エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のまち散歩 第29回

「瀬戸内国際芸術祭」に来ればわかる。瀬戸内は世界と地域と人を繋ぐ場所だ

会場の銀色のトレーラーの外観

 国内外から70〜100万人を超えるファンを集める超人気芸術祭「瀬戸内国際芸術祭2025」春会期が2025年4月18日、開幕した(〜5月25日。夏会期、秋会期がある)。4月15日〜17日にはプレスプレビューが開催され、筆者も現地に駆けつけた。

 現地リポート第4弾では、香川県高松市・高松港に据えられた銀色のトレーラーで展示されているUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)×瀬戸内国際芸術祭のコラボ企画、世界的な写真家であるホンマタカシの《SONGSーものが語る難民の声》を紹介する。

ホンマタカシ氏

ホンマタカシ氏の展示の一環であるタブロイド版の冊子を持った筆者

 現在、世界では1億2000万人以上の人々が故郷を追われ、各地では紛争や人道危機が後を絶たない。瀬戸内海が地球上のすべての地域の「希望の海」となることを目指す瀬戸内国際芸術祭において、日本と諸外国の文化芸術の中核となるよう海外との連携を推進するべく、国連の難民支援機関であるUNHCRとの共催による展覧会を開催。

 難民一人ひとりの物語や力に光を当て、日本における難民問題への関心や理解を深めるため、ホンマ氏による彼らのポートレートや「大切なもの」などを記録した作品を展示する。

 ホンマ氏は、プロジェクトの背景について、以下のように語る。

 「日本は島国で、移民や難民の問題が身近に感じられにくい環境です。私自身も、以前は難民問題を深く意識していませんでした。しかし、世界的に見ると、この問題は無視できない重要な課題です。私の役割は、作品を通じて、日本の人々に難民問題を少しでも意識してもらえるよう、気づきのきっかけを提供することです」

高松港に据えられた展示場である銀色のトレーラーの前で語るホンマ氏

 今回の展示にあたり、ホンマ氏は実際に世界の現場にも足を運んでいる。

 「2024年7月には、バングラデシュのコックスバザール世界最大の難民キャンプを訪れました。そこには仮設住宅が広がり、膨大な数のロヒンギャ難民が暮らしています。その規模は、例えるなら東京の早稲田駅周辺に広がる街のようなイメージです。現地の状況に強い衝撃を受けました」

 「また、2025年2月には、コロンビアに赴き、難民キャンプではなく民間住宅に暮らす難民を取材しました。祖国を追われた人々が持ち出した『もっとも大切なもの』を撮影し、彼らのストーリーをインタビューしました。そこには非常に重い話が多く含まれていました」

 展示については、

 「展示会場(高松港コンテナギャラリー)は狭いため、すべての作品を展示することはできません。そのため、ダイジェスト形式で作品を紹介し、メインの作品としてタブロイド版の冊子を制作しました。この冊子には個々の難民のストーリーが記載されており、フェリーに乗る前や移動中に読んでもらうことを想定しています。

 「このプロジェクトは、私自身の表現の場というより、難民問題を多くの人に知ってもらうための機会です。作品を通じて、観客が難民の声や物語に触れ、共感や理解を深めてもらえればと思います」

コンテナの内部。開幕に向けて準備中の写真

●ホンマタカシ・プロフィール(芸術祭公式サイトより)

 1999年、写真集「東京郊外」(光琳社)で第24回木村伊兵衛賞を受賞。著書に「たのしい写真 よい子のための写真教室」(平凡社)など。 近年の作品集に「TOKYO OLYMPIA」(NIEVES出版)、「Thirty-six View of Mount Fuji」(MACK出版)など。2023年から2024年にかけて東京都写真美術館にて個展「即興」を開催。

■施設概要

作家:
ホンマタカシ

作品名:
《SONGSーものが語る難民の声》

場所:
高松市・高松港

開館時間:
9:30~17:00(予定)

休業日:
会期中無休

展示会期:
春・夏・秋

料金:
無料

公式サイト:
https://setouchi-artfest.jp/artworks/detail/38efd951-6c23-4cbc-b19d-9e6f7222504d

「瀬戸内は非日常のテーマパークじゃなくて、ガチの日常の世界」

北川フラム氏

 本記事では、プレスプレビューに駆け付けて移動の船中で話してくれた総合ディレクター、北川フラム氏の話も紹介しよう。

 プレス用にチャーターされた船で小豆島から豊島に移動する中で、瀬戸内国際芸術祭について語り始めた北川氏は開口一番、

 「いや、ほんと良くないんですよ。船に乗ってる間とか、勉強してる間は、スマホなんか見ないで、絶対に外を見ててほしい。それが一番大事なことなんです」

 と語り始め、瀬戸内を訪れる人の気持ちの持ち方について、

 「瀬戸内のことをちゃんと知るには、例えば、宮本常一先生(民俗学。1907年〜1981年)の教科書みたいなものが忘れられてるけど、そういう歴史や文化に目を向けてほしい。もう一つ大事なのは、調査される側、つまり島の人たちの迷惑を考えてほしいということ。来てくれるのはうれしい、めっちゃうれしいんだけど、瀬戸内ってのは非日常のテーマパークじゃなくて、ガチの日常の世界なんですよ。そこにどうやって入っていくか、どう関わるかが、めっちゃ重要」

