大阪最大級のだんじり祭りと創業約400年の和菓子屋、そして古民家カフェも。 平野の歴史と文化を知ることで街の魅力を再発見!
2023年09月07日 10時00分更新
これまで暮らしの利便性や快適な生活などを紹介することで平野の魅力を伝えてきましたが、第3回では平安時代から栄えてきた平野郷と呼ばれるエリアにスポットを当て、その歴史や祭りなどの文化を紹介します。長年受け継がれてきた伝統を知ることで平野のことをより深く知れるはず。住みたい町・平野の秘密に、ぜひ触れてみてください。
自由都市・平野郷の成り立ちとだんじり文化
平野郷は平安時代、日本史の教科書にも登場する征夷大将軍・坂上田村麻呂の次男である坂上広野麻呂が領主となったことで発展し、大阪の中ではいち早く開けた町のひとつとなりました。戦国時代以降は周囲を二重の濠と土居で囲むことで外敵の侵入を阻止し、町民たちが自治を行う先進的な自由都市へと変貌していきました。
そんな平野郷は交通の要衝や商業都市という役割だけでなく、日本の文化史においても重要な役割を果たしています。
享保2年(1717)、日本初の民間による教育機関「含翠堂」が設立、身分の違いを越えたさまざまな人たちが国学や算学、医学などを学んだといわれており、当時としては先進的な組織であったことがうかがい知れます。
また平野の歴史と文化を語る上で重要なのが7月11日から14日にかけて行われる「杭全神社 平野郷夏まつり」です。祭りそのものの起源は平安時代に疫病封じの目的で行われた祇園会とされていますが、宝永2年(1705)には初めて神輿が登場。これが現代まで続くだんじり曳行のルーツとされています。
祭りは7月11日に裸神輿の巡行からスタートし、翌12日の夜には9つの町によるだんじり曳行が行われます。9台のだんじりは歴史的な彫刻が装飾されるなど、技術の粋を結集した造形が見る者を圧倒します。江戸時代や明治時代に制作されたものが今なお現役で稼働、300年以上続く祭りの伝統を感じさせます。そして午後10時には南港通に9台すべてが集結、周囲はギャラリーで埋め尽くされ、お祭りならではの特別な賑わいを見せます。
13日の午後7時頃から1台ずつ杭全神社への宮入が行われ、ここでは町ごとに観客を楽しませる演出が披露されることも。深夜12時を迎える頃に盛り上がりはピークを迎え、だんじりはそれぞれの町へと帰っていきます。14日には杭全神社の祭神である素盞嗚命(スサノオ)が年に一度、宮の外に出るため神輿の渡御が行われます。その後、神輿渡御を知らせるふとん太鼓による巡行が終わり、神輿が杭全神社に帰還すると4日間にわたる熱い祭りの幕を閉じます。
平野郷の夏祭りは古来、国の管理や援助を受けず町民が独自で行うスタイルを受け継いできました。現在も行政の手を借りずに、町の人々が運営しています。
大阪市内で最大の規模を誇るだんじり祭りは、このような町の人々のたゆまない努力が背景にあり、そこに平野郷の確固たるプライド、町民の矜持を感じさせます。
平野の歴史を見守る杭全神社と歴史ある和菓子店
町中の至るところにクラシカルな風情が漂う平野郷。その礎を築いたといっても過言ではない寺社仏閣、そして地元民の食を支え続けてきた老舗店からも連綿と受け継がれる歴史を体感できます。
平野郷を象徴するランドマークの一つである杭全神社は、貞観4年(862)に坂上田村麻呂の孫・坂上当道が祭神として牛頭天王を祀る祇園社を建てたことで創建されたと伝えられています。以来、平野郷の守り神として崇敬を集め、鎌倉時代初期には熊野證誠権現を奉祀。南北朝時代には後醍醐天皇の命により熊野三所権現を第二本殿に祀り、多彩な神が鎮座する神社となりました。
長い歴史の中でさまざまな種類の神を祀ってきた杭全神社の特徴について、禰宜を務める藤江寛司さんにお話を伺いました。
「杭全神社は、もともと八坂神社と同じ祇園信仰の神社として創建されたのですが、その時代で盛んになっていた信仰やお祭りを取り入れようという自由都市・平野郷ならではの風潮があり、後に熊野信仰も受け入れたのではないかと考えられます。明治時代には「廃仏毀釈」と後に呼ばれる神仏判然令が施行され、境内にあった弘法大師堂も廃寺を迫られましたが、近くにあった坂上家の菩提寺にある田村麻呂公のご神像と弘法大師像を入れ替えたことで両方の建物は難を逃れたというエピソードがあります。こういった町民の知恵も平野郷らしさが感じられますね」(藤江さん)
