エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「大阪・関西万博をブラタマキ」 第11回

完全予約制の万博サウナ「太陽のつぼみ」で“ととのう”の向こう側へ行きました……新しい体験「サウナリチュアル」は次元が違う気持ちよさ

太陽のつぼみは万博会場の西端にあって、大阪湾を眺められる別天地の様なゾーン。公式素材より

「サウナリチュアル」なる新しいサウナ体験を実現

 万博サウナ「太陽のつぼみ」は、大阪・関西万博の西ゲート近くのグリーンワールドにある。外周道路を挟んで岸壁まで間近、会場の一番西端にあって、大阪湾を見渡し、神戸市内や明石海峡大橋が見えるところに位置する。

 太陽のつぼみは、1970年・大阪万博のアメリカ館の膜構造体で知られる太陽工業の協賛プロジェクトだ。斬新な膜建築で造形された施設はまさに花の「つぼみ」のような外観で、「サウナリチュアル」という新しい実験的なサウナをこの施設で提唱している。

 筆者は太陽工業とは、大阪府の地域アート事業「おおさかカンヴァス」(2010年~2016年)で審査員として現場制作の同社のグループ会社、TSP太陽と6年間一緒に取り組み、2020年の大阪万博50周年記念展覧会(東京・天王洲)でも企画者と現場制作と言う形で(こちらもTSP太陽)お付き合いがある。

 今回の万博でも、さまざまなパビリオンで活躍する太陽工業のサウナに興味を持ち駆け付けた。

 とはいえ、筆者は実はサウナブームに乗り遅れ、水風呂やロウリュなどをしっかり体験したことがない。今回が初めての“本格”サウナ。90分一本勝負で新しい世界に挑戦した。

サウナ室の筆者。高いところの方が熱い

ラウンジは天井も高く広々としている

 太陽工業は、軽量で耐久性・透光性に優れた膜素材を使用して、東京ドームや埼玉スタジアム2002の屋根などの膜構造建築を手掛け、世界市場でも高いシェアをほこっている。

 同社は、「人類の進歩と調和」をテーマにした1970年大阪万博で、会場内のテント構造物のおよそ90%を施工。アメリカ館では世界初の低ライズ方式の巨大空気膜構造を実現し、膜構造が建築分野で注目されるきっかけを作った。

 そういう意味では、同社にとって1970年の万博は大きな契機になっている。2025年の今回の万博でも、20以上のパビリオンや施設でETFE、ミラー、西陣織などの膜材を提供。特徴的な国内パビリオンの多くを担当し、SNSでも「太陽工業の膜材が万博の顔」と評判を呼んでいる。

 同社にとって、さらに次のステージに繋がる膜の新しい技術も多く導入されており、第二の転機になるかもしれない。

「太陽のつぼみ」はサウナ棟、水風呂棟、ラウンジ棟で構成

 万博サウナ「太陽のつぼみ」は、太陽工業がシルバーパートナーとして協賛する初のプロジェクト。ETFE膜を使用したテトラ形状のサウナ棟、水風呂棟、ラウンジ棟で構成されている。

 自然光を活かし、音・光・香りで共感覚を刺激するデザイン。建築面積43m²、延べ面積160.83m²。 設計・施工は、太陽工業、TSP太陽、KOMPASが共同で担当。完全予約制で高い人気を集めている。

海側から見た太陽のつぼみ。昼。公式素材から

 「太陽のつぼみ」の躯体は、最小限のアルミフレームとETFEフィルムと空気だけで構成されたテトラ形状のユニットによる、これまでにない膜建築。最小限の部材で最大限の空気のボリュームを包みこみ、軽量ながらも安定性や断熱性を兼ね備えた、膜ならではの柔らかなデザインを実現している。

 ETFEユニットは組み合わせ方によりさまざまな汎用性があると同時に、空気を抜くとコンパクトになるため、容易に移設や再利用も可能。つぼみのように熱を包むサウナ、光に染まり風が抜けるラウンジ、開放的な水風呂という特徴を持った3棟が、大阪湾を望む緑豊かなプラットフォームと共に豊かなサウナ体験を創り出すという。

