エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「大阪・関西万博をブラタマキ」 第13回
ようやく対面できたミケランジェロ『キリストの復活』の数奇な運命を徹底解説。2度目の万博・イタリア館訪問を堪能
2025年06月26日 17時00分更新
「大阪・関西万博をブラタマキ」で、初めての“2回目の訪問”はイタリアパビリオン。前回の取材は5月9日だったので(前回の取材記事はこちら)、5月18日からの展示だったミケランジェロの彫刻『キリストの復活』に間に合わなかった。
大人気の同館はまだまだ紹介しきれていなかったこともあって、6月10日に1ヵ月ぶりの取材に赴いたというわけだ。
1回目はファルネーゼ・アトラス、カラヴァッジョ、ダ・ヴィンチ、アルトゥーロ・フェラーリンの「木造プロペラ機(アンサルド SVA-9)」などを紹介したが、万博で一番人気をほこる同館の魅力はそれだけではないということで、連載初の2回目の登場となった。
2000年に現れたミケランジェロは
ルネサンスとバロックが合体したイタリア至高の美
5月18日から展示されているミケランジェロ・ブオナローティ(1475年〜1564年)の『復活のキリスト』は、1514年〜1516年頃の製作で、高さ205cmの大理石像。
キリストの復活の瞬間を象徴し、右手に十字架を持つ姿で描かれる。カッラーラ産大理石のなめらかな質感や布のドレープ、身体のやわらかさが特徴。普段はイタリア・ラツィオ州バッサーノ・ロマーノのサン・ヴィンチェンツォ・マルティーレ教会に安置されている。
このミケランジェロの代表作ともいえる『復活のキリスト』だが、実は2体ある。初版と第二版があり、展示されているのは2000年に再発見され、ミケランジェロの作品として認証された初版。日本では、2017年の「レオナルド×ミケランジェロ展」(三菱一号館美術館)以来の展示となる。その数奇な運命を辿ってみよう。
元々は、ローマのサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会に設置するため、1514年に、ローマの有力者、メテッロ・ヴァリがミケランジェロに依頼し製作されたキリスト像である。
ヴァリは、彫刻をサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会の祭壇装飾として設置することを希望し、条件としてキリストが十字架を持った立像であることを指定した。デザインの詳細はミケランジェロに委ねられた。
この時期、ミケランジェロはすでに「ダビデ像」(1504年)やシスティーナ礼拝堂の天井画(1508年〜1512年)を完成させ、ルネサンスを代表する巨匠として名声を確立していた。
しかし、製作中にキリストの顔に黒い筋が現れたため、この大理石を放棄し、ヴァリに寄付。ヴァリはそれをローマにある自身の邸宅の庭に設置した。この時点で、彫刻は未完成の状態だった。
この作品に関する記録は1607年まで途絶えていたが、1607年の書簡で美術市場に存在していたことが確認されている。1638年、著名な美術収集家として知られているヴィンチェンツォ・ジュスティニアーニが作成したジュスティニアニ宮殿の彫像目録に、未完成の大理石が記載されている。
ジュスティニアーニは、信頼する彫刻家に完成を依頼した。この彫刻家は、おそらく若きジャン・ロレンツォ・ベルニーニまたはその工房とされている(諸説ある)。
1644年には、キリスト像はバッサーノ・ロマーノのサン・ヴィンチェンツォ・マルティレ教会に関する文書に記録されている。この像は、ジュスティニアーニの養子によってここに運ばれたのだ。ジュスティニアーニは生前、この聖堂の設計を担当していたので、彫刻の設置は彼の遺志を反映したものと考えられる。
この初版は2000年まで行方不明だったが、イレーネ・バルドリガによって同教会で再発見された。「ジュスティニアーニ・キリスト」(Giustiniani Christ)とも呼ばれ、黒い筋がキリストの左頬に確認できる。
ミケランジェロは、初版を放棄した後、新しい大理石を手に入れ、1519年〜1520年に第二版を制作した。この第二版は1521年に完成し、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会に設置され、ミケランジェロの代表作として広く知られている。
初版(ジュスティニアーニ・キリスト)は、ミケランジェロが放棄したため、顔や胴体の主要部分が未完成の状態で、後続の彫刻家が仕上げた部分が見られる。特に、右の手や顔の後部、背中が後から加えられたとされている。第二版は、ミケランジェロの手による完成度が高く、なめらかな表面処理と詳細な表現が特徴になっている。
ラツィオ州知事のフランチェスコ・ロッカは、この彫刻について「小さな村に秘められた芸術の価値を知ってほしい」とコメントしていた。大理石の黒い筋はミケランジェロの完璧主義と制作中断の物語を象徴しているし、ベルニーニが仕上げをしたとするならば、ミケランジェロの未完成の美とバロック期の協働を示す稀有な例と言える。
キリストは復活後の姿で、右手に十字架、左手に縄や布を持ち、胸や手足に磔の傷跡が表現されている。ルネサンス期の理想的な人体比例とコントラポスト(重心を片足に置く姿勢)が採用され、動きと生命感が強調されている。
まさにイタリアの「国宝」が並ぶゾーンのほかにも
見逃せないポイントがいっぱい
