エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第25回
過去最大級の『睡蓮』が集まったユニークで大充実のモネ展が上野の国立西洋美術館で始まったぞ
2024年10月08日 11時00分更新
印象派を代表する画家であるクロード・モネ(1840-1926)は、世界は勿論、特に日本では、最も人気の高い画家の一人である。一瞬の光をとらえる鋭敏な眼によって、自然の移ろいを画布にとどめてきた絵画は、後年になるにつれ、抽象的かつ内的なイメージへと変容して行く。
国立西洋美術館(東京・上野)で始まった展覧会『モネ 睡蓮のとき』 (2024年10月5日〜2025年2月11日)の中心となるのは、この試行錯誤の過程で生み出された、大画面の〈睡蓮〉の数々。パリのマルモッタン・モネ美術館より、日本初公開となる重要作を多数含むおよそ50点が来日。国立西洋美術館の所蔵作のほか、日本各地に所蔵される作品も加え、モネ晩年の芸術の極致を堪能できる。日本では過去最大規模の〈睡蓮〉が集う貴重な機会となる。
日本では数多くのモネの展覧会や展示が行われているが、今回の展覧会はかなりユニークで、内覧会に駆け付けて、実際に見終わった筆者は、モネの持つアヴァンギャルドな抽象性にまで飛翔した作品を、驚くほどの質と量で鑑賞できた。思い切った展示の仕方によって、心地よい、その世界に招き寄せられるようなモネのイメージの奥にある、創造のヒミツに触れる事ができる。
同展が見どころとして挙げているのは4点。
①モネ最後の挑戦。”光の画家”集大成となる、晩年の制作に焦点を当てた究極のモネ展。
②世界最大級のモネ・コレクションを誇るマルモッタン・モネ美術館より、日本初公開作品7点を含む厳選されたおよそ50点が来日。
③モネ晩年の最重要テーマ『睡蓮』の作品20点以上を展示。
④2mを超える大画面の『睡蓮』に囲まれて、モネの世界に浸る、本物の没入体験。
十分に尖った展示だが、更に面白いのは、『睡蓮』だけではなく、『チャーリング・クロス橋』や『アイリス』、『日本の橋』、『ばら』など、同じ素材を飽くことなく繰り返し描くモネの創作の世界に切り込んで、テーマを絞って、同じ素材の絵を集中して並べて展示している。これがいい。同じ素材でも見事にアプローチが違う。より抽象度の高いもの、リアルが残っているもの、あいまいさの空気が濃厚に漂うもの、モネが対象を捉えるアスペクトのバリエーションが体感できる。実に良い。おすすめだ。
第1回印象派展から150年の2024年に開催されるモネ展は第一次世界大戦(1914年~1918年)中から戦後、最晩年までの『睡蓮』を中心にした画家の想いの核心に迫る展示だ
第1回印象派展は、1874年4月15日〜5月15日にパリのカピュシーヌ大通りで開催され、30名の画家が165点を展示した。美術アカデミーが審査をする保守的なサロン(官展)から独立したグループによる画期的な展覧会だった。モネは「画家、版画家、彫刻家等の共同出資社」のメンバーで(他にはルノワールやシスレー、ドガ、ピサロ、ベルト・モリゾなど合計16人)、この展覧会には9点を出展している。
マルモッタン・モネ美術館では印象派誕生150周年を祝う催しが開かれており、日本での展覧会を通して2025年へ引き継がれていく。同館からは1883年にモネがジヴェルニーに居を構えたのちに描かれた作品48点が初めて一堂に会する。この時期に画家が好んで取り上げたのは、アガパンサス、アイリス、キスゲ、枝垂れ柳などの植物、そして中でも自ら作り上げた『睡蓮』の浮かぶ「水の庭」だった。
同館のエリック・デマジエール館長は、以下のように語っている。
「始まりも終わりもないこれらの風景画を眺めていると、それまでの絵画にはない、吸い込まれるような感覚にとらわれます。このような新しい空間のとらえ方によってモネは印象派を超え、20世紀後半の抽象画家たちに大きな影響を与えました。今回マルモッタン・モネ美術館から貸し出された作品は、もともとジヴェルニーのモネの家にあったものです。この比類のない作品群を日本のみなさまにご紹介することができ、当館としてもたいへんうれしく思っております」
■主な展示作品(すべて、クロード・モネ作)
●オテル・ビロンの展示計画
オランジュリーの大装飾画のプレ的な試みになった幻のプラン。1920年、モネは12点の睡蓮の装飾パネルをフランス国家に寄贈することになり、専用の展示館をオテル・ビロン(ビロン邸)の敷地に建設するように指定したが、財政上の問題でとん挫した。