夜。公式素材から

全部で11のステップを体験し
“ととのう”の先にある新しいサウナ体験へ

 太陽のつぼみは、KOMPASの小室舞氏による意匠設計でできている。自然光を透過するETFEフィルムはフッ素樹脂をフィルム状に圧延した高機能フッ素樹脂のことで、この膜材に覆われた空間の中で、期間中におよそ1万5000人が水着でサウナを楽しめる計画だ。

 ETFEフィルムは、軽量かつ高い耐久性と透過性を備え、ガラスに代わる新しい建築表現が可能な材料として注目されている。厚さ0.25mmにも関わらず、耐久性は20年以上あり、防炎性能も有している優れものだ。

 米メルセデス・ベンツ・スタジアム(ジョージア州アトランタ)など、これまでもETFEフィルムを活用した先駆的な建築物は作られてきた。「太陽のつぼみ」の躯体では、構造体も兼ねた最小限のアルミフレームとETFEフィルム(厚さ0.25mm、重さ440g)と空気だけで構成したテトラ形状のユニットを初めて採用。

 テトラ形状にすることで、最小部材で最大限の空気のボリュームを包めるため、軽量ながら断熱性を備えた膜ならではのやわらかなデザインを実現している。光を拡散する梨地ETFEを採用することで、太陽の光をあざやかに映し出し、サウナの中からも自然のエネルギーを感じられる。

光に染まり風が抜けるラウンジ

※写真3点とも公式素材から

 肝心のサウナだが、コンセプトのキーは「サウナリチュアル」。日本ならではのストーリー性のある没入感の高いサウナ体験に革新的な要素を組み合わせ、五感を刺激する“ととのう”の先にある新しい体験の形を追求している。

 プロデューサーは、サウナ文化の発信に尽力し「サウナ師匠」といわれる秋山大輔氏。サウナに関する研究を進め医学的効能を明らかにする「日本サウナ学会」設立で知られる。

 「リチュアル」とは、体験を儀式のようにじっくり味わう一連の工程のことをいう。全部で11のステップがあり、ガイドが進行をリードする。例えば、最初のリチュアルは「リセット」で、シャワーを浴びて心身を清めることから開始する。

 1回のセッション(90分)の中には、サウナ(10〜15分×2~3回)、水風呂(数分)、ラウンジでの休憩(20〜30分程度)が含まれる。ラウンジは特に外気浴やリラクゼーションの時間を長めに確保されている。

リチュアル表

太陽のつぼみを創る仲間たち

90分の新しい世界に飛び込んだら、
心が解き放たれたような気がする

 太陽のつぼみは、実験的なサウナ施設であり、「グループセッション」形式で、最大18名が一緒に体験できる。通常のサウナは個々のタイミングで利用されるが、太陽のつぼみはグループで進行し、ガイド付きで特別な「儀式」を通じて体験する点が特徴。

 さて、本格サウナ素人の筆者だが、いつもはすぐに逃げ出すサウナ室で、サウナガイドの案内で安心して熱波に向き合った。初ロウリュ。焼けた石にアロマ水が掛けられジュッと上がる蒸気が気持ちいい……というか、やっぱり熱い。

 そして、いよいよ、大きい団扇でアウフグース。熱波が送られてきた。普段なら絶対出てしまっていたが、グループで参加していることもあり、耐えられる。き、き、気持ちいいかも。

サウナストーンにアロマ水をかけて起きる蒸気を浴びる「ロウリュ」で、スタッフが大きな団扇で一気に熱波を送ってくれる「アウフグース」は欠かせない。ちゃんとやってもらったのは今回が初めて

 しかし、問題は次の水風呂。大丈夫なのか。まずは足から。つ、つ、冷たい……。ただ、しっかり熱波を浴びてきたから、肩まで入れる。ええい、と頭まで浸かる。新しい世界だ、しかも何か聞こえる。

 ここは長居はできず、ラウンジ室へ。めっちゃ気持ちのいいメッシュ状のマットに寝転がり、同じメッシュの枕でリラックス。途中で水をかけてもらうのが不思議な感覚。

 2回セッションを繰り返したが、2回目で確信した。よくはわからないが、次元が違う感じで気持ちが良いぞ。心も解き放たれる。え、これって、「ととのう」ということなのか。

