大奥の“真実”を知りたくはないか。東京国立博物館(上野)で江戸城本丸の秘密が集まる「江戸☆大奥」展開催

ドラマ10「大奥」の衣装。左は徳川吉宗(冨永愛)、右は徳川綱吉(仲里依紗)

 東京国立博物館(東京・上野)は2025年7月19日、特別展「江戸☆大奥」を開幕した(〜9月21日)。

 「大奥」とは、江戸時代に徳川将軍の御台所や側室、将軍に仕える女中などが生活していたところで、江戸城の本丸には、「表」「中奥」があり、銅塀で厳重に仕切られたその奥に、御鈴廊下のみでつながれた大奥があった。

 大奥は将軍のプライベートな生活空間であり、一般庶民にとっては未知の世界だったために、江戸時代から明治時代にかけて庶民の大きな関心の的となり、噂をもとにさまざまに想像を膨らませて、大奥を題材にした伝記物や戯作、歌舞伎、浮世絵版画などが生み出されてきた。

 中国の後宮を舞台にした小説なども人気だが、モーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」など、洋の東西を問わず、男子禁制の世界への関心は強い。

 現代でも、大奥の女性を正人公にした映画やテレビドラマ、マンガ、小説などが数多くあるが、もちろん、それらの多くはフィクションであり、真実の大奥を語ってはいない。

 この展覧会では、近年、目覚ましく進展した調査研究の成果や、江戸城大奥の絵地図、記録、歴代台所や側常、姫君たち、御年寄を筆頭とする女中たちの遺品など、およそ180件の作品を通じてリアルな大奥を紹介する。

 展覧会の冒頭では、よしながふみの漫画『大奥』を原作とし、NHK総合の「ドラマ10」枠で放送された男女逆転の『大奥』(2023年1月10日〜3月14日。同年10月3日~12月12日放送)の衣装やセットが展示され、興味津々の世界に誘ってくれる。

ドラマ10「大奥」の衣装。左は徳川家定(愛希れいか)、右は天璋院(福士蒼汰)

左はよしながふみ『大奥』(白泉社)、右は山村東『猫奥』(講談社)

 全体で4つの章から構成されていて、第1章「あこがれの大奥」、第4章「大奥のくらし」の一部は写真撮影が可能になっている(動画やフラッシュ、三脚は不可)。

 第1章「あこがれの大奥」の冒頭は、ドラマ10『大奥』で実際に使用された御鈴廊下のセットと衣装が展示され、原作のよしながふみの漫画『大奥』と山村東の漫画『猫奥』を屏風のように一枚にした壁面が出迎えてくれる。

 よしながふみの『大奥』は、謎の疫病で男子の人口が急速に減少した結果、社会運営の根幹や権力が男から女に移っていく様を江戸城の大奥を中心に描いたもので、徳川家の代々の将軍や要職にあった者が、歴史上では男性である人物が女性に、女性である人物が男性に置き換えられた男女逆転の物語で、ドラマ化の前にはアニメ化され、国内外の多くの賞を受賞している。

ドラマ10『大奥』で実際に使用された御鈴廊下のセットと衣装

 撮影可能な第1章では、橋のセットと江戸や江戸城の春夏秋冬の映像、重要人物の紹介パネルなどが設置されている。

 今回の展覧会の音声ガイドは、ドラマ10『大奥』では徳川吉宗を演じ、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~』では、大奥総取締の高岳を演じている冨永愛が担当している。

大奥の誕生から幕末まで。春日局、篤姫、和宮、瀧山、江島……
綺羅星のごとき女性たちの足跡をたどる

 音声ガイドでボーナストラックとして冨永愛と対談をした東京国立博物館・学芸研究部調査研究課長の小山弓弦葉氏は、ほかの職員同様、着物姿で登場して、展覧会の内容、趣旨を説明した。夏用の黒留袖とのことで、昔は、黒留袖はもっとも格式の高い礼装だった。

 「最近では、母親たちが本式に黒留袖を着る機会も少なくなってしまいましたが、今回は私たちが育ててきたこの展覧会を、世の中に『輿入れ』させるような気持ちで、黒留袖を着てまいりました。本日は何人かの職員が着物でおりますので、よろしければ、異なる側面として写真を一枚撮っていただければと思います」と気持ちを語った。

