エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「大阪・関西万博をブラタマキ」 第12回
“ブラック・ジャックがアトムに心臓を移植する”胸熱なストーリーとともに案内される「PASONA NATUREVERSE」に行ったら「いのち、ありがとう。」と言いたくなるはず
2025年06月23日 18時00分更新
「ありがとう」が響き合う世界「NATUREVERSE(NATURE×UNIVERSE)」は、エンターテインメントと最新科学がスパークする、超楽しいパビリオンだった。
ネオアトムとブラック・ジャックが案内してくれる「PASONA NATUREVERSE」はパソナグループのパビリオンだ。大阪・関西万博の西ゲートゾーンにあり、ゲートからも直近の位置。
建築家・板坂諭氏の設計による、いのちの象徴であるアンモナイトの螺旋形状を採用したユニークなパビリオンには、先端に鉄腕アトムが乗っていて、周囲のミャクミャク像や実物大のRX-78F00/Eガンダムと共鳴して楽しい空間になっている。
パソナグループは2008年から、日本の農業の活性化と独立就農支援に向けて淡路島の自社農場を利用した「チャレンジファーム」をスタート。2020年より「BCP(事業継続計画)」「真に豊かな生き方・働き方の実現」「夢のある新産業の創造」を掲げ、本社・本部機能の一部を淡路島に移転するなど、兵庫県の淡路島に注力しているが、このパビリオンも閉幕後は移されるという。オランダパビリオンの淡路島への移転も発表されている。
筆者は関西ウォーカーの編集長時代に淡路島ウォーカーを何度か発刊し、同島でのパソナグループの動きにも興味を持っていたので、「PASONA NATUREVERSE」は気になるパビリオンの一つだった。
パビリオンは、「からだ」、「こころ」、「きずな」の3つをテーマにした展示を通して、「身体の健康」「心の健康」そして「社会的な健康」を実現する「Well beingな社会」を発信している。
展示は、「いのちの歴史ゾーン」「からだゾーン」「こころ・きずなゾーン」の3つのゾーンからなる。これに加えて、レアで魅力的なグッズが並ぶNATUREVERSE SHOPと、みんなの万博アイデアコンテスト入賞者紹介コーナーであるNATUREVERSE コリドーがある。
「ネオアトム」はいかにして生まれたのか?
1972年の漫画にインスピレーションされた物語がすごい
このパビリオンで大きく感銘を受けたのは、手塚プロダクションによる本格的なコンテンツ部分だ。
公式ナビゲーターであるネオアトムは、鉄腕アトムの新たなる生まれ変わりだが、この新キャラクターは1972年の漫画『アトム還る』にインスピレーションを受けていて、手塚プロダクションが制作したものだ。
※『アトム還る』(1972年4〜9月「小学四年生」連載)。1966年に終了したテレビアニメ『鉄腕アトム』の最終回の「その後」を描いた物語。地球を救うために太陽につっこんだアトムだったが、鉄のかけらに癒着して宇宙空間を漂っていたところ、高度な科学技術を持つ三つ目の宇宙人・ルルル星人のロケットに拾われ、より高性能なロボットとして生きかえった。
ネオアトムと鉄腕アトムとの大きな違いは、ヒト細胞から作られたiPS心臓を持ち、有限の寿命であるということだ。身長は155cm、体重は48kg。12歳の人間と同等の身体能力を持つが、全身に機械部品が埋め込まれていて、寿命がくると機械部品は分解されて土に還る。
「いのちの歴史ゾーン」から「からだゾーン」に入る前に、なぜ、ネオアトムが生まれたかのショートムービーを見られるが、見ごたえがすごい。
(ここから先のストーリー展開の説明は、ムービーの基本設定で公開されていない部分もあり、描かれていないIFの要素も踏み込んで記述しているので、筆者視点で私見も交えている点にご注意を!)
