーレの声
山本さんは我々と一緒にMarunouchi Street Parkを引っ張ってくれる頼もしいパートナーです。行政協議で求められる細かい協議資料なども解説書まで準備し、分かりやすくサポートしてくださいます。
そして、我々の仲通りに寄せる熱い思いを語るお酒の席でも、夜な夜な参戦。お酒も強く、カラオケで美声を聞かせてくれるところも魅力の一つです!
Marunouchi Street Park 2025 Spring
4月16日(水)より、また新たな丸の内・仲通りの魅力を体験できる春のストリートパーク「Marunouchi Street Park 2025 Spring」が開催されます。ぜひ足を運んでみてください。
実施日時:2025年4月16日(水)~5月11日(日)11:00~20:00
実施場所:丸の内仲通り(特別区道千第114号)
Block1:丸ビル・郵船ビル・三菱商事ビル前
Block2:丸の内二丁目ビル・丸の内仲通りビル前
Block3:丸の内パークビル・明治安田生命ビル前
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