エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第9回
富山県の魅力たっぷり”四つのユニークなまち”を歩いてきたぞ③ 【富山県・魚津市 日本一の急流河川域が作る東山円筒分水槽と富山のリンゴ編】
2024年10月28日 16時00分更新
富山県・魚津市にある東山円筒分水槽は、水争いが絶えなかった地域の農業用水を均等に届けるために整備されたもので、東山地区の天神野用水・青柳用水・東山用水の3つの用水に公平に水を分配するために作られた。地域の水利システム近代化の歴史を物語る貴重な建造物として、2020年4月には国の登録有形文化財(建造物)に登録され、近年は造形と景色のマッチ、水の美しさから注目されており、SNSなどで、日本一美しい”円筒分水槽”とする人も多い。また、あまり知られていないが、魚津市は、県内を代表するりんごの産地で、加積(かづみ)地区のりんごは、”加積りんご”という名前で販売されている。どちらも日本一の急流河川である片貝川と深く結びついている。
万葉の歌人、大伴家持は、雪どけ水が走る魚津市の片貝川を歌っている。
『可多加比の 川の瀬清く 行く水の 絶ゆることなく あり通ひ見む』
立山など北アルプスの山岳地帯から富山湾に向かって魚津市を流れる片貝川は、魚津市の形を作り、土地の性格に決定的な意味を持っている。魚津市観光協会公式の「うおっ!な魚津旅情報」などによると、片貝川は、平均河床勾配1/12(8.5%)の日本屈指の急流河川で、昔から洪水の氾濫とそれに伴う河道の変遷を繰り返してきた。魚津市史によると、かつては現在よりかなり西方を流れていたが、嘉暦2年(1327年)の大洪水により片貝川は大きく東へ移動し、独立した河川であった布施川の流れを片貝川が奪い、現在の流れが形成されたという。
片貝川は、富山7大河川の一つで、「片貝」の名称は、「片峡」、つまり片側だけの峡谷という意味からといわれ、現在も、海岸からわずか3kmのところまで、右岸の山並みがせまっている。水源は、北アルプスの毛勝山(2,415m)、釜谷山(2,415m)、猫又山(2,378m)の通称毛勝三山付近に発し、河口付近で布施川を合わせて富山湾に注ぐ、流域面積約169k㎡、幹川流路延長約27kmの二級河川である。
片貝川の下流域は広々とした扇状地となっていて、稲作地帯や、リンゴ、ナシなどの果樹栽培、豊かな伏流水を利用した半導体工場などが立地している。東山円筒分水槽の美しさは、全国でも珍しい円筒から溢れる水の落差にあり、急流河川ならではの構造だと言われている。円筒分水槽もリンゴも魚津市ならではの地形的な特徴を表すものと言える。
大人気の撮影スポット。大きな水の落差が美しい「東山円筒分水槽」は田園風景の中、「日本一美しい」と言う声も上がる70年を超える現役選手だ
円筒分水は、農業用水などを一定の割合で正確に分配するために用いられる利水施設の事を言い、円筒状の設備の中心部に用水を湧き出させ、円筒外周部から越流、落下する際に一定の割合に分割される仕組みとなっている。地域によっては円形分水、円筒分水槽、円筒分水庫などと呼ばれる。
東山円筒分水槽は、 円筒から溢れる水の落差がこれだけあるものは珍しく、急流河川ならではの構造だと言われ、SNSなどで「日本一美しい」円筒分水槽と評されることもある。 この円筒分水槽の大きさは直径9m12㎝で、分水槽の中心から各水路へ分配される水の分配量は円筒の円周の長さ(中心の角度)で決められている。令和2年(2020年)12月には、魚津市により分水槽とその周辺の美しい景観を望むポケットパークが整備された。
円筒分水槽の利点として、上流からの水量の変化に影響されることなく、多いなら多いだけ、少ないなら少ないなりに公平に分配される。東山円筒分水漕は、片貝川左岸から水路トンネルを接続させて水を引っ張ってきている。この円筒分水漕は建設当時、富山県では初めての工法として施工され70年あまりを経過した現在でも、支障なく安定した用水の供給に貢献している。円筒分水槽は全国にいろんな形のものが存在するが、富山県内には5つあり、そのうちの2つが魚津(東山円筒分水槽・貝田新円筒分水槽)にある。 東山円筒分水槽は、2020年4月3日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