東京国立博物館の小山氏

 小山氏は以下のように展覧会の見所を語った。

 「この展覧会は、江戸時代の大奥、つまり徳川将軍家の後宮をテーマにしたものです。皆さまご存知のように、大奥はテレビドラマや漫画、小説などで、華やかで想像に満ちた世界として描かれてまいりました。しかし、そうした現代のフィクションの世界は、あくまで想像上の大奥でございまして、実際の大奥がどのようなものだったのか、その真実を、ゆかりの品々や歴史資料を通じてご覧いただくのが本展の目的でございます。

 展示構成展覧会は、大きく4つの章から成っております。それぞれの章で、大奥のイメージと実像をていねいに紐解いてまいります。第1章は「あこがれの大奥」と題しております。大奥といえば、江戸時代や明治時代の人々も、そして現代の私たちも、どんな世界だったのだろうかと想像を膨らませてまいりました。庶民が心に描いた大奥のイメージを、浮世絵や小説などの作品を通じてご紹介いたします。

 入場口すぐ左に、NHKドラマ「大奥」(男女逆転の設定)で実際に使用された「御鈴廊下」のセットを再現展示しております。実際のお鈴廊下とは異なる点もございますが、その違いも感じていただければと存じます。ドラマで使用された衣装も展示。たとえば、綱吉役の仲里依紗さんが着用した女性らしい華やかな衣装や、八代将軍吉宗役で音声ガイドも担当された富永愛さんがお召しになった打ち掛け姿の衣装など、貴重な展示でございます。

 また、明治時代に描かれた浮世絵シリーズ『千代田の大奥』(全40場面)を全期間展示しています。想像上の大奥の暮らしを色鮮やかに描いた作品で、非常に見応えのある展示でございます。江戸時代後期の小説『偐紫田舎源氏』(柳亭種彦著)も紹介しています。十一代将軍徳川家斉をモデルに大奥を描いたこの小説は、発禁処分を受けたことでも知られております。こうした展示を通じて、庶民が心に描いた「憧れの大奥」を感じていただければと存じます」

楊洲周延『千代田の大奥』(明治27〜29年。1894~1896年)

 「第2章では、実際の大奥がどのような構造で、どんな人々が暮らしていたのかを、歴史資料を通じてご紹介いたします。大奥の基礎を築いたとされる三代将軍家光の乳母、春日局を中心に、その仕組みを解説いたします。女中のなかでも特に権力を持った「お年寄り(老女)」に焦点を当て、江島(江島生島事件の悲劇のヒロイン)や、十三代・十四代将軍に仕えた瀧山を紹介。瀧山が江戸城を下がる際に使用したとされる女乗物(お籠)と草履も初公開しています。草履は籠の中にちらりと見えるようになっておりますので、ぜひ探してみてください」

『春日局坐像』(江戸時代、17世紀)。京都・麟祥院。第2章の展覧風景

『女乗物 瀧山所用』(江戸時代、19世紀)。木製漆塗。埼玉・錫杖寺(川口市)

『江戸城本丸大奥総地図』(江戸時代、19世紀)。紙本着色。東京国立博物館蔵。江戸時代末期に再建された江戸城本丸大奥を描いた絵図

 「第3章では、大奥の中心人物である御台所、側室、姫君たちの人生を、ゆかりの品を通じてご紹介いたします。彼女たちの喜びや悲しみが感じられる展示でございます。五代将軍綱吉の母、「玉の輿」の語源になったとも言われる桂昌院(お玉の方)の振り袖(重要文化財、前期のみ展示)や、綱吉の裃を展示していますが、小柄だった綱吉の姿がしのばれます」

第3章の展示室の風景。手前は『振袖 黒綸子地梅樹竹模様』(江戸時代、17世紀)。重要文化財。桂昌院(お玉の方)所用。綸子(絹)、摺匹田、刺繍。東京・護国寺(文京区)所蔵。

 「綱吉の養女、竹姫が奉納した阿弥陀如来像(祐天寺蔵)。竹姫は二度の婚約破棄という不遇な人生を送り、自身の髪の毛や鏡を奉納した資料も展示。彼女の心情に触れることができます」

『阿弥陀如来坐像および附属品』(享保8年、1723年)。綱吉の養女、竹姫が奉納した

 「綱吉が側室・瑞春院(お伝の方)へ、年始や歳末、五節供など年中行事の祝い事にあわせた贈り物に掛けられていた袱紗31枚(重要文化財、前期・後期で全点展示)はお見逃しなく。元禄期の美しい刺繍が施された一級品で、非常に貴重な機会でございます」