 「観光でも同じ。島の人たちの家を荒らしたり、迷惑かけたりするのはダメ。昼間なんて、みんな寝てるような時間もあるわけで、そういう生活のリズムをちゃんと理解して敬意を持って接してほしい。それが大前提。で、島の人たちの幸せを感じることと、観光と芸術祭は一緒に歩まなきゃ、ぶっちゃけ、芸術も観光もやめたほうがいいって思ってる。それが私の基本スタンスです」

 と話した。そのうえで、瀬戸内の個性について、

 「瀬戸内の島々って、それぞれ地形や植生、動物、生活、意識があって、めっちゃ個性的なんですよ。それをちゃんと掴んで、アーティストがその場所ならではの面白いものを見つけ出してくれるだろうって始めたのが芸術祭。そしたら、やってるうちに、想像もしてなかったことがバンバン起きてきた。作品自体は面白いんだけど、作品を作るプロセスが大変。場所を借りる許可を取るの、めっちゃ大変なんですよ」

 「今でもいろんな問題が起きるけど、その過程でアーティストやサポーターが島の人たちと一緒に汗かいて、変わっていくんですよね。特にキツいのは、100年分の歴史を掃除する作業。古い家や倉庫を片付ける中で、精神的にキツいこともある。サポーターも相当がんばってくれている。そうやって作品ができて、来場者を迎える運営が始まると、作品の魅力や場所の魅力だけじゃなくて、いろんな人が関わることで、でっかい夢みたいなものが生まれる。それが地域づくりに繋がるんです」

 来訪者のアンケートについて、

 「来場者のアンケートを見てると、島の景色やアートもいいけど、島の人と話したり、地元の飯を食べたりするのが一番心に残ってるって言うんですよ。それが成功の鍵。経済的にも、海外からの人気はすごい。中国や台湾じゃ、瀬戸内って普通名詞みたいになってて、観光の代名詞になってるくらい」

 「この芸術祭を支えてるのは、『こえび隊』ってボランティアチーム。彼らは3年に1回の100日間だけじゃなくて、普段から島の運動会や文化イベントに関わって、ずっと地域を盛り上げてくれてる。それが一番の力になっている」

 今年の芸術祭への想いは、

 「2025年は、ゼロからやり直そうってことで、細かいとこから作り直してる。特に、海外との繋がりを強化してる。今回新たにニュージーランドとスウェーデンが参加して、もともと深い関わりがあったオーストラリア、台湾、フランス、オランダ、ドイツ、アジアの国々ともガッツリやってる」

 「海の繋がりって、なんか遺伝子に刻まれてるような魅力があって、海外から来る人も、船や飛行機で来る人も、みんなその海に惹かれてる。世界と繋がるのは、意識的にやってる課題の一つ。例えば、高松港での難民プロジェクト。ホンマタカシさんが難民の人たちが大事にしてるものを写真で表現して、UNHCRと一緒にギャラリーを作っている」

 と、先に紹介したホンマタカシ氏の展示にも触れた。海で世界と繋がっている瀬戸内国際芸術祭の想いがあふれる展示になったホンマ氏のUNHCRとのコラボも、「今年は原点回帰だ」と語る北川氏が試みた取り組みを感じられるだろう。

 そして、訪れる人たちに向けてメッセージをもらった。

 「高松港では、地域らしい食事の出し方やおもてなしで『ようこそ!』って迎える。ギリシャ時代から、人は知らない土地を旅してきたけど、瀬戸内はよそから来た人を温かく受け入れるのが得意。それを徹底的にやってる」

 「結局、瀬戸内国際芸術祭って、海と島の魅力、アーティストの力も大事だけど、一番は『どうやって人を迎えるか』。それが初回から積み重ねてきたこと。明日、関係者が集まってピックアップするイベントもあるから、覗いてみるのもいいかも。とにかく、瀬戸内は世界と地域と人を繋ぐ場所。しっかり感じて、楽しんでいってください!」

揺れる船中で熱く語る北川フラム氏

■瀬戸内国際芸術祭概要

会期(計107日間):
春会期:2025年4月18日~5月25日(38日間)
夏会期:2025年8月1日~8月31日(31日間)
秋会期:2025年10月3日~11月9日(38日間)

会場(全17エリア):
全期間:直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺、宇野港周辺
春会期:瀬戸大橋エリア(坂出市:沙弥島、王越町、瀬居島)
夏会期:志度・津田エリア(さぬき市)、引田エリア(東かがわ市)
秋会期:本島、高見島、粟島、伊吹島、宇多津エリア
新規エリア:志度・津田、引田、宇多津。直島では「直島新美術館」(2025年5月31日開館予定)も会場に。

チケット・料金:
・全会期に使用可能なオールシーズンパスポート
*春・夏・秋の全会期で使用可能で、芸術祭の参加作品(施設)が各1回鑑賞できる(一部別途料金が必要な施設あり)。地中美術館や豊島美術館など一部の作品や施設等は、別途鑑賞料等が必要。パスポートではなく、各作品ごとで入場料を払って入ることも可能。春夏秋のシーズンごとのチケットは4500円。

一般(19歳以上):5500円

ユース(16~18歳):2500円(要身分証)

15歳以下の鑑賞料:無料(一部施設、作品を除く)

公式サイト:
https://setouchi-artfest.jp/

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