イギリスの天才画家・ビアズリーの回顧展 「時代を駆け抜けた」というキャッチコピーが秀逸な理由
2025年03月14日 19時00分更新

ビアズリー、ご存知でしたか?
美術館に行くときは、「以前から知っている画家・作家の展示があるから行こう」と思う場合もあれば、「よく知らないけど、気になったから行ってみたい」と考える場合もあるでしょう。
東京・丸の内の「三菱一号館美術館」では、2月15日から「異端の奇才――ビアズリー展」が開催中。洗練された作風で19世紀末の欧米を魅了した画家、オーブリー・ビアズリーにスポットを当てています。

JR東京駅徒歩5分の三菱一号館美術館。三菱が1894年に建設した「三菱一号館」(ジョサイア・コンドル設計)を復元したもの
本展は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館との共同企画。日本でもよく知られているオスカー・ワイルド「サロメ」などの代表作や素描だけでなく、ポスターや同時代の装飾など、およそ220点でビアズリーの芸術を展覧します。
ビアズリー、ご存知でしたか? 名前は知らなくとも、白と黒の対比が美しい「サロメ」の挿絵(記事冒頭のポスターにも使われているイラスト)を見れば、「ああ、この人ね」となるかもしれません。本記事は、そんなビアズリーのことを「よく知らないけど……」という人向けのものです。
当時のイギリスはどんな時代か
オーブリー・ヴィンセント・ビアズリーは、1872年、イングランドのブライトン生まれ。当時はヴィクトリア女王がイギリスを統治していた、いわゆる「ヴィクトリア朝」の時代。産業革命の勢いはそのままに科学や産業も発展し、イギリスという国自体が裕福になっていました。
この時期は展覧会が盛んに開かれていただけでなく、そこに通う富裕層が多かった点も重要。つまり、芸術家が(形の上では)上流社会と交遊があり、社会的な地位を以前よりも得ていました。一方で、ヨーロッパ全体を見れば、19世紀末に向けてさまざまな芸術が現れていた時代でもあります。
ヴィクトリア朝は保守的で道徳的な社会と言われていた一方、道徳的な功利性より美の享受・形成に価値を置く「耽美主義」も生まれていました。作品に込められた思想ではなく、美しさそのものが問われるわけです。この思想は当時の社会へのアンチテーゼでもあり、退廃的、反社会的な傾向も徐々に帯びていくようになります。
さらに、イギリスの芸術界では、「ラファエル前派」が後に流行する象徴主義に先鞭をつけ、大量生産による粗悪な商品があふれた文化を批判する眼差しから生まれた「アーツ・アンド・クラフツ運動」のように社会情勢に根ざした動きも出てきた……という頃でした。
病弱かつ、世間の声にも翻弄されたビアズリー
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異端の奇才 ビアズリー |
さて、ビアズリーは金銀細工師の父と、軍医の娘だった音楽教師との母の間に生まれました。後の画業を考えれば父の影響もあったかもしれませんが、子どもの頃からピアノを習っていたことや、文学の教養をそなえていたことなどは、母の教育によるところが大きかったかもしれません。
グラマースクール(初等中学校)を卒業し、病弱ながら仕事の合間に雑誌にエッセイを寄稿するなどしていたビアズリーの転機は、ラファエル前派との関わりも深い画家エドワード・バーン=ジョーンズとの出会いでした。彼のすすめで、ビアズリーはウエストミンスター美術学校の夜間クラスに出席することになります。
1892年には、トマス・マロリー作「アーサー王の死」の挿絵を書く仕事が舞い込みます。これは出版社が「バーン=ジョーンズのような作風で、彼より安価に頼めるから」ビアズリーに依頼したという話もあるそうですが、ともかくビアズリーはここからウエストミンスター美術学校を退学し、“プロ”の道に進むことになります。

