三菱一号館美術館で開催中の「トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで」は、近代の風景版画を「光」と「陰」のせめぎ合いから読み直す展覧会です。起点となるのは小林清親の「光線画」です。文明開化の東京を描きながら、華やかさの表側だけに乗らず、夕暮れから夜へ移る時間帯の明暗を木版の仕事として掬い上げていきます。写真という新技術が広がっていく明治の都市で、木版画は何を描き、どう差異をつくったのか。影の深さや光の配置の細部を追うほどに、風景画がただの記録ではなく「見え方を組み立てる技術」だったことが腑に落ちてきます。
小林清親 《大川岸一之橋遠景》 明治13(1880)年 スミソニアン国立アジア美術館 Kobayashi Kiyochika / National Museum of Asian Art, Smithsonian Institution, Robert O. Muller Collection, S2003.8.1119
清親の革新は長くは続かず、明治14(1881)年頃から社会風刺画へと軸足を移します。「光線画」は弟子の井上安治が引き継ぎ、清親自身も回顧的風景や戦争画、肉筆画へと制作を広げました。浮世絵が衰退するなか、版元・渡邊庄三郎が再興と近代化を掲げ、新版画という受け皿を整えます。
本展は川瀬巴水らへ視線をつなぎ、清親の成果がどう継承され、更新されていったのかを辿ります。第2部「風景版画の展開」では、渡邊庄三郎のもとで新版画が広がっていく流れを、チャールズ・W・バートレット、高橋松亭(弘明)、伊東深水、吉田博、川瀬巴水の作品で辿ります。名所、都市、旅景色がそれぞれの視線で描き分けられ、清親が掴んだ光と陰の感覚が、新しい風景表現として受け継がれていくことが見えてきます。
この展覧会は、鑑賞の余韻をそのまま「読む時間」へつなげられるのも魅力です。2月20日から都内6書店で「トワイライト、新版画展」フェアが始まり、いまも各店で展開されています。参加書店は、紀伊國屋書店 新宿本店(5階)、TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHI、銀座 蔦屋書店、丸善 丸の内本店、紀伊國屋書店 大手町ビル店、くまざわ書店 浅草店です。
フェアの要は、各店の書店員が「トワイライト」を手がかりに一冊を選び、推薦文まで添えている点です(くまざわ書店 浅草店は選書不参加)。作品の前で掴んだ薄明の感覚を、言葉や写真や物語として別の角度から確かめ直せます。丸の内・大手町は、TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHI、丸善 丸の内本店、紀伊國屋書店 大手町ビル店が徒歩圏に揃い、展覧会で掴んだ「薄明かり」の感覚を、そのまま本で確かめ直せます。
特典も用意されており、フェア実施店舗で公式図録を購入すると、特製リーフレットとステッカー(非売品)がもらえます。『新版画と巡る 東京時空散歩』と題されたこのリーフレットは、銀座・浅草など名画の舞台5カ所を取り上げ、当時の情景と現代の眺望を対比しながら、作品世界を街へ重ねる鑑賞ガイドとして作られています。なお紀伊國屋書店 新宿本店では3月12日に担当学芸員・野口玲一氏によるトークイベントが開催され、展覧会を言葉で深める場も設けられました。
清親の夜景に目を凝らし、新版画の名所や旅景色へ視線をつなぐと、風景は固定された眺めではなく、時代の変化に応じて更新される「見方」だと実感できます。その感覚を、丸の内の書棚でもう一度受け止め直せるのが、今回のフェアの魅力です。展覧会と書店を往復しながら、黄昏の風景が自分のなかでどう言葉になるかも確かめてみたくなるはずです。
トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで
会場:三菱一号館美術館
会期:2026年2月19日(木)~2026年5月24日(日)
休館日:祝日・振休を除く月曜日
但し、開館記念日の4/6、トークフリーデー[3/30、4/27]、5/18は開館
開館時間:10:00~18:00 (祝日除く金曜日、第二水曜日、会期最終週平日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般 2,300円 大学生1,300円、高校生 1,000円 中学生以下 無料
https://mimt.jp/ex_sp/shin-hanga/
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