また杭全神社の境内には、鎌倉時代から室町時代にかけて盛んになった連歌(和歌の上の句と下の句を複数人で分担して読み合う文芸)に取り組む施設・連歌所が日本で唯一、現存しています。この建物では全国から連歌の有識者が身分に関係なく集い、歌を詠みあったといわれています。現在の建物は宝永5年(1708)に再建されたもので、奉納行事として復活した連歌会の会場としても使用されています。
平野郷の歴史を知る上で、リアルな時代の面影を見られる寺社仏閣の数々。その中でも杭全神社が歩んできた道筋は、形式にとらわれない平野郷の自由なスタンスを象徴しているといえるでしょう。
日本で唯一現存している杭全神社の連歌所。連歌の衰退以後、社務所の一部として使用されていたことで破却を免れました。
「杭全神社」
参拝時間:5:30~日没
住所 大阪市平野区平野宮町2-1-67
電話 06-6791-0208
HP:https://kumata.jp/
平野郷には老舗と呼ばれる店も数多く残っています。その中でもまもなく創業400年を迎えるという、とびきり長い歴史を誇るのが和菓子専門店の「福本商店」。名物である亀乃饅頭が有名なこちらは、かつて菓子の他に味噌や砂糖も扱うことで平野郷の暮らしを支え、現在は先代の3女である福本理帆さんが9代目としてお店を切り盛りしています。
亀乃饅頭は、鎌倉時代に大念仏寺の住職・法明が海の亀に融通念仏を授けたというエピソードを源とする由緒ある一品。かつてはせいろで蒸して作られていましたが、いつの頃からか特注の鋳型に挟んで焼くスタイルへと変化。カステラ生地のふわりとした食感と蜂蜜と白あんによるほのかな甘みが絶妙で、いくら食べても飽きることがありません。保存料を使用していないため、購入後はすぐに食べるのがおすすめです。
亀乃饅頭以外の商品は季節ごとに入れ替わり、春から夏にかけてはようかんや葛を使った七夕など涼し気な和菓子が並びます。色味も鮮やかで、インスタ映えすると若いお客さんが買いに訪れることも多いのだとか。また毎月1日と15日には旧暦の慣習に習って赤飯が炊かれ、こちらも亀乃饅頭と並ぶ名物となっています。
重厚な柱や梁が支える店内は、部分的な補修こそすれ、創業当時から大幅には改装しておらず、随所に歴史の深さがにじみ出ています。由緒ある店内に身を置いているだけで、江戸時代の人々と同じように買い物を楽しんでいるというロマンを感じられるはず。
「福本商店」
営業時間:9:30〜16:30
定休日:月火
住所 大阪市平野区平野上町2-9-10
電話 06-6791-0977
風情ある町並みに調和する古民家カフェ
古き良き町並みを残す平野では近年、古民家を再利用した飲食店が急増中。歴史ある建物と現代的なカフェ文化が調和することで、新たな街の魅力を生み出しています。ここでは地元民ご用達の人気店を2軒ご紹介します。
光源寺や観音寺など寺が密集する天神筋沿いのエリアで2022年7月にオープンした「あひる菓子店」は、309号線沿いに店を構える「あひる珈琲」の姉妹店。製菓学校の同級生でバリスタの経験を持つ生駒彌鈴さんと梅岡文音さんが共同で経営し、ケーキや焼菓子など手作りのスイーツを提供しています。江戸時代後期に建てられた僧侶の住居跡といわれる店舗では、テーブルやカウンターでゆったりとカフェタイムが楽しめます。
数あるメニューの中でも、特に食べておきたいのがイートイン限定の自家製プリン。ほどよい弾力の食感と香ばしいカラメルソースが織りなすハーモニーは、口に入れた瞬間、懐かしさと、きめ細やかなバニラの風味をめいっぱい運んでくれます。「あひる珈琲」でも供されている香り豊かなコーヒーとの相性も抜群です。
「メニューを作る際は、食べ終えた後に『もう少し食べられる』と感じる軽さや、最初に口に含んだ時に広がる香りを意識しています。甘いものは食べ続けるとしんどくなることもあるのですが、当店のお菓子はしつこさがないので、お一人で2つ食べられる方もいらっしゃいます。お腹に余裕がる方は、ぜひ、ご自宅でのお茶請けとしてテイクアウトメニューをご購入いただけたらと思います」(梅岡さん)
こちらのお店では奥にガーデンスペースが広がっており、エノキの巨木や緑に囲まれながらウッドデッキで優雅なひとときを過ごすことができます。
「お庭は、店をオープンする際に庭師さんに入っていただき、植栽とデッキテラスの設置をお願いしました。鳥が羽を休めに来たり、秋になると生い茂った木の実が落ちてくるなど、町中とは思えない穏やかな時間が流れています。こちらではペットカート、もしくは抱っこで店内を通過していただければワンちゃんと過ごしていただけるので、お散歩途中に立ち寄っていただけたら嬉しいです」(梅岡さん)
