エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「大阪・関西万博をブラタマキ」 第7回
マツコロイドと目が合ってびっくりしていたら、1000年後の未来の人間が現れた 大阪・関西万博「いのちの未来」パビリオンの衝撃的な展開を体験してほしい!
2025年06月02日 17時00分更新
いのちを拡げるパビリオン『いのちの未来』は、石黒浩氏(大阪大学教授、ATR 石黒浩特別研究所客員所長)が、技術と融合することによっていのちの可能性を拡げる世界を見せてくれる。
8人のプロデューサーが大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を深掘りしたシグネチャーパビリオンの中でも、高さおよそ17mの黒い四角い塊のような「いのちの未来」パビリオンは、屋上から外壁にかけて水がカスケード状に流れ、強い印象を与えている。
万博が始まってから多くの入場者を惹きつける、石黒氏が提示する世界は、多様な企業やクリエイターが考えた50年後の社会や製品、日本文化の在り方、1000年後のいのちの姿、そしてさまざまなロボット・アンドロイドと出会うという、あたかも自分自身が時間の旅に参加しているような体験であり、その旅が来場者の「いのちの未来」に繋がっていくことが感動を呼ぶ。
筆者も、遅ればせながら、このパビリオンに飛び込んで、自分の中の新しい眼が開けたような感覚を得た。

石黒氏の監修のもとに生まれた「マツコロイド」は マツコ・デラックス本人の忠実なアンドロイドを目指し、頭からつま先にいたる全身を型取りし表情やしぐさ、癖などもリアルに再現している、最新鋭のアンドロイド技術を応用したアンドロイドタレント
石黒氏の公式サイトに寄せたメッセージは以下の通り。
「人間は動物としての生物的進化だけでなく、科学技術による進化の方法を持つ。それが人間を人間たらしめている。これからの人間は、さらに科学技術を発展させ融合しながら『いのち』の可能性を飛躍的に拡げ、その多様な価値観と幸福感で人間自身や人間社会、そしてそれを取り巻く環境や生態系を自らが設計していく。本パビリオンは、『いのち』の新たな在り方を展示することで、忘れがたいいのちの体験をお届けします」
実際にパビリオンを巡った来場者は、「いのち」の新たな在り方をそれぞれ問われることになる。受け止め方は十人十色、きっとさまざまだろう。
しかし、肯定的に受け止める人も否定的に受け止める人も、少し胸が熱くなるのは間違いない。「いのち」に真剣に向き合う事は貴重な体験で、石黒氏が提示するイメージはとても刺激がある。
「アンドロイドが身近にいたらどんなことを頼んでみたい?」「一緒に何をしてみたい?」「カラダや場所、時間の制約がなくなったら何に挑戦してみたい?」「どんな生き方をしてみたい?」
パビリオンは、技術がさらに進化し、人間とロボットやアンドロイドとの距離がもっと近くなったら、人間のいのちの可能性はさらに拡がっていくはず、と伝える。
諦めていたことに挑戦したり、新しい夢が生まれたり……。「心を解き放ち、自分自身をより深める生き方が見つかるかもしれない」という問いかけは強い。
パビリオンの設計思想は、いのちの象徴“水・渚”からはじまる未来への旅。「人間は無生物から生まれ、生物になった。そして技術の力で新たな無生物へと進化しようとしている」と言う、プロデューサーの石黒浩の言葉を起点にたどり着いた建築のモチーフは“水”と“渚”だった。
無生物と生物を結びつける“水”。 “水”の都大阪。海という豊かな“水”に囲まれた万博会場。いのちの拡がりの源である“渚”。固体、液体、気体がぶつかり合い、ゆらぎながら境界を描く“渚”。
“水”と“渚”はこの万博、パビリオンにおいて、象徴となる要素と言える。そして、水で覆われた外観や周囲でゆらぐ水面、地球という大地のダイナミズムを刻むがごとく地面からせり上がるような建築イメージができあがった。
生き物のような建物を覆った、いのちの象徴としての“水”をくぐりぬけ、“渚”を感じながら「いのちの未来」を探しにいく旅に出る。
基本設計、実施設計は、石本建築事務所、設計協力は長谷工コーポレーション大阪エンジニアリング事業部、施工は長谷工コーポレーション、不二建設が担当した。また、建築・展示空間のディレクターとして、遠藤治郎氏がパビリオンのデザインを監修した。
建物は、大阪・関西万博のテーマである「いのち」の象徴でもあり、無機物と有機物を結びつける「水」に着目した水景を活かしたデザイン。外装材には「膜」を使用し、水が屋上から外壁をカスケード状に流れ、そして循環する「水膜」によるファサードデザインとなっている。
【ZONE1 いのちの歩み】
日本人がモノにいのちを宿してきた歴史を体感するゾーン。縄文時代の土偶から、現在のアンドロイドまで……。さまざまな人の形にいのちを宿してきた、豊かな日本の文化を体験できる。
【ZONE2 50年後の未来】
50年後の生活とプロダクトを追体験する。50年後の未来シーンを描く、パビリオンのメイン展示。人間がアンドロイドと共存し、高度なテクノロジーを用いたさまざまなプロダクトを活用しながらいきいきと暮らす日々を、物語の中に入り込むことによって未来を“追体験”できる。
ここで描かれる世界は単純な未来像ではなく、アンドロイドとの生活への逡巡や期待、起こりえるシーンの再現(未来の追体験)を見ることによって、来場者は一人一人、未来の世界を噛みしめることになる。
マツコロイドがリアルに語る言葉に、深く耳を傾けてしまう。
【ZONE3 1000年後のいのち“まほろば”】
美しくも、感情を揺さぶられる3つのゾーンの最後。1000年後の人との出会い。科学技術で進化発展していく未来の人間と出会えるゾーン。
1000年後の世界をイメージした音と光に包まれた幻想的な空間の中で、からだの制約から解き放たれた人の姿と出会える。
モモ/MOMOは、アンドロイドと生身の人間の隔たりがなくなった1000年以上先の未来における、進化した人間=ミレニアムヒューマン。
不老長寿、子孫繁栄の象徴である「桃」を名前に持ち、制約から解放された自由なカラダと精神を体現している。静かに舞いながら現代人とこころを通わせていく。
ちなみに、パビリオンの最後にステッカーがもらえる。何がもらえるかはわからないが、筆者がゲットしたのはペトラ/Petra。
ギリシャ語で石の意味を持つ「ペトラ」は未来の人類と共存する道具としてのロボット。古代、石と木を使い、狩りの道具をつくって大きく進化した人類。その原点に返り、石や流木、さらに神社の円鏡や禅寺の苔を材料にし、過去と未来をつなぐデザインを体現している。
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