21世紀初頭、宇宙開拓が進んだ時代。人類は宇宙コロニーを建設し、地球外での生活を確立している。しかし、あるコロニーでAIシステムが致命的な誤作動を起こし、制御不能に陥ってしまう。このAIの故障により、コロニーは太陽に向かって直進を開始する。高温と放射線による壊滅が目前に迫る危機的状況に、人々はパニックに。
この絶望的な状況で、ヒーロー「アトム」が立ち上がる。アトムは自らの高度なロボット工学と知能を駆使し、コロニーの制御システムに直接介入を試みる。コロニーの軌道を修正するため、AIの中枢にアクセスし、爆発的なエネルギーを伴う緊急措置を実行した。
しかし、このプロセスでアトムのボディは爆発の衝撃に耐えきれず、機能を停止してしまう。破壊された彼の体は宇宙空間に投げ出され、星々の間で漂流する運命を辿ることに。アトムの犠牲により、コロニーは救われ、数千の人命が守られるが、ヒーローの喪失は人類に深い悲しみをもたらした。
時は流れ、数世紀後の22世紀。科学技術は飛躍的に進化し、宇宙探査はさらに深化している。ある日、宇宙探査チームが漂流物体の信号をキャッチ。それは、かつてのヒーロー、アトムの残骸だった。損傷は激しく、ほぼすべての機能が停止していたが、アトムのコアメモリーと基本構造の一部は奇跡的に残存していた。
発見されたアトムは、地球へと運ばれ、科学者たちの注目を集める。この時代、医療とロボット工学は融合を極め、iPS細胞(人工多能性幹細胞)技術は生物学的組織の再生だけでなく、バイオハイブリッドシステムの構築にも応用されている。アトムの復活プロジェクトが始動し、その中心に立つのが伝説の外科医「ブラック・ジャック」だ。ムネアツな展開。見ていてゾクゾクした。
ここで出てくるのがiPS細胞。ブラック・ジャックは、従来の機械的な心臓ではなく、iPS細胞から培養した「iPS心臓」をアトムに移植する大胆な計画を提案する。この心臓は、生物的な拍動を持ち、エネルギー供給と感情処理を高度に統合する革新的なデバイス。
生物的なリズムで拍動し、アトムのAIに「生命の感覚」を付与したiPS心臓。従来のアトムが論理と使命感で動いていたのに対し、iPS心臓を持つアトムは、有限の寿命と生命の尊さを理解する「感情」に近い意識を獲得する。
修復プロセスは困難を極めるが、数々の失敗を経て、ついにアトムの意識を呼び戻すことに成功。目覚めたアトムは、かつての記憶と新たな生命感覚を融合させ、「ネオアトム」として生まれ変わった。
ネオアトムが目覚めた場所は、22世紀の地球「NATUREVERSE(ネイチャーバース)」。自然(Nature)と宇宙(Universe)の融合を意味する造語だ。この世界は、自然と技術が完全な調和を果たし、人類が生命の循環を尊重する社会を築いた理想郷になっている。
■PASONA NATUREVERSE特別ショートムービー「ネオアトム誕生」概要
【スタッフ】
監督:桑原智
音楽:千住明
脚本:森田眞由美
アニメーションプロデューサー:大澤宏志
クリエイティブディレクター:石渡正人
統括プロデューサー:日高海
医療監修:澤芳樹
【キャスト】
アトム/ネオアトム:津村まこと
ブラック・ジャック:大塚明夫
お茶の水博士:茶風林
ナレーション:平原綾香
●桑原智監督コメント
青く美しい奇跡の星『地球』
「私たち人間は地球に住む生命のひとつにすぎません。その人間のエゴイズムにより、地球は、地球に住む生命は、危機的な状況に陥ろうとしています。
私たち人間は、人が人を思いやる心、自然を愛し慈しむ気持ち、全ての生命に対しての尊敬と愛情、そんな大切なことを忘れてしまっているのではないでしょうか? そして、これら無くしては我々人間は、地球の住人として認めてもらえないのではないでしょうか?