 以下は各施設の説明。音響の伊藤氏は親しい友人で、少し突っ込んで聞いてみた。

【サウナ室】

 円形のサウナ室内には上段と下段の椅子があり、温度はその日の気候に合わせて調整されている。上段が高温(この日はおよそ94度)、下段は比較的マイルド(この日はおよそ86度)。初心者でも安心して利用できるよう配慮されている。

サウナ室

サウナ室の天井。公式素材から

【水風呂】

 水風呂は3Dプリンターで作られたユニークな設計になっている(水温は16度)。頭まで潜れる仕様で、潜ると「仕掛け」として特別な音響効果が聞こえる。これは万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に合わせ、自然との一体感を演出する要素。何が聞こえるかは実際に体験してほしい。他のサウナ施設では珍しい潜水可能な水風呂で、参加者に新しい体験を提供してくれる。 

水風呂に入る筆者。ドキドキで入ったが、しっかりサウナ室で熱波を浴びた後は快感

水風呂にはいい香りの檜が浮かべられる

夜の水風呂。公式素材から

【ラウンジ】

 サウナや水風呂後の「外気浴」や「内気浴」を楽しむためのリラクゼーションスペースで、心身を整えたり、グループセッションの余韻を味わったりする場。 ETFE膜を通じた柔らかな自然光が室内を満たす。 

ラウンジ

ラウンジ。夕景。公式素材から

【音響効果】

 音響演出を担当するのは、立体音響システム「KISSonix HDFX」を開発し、STAR ISLANDなど大規模音響演出実績を持つ、キスソニックス代表取締役の伊藤カズユキ氏。音を感じ、身体と呼吸を整え、太陽のつぼみに“音の共感覚”をもたらすという。

 “音の共感覚”は、サウナガイドのストーリーと連動し、来場者の五感に寄り添うイマーシブ体験を創出してくれる。

 伊藤カズユキ氏は、「音楽と音響技術を融合する革新者」として知られ、3D音響技術を通じて音が身体に与える影響を探求している。空間との共鳴を目指し、膜構造や自然の音(風、波、水音)と音響を統合し、身体と呼吸、地球の息吹との調和を誘導する。

 伊藤氏は狙いを次のように語る。

「この空間の膜は、まるで身体の皮膚のように音を豊かに“反響”させ、そして“呼吸”と共鳴します。サウナで感じる熱や水の流れと、音が一体となり、まるで自然の中にいるかのような“ととのう”状態を創り出したく思います。

 サウナは“熱”と“水”だけで語られるものではありません。音もまた、深い内面とつながる鍵です。 私はこの『太陽のつぼみ』を“音で呼吸する空間”として設計しました。 

 サウナの静けさに浮かぶ音の粒子が、来場者の感覚を優しく包み、やがて“ととのう”だけではない“ひらく”体験へと導く。 音の振動は、身体の水分や細胞にまで届く感覚を持ちます。 

 このテトラ構造の空間に合わせて、空気・水・光と共鳴する“立体音響”をていねいに設計・設置し、一音一音に祈るような気持ちで調律していきました。 太陽の力と、私たちの内なる自然が響き合う“聴くサウナ”体験を、ぜひ多くの方に味わっていただけたら嬉しいです」

キスソニックス株式会社 代表取締役 伊藤カズユキ氏

【太陽工業株式会社・代表取締役社長、能村祐己氏のコメント(公式資料より)】

 「私たちは、万博という世界の人々が集う場で、膜の可能性を追求し、世界平和にどう貢献できるかを考えてきました。そして今、膜のサウナ『太陽のつぼみ』を通じて、心と身体を解きほぐし、『いのち輝く未来社会:へとつながる三つの体験をお届けします。 

 第一に、サウナの温もりに包まれ、深いリラクゼーションの中で自己を解放し、本来の自分とつながること。 

 第二に、世界中の人々と共に特別な空間を体験し、文化や地域の枠を越えてつながること。 

 第三に、五感を研ぎ澄ませ、自然が織りなすさまざまな色、音、香りとの共感覚を体験し、地球とつながること。 

 この三つのつながりが広がることで、太陽グループが目指す「やわらかく、あたたかい社会」がより豊かに育まれることを願っています。一人でも多くの方に特別な体験を楽しんでいただければ幸いです」

この記事をシェアしよう

エリアLOVE WALKERの最新情報を購読しよう

PAGE
TOP