元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編

渋谷の超高層46階と地上をつなぐアート「DOWN TO TOWN」をリポート

 渋谷スクランブルスクエアの14~46階、屋上を占める「SHIBUYA SKY」の46階にある屋内展望回廊「SKY GYALLERY」で2022年5月20日より始まった、アートチーム「SIDE CORE」によるEVERYDAY HOLIDAY SQUAD SOLO EXHIBITION「DOWN TO TOWN」をアーティストの解説を聞きながら観てきた。

 「SHIBUY SKY」は、14~45階の「SKY GATE」、46階の「SKY GALLERY」、屋上の「SKY STAGE」からなり、渋谷の街の文化施設やカルチャーと連携しながら、情緒的価値を発信し、街との循環を生み出すというコンセプトを持ち、全体の体験を通じて「知的好奇心を育てる文化発信施設」を目指している、と言う。

 そのなかで、「SKY GALLERY」では、エキシビジョンのシリーズを開催していて、第一回は写真家の石川直樹、第2回はアーティストの岩崎貴宏、第3回は雑誌のTRANSITの展示を行ってきたが、今回のSIDE COREが第4弾となる。施設のコンセプトは「展望せよ。渋谷。世界。自分。未来。」。ストリート・カルチャーを切り口に、都市の様々な場所で表現を繰り広げてきた彼らにとっても、超高層ビルの展望回廊でのアートが如何に街につながるかは見ものだ。

渋谷の地図をアートに。街を展望できる場所だからこそ俯瞰する地図が生きる。持ち歩ける大判の地図も配られる。SIDE COREの松下徹氏

今回の会場ではないが、今や渋谷の超有名映えスポットでもある、屋上の「SKY STAGE」で筆者もパチリ

メタ観光も大共感する、超高層の展望台だからこそ街と繋がる渋谷の多層レイヤー世界

 SIDE COREは2012年に活動を開始した、高須咲恵、松下徹、西広太志からなるアーティストチーム。「風景にノイズを起こす」をテーマに、都市や地域のリサーチを基に、通常の展示以外にも街の壁画や、街を探索する「ナイトウォーク」などを展開し、「公共空間」での視点や思考を転換させ、表現や行動の拡張を目指している。今回の展示は、SIDE COREがプレゼンツした、EVERYDAY HOLIDAY SQUAD(2015 年度よりSIDE CORE と共に活動する匿名アーティストグループ。アーティスト、キュレーター、映像作家等が参加)という匿名アーティストグループの個展という形を取っている。

 今回の展示は、渋谷の重層的なあり方を絵画にしたものや、工事現場の作業員に扮したスケーターが都市を疾走する映像作品、渋谷の歴史を、かつて川だった暗渠から海外のグラフィックアーティストの痕跡まで多層的に表した巨大地図と携帯用の大型地図(自由に持っていける)などからなり、さらには、高性能な望遠鏡が2機設置されていて、そこからのぞくと渋谷の街中からこちらを除く人形の作品と目が合う。超高層の展望台だからこそ、街を俯瞰し、逆に地下の見えなくなっている暗渠まで繋がれる。

 これは高層施設の展望所ならではの目線で、外に広がる街自体が借景になる「見立て」の世界だ。思い出すのは、2011年に、大阪府の実施していた地域アート、「おおさかカンヴァス」で、編集者、ライター、漫画原作者として知られる竹熊健太郎氏が、当時の京都精華大学TMゼミとともに、大阪の通天閣4階展望台をジャックした漫画「ビリケン物語 ~太郎とマリケン純情篇~」。展望台の窓全面をジャックし、ビリケンが主人公の冒険コメディ・マンガで、くいだおれ太郎など大阪でおなじみのキャラクターが登場するのだが、窓から見える動物園など、背景の実風景ともコラボした「現代の屏風絵」を目指した。筆者はおおさかカンヴァスの審査員をしていたのだが、竹熊氏と都市でのアートを話し合う中から生まれた作品だ。

 また、筆者が理事を務めるメタ観光推進機構が、2021年に墨田区で展開した「すみだメタ観光祭」で、多層レイヤーが積み重なる都市のあり方を、今回の展示同様、暗渠や、更には路地の行き止まりであるドンツキ、空を埋める電線などに着目して解き明かし、その重なりを楽しむというトライアルとも共鳴しているように感じる。今回の映像展示は夜間になると窓への映り込みから、更に重層的な面白さを発揮する。

『river diver map』

 SIDE COREとEVERYDAY HOLIDAY SQUADによる渋谷の街のガイドマップ。勿論、普通の観光ガイドではない。メタ観光的には共感しかない地図。渋谷スクランブルスクエアから山手線を見下ろした地図で、実に興味深いのが、大部分が暗渠となっている、穏田川と宇田川、この2つの川が合流した渋谷川の川沿いにフォーカスした地図であるという事。過去の地形に街の成り立ちが影響されていることがよくわかる。古くは葛飾北斎の富嶽三十六景『穏田水車』、岡本太郎が1968~69年にメキシコのホテルで描いた『明日の神話』から、1993年に来日した伝説的なグラフィック・アーティストのMEARの作品がひっそり眠るコイン・パーキング、最近のストリートアートまで、独自の視点で街を紹介する。

『stranger’s storage』

 SIDE COREの松下氏によると、人は、たとえば記憶法などで、頭の中に棚を作って収めていくが、まさに渋谷の地図を棚に見立てて、様々なアーティストが、街の棚の中に作品を収めているのだ、と言う。3つの作品は、宇田川町や道玄坂などの街の地図。場所にまつわる、記憶や感情が収められている。

『rode work(ver.tokyo) 2018(re-edit 2022)』

 この作品は、元々、この展望回廊に設置されている大小の複数モニターを活かしたもので、2017年に宮城県石巻市で発表された「rode work」シリーズの2作目となる。工事現場の作業員に扮したスケーターが街中を疾走し、夜間工事現場のようなスケートパークをつくりだしていくのだが、横長の様々なモニターに工事現場の電光掲示板などを切り出しており、印象的な夜間工事用ライトは、電波時計の仕組みで福島県や佐賀県と連動し、都内の点滅ライトとシンクロしているのだという。夜間はガラスの映像が反射して、映像の中に夜景が重なり、更に重層性を感じさせてくれる。

『i'm looking at you』

 高性能な望遠鏡2機が設置されている。覗いてみると肉眼では見えないネズミの人形が、渋谷にある建物の屋上にいる事が分かる。まるで、こちらを逆に覗き返しているように。

■開催概要

会期:2022年5月20日〜7月24日
会場:渋谷スクランブルスクエア「SHIBUYA SKY」 46階、「SKY GALLERY」
住所:東京都渋谷区渋谷2-24-12
開館時間:10:00〜22:30(最終入場は21:20まで)
休館日:年中無休 ※ただし臨時休館の場合がある
参加方法:イベント当日のSHIBUYA SKY入場チケット購入、もしくは年間パスポート所持
料金:
[ウェブチケット]大人 1800円 / 中・高校生 1400円 / 小学生 900円 / 幼児(3〜5歳) 500円 / 3歳未満 無料
[窓口チケット]大人 2000円 / 中・高校生 1600円 / 小学生 1000円 / 幼児(3〜5歳) 600円 / 3歳未満 無料
特設サイト:https://www.shibuya-scramble-square.com/sky/vol4sidecore/

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