●セーヌ河を描いた2点
モネは1896年から1898年にかけてジヴェルニーの自邸からほど近いセーヌ河の眺めを主題とする連作をおよそ20点制作している。いずれの作例でも、視点は厳密に固定され画面中央を走る水平線を境に木々とその反映が鏡像となっている。制作にあたり、モネは毎朝3時半に起床して、早朝の光と大気の微妙な変化にしたがって、14点ものカンヴァスを並行して手掛けたと言われる。
●ばらの庭から見た画家の家
モネの最後のイーゼル連作。今日18点が確認されている。構図は厳密に固定されながら、大胆に色彩とマティエールを変化させている。
●オランジュリーの大装飾画『柳のある朝』の左パネルの習作
枝垂れ柳が描かれた場所から画面奥の水面へ視線を移すと睡蓮がある。
●藤の花をモティーフとするフリーズ(帯状装飾)
モネは当初、睡蓮の装飾画の上部に、藤の花をモティーフとするフリーズ(帯状装飾)を設置することを計画していた。藤は日本趣味と結びつき、アール・ヌーヴォーのデザインにも採用された人気のモティーフだった。この2点は現存する8点の習作の中で最も大きなもの。
●オテル・ビロンのアガパンサスの装飾画の習作
●舟遊び
白いドレスに身を包んだ二人の少女は、のちにモネの再婚相手となるアリス・オシュデの連れ子ブランシュとシュザンヌ。1883年にジヴェルニーに移住して、近くに流れるセーヌ河の支流、エプト川の舟遊びの光景を繰り返し描いた。
●ジヴェルニー近くのエプト川岸辺のポプラ並木
1880年代末からの最初の連作『積みわら』が手がけられた後、1891年に取り組んだのがポプラ並木。
●睡蓮、柳の反映
松方幸次郎は1921年、ジヴェルニーにモネを訪ね、画家本人から18点ほどの作品を購入した。『睡蓮、柳の反映』もその一つで、大装飾画の関連作品を外に出すのを嫌ったモネが、生前に唯一売却を認めた装飾パネル。この作品は1923年に、関東大震災の被災者のためにパリで開かれた展覧会に出品されたがこれを知ったモネは抗議し、直ぐに会場から撤去された。その後、第2次世界大戦を経て、長らく所在不明になっていたが、2016年にルーヴル美術館で、画面の大部分が破損した状態で再発見された。
■アンバサダー・音声ガイド 石田ゆり子
石田ゆり子さんのコメント
「モネとの出会いは、わたしが19歳のとき。初めてパリで訪れた、睡蓮の間。 あのとき、あの空間に初めて踏み入れた時の、丸ごと包み込まれるような感動を昨日のことのように記憶しています。 時は流れて、この度こうして開催されるモネ展のアンバサダーに就任することになり、まるで夢を見ているかのような幸福な気持ちでいっぱいです。 加えて、音声ガイド、そしてなんとテーマソングも歌い手として担当させて頂くことになり、身に余る光栄です…。 心をまっさらにして、思う存分モネの世界に浸る。そんな空間が海を超えて日本にやって来るのですね。楽しみでなりません」
■グッズ
展覧会グッズは、モネの世界に浸れるように、“五感でひたるモネ”をコンセプトに企画されている。 「見てひたるモネ」「聴いてひたるモネ」「香りでひたるモネ」「食べてひたるモネ」「触れてひたるモネ」を切り口にした、さまざまな商品が販売されている。 コラボ商品も充実している。
■開催概要
会期
2024年10月5日~2025年2月11日
開館時間
9:30~17:30(会期中、金・土曜日は~21:00)
※入館は閉館の30分前まで
休館日
月曜日、10月15日、11月5日、12月28日~2025年1月1日、1月14日
(ただし、10月14日、11月4日、2025年1月13日、2月10日、2月11日は開館)
会場
国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7番7号)企画展示室
観覧料
一般2,300円、大学生1,400円、高校生1,000円
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方及び付添者1名は無料。
※大学生、高校生及び無料観覧対象の人は、入館の際に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳を提示。
※12 月12日〜27日、2025 年1月2日〜17日は高校生無料観覧日。入館の際に学生証を提示。
※観覧当日に限り本展観覧券で常設展も観覧できる。
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