エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第27回

石川県・金沢市で国内唯一の「KOGEI」に特化したアートフェアをホテルで開催、1部屋1ギャラリーを巡ってきたぞ

 国内唯一の工芸に特化したアートフェア「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」が2024年11月29日〜12月1日、石川県・金沢市の金沢駅西口前ホテル「ハイアット セントリック 金沢」で開催された。国内外40ギャラリー、作家210名が集まり、1部屋1ギャラリーで作品を販売した。今年は、過去最大数となるイベントを金沢市内や近郊で多数開催。お茶会やトークイベント、国立工芸館との連携プログラムなどを通し、「いま手に入れるべき工芸」に出会う3日間を繰り広げた。筆者も秋の金沢を訪れ、単にアートではない「KOGEI」に触れてきた。

GALLERY龍屋(愛知)。ホテルのベッドの上に並ぶ動物をかたどった家具の作家は北奥美帆。椅子として座れる

モノノアハレヲ(福岡)。出展作家は、後藤 晃毅/OMJOOSOO/YOICHI/松村 淳。それぞれのギャラリーが、与えられたホテルの部屋を自分の世界に構成する

様々な伝統文化が日常に根付く金沢のまちなかから「KOGEI」の魅力を発信するアートフェア

 「KOGEI Art Fair Kanazawa」は、2017年から石川県金沢市で実施している、工芸に特化したアートフェア。新進気鋭の若手作家の作品から世界で活躍する作家の作品まで、国内外のギャラリーが集まる。「KOGEI」の魅力を、茶の湯や禅、能楽など、様々な伝統文化が日常に根付く金沢のまちなかより発信してきた。このアートフェアは、より暮らしに近い空間の中で、芸術性・創造性の高い作品をじっくり手に取ってもらえるよう、ホテル「ハイアット セントリック 金沢」の客室を使い、1部屋1ギャラリーでの展示方法を採用している。

 同ホテルの2階、5階、6階の3フロアを使用して展開されたが、中でも目を引いたのは、「MUFG工芸プロジェクト」として11月29日・30日に催された茶会だろう。茶室そのものを大きな桶で作った世界は、木の香りに包まれ、隅のない丸い空間が不思議な感覚を誘う。

 ホテルの各部屋を巡って、様々なギャラリーに迷い込む楽しさは、大きなスペースでのアート・フェアとは違った親しみやすさを感じさせてくれる。古都・金沢ならではの伝統が持つ「工芸」の空気感と、アートを「KOGEI」に昇華させたコンセプトがマッチしていた。

【MUFG茶会】
 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2023年から「KOGEI Art Fair Kanazawa」のリードスポンサーを務めていて、今回は訪れた客に工芸に触れる体験を提供したいと考え、木工職人の中川周士が制作した「木桶の茶室」を会場に特別に設置した。11月29日・30日の2日間、「ハイアット セントリック 金沢」2階で、裏千家今日庵業躰の奈良宗久が席主を務める「MUFG茶会」を開催した。桶の技術を応用した茶室で、MUFG工芸プロジェクトの関連作家などの作品と共に、木の香りと抹茶を楽しめる空間を提供した。

巨大な桶の茶室の中で席主を務める奈良宗久

左から茶室を制作した中川周士(木工職人)、中央が席主の奈良宗久、右が総合監修の秋元雄史(東京藝術大学名誉教授)

■出品作家(一部)

●眞壁陸二
 galleria PONTE ガレリアポンテ(石川)。1971年金沢出身。多摩美術大学絵画学科油画専攻卒。現在、金沢市在住。瀬戸内国際芸術祭などで、よくお会いする作家だが、今回は地元開催フェア。

●古家達成
 
川田画廊(兵庫)。1998年、大阪生まれ。2021年、大阪芸術大学/芸術学部/美術学科油画専攻卒。プロフィールより「心体に記録されたものを足し引きし熱を組み込み塊を生み出す。熱は外的にも内的にも伝わるエネルギー。その熱を塊に組み込むことでできた焦げ跡、土のような表情から視覚的に熱を心体に伝え、熱を再確認できる伝達ツールを生み出している。 生命を支える熱のように自身の作品も身近なもので在りたい」

●北奥美帆
 GALLERY龍屋(愛知)。1989年、三重県出身。2013年、東京芸術大学デザイン科卒。プロフィールより「素材と加工のことをもっと知りたくて家具メーカーに就職在職中に2級家具制作技能士(手加工、いす張り)取得」

●タカハシアオイ
 多治見市文化工房ギャラリーヴォイス(岐阜)。1999年、宮城県生まれ。2022年、筑波大学芸術専門学群構成専攻工芸領域修了。

●マスタニ メイ
 
Shukado+SCENA(東京)。シンガポール生まれ、富山県在住ガラス作家。プロフィールより「私の表現は人間性、潜在意識の狭間にあるものに焦点を当てている。言葉では表現できない感情をガラスの透明感で繋げていく。ガラスは無機質な元素で構成されているが、狭間に想いを繋げば有機質な存在になると想う。ガラスならではの光と影、隂と陽、その釣り合いを大切に造形している。忘れてしまった泡沫の記憶を思い出すかのように、その予兆が訪れる事を願う。(作家)」

●下村優介
 
TRI-FOLD OSAKA(大阪)。切り絵作家。大阪生まれ。プロフィールより「学生時代はラグビー選手として10年間を過ごした後ラーメン屋を経て、2012年より完全独学で切り絵を始める。自身の手描きの線を最大限に活かした細密なだけではない生命感のある作品を切り出している。今までに見たことのないオリジナルな切り絵を求め、制作に取り組んでいる」

