エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第37回

福山雅治や草野マサムネとのコラボで知られるアーティスト、junaida(ジュナイダ)氏が「ハイパーミュージアム飯能」に登場

 2025年3月1日にオープンした「ハイパーミュージアム飯能」(埼玉県飯能市)は、北欧ライフスタイル体験施設「メッツァビレッジ」内に位置する。開館の第2弾展として、junaida展「THE WHISPERING GARDEN」(ザ・ウィスパリング・ガーデン)を2025年9月7日に開幕した。

 アーティスト junaida(ジュナイダ)氏は近年、絵本の創作を中心に、装画、詩画集、アニメーションなど、様々な分野で作品を発表しており、福山雅治氏や草野マサムネ氏(スピッツ)とのコラボなどでも知られる。

 館長は京都芸術大学大学院教授の後藤繁雄氏で、野心的な企画を通じて次世代のアートを発信し、アーティストのネットワーキングやコミュニティ形成を推進している。筆者もさまざまなプロジェクトでご一緒しており、9月6日に実施された内覧会にさっそく駆け付けた。

junaida氏の原画だけではなく、立体化したリアルな造型物もjunaida氏の制作

会場に駆け付けた筆者

展示空間のデザインだけでなく、会場内の音楽もjunaida氏が作っている

2025年3月1日にオープンした「ハイパーミュージアム飯能」

 本展では、2023年〜2025年に描かれた作品から、初公開を含む選りすぐりの原画約90点を展示している。 福山雅治の楽曲「クスノキ‐500年の風に吹かれて‐」のために描かれたアニメーション原画をはじめ、草野マサムネ(スピッツ)との歌画本『ひみつストレンジャー』の原画(一部)や、谷川俊太郎との絵本『ここはおうち』の原画(一部)など、近年発表されたさまざまなコラボレーション作品が一堂に集結した。

 また、絵本『世界』や、詩画集『ともしび』など、最新書籍の原画も余すことなく展示されている。 展示空間自体も、junaida氏の世界が満喫できる演出を自ら施している。原画から立体の世界に広がったリアルな造型や会場内の音楽まで自ら手掛けているのだ。

 後藤繁雄館長は、今回の展覧会について以下のように語った。

 「ハイパーミュージアム飯能のあるメッツァビレッジは、フィンランド語で『森』という意味があって、宮沢湖のほとりの自然いっぱいの場所にあります。テーマパークの中にある現代美術館は、珍しいですよね。新しい試みなんです。どんな美術館にしたら面白いかな、ってずーっと考えてたんですが、現代美術って、難しいイメージありますよね? わたしは、そうじゃなくて、現代美術というのは、感覚とか思考をリセットしてくれる、びっくりするような体験を与えてくれるものだと思っています。

 ハイパーミュージアムは、メッツァの森の中にあるから、やっぱり『自然とデジタル』とか、キャラクターとか物語をテーマにした現代美術をやりたい。鑑賞するだけじゃなくて、お客さんに『体験』してもらえる、ワクワクするような場所にしたいな、って強く思っています。

 今回のjunaidaさんの展覧会は、深呼吸するような展覧会にしたいな、って思っています。都会のバタバタしたスピードを、ちょっとスローダウンさせて、作品の中にぐっと没入できるような深い体験をしてほしい。情報として作品を『理解する』のではなく、心で感じる、みたいに。そんな思いで、2回目の企画をやっています。

 今回の展覧会のタイトル、『THE WHISPERING GARDEN』、日本語で言うと『ささやきの庭』なんですけど、この『ささやき』と『庭』というのが、大事なキーワードです。

 junaidaさんの作品って、こう、作品自体が囁いてくる……みたいな感じがあります。junaidaさん自身も、絵を描くときに、設計図があるわけじゃなくて、描きながら作品が囁いてくる声に耳を傾けて、どんどん描いていくというスタイルなんです。言葉にできない何かみたいなものを、感じてほしいな、って思っています。

 原画は、印刷物とは全然違います。原画って、深みとか、時間とか、junaidaさんの息づかいみたいなのが感じられて、見るのに時間がかかりますが、面白い。junaidaさんは、原画だけじゃなくて、会場のディレクションもやっています。会場に入ると、小屋があったり、木があったり、カーテンが揺れてたり、空間全体がjunaidaさんの世界になっています。音楽も、junaidaさんが作ったものが流れてて、ほんとに、環境全体が作品なんです」

後藤繁雄館長

【クスノキ‐500年の風に吹かれて‐】

 楽曲:福山雅治。映像作品(5m36s)2025年。監督:稲葉卓也。制作:ドワーフ。第二次世界大戦での長崎への原爆投下の際、爆心地から約800m地点にある長崎市の山王神社には、樹齢500年以上とも言われる「被爆クスノキ」が今も立ち続けている。長崎出身の福山雅治の楽曲「クスノキ」はその被爆したクスノキを題材にしている。アニメーションはNHKの「みんなのうた」で使われた。

 展示は、一人づつ、ヘッドホンを装着して、温室のような小屋の中に入って、アニメーションを見る形になっている。福山氏は、junaida氏に、「こういう絵にしてくれ」みたいな注文を一切しなかったという。小屋の後ろ側には、原画も展示してある。

 junaida氏のアニメーションは、細密な絵が動いてるのが珍しい。小屋の中の空間もjunaidaさんがディレクションしている。ヘッドホンをつけて、小屋に入って、空気を感じて、クスノキの声に耳を傾ける、という体験ができる。

 jyunaida氏は「楽曲と絵がひとつになったこのアニメーション作品を通して、今の子どもたちが、いつか大きくなったとき、この絵とともに、この歌のことを覚えていてくれたら、ほんとうにうれしいです」と説明に書いている。

