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アプリケ作家・宮脇綾子が今こそ注目すべきアーティストと言える理由

2025年02月12日 11時00分更新

展示風景

 身近にある古裂や端切れを使って魚や野菜、草花などをモチーフに詩情豊かに表現するアプリケ作家として知られる宮脇綾子(1905-1995)の回顧展が、東京ステーションギャラリーで開催されています。

 今回の「宮脇綾子の芸術」展は、手芸、アプリケ作家としてではなく、宮脇綾子を造形作家、アーティストとして捉えて開催される初めての展覧会です。宮脇作品はアプリケ、コラージュ、手芸などに分類されますが、どの枠にも収まりきらない豊饒な世界を作りあげており、今の時代にあらためて注目すべき稀代のアーティストなのです。

展示風景

展示風景

 今回の回顧展では、約150点の作品と資料を造形的な特徴に着目して美術史での用語を用いて分析し、8章構成で宮脇作品の新たな見方を示しています。いくつかの作品の横には、宮脇自身の言葉が添えられているのもこの展覧会の大きな魅力のひとつとなっています。そこで、そのなかから6作品を選んでその言葉とともに紹介します。これを観て読んだら展覧会へ行きたくなること必至です。

切った玉ねぎ

《切った玉ねぎ》1965年、豊田市美術館

タマネギの芽が出たのを縦に切ってみて、
その切り口の面白さに引かれました。
作っているうちに、内部にすき間ができて、また面白さが増し、
同時にその精力にも感じ入りました。

アネモネ

《アネモネ》1969年、豊田市美術館

私の好きな花です。
赤と白の横に、紫、黄、青と実際の色ではなく、
私の好みの色を並べました。バックは、昔の蚊帳。
使ってある布は、みんな木綿です。

赤い蟹

《赤い蟹》1981年、豊田市美術館

取り上げた布の柄が、
思わぬところに思わぬ効果を出す面白さにつられ、
一気に仕上げたものです。
モデルと布と私の気持ちが一体になったときは、
最高の喜びです。

からす瓜

《からす瓜》1983年、豊田市美術館

晩秋を思わせるカラスウリは、私の好きなつる草です。
葉が枯れ、赤い瓜と、色のあせた瓜が並んでいる様が面白くて、
ガラスの水差しにそっと入れました。

あんこう

《あんこう》1975年、豊田市美術館

アンコウは、もともとグロテスクな魚ですが、
形にとらわれずに、
大好きなユーモアや遊びのこころで包んでいるうち、
こんな姿になりました。

あっ、おじいちゃんだ

《あっ、おじいちゃんだ》1985年、豊田市美術館

ケーキの箱の金紐で、
何げなしに目、鼻を入れたら、
遊びに来た孫が見て
「あっ、おじいちゃんだ!!」

 いかがだったでしょうか。宮脇作品の根底にあるのは鋭い観察眼です。観察とデッサンを重視するという制作スタイルは、洋画家の夫・宮脇晴の影響も大きいものがあります。日々の生活を丁寧に送っていたからこそ生まれた宮脇の作品に存分に魅了され、多くの気づきを得られることでしょう。

 最後にこの展覧会を企画した東京ステーションギャラリーの冨田章館長が図録に寄せた文章の一部を紹介しておきます。

「宮脇綾子の作品の魅力は、見る人によってさまざまに感じられるだろう。アプリケのテクニックや意想外のアイディアに魅せられる者もいれば、数々の瑞々しいモティーフに表現されたあふれんばかりの生命力に衝撃を受ける者もいるはずだ。

フォルムの美しさ、色彩の輝き、絶妙な布の選択、巧みな模様の使い方に感嘆する者も、20世紀の美術運動と問題意識を共有する手法や、純度の高いデザイン性に注目する者もいるに違いない。宮脇の成した仕事には一言では尽きせぬ魅力が満ちている。

私たちが見ているのは、手芸作家のよく目にする仕事などではない。圧倒的な力量をもつ優れた造形作家の、驚くべき作品群なのである。」

生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った

生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った
開催期間: 2025年1月25日(土)~3月16日(日)
開館時間:10:00~18:00(金曜日~20:00)※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし2/24、3/10は開館)、2/25(火)
会場:東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)

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