フレデリック・エヴァンズ《オーブリー・ビアズリーの肖像――横顔》1894年頃、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 Photo: Victoria and Albert Museum, London
そして、1983年にオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」の挿絵画家に指名、1894年に文芸誌「イエロー・ブック」の美術編集を担当と、いよいよビアズリーは画家としての栄光の日々を迎えるかと思われました。
ちなみにアーツ・アンド・クラフツ運動を主導したウィリアム・モリスは、ビアズリーの挿絵を高く評価しなかったそう。それに対し、ビアズリーは「自分の作品は新鮮で独創性にあふれている」とやり返したそうですが、バーン=ジョーンズやモリスなど、ヴィクトリア朝の芸術界のキーマンにビアズリーは知られていたわけです。
しかし、オスカー・ワイルドが同性愛の罪(当時は違法でした)で投獄されると、ヒット作「サロメ」の挿絵を担当していたビアズリーもその流れから激しい批難にさらされ、「イエロー・ブック」の担当を降ろされることになります。
そのあとも精力的に画業を続け、芸術雑誌「サヴォイ」に参加するなどしたものの、幼き頃から彼の身体を蝕んでいた結核が徐々に悪化。1898年、25歳という若さで亡くなります。
ビアズリーの芸術を可能にした技術の進歩
ビアズリーの魅力とは、何か。白と黒の大胆な色面、精緻な線描による鋭い作風……と言えますが、では、「どうしてそれが可能になったのか」。
当時のヨーロッパでは、印刷技術の発達が進み、イギリスでは児童書や絵本のイラストレーターが活躍し始めた頃でした。かくいうビアズリー自身も、初めて自分の描いた絵で報酬を得たのは、11歳の頃にビアズリー家を援助していた裕福な友人から注文された「絵本の模写」によってなのです。
シャープな線が精細に印刷できるようになった時代に、ビアズリーは生きていました。過度に奥行きや陰影を強調せず、白と黒のコントラストを効果的に配置する作風に行き着いたのは、当時の技術の進歩が可能にした状況をうまく活用したといえます。もちろん、彼の天賦の才や、不断の努力がその奥にはあるわけですが。
独創的な構図、精緻な素描による、効果的な白黒の配置。それらが印刷技術の発展から可能になった19世紀末という時代には、耽美主義、デカダンスのムードが世を包み始めてもいました。その空気を、ビアズリーは鋭敏に感じ取り、作風に反映していたのでしょう。
ビアズリーの作品が技術的にも内容的にも脚光を浴びたのも(そして、ヴィクトリア朝時代の“保守的”で“道徳的”な人たちから眉をひそめられたのも)、実に自然な流れといえます。
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オーブリー・ビアズリー 欲望とデカダンス ヴィクトリア&アルバート博物館コレクションを中心に |
「異端の奇才――ビアズリー展」のキャッチコピーは、「25歳。時代を駆け抜けた。」。早逝したビアズリーの悲劇的な面をクローズアップしているだけではなく、彼の作品が、技法でもテーマでも“時代を駆け抜けた”ものであることにも触れた、秀逸な言葉です。
さて、あなたもビアズリーのことが気になってきたのではないでしょうか? 幸いなことに、「異端の奇才――ビアズリー展」は5月11日まで開催されています。当時のイギリス、ひいてはヨーロッパの空気感を今に伝えてくれるビアズリーの芸術に触れてみませんか。
異端の奇才——ビアズリー展
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2丁目6-2)
会期:2025年2月15日(土)~5月11日(日)
休館日:月曜日(2/24・3/31・4/28、5/5は開館)
開館時間:10:00~18:00
※祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日、4/5は20時まで
※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般 2300円、大学生1300円、高校生 1000円
URL:https://mimt.jp/ex/beardsley/
2025年、技術の進歩の現在地を知る
「異端の奇才――ビアズリー展」は、東京・丸の内にある三菱一号館美術館で開催されています。この展示は、19世紀末のテクノロジーと芸術を、時代を超えて享受できる稀有な機会といえましょう。
そんな丸の内で、2025年の最新のテクノロジー、そしてエンターテイメントの現在地を理解できるイベントも3月15日に開催されます。丸の内新東京ビルおよび丸の内仲通りを中心に開催される「UPDATE EARTH 2025ミライMATSURI」です。
米国スポーツのトップリーグであるMLBとパートナーシップを組み、日本のトップスポーツリーグと共に、教育をサブテーマとしたイベント。MLB、Jリーグなどのスポーツ界や、ビジネス界のリーディングプレイヤーによる特別セッションなども開催予定。
スポーツ以外の各プラットフォームにおいても、「未来を創る」「未来を知る」「未来を体験する」をテーマに、さまざまなワークショップ・展示を予定しています。
2025年、技術の進歩の現在地を知る貴重な機会です。ビアズリーの作品を見て当時の技術と精神性に思いを馳せるように、「UPDATE EARTH 2025ミライMATSURI」のでテクノロジーとエンターテイメントが交わる最新のスタートアップの世界に触れてみませんか。
ちなみに、「UPDATE EARTH 2025ミライMATSURI」の翌日、3月16日はビアズリーの命日です。3月16日、三菱一号館美術館に来館した人には、「異端の奇才――ビアズリー展」の解説付きポスターがプレゼントされます(1人につき1枚、なくなり次第終了)。会期中最後の機会となるので、週末はミライMATSURI〜ビアズリー展と、ハシゴするのも良いのでは。
【UPDATE EARTH 2025 ミライMATSURI概要】
日時:2025年3月15日(土) 10:00〜18:00
会場:新東京ビル7〜8階(東京都千代田区)、丸の内仲通り、秋葉原万世橋出張所ほか
主催:UPDATE EARTH 2025実行委員会
運営実施団体:一般財団法人UPDATE EARTH、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
参加・申込方法:一般公開展示以外の定員制イベントやワークショップへの入場には個別の申し込みが必要となります。事前登録をすると館内への入場がスムーズになります。
イベントの全体情報はこちら!:https://event.update-earth.jp/
会場地図
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