東山円筒分水槽が完成したのは昭和29年(1954年)。急流河川である片貝川の流域は豪雨時には水害、夏期には深刻な水不足に悩まされ、水争いが絶えなかった。 水争いを解決するため、沢山あった取水口を一ヶ所にまとめ、左岸には貝田新円筒分水槽、右岸には東山円筒分水槽を作り、片貝川の川底にヒューム管を埋めて2つの分水槽をつなぎ、川を潜るサイフォン終端に設けられた。この事業は、戦争により工事は一時中断したが、昭和25年に再開し5ヶ年でこれらの農業用水利施設を完成させた。
ちなみに、もっとも水量の多いときは、雪解け水が流れる5月頃なので、要チェック。
・東山円筒分水槽ギャラリー
門外不出の幻のリンゴとも呼ばれる「加積りんご」は120年近い歴史を誇る魚津市の急勾配な河川流域の扇状地ならではの逸品だ
魚津市でリンゴの栽培が始まったのは明治38年(1905年)年で、120年近くの歴史がある。青森に比べると生産量にして300分の1ほどの富山県だが、そのほとんどが魚津市で栽培される「加積りんご」と呼ばれるもので、糖度が高く甘いリンゴとして人気が高い。加積りんごは、加積地区で生産されるリンゴで、特許庁から地域ブランド認可を受けた特産品だが、実は、富山県内のスーパーではあまり見かけることがない。それは、品質管理の徹底や、作付面積に制約があり、年間生産量が限られていて、ほとんどが農家での直売でのみの販売で、扱っている店はごく一部に限られるため。「門外不出の幻のリンゴ」とも呼ばれる所以だ。
明治初めごろ、片貝川の水害や干ばつで加積地区は、稲作には不向きな土地だったことから、冨居太次郎(ふごうたじろう)が、庭にたくさん実った柿を見て、くだものの方がこの土地に合っていると考え、りんごの栽培を始めた、と言う。急勾配の河川流域の扇状地ならでは、と言えるだろう。
魚津市はリンゴの生産地として比較的南に位置しており、それがおいしいリンゴが育つ理由のひとつになっている。東北に比べると、春が早い為、花が咲くのが2週間ほど早く、実が熟すには寒さが必要な為、収穫も2週間ほど遅く、4週間分も長く樹で長く育てることができることから、限界まで完熟を待って収穫することになり、糖度の高い、味、香り、食感のバランスが良いリンゴになる。また、無袋栽培という果実には袋をかけない方法がとられているので、太陽の光をたっぷり受けて育つため、さらに甘味が加わる。
完熟リンゴ特有の甘さに加え、果汁が多く、歯ざわりも良い加積りんごだが、品種はふじが中心で、11月中旬~12月中旬に吉島・六郎丸・相木地区など約40軒の農家の庭先で販売される。
【りんごの種類と収穫時期】
(「うおっ!な魚津旅情報」より。))
7月下旬~8月下旬 「祝(いわい)」
8月下旬~9月下旬 「さんさ」
8月下旬~ 「つがる」
9月中旬~10月中旬 「秋映(あきばえ)」、「陽光(ようこう)」
10月初旬~11月初旬 「こうたろう」
10月下旬~11月下旬 「しなのゴールド」、「王林(おうりん)」
11月中旬~12月下旬 「ふじ」
幻の加積りんごだが、魚津市内の和菓子店では、りんごを使ったお菓子をお土産として販売、海の駅蜃気楼では、4月から12月まで「加積りんごソフトクリーム」が味わえる。なかでも、富山県の和菓子店、昌栄堂が販売する加積りんごを使用した「加積りんごパイ」は、令和元年(2019年)9月、ANAの国際線機内食に富山県で初めて採用され、2024年1月14日の大相撲初場所から公式アイテムとして販売されることになった。大相撲の公式アイテムとして採用されるのは北陸初の事だ。
・加積りんごギャラリー 加積りんご組合の副組合長、富居俊成(ふごうとしなり)さんの富居俊成りんご園と、直売の様子を見せてもらい、試食もさせていただいたので、その様子を紹介する。
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