今回の映像は人間が生み出した地球の危機的な状況に、アトムがひとり立ち向かい闘う物語です。原作者である手塚治虫先生が残してくれた大切なメッセージを、この映像で感じ取って頂ければ幸いです。地球の未来は自らの手で変えることが出来るし、変えなくてはいけない、それが出来るのは人間であるのですから」
見所ありすぎのワクワクアトラクションがたくさん
アンモナイトの螺旋形状のパビリオンに並ぶ展示は、全体で大きな物語になっていて、ネオアトムの誕生のムービーから最後のこころ・きずなゾーンのNATUREVERSEショーに向かって大きく盛り上がっていく。それぞれ見所十分だが、紹介していきたい。
【いのちの歴史ゾーン】
●生命進化の樹
0から10までの11のレイヤーを「生命進化の樹」にしたもの。幹の内側には進化の歴史をあらわした地層があり、地下へと続く幹と根は深遠な過去を、幹から伸びる枝は未来への無限の可能性をあらわしている。樹上の窓からは、未来の地球の一部を垣間見ることができる。
生命はおよそ38億年前に地球に誕生し、今からわずか500万年前に人類が現れ、生態系は指数関数的に変化し始めた。コンピューターが発明され、インターネットが誕生し、AIが登場し、スマートフォンを手にした人類は新しい社会を作り始めた。今は2025年である。
しかし、地球全体の生態系、すなわちガイアは弱まり続けている。しかし「生命そのもの」は、たとえ人類が絶滅し、生態系が完全に破壊されたとしても、何らかの形で保存され続け、新たな生命を生み出していく。
今から約50億年後、太陽は赤色巨星となり、地球を飲み込む予定である。永遠に生き続けるものはない。それでも、宇宙のどこかで、「生命そのもの」は引き継がれて続いていく。
●いのちの歴史トンネル
『生命進化の樹』の樹上から伸びる一つの枝が導く、『PASONA NATUREVERSE』の世界に進むトンネル。 ここには、パビリオン全体のコンセプトであるアンモナイトが宝石化したアンモライトが世界最大級を含めて3点展示されている。アンモライトは約7500万年前の白亜紀に生息していたプラセンチラス属の一種であるアンモナイトの化石で、アンモナイトの殻(主にアラゴナイトと真珠層)が地圧と鉱物化作用で虹色に変化したもの。
【からだゾーン】
●『iPS心臓』展示
パビリオン全体でも一番インパクトが強い展示かもしれない。iPS細胞や、既に実用化されているiPS心筋シートの技術を活用し、生きた細胞により、バイオマテリアル・バイオエンジニアリングを用いた立体の心臓を実際に作製している。
培養液中で『iPS心臓』が本当に拍動する様子を展示し、医療の未来・いのちの未来を創る新たなテクノロジーの可能性を、世界に向けて発信している。言葉にできないほどの感動がある。
エグゼクティブプロデューサー 澤芳樹氏のコメント
「 『PASONA NATUREVERSE』では『いのち』を象徴する存在として、iPS細胞から生まれた『iPS心臓』を展示するべく、先端再生医療ベンチャーであるクオリプス株式会社と協力して研究・開発を進めています。
来場された皆様にリアルな『動く心臓』を見ていただくことを目指し、『PASONA NATUREVERSE』では、立体的かつ動態での心筋モデルの展示を実現します。iPS細胞をもとにした心臓の立体モデルを動態展示する試みは、世界でも初めてではないでしょうか。再生医療技術の可能性と共に、見る人すべてに『いのち』の尊さや感動を感じていただける展示を目指して、2025年4月の開幕へ向けて、さらに開発を進めてまいります」
●『未来の眠り』を体験
眠りのメカニズムが解明され、一人ひとりの身体の状態に合わせてベッドや空間全体が呼応し、最適な睡眠に誘われる未来を提案する。センサーで心拍・呼吸を測定し、ユーザーの状態に応じて動く機構を備え、ベッドの調整や振動が、睡眠の質を最適化する体験を提供する。最新の眠りの科学に基づく展示で、私たちの「からだの健康」に直結する未来の眠りのあり方と、それを支える最新テクノロジーの可能性を発信する(パソナグループ×ミネベアミツミ)。