1回目の取材記事では、『ファルネーゼ・アトラス』、カラヴァッジョ『キリストの埋葬』、レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティックコード』、ドメニコ・ティントレット『伊東マンショの肖像』、アルトゥーロ・フェラーリンの『木造プロペラ機(アンサルド SVA-9)』などや、屋上庭園とレストラン「イータリー」も紹介したが、それ以外にも見逃せないスポットがある。
【ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック聖火トーチ】
ミラノ・コルティナ2026の公式トーチのデザインは、建築家でありデザイナーのカルロ・ラッティによるもの。カルロ・ラッティは2020年のドバイ国際博覧会においてイタリアパビリオンなどを手がけ、今年の大阪・関西万博ではフランスパビリオンも手がけている。
トーチのデザインは、聖火リレーの真髄である炎そのものを強調することを意図している。トーチを背景に置き、炎に焦点を合わせるという発想だ。デザインのシンプルさに焦点をしぼることで、炎が主役となり、その技術は革新を称えるハイテク要素として披露される。
素材はアルミニウムと真鍮で再生が可能な素材からできている。名前は「エッセンシャル」。高さは89cm、重さ約1kg。真空状態で塗料を蒸発させて着色する「PVD」技術を使っていて、光の反射によって色合いが変化する。
オリンピック用は、冬季五輪ということもあり氷のような寒色系のイメージで、パラリンピック用は、少し温かみのある暖色系のイメージにしてある。2026年冬季オリンピックは、2026年2月6日〜22日で、ミラノのコルティナ・ダンペッツォで開催される。
【イタリア各州のウィークイベント】
イタリアパビリオンでは、毎週異なるイタリアの州を紹介するウィークイベントを開催し、毎週日曜の午前中に公式オープニングセレモニーを実施している。
筆者が2回目の取材に赴いた際は、シチリア州のウィークイベントが行われていた(2025年6月8日〜14日)。シチリアは、歴史、創造性、自然が豊かで、持続可能性、革新性、参加について独自のアイデンティティで語ることができる土地である。
すでに終了しているが、今後の週のイベントの参考として、その様子を伝えよう。
シチリア文化の深遠な象徴である小麦を中心に、芸術的なプロジェクトが展開された。忠実に再現されたデメテル像や「ドーノ」と題されたパンのインスタレーション、パレルモのプーピ人形劇が、ライブパフォーマンスや日本の俳句にインスパイアされた詩的な提案によって来場者を刺激的な旅へと誘った。
また、パビリオンのファサードは、アーモンドの木と桜の木が一緒に咲きほこる象徴的な庭園に変身し、シチリアの人形劇と文楽の優雅さが出会い、同じ芸術言語を話す伝統同士が対峙し、シチリアと日本の文化の架け橋となった。
今後のスケジュールは以下の通り。
サルデーニャ州(6月22日〜28日)
リグーリア州(6月29日〜7月5日)
モリーゼ州(7月6日〜12日)
トスカーナ州(7月13日〜19日)
カンパニア州(7月20日〜27日)
バジリカータ州(8月24日〜30日)
ウンブリア州(8月31日〜9月6日)
エミリア・ロマーニャ州(9月21日〜27日)
ピエモンテ州(9月28日〜10月4日)
*各州に関する詳細はこちら(公式サイト日本語版)。
https://www.italyexpo2025osaka.it/ja/chiiki
【岡山県矢掛町イタリア野菜プロジェクト】
イタリアパビリオンではさまざまなコラボレーションが行われているが、筆者が訪れた際には、パビリオン正面(屋外エリア)で、「岡山県矢掛町イタリア野菜プロジェクト」(6月5日〜12日)が開催されていた。すでに終了しているが、素敵な取り組みだったので紹介したい。
矢掛町やJAが手がけるイタリア野菜の苗などを用いて野菜畑をイメージした展示が、イタリア農業・食料政策大臣の協力依頼を受けて実現。モデル産地として協力し、パビリオンを盛り上げた。
展示野菜はおよそ200鉢。幅8m、奥行き2mの4つの畑に、イタリア料理で使われる野菜を栽培する様子が再現されている。これらの野菜のうち、ズッキーニやバジルなどおよそ15種類は矢掛町で育てられたもの。
矢掛町は、東京オリンピック・パラリンピックでイタリア選手団のホストタウンになったことをきっかけに、地元のJAと共にイタリア料理で使われる野菜の生産に力を入れていて、今回の展示につながった。
今回は一気にイタリア野菜を見てみよう。
【隈研吾 dieXe】
イタリア館入口のエントランスに設置された隈研吾の「dieXe」シャンデリアは、その下に飾られた4つの花瓶とともに、イタリア館のオープニングを飾っている。
ヴェネチア語で「10」を意味する名前は、彼の典型的なインターロッキング(互いに噛み合う)のコンセプトに従って、建築家が10のパーツでモジュール式にデザインしたことに由来する。作品は、ヴェネツィアの歴史あるガラス工房サルヴィアティがムラーノガラスで手作りしたもの。展示されているシャンデリアは6つのモジュールで構成されている。
【スタンプ】
前回の取材ではスタンプが押せなかったので、今回はしっかり押した。イタリア館とバチカン館の2種類があった。嬉しい!
【入り口前の映像】
前回紹介できなかったが、中心ゾーンに入る前の映像は本当に素晴らしい。そして最後に4枚の扉が開く。
『大阪・関西万博 攻略MAP ウォーカームック』
発行:株式会社角川アスキー総合研究所
発売:株式会社KADOKAWA
発売日:2025年6月30日
定価:1078円 (本体980円+税)
ISBN:978-4049112665
サイズ:A5判/84ページ
詳細はKADOKAWAサイトへ
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