東大阪市出身の梅岡さんは、「あひる菓子店」のオープンで平野への思いが深まっているとのこと。
「友人が住んでいたので学生時代からたまに平野に訪れていたのですが、当時は閑静な住宅街という印象でした。実際に自分が働いてみると、地域に根づいたお店がたくさんあって、みなさん地元愛が強いことを実感します。当店も週末はSNSを見られた若い方が多いのですが、平日は子育て世代の方からご年配の方まで、本当に地元のみなさんが年齢に関係なく来てくださっています。この近辺も『あひる珈琲』がオープンした4年前に比べてお店の数も増えているし、これからどんどんにぎやかになっていくのではないかと思います」(梅岡さん)
「あひる菓子店」
営業時間:11:00〜18:00(17:30 L.O)
定休日:月火
住所 大阪市平野区平野本町4-11-33
電話 非公開
HP:https://www.instagram.com/ahiru.kashiten/
ビス平野や平野本町通り商店街からほど近い場所にある「だるま珈琲」は、2017年にオープン。大阪・アメリカ村の「クリッターズバーガー」や阿波座にある「バーガリオン」などで勤務経験を持つ内藤雅継さんが独立し、奥様の地元である平野に魅了されたことがオープンのきっかけとなりました。
「結婚してから引っ越してきたのですが、下町の雰囲気も素敵だし交通の便も良いので、自分で店をやるなら絶対に平野がいいなと思っていました。夏祭りの時期には店の前をだんじりが通って、にぎやかで楽しい雰囲気になるんですよ」(内藤さん)
推定築100年という建物は、もともとお茶の専門店だったとのこと。古き良き雰囲気を残すため改装は最小限にとどめ、古民家でハンバーガーとこだわりのコーヒーが味わえるという大阪でも珍しいスタイルの店舗が誕生しました。
「土間はお茶の葉を売っていた店舗で、奥と吹き抜けになっている2階が住居として使われていたようです。平野郷は戦争の被害をほとんど受けなかったので古い建物がたくさん残っているのですが、更地になる場合も多く、僕は本当に運良く借りることができました」(内藤さん)
福井県出身の内藤さんは、大阪で偶然見つけたアルバイト先がハンバーガーショップであったことから、その魅力に開眼。ボリューミーなリッチ系バーガーの可能性を追求するべく修業を重ね、自身の味を開拓してきました。
「レシピはすべてオリジナル。肉も店内で仕込んで、バンズは近所のパン屋さんに特注で作ってもらっています。野菜も肉も平野区内のお店から仕入れているので、まさにメイド・イン・平野です。コーヒーも世界中で採れる豆の上位5%といわれるスペシャルティグレードのものにこだわっています。最近ではほぼチーズだけで作ったバスクチーズケーキもメニューに登場しました。見た目の大きさとは裏腹にハンバーガーの後でも食べられるあっさり風味なので女性のお客様からも好評をいただいています」(内藤さん)
店内では、縁起が良いということで名前の由来になっただるまを模したオリジナルグッズを販売。子ども向けの絵本コーナーや奥にハンモックを吊るしたテラススペースが設けられるなど、居心地の良い空間が長居を誘います。
「繁華街に行くとのんびり食事をするのが難しいので、リラックスできるお店にしたいなと思っていました。平野という場所柄、並ばないと入れないということもないので、お子さん連れでも気軽に入っていただけるかと思います。また僕が音楽やアートが好きなので、店内のポスターや置いている本で、そういったカルチャーが好きな方にも楽しんでいただけたらと思います」(内藤さん)
「だるま珈琲」
営業時間:10:00〜18:00
定休日:日
住所 大阪市平野区平野本町3-2-24
電話 06-6777-7442
HP:https://www.instagram.com/dharmacoffee2017/?hl=ja
今回は大阪が誇る自由都市・平野郷をはじめ、この町が持つ歴史を中心に紹介しました。長い時を経て築かれた平野の文化に身を置けば、自身が伝統の中に溶け込んでいるような魅力度の高い暮らしを送ることができるでしょう。
全3回の取材を通して私自身、平野の魅力を再発見しました。都心からすぐの便利さにありながら、子どもを遊ばせる公園や個性的な飲食店の数々、また歴史を感じさせる町並みやその歴史を現代にマッチさせたカフェなど、この町が持つ様々な顔に出合うことができました。ぜひこれを読まれた皆さんも、実際に町を歩いて平野での生活を思い描くきっかけにしてください。
*金額はすべて税込みです
(提供:NTT都市開発)
エリアLOVE WALKERの最新情報を購読しよう