●Wonder Earth ~あなたの知らない微生物の世界~
こちらは結構、不思議な展示だが、妙に落ち着いて面白い。土の中に住む多様な微生物たちが、豊かな土壌を作っている。微生物たちが自然界で果たす役割を覗くことができる。作りこみが不気味を通り越して可愛い。
【こころ・きずなゾーン】
●NATUREVERSEショー
ネオアトムとブラック・ジャックが登場するおよそ5分間の映像ショー。このショーは、パビリオンのコンセプト「NATUREVERSE(ネイチャー+ユニバース)」を視覚的・聴覚的に表現し、生命の創造と未来社会のビジョンを伝える。
自然とテクノロジーが共生し、人々が思いやりの心でつながる、真に豊かな世界「NATUREVERSE」のショー。自然が私たちに与えてくれる豊かな恵みに感謝し、「ありがとう」が響き合う世界が、あっと驚くテクノロジーと演出で目の前に現れる。
具体的には、25個のLEDキューブ(各2m×2m×2m、3段重ね)が縦・横・回転しながら動くダイナミックな演出で、LEDキューブは、映像と連動して形状を変化させ、ストーリーを視覚的に強化する。
●未来を旅するきぼう船
時間的・空間的制約から解放され、自由に旅に出ることのできるNATUREVERSEシアターでは未来の農業・医療・オフィスの姿を映像で体験できる。
【NATUREVERSE SHOP】
PASONA NATUREVERSE限定のネオアトムやブラック・ジャックのグッズをはじめ、障害のあるパソナハートフル社員が心を込めて手作りする添加物不使用の素材にこだわった焼き菓子など、およそ200種類の商品が用意されている。
【パソナグループFounder 南部靖之メッセージ】
『NATUREVERSE』の実現に向けて
「パソナグループは大阪・関西万博が開催される2025年に、創業50年目を迎えます。私たちは創業以来、『社会の問題点を解決する』という企業理念のもと、様々な挑戦をしてまいりました。
現代の『社会の問題点』とは何か。それは『健康』ではないでしょうか。『身体の健康』『心の健康』そして『社会の健康』。この3つをあわせた『Well-beingな社会』こそ、私たちが目指す未来です。
その思いに共感いただいたのが、iPS細胞による再生医療の第一人者である澤芳樹先生です。澤先生との出会いにより、私は大阪・関西万博へのパビリオンの出展を決意しました。
『身体の健康』のためには、何より『食』が大切です。豊かな大地で太陽の恵みを受けて育った食べ物は、人々の健康を支えてくれます。私たちはもっと自然を大切にし、感謝の気持ちを持ち、豊かな自然を取り戻すべきではないでしょうか
そこで、パビリオンのコンセプトは『いのち、ありがとう。』パビリオン名は『PASONA NATUREVERSE』としました。
『NATUREVERSE』には、自然を尊重し大切にする世界を創りたいという想いを込めました。産業革命以降、テクノロジーの急速な進化により、自然が破壊され、環境問題を引き起こしました。本来、テクノロジーとは、自然を豊かにするため、そして人々が健康になるために進化しなければなりません。『自然とテクノロジーの調和』こそ、何より大切です。
また、『心の健康』『社会的な健康』のために大切なのは、『向こう三軒両隣』の精神で、お互いに助け合う『Mutual Society(互助の社会)』。そうした思いやりや心の豊かさこそ、私たちにとっての『真の豊かさ』です。
万博後は、パビリオンをレガシーとして淡路島に移設します。パソナグループは、パビリオン『PASONA NATUREVERSE』を通して、身体・心・社会的な健康を実現するWell-beingな社会、そして誰もが心豊かにイキイキと活躍する真に豊かな社会のあり方を、世界に向けて発信してまいります」
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