狭山茶の自慢は甘味と芳醇なコク。歴史ある味わいと共に、現代に合ったお茶の楽しみ方を提案する埼玉県・入間市の生産者の収穫に密着

2026年03月23日 12時00分更新

文● エリアLOVEWalker
提供: JA埼玉県中央会

埼玉の狭山茶は独自の仕上げ法である「狭山火入れ」により、甘味と濃厚なコクが堪能できる

狭山(さやま)茶は、静岡や京都(宇治)に並ぶ日本三大銘茶の一つ。地場産業として歴史を刻む狭山茶文化を後世につないでいくために尽力する、生産者・野村さんを訪ねました。

■緑濃く柔らかい葉をベストな状態で摘む

乗用型摘採機で茶葉を収穫。柔らかく緑濃い新芽に狭山茶の旨味が凝縮している

狭山茶が栽培される入間市近郊は、緑茶生産の北限といわれる地域。“色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす”という言葉がある通り、冷涼な気候の下で育った茶葉は肉厚。狭山茶独自の仕上げ法である「狭山火入れ」により甘味と濃厚なコクが生まれます。

野村さんの茶畑を訪ねたのは、昨年6月の晴れた日。4000坪にも及ぶ広々とした茶畑で、刈り取り機を使い、二番茶を摘採(てきさい/刈り取り)しているところでした。

狭山茶の茶葉

摘採は年2回。新芽の柔らかさや育ち具合を見極めながら、5月(一番茶)と6~7月に行いますが、大切なのはそのタイミング。「新芽は日ごとに成長します。伸びれば収穫量は増えますが、その分硬くなり品質が落ちる…。雨の日も収穫はできません。毎朝、畑の様子を確かめて、よし、今日だ!と決めるんですよ」

さらに、来年の茶葉の品質を見据えて、三番茶の収穫はせず、二番茶の摘採後に茶樹を休ませるそう。自慢の味はこうした繊細な栽培法に支えられているのです。

■茶葉作りは土作りから。365日休みなし

摘採機で刈り取られる茶葉。刃の高さなどを緻密に設定

茶樹を育て緑濃く柔らかい茶葉にするためには、年間を通してたくさんの作業を要します。

まず、豊かな土壌作り。毎年土の成分を調べ、保水性や通気性をよくするために堆肥を混ぜ込み、程よい酸性土壌にします。肥料は、土壌の微生物が増えるよう有機質のものを中心に。年に数回行う整枝(茶樹の剪定作業)も欠かせないとても大切な工程です。「中でも重要なのは秋と春。秋は、翌年の茶樹が冬を越せるように葉層(茶樹の表面に茂る茶葉の重なり具合・厚み)ができてから剪定。春は、上部を落とすことで脇芽を促し一番茶に備えます」

もう一つ、茶樹の仕立てにもこだわりが。野村さんは新芽の数を抑えて茶葉1枚ずつを大きく厚くする“芽重型”で、栄養分が詰まった肉厚の葉にするそうです。他にも、防霜ファンを回して霜害を防いだり、茶摘みの2週間ほど前から被覆(茶樹に覆いをかける)をしたり…。「日の光を少なくすると茶樹が自ら多くの葉緑素を作り出して、濃い緑色になります。旨味成分のテアニンが渋味成分のカテキンに変わるのを防ぎ、旨味も増すんです」

■収穫後は製茶をして荒茶に仕上げる

できたてほやほやの荒茶

こうして丹精込めて育てられた茶葉はそのまま出荷される? いえ、狭山は小規模な茶園が多く、製茶まで自社で行うのが主流で、野村園もその一つ。摘採した茶葉は翌日までに製茶されます。「最初は“蒸し”。蒸気を満たした回胴式蒸機に茶葉を入れ、回転させながら蒸します。次は“粗揉”。蒸した茶葉に熱風を当て、揉み込みと攪拌(かくはん)をしつつ水分を出す工程を2回繰り返します。それから“揉捻(じゅうねん)”。茶葉に重しをかけて揉み込み、茎や葉などの部位によって異なる水分を均等にするんです」

その後も、熱風を当てながら乾かす中揉、再び乾かしつつ針のような形にする精揉、乾燥と続き、5~6時間かけてやっと出荷可能な状態の“荒茶”になります。一般的なお茶作りでは、この荒茶を問屋などに出荷。野村園の茶葉も一部はJAに卸されます。荒茶はその後、葉や茎など部位を選別し、火入れや整形といった仕上げ加工が施されます。中でも、高温で行う狭山茶独自の焙煎・狭山火入れは、狭山の肉厚な茶葉だからこそ可能な技術で、豊かな旨味やコクを生み出しています。

驚くのは、これらが先代まですべて手作業だったということ。聞けば、狭山茶の栽培の始まりは古く江戸時代中期から。当時は茶葉を江戸幕府に献上し、地場産業として栄えたのだそうです。

■緑茶の茶葉で紅茶作りにも挑戦

製茶を行う野村さん。「緑茶は最後の一滴がおいしいので、家で淹れる時には、湯呑みに湯を残さず注ぎましょう。その後は、蒸れないようにフタをきっちり締めずにずらしておくと、2煎目もおいしくなります」

栽培している茶樹の品種は、ふくみどり・おくはるか・やぶきた・さやまかおりなど5~6種類。それらを季節に合わせてブレンドし、販売しています。新茶を味わう春には、狭山火入れを少し控えめにして、若々しい香りを強調する工夫も忘れません。

また、緑茶を家庭で楽しむ人が減ってきたといわれる昨今、新たな試みにも精力的に取り組んでいます。その一つが、紅茶作りです。緑茶も紅茶も、元は同じ茶樹から生まれます。収穫した茶葉を発酵させ、フルーティーな香りの紅茶に仕上げたもの――それが「和紅茶」です。畑の外では、日本茶インストラクターの資格を生かし、緑茶の淹れ方を伝えるワークショップも開催しています。「おいしく淹れるコツは4つだけ。お湯の量、お湯の温度、茶葉の量、抽出時間です。それさえ守れば、いつものお茶の味わいがぐんと変わりますよ」

(取材にご協力いただいた生産者さん)

野村翔一さん(42歳)…1945年創業の野村園3代目。2013年にサラリーマンから転身して家業を継ぎ、日本茶文化の発信に尽力し、日本茶インストラクターの資格も持つ。茶葉の栽培から製茶までを一貫して手掛け、農園併設のショップやネット販売にも取り組む。写真は奥さまと息子さんと共に。

■埼玉県の農業や旬の農産物をJAグループさいたま情報誌「みらの」でチェック!

3月6日より配布/公開中の「みらのNo.88」では、甘みと芳醇なコクが自慢! 日本三大銘茶とうたわれる、埼玉の狭山茶を特集。栽培や収穫に密着したほか、家庭でも簡単にできる、おいしいお茶の淹れ方をレクチャー

この記事をシェアしよう

エリアLOVE WALKERの最新情報を購読しよう

PAGE
TOP