『刺繍掛袱紗』(江戸時代、17〜18世紀)。瑞春院(お伝の方)所用。奈良・興福院(奈良市)所蔵

大奥ゆかりの寺院

 「最後の第4章では、大奥の女性たちが閉ざされた世界でどのような生活を送ったのかを、婚礼道具や衣装、日常の品々を通じてご紹介いたします。厳しい規則の中で、彼女たちがどのように暮らしを楽しんだのかを感じていただけます。大河ドラマにもなった篤姫(天璋院。13代将軍家定の御台所)、和宮(静寛院宮。14代将軍家茂の御台所)の実際に使っていたものも展示されます」

『葵紋付裃立姿人形』(江戸時代、19世紀)。静寛院宮(和宮)所用。東京・公益財団法人 徳川記念財団所蔵

左は『道服 淡紫紗地筥牡丹模様』(江戸〜明治時代、19世紀)。天璋院(篤姫)所用。東京・公益財団法人 徳川記念財団所蔵。道服は、落飾した高位の武家女性が着用する羽織。中央は『提帯 白縮緬地網桜藤蝶模様』(江戸時代、19世紀)。天璋院(篤姫)所用。東京国立博物館所蔵。右は『単衣 浅葱絽地春景模様』(江戸時代、19世紀)。天璋院(篤姫)所用。東京国立博物館所蔵

『掻取 白綸子地桜牡丹藤源氏車模様』(江戸時代、19世紀)。伝静寛院宮(和宮)所用。東京・公益財団法人 徳川記念財団所蔵

『薩摩切子雛道具』(江戸時代、19世紀)。天璋院(篤姫)所用。東京・公益財団法人 徳川記念財団所蔵

 「五代将軍綱吉の御台所・鷹司信子が輿入れ時に使用した豪華な女乗物は工芸品のような美しさで、特別に露出展示をしております。大奥の衣装(打ち掛け、帯、夏の単衣、御紋付など)をマネキンに着せての展示では、夏の腰巻姿や火事装束も再現し、実際の着用イメージをご覧いただけます」

『竹葵牡丹紋散蒔絵女乗物』(寛文4年、1664年)。浄光院(鷹司信子)所用。東京国立博物館蔵。当時は舘林藩主だった徳川綱吉に嫁いだ浄光院(鷹司信子)の乗物

大奥の四季の装い。御台所は1日に5度着替え、衣装は1か月ごとに取り替えられ「御納戸払い」のときに御年寄や御中臈の下賜されたという。

『火事装束 猩々緋羅紗地波鯉千鳥模様』(江戸時代、19世紀)。東京国立博物館蔵

 「和宮が京都から持ち込んだとされる貝殻や鳥の羽などの手回り小物。現代の女性も共感できる可愛らしい品々でございます」

『和宮手廻り小物』(江戸時代、19世紀)。静寛院宮(和宮)所用。東京・公益財団法人 徳川記念財団所蔵

 「また、十一代将軍家斉の時代に大奥で演じられた歌舞伎の衣装も見ものです。女性歌舞伎役者・坂東三津江が演じた衣装や、家斉の側室・専行院(お美代の方)が主催した歌舞伎の資料も紹介。『積恋雪関戸』(つもるこいゆきのせきのと)などの演目に関連する衣装も見どころです」

大奥での女性歌舞伎役者の衣装のコーナーは撮影可能

展覧会グッズ

開催概要

 展示作品、会期、展示期間、開館日、入館方法などについては、今後の諸事情により変更する場合があるので、展覧会公式サイトなどで確認が必要。会期中、一部作品の展示替えを行う。

展覧会名
特別展「江戸☆大奥」

会期
2025年7月19日~9月21日

会場
東京国立博物館 平成館(上野公園)

開館時間
9時30分~17時00分
(注)毎週金・土曜日、7月20日、8月10日、9月14日は20時00分まで開館 (入館は閉館の30分前まで)

休館日
月曜日、7月22日 ただし、7月21日(月・祝)、8月11日(月・祝)、9月15日(月・祝)は開館

観覧料金
本展は事前予約不要。
一般 2100円(一般前売 1900円) 大学生 1300円(大学生前売 1100円) 高校生 900円(高校生前売 700円)
(注)中学生以下、障がい者とその介護者一名は無料。入館の際に障がい者手帳などを提示。
(注)混雑時は入場を待つ可能性がある。
(注)本券で、会期中観覧当日に限り、東博コレクション展(平常展)も観覧できる。

交通
JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分 東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分

展覧会公式サイト
https://ooku2025.jp/

展覧会公式X
https://x.com/tohaku_edo2025

展覧会公式Instagram
https://www.instagram.com/@tohaku_edo2025

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