ハラル・ジャパン協会の佐久間朋宏さん 「ムスリム対応という“おもてなし”で観光客に喜んでもらおう」
2025年03月12日 10時00分更新
政府観光局(JNTO)の発表によると、2024年に日本を訪れた外国人旅行者の数はそれまでで最も多かった2019年の約3,200万人を上回り、過去最多の約3,700万人を記録しました。そうした中、近年注目が高まっているのが「ムスリム(イスラム教徒)旅行者」です。その理由とは? そして、ムスリム旅行者への対応として欠かせない「ハラル対応」とは? ムスリムに詳しい専門家である、一般社団法人ハラル・ジャパン協会代表理事の佐久間朋宏さんにお話を聞きました。
東南アジアのムスリムが、東京に数多く観光に来ています
—— 今、ムスリム旅行者が注目を集めるのはなぜでしょうか。その理由を教えてください。
世界のムスリム人口は2030年には約22億人※に達し、世界の人口の約1/4を占めるとも言われています。当然、ムスリム関連のマーケットも拡大していて、観光立国を目指す日本においても、年々ムスリム旅行者への注目度が高まっているのです。
※出典:JETRO「ASEAN主要国におけるハラール認証制度比較調査」(2024年3月)
—— 国別で見た場合、特にどの国からのムスリム旅行者が多いのでしょうか?
多いのは東南アジアのムスリムですね。特に、シンガポール、インドネシア、マレーシアからの旅行者が多く、2024年は3か国だけで約170万人が日本を訪れました。もちろん円安の影響もありますが、比較的日本に近いという地理的な要因に加えて、日本の魅力が浸透してきたと言えるのではないでしょうか。
—— では、ムスリム旅行者がもっとも多く訪れる日本の都市はどこですか?
それは、やはり「東京」です。特に初めて日本を訪れる場合、東京は外せない都市となっています。このあとで詳しく説明しますが、「ハラル対応」の店舗や施設が多いのもその理由の一つで、“食の多様性”の観点から見ても東京はその選択肢が広いと言えます。
「ハラル」とは、神に許されている物事の指標です
—— そもそも「ハラル対応」とはどういったことなのか、わかりやすく教えてください。
ムスリムにとって、「ハラル」とは生活全般における“指標”のようなものです。食べ物だけでなく、行動や行為、服装などといったすべてにおいて、それがハラルかどうか(=神に許されたものやことなのか)を基準に生活しています。例えば、食べ物では魚介類、野菜、果物といったものがハラルで、逆に豚肉やアルコール飲料などは禁じられたもの(=ハラム)となります。ハラルとはムスリムにとって生活の一部ですので、旅行中であってもこの指標が変わることはありません。
—— つまり、その指標に合わせたメニューやサービスの提供が「ハラル対応」ということですね?
その通りです! 食べ物に関してもう少し詳しく言うと、「ハラル」と「ハラム」がひと目で分かるものもあれば、調味料や加工食品など、外見だけでは判断できないものも数多くあります。特に非イスラム圏である日本の食品や料理は、ハラルなのかハラムなのか、判断しづらいことが容易に想像できますよね。
—— では、ムスリム旅行者は滞在中、それをどうやって判断しているのでしょうか?
その一つが「ハラル認証マーク」です。このマークが付いている食材や、このマークを掲げている飲食店であれば、原材料がハラルなことはもちろん、調味料や調理方法、製造方法がハラルであること、その他その製品自体がハラムなものに触れていないという目印となります。
原材料の説明や表示があれば、ムスリムは大変助かります
—— 「ムスリムフレンドリー」という言葉を聞いたことがありますが、これも「ハラル対応」の一つですか?
「ハラル認証」は4つのグレードに分かれており、その中の一つに「ムスリムフレンドリー認証」(別名:「日本式部分ハラル認証」「ローカルハラル認証」)というものがあります。先ほどもお話ししたように、非イスラム圏である日本において基準を全部クリアすることは簡単ではありません。そこで考案されたのが、メニューや施設の一部がハラルの一定基準をクリアしていることを証明したムスリムフレンドリーという部分認証です。
—— 比較的取得しやすい「ハラル認証」というイメージでしょうか?
そうですね。ただ、「ムスリムフレンドリー認証」もハラル認証の一つですので、今すぐに取得できるというわけではありません。ですので、「ムスリムフレンドリー」という言葉は、どちらかと言えば「ムスリム対応」に近い意味合いではないかと考えられます。
ムスリム対応にきちんとした定義はありませんが、例えばムスリムのことについて学び、正しい知識を持ったスタッフがいる、メニューなどに関する情報開示ができる、自分の店舗のポリシーを説明できるといったことです。そのメニューに使われている原材料が何なのか、その説明や表示があるだけで、ムスリムにとっては大変ありがたいことなんです。これは、「ハラル対応」に限らず、「ベジタリアン」や「ヴィーガン」などへの対応でも同様です。そうした対応が東京から全国に広がっていけば、日本を訪れるムスリム旅行者の満足度も上がるし、旅行者数も今後さらに増えていくのではないでしょうか。
東京のムスリム対応施設を知るなら
「東京ムスリム旅行者ガイド2025-2026」
佐久間さんが監修を務めた東京観光財団発行の「東京ムスリム旅行者ガイド2025-2026」では、ムスリム対応した東京の飲食店、ショップ、ホテル、病院、礼拝施設を約200軒掲載しています 。また、人気の高い東京の観光地について、ムスリム視点での楽しみ方もご紹介!
東京観光パンフレットギャラリー
https://www.gotokyo.org/book/list/6920/
■プロフィール
佐久間朋宏(さくま・ともひろ)=岐阜県下呂市出身、イスラム関連ビジネスの普及、啓蒙活動を目的に活動。官公庁、自治体、各種団体、民間企業を対象に、ムスリム対応に関するセミナー・研修・コンサルティングを年間150件以上行う。また、教育、調査、PRなどマーケティング支援団体の立ち位置で、各地の自治体、企業、店舗と連携。イスラムマーケット専門に輸出・進出、およびインバウンド・ムスリム人材対応のサポートなどを行っている。
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