●藤田朋一
 
Gallery MARUHI(東京)。1976年、千葉県生まれ。1997年、飛騨国際工芸学園木工科卒。

●五宝恵理
 
TRI-FOLD OSAKA(大阪)。2009年、金沢美術工芸大学工芸科鋳金コース卒。プロフィールより「私は、蝋を使って私という人間の温度差を表現しています。人間の根源に迫るような、プリミティブで切実な表現を心がけています」

●岡部賢亮
 
COMBINE/BAMI gallery(京都)。1990年、大阪府生まれ。2015年、沖縄県立芸術大学大学院 造形芸術研究科 環境造形専攻 彫刻専修修了。

●公庄直樹
 
COMBINE/BAMI gallery(京都)。1982年、滋賀県生まれ。2009年、京都市立芸術大学美術研究科修士課程漆工修了。京都市立芸術大学非常勤講師。

●大曽根俊輔
 ギャラリー石榴(長野)。1978年、神奈川県生まれ。2002年、武蔵野美術大学・工芸工業デザイン学科卒。

■出品ギャラリー(一部)

●レントゲン(東京)
代表者:池内務
出品作品について:「巧術」
日本語の「巧み」という言葉には、正確さや細かさといった物理的なだけではなく、聡さや狡さといった知性の技術に裏付けられた意味合いが込められている。美術、ART、工芸の意味が混沌とする今日、この「巧み」を持つ単語「巧術」の冠を改めて彼らに与え、この国ならではの視覚表現の在り様を問う。
ギャラリーコンセプト:超絶技巧、固体衝撃、怜悧美学
出展作家: 桐山 征士/佐藤 好彦/坂田 あづみ/小林 淳一郎/松本 涼/森本愛子/悠/満田 晴穂

●Gallery MARUHI(東京)
代表者
:鴻池綱孝
出品作品について:KOGEI Art Fair Kanazawaでは初出品となる新進の作家を集めました。岡村悠紀は焼き物による細部まで可動する蟹の自在置物を。藤田朋一はアクリル樹脂を使い組み木造りとも言える方法で新しい工芸を目指します。 
ギャラリーコンセプト:工芸においても、レーザーカットや3Dプリントを取り入れた新しい作品が作られています。これにより、従来の技術では難しかった複雑なデザインや軽量化が実現しています。これらの新しい工芸作品は、伝統を尊重しつつも現代の技術やデザインを取り入れることで、日本の工芸の新しい可能性を広げています。Gallery MARUHIは、才能ある若手作家を発掘し、先述した工芸作品を紹介するギャラリーです。伝統技法と現代の革新を融合した作品を展示し、各作家の個展を通じてその独自性と技術を紹介します。
出展作家: ヤマダカズキ/藤田 朋一/岡田 守弘/岡村 悠紀/白谷 琢磨

●ギャラリー石榴(長野)
代表者:薄井みゆき
出品作品について:このたびご紹介するのは、漆やテキスタイルなど、「工芸」に属する素材について学び、それと向きあって制作しながら、現代に生きる者としての表現を模索する4名の作家たちの作品です。 人の生活や息づかいに寄り添いながら、時代を超えて残っていく強度を備えたもの。そうしたアートピースとしての条件にかなう仕事を、彼・彼女たちの作品に発見していただけたら幸いです。 
ギャラリーコンセプト:1995年に長野県松本市で開廊。2009年から東京に南青山Roomを開設し、2か所を拠点に以下のコンセプトのもと、活動しています。 1) 新たな視界をひらく同時代作家の、よき対話者・伴走者を目指し、作品を世に送り届けるお手伝いをする。 2) 過去の重要作家の仕事を丹念に追い、歴史的な位置づけを問う作品収集や企画展の開催を行う。 3) 作品の販売やアーカイブ化、出版活動を通じ、人々の日常生活と美術の接点を探る。
出展作家: 中居 瑞菜子/ARADOMO/大曽根 俊輔/矢部 桜

●モノノアハレヲ(福岡)
代表者
:氷室秀知
出品作品について:「うつろい」を感じる美しい作品群を通し、我々の生命の本質とは何かを再認識する展示を目指します。
ギャラリーコンセプト:モノノアハレヲは国内外の現代美術の作家を中心に取り扱うコマーシャルギャラリーです。ギャラリー内での企画展や国内外のアートフェア、オンライン等にて、作品の展示販売を行っております。四季のうつろいや無常といったものに伴う「もののあはれ」をはじめとした、日本的美意識の底流が息づくような作品や作家を中心に幅広く発信をすすめております。また、作家の活動展開をマネジメントを含め共に行っております。
出展作家: 後藤 晃毅/OMJOOSOO/YOICHI/松村 淳

●田中美術(兵庫)
代表者
:田中満之
出品作品について:現在活躍中の女性工芸作家のお二人をご紹介します。
杉本ひとみ(陶芸)・巽愛子(ガラス工芸)。独自の作品世界を持ち、女性らしい感性を生かした「柔らかさ」「愛らしさ」「ユーモア」を表現した、観る人が思わず微笑んでしまうような暖かな世界を展開します。
ギャラリーコンセプト:近現代日本画を専門に、陶芸・工芸など幅広いジャンルから独自の眼でセレクトした「タイムレス&ボーダレスな美術作品」をご提案しています。
出展作家: 杉本 ひとみ/巽 愛子

■開催概要 
日時
:2024年11月29日、11月30日、12月1日
会場:ハイアット セントリック 金沢 2階、5階、6階 ( 石川県金沢市広岡1丁目5-2) 
ウェブサイトhttps://kogei-artfair.jp/
主催:KOGEI Art Fair Kanazawa 実行委員会 
協力:GO FOR KOGEI
 

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