小屋の後ろ側には、原画が展示されている

【囁きのアパートメント】

 立体 2025年。プレス内覧会の前日、9月5日の夜に完成したまさに最新作。

 後藤館長によると、

 「この作品のテーマは『共生』だと思います。共生というのは、ラブ・アンド・ピース、愛と平和、みたいなことだと思うんです。この作品には、そういう思いが強く感じられます。クスノキの中とか、ちっちゃな家とか、いろんなものが一緒に住んでる、みたいな。いろんな命が同居してるアパートメント、みたいなイメージが面白いと思うのです。

 この作品には、いろんな要素が、ちっちゃなディテールが、いろんな生き物が……と、探してみるとどんどん発見があります。みなさんに、ぜひ、じっくり探してほしいです。

 junaidaさんは普段、家で一人でコツコツ絵を描いてる人なんです。でも、今回は、ハイパーミュージアムで、美術の人たちとか地元の飯能の人たちとか、いろんな人と一緒に、共同制作みたいな感じで作ったんです。みんなで、笑いながら、楽しんで作ってる、みたいな雰囲気がよかった。このメッツァの森の中で、クスノキとか、自然とか、命とか、なんか新しい木を作る、みたいな思いで作ってるわけです」

【歌画本「ひみつストレンジャー」】

 詩:草野マサムネ(スピッツ)。角川春樹事務所。原画 2023年。スピッツの17thアルバム『ひみつスタジオ』全13曲の歌詞から13編の絵物語が描かれている。今回は5曲(編)を展示している。

 junaida氏は以下のように書いている。

 「絵筆で草野さんの詞を奏でたい。物語でスピッツを鳴り響かせたい。ぼくの内なるロック少年がそう囁いたのです。

 絵本でも詩画集でもなく、なんだか発明みたいな本だったので、歌画本という呼び方まで作ってしまいました」

「i-O(修理のうた)」

「大好物」

「オバケのロックバンド」

「紫の夜を越えて」

「ときめき part1」

【絵本『世界』】

 福音館書店。原画 2024年。絵を読む絵本で、言葉はない。しかも大きな一枚の絵が、一冊の本になっている。

 今回の展示では、2枚の絵を見ることが出来る。絵に登場する子供が被っているマスクみたいな、王冠みたいなものが、もう一つの絵に出てくる。この2枚の絵は、作り方が全然違う。片方は、たった1日で描いたもの。もう片方は、半年以上かけて、じっくり、じっくり描いたもの。

 junaida氏は次のように語る。

 「ぜひ絵本を読んで、最後のページまでゆっくりこの世界を見てまわってください。

 できれば何度も開いて、何度でも新しい世界に出会ってもらえたらうれしいです」

【絵本『ここはおうち』】

 文:谷川俊太郎。Blue Sheep。原画 2023年。初めに、短い文章を谷川俊太郎が書き、それに対してjunaida氏がラフな絵を書く、「すると言葉がにょらっと変化して、また違う絵がぬたっと顔を出す」(junaida氏)。

 こうしたやり取りの中、生まれた作品。展示されているのは、絵本の前半部分の絵になる。

【装画『涙の箱』】

 作:ハン・ガン。評論社。原画 2025年。ノーベル文学賞作家ハン・ガンが描く、大人のための童話。この世でもっとも美しく、すべての人のこころを濡らすという「純粋な涙」を探す物語。日本語版の絵はハン・ガン自身、長年ファンだったというjunaida氏が担当。

 ハン・ガンが、「読者それぞれのなかにある希望の存在」として描いた主人公や、どこともいつとも特定しない本作の世界を美しく描き、物語と読者をつないでくれる。2008年に、韓国で発売され、子どもから大人まで幅広い年齢層に愛されている。

【コンセプトアート「未公開の短編アニメーション」】

 原画/スケッチ複製画 2023年。アニメは本格的な製作には至らなかったが、この時に思い描いたことの一部が、2026年刊行予定の新作に繋がっている、と言う。

【「THE WHISPERING GARDEN」グッズラインナップ】

■junaida プロフィール

 画家。1978年生まれ。 2015年『HOME』(サンリード)で「ボローニャ国際絵本原画展」入選。2023年『怪物園』(福音館書店)でIBBY(国際児童図書評議会)「ピーターパン賞」受賞。2024年『の』(福音館書店)が日本郵便「絵本の世界シリーズ 第8集」特殊切⼿になる。2022-2025年⼤規模個展「IMAGINARIUM」を全国6箇所の美術館で開催。近著に『ここはおうち』⽂・⾕川俊太郎(BlueSheep)、『ひみつストレンジャー』詞・草野マサムネ(⾓川春樹事務所)、『ともしび』(サンリード)、『世界』(福音館書店)、などがある。

■開催概要

junaida展「THE WHISPERING GARDEN」

開催期間:2025年9月7日~11月9日

開館時間:10:00~17:00(最終入館は16:30)

住所:メッツァビレッジ 埼玉県飯能市宮沢327‐6

アクセス:西武池袋線 飯能駅から 飯能駅北口1番乗り場よりバスで13分。
・「メッツァ」行き直行バス(国際興業・西武バス・イーグルバス運行)または「宮沢」行き路線バス(イーグルバス運行)に乗車。
・メッツァ停留所で下車

販売価格: ①<オンラインチケット>1,000(500)円 ②<当日>1,200(700) 円
*( ) は4歳〜18歳
*税込価格
*オンラインチケットは来場の前日まで購入可能

販売サイト:詳細は各チケットサイトで確認。
アソビュー!
https://www.asoview.com/item/ticket/ticket0000042607/
ローチケ
https://l-tike.com/event/mevent/?mid=760942
ArtSticker
https://artsticker.app/events/88442
※当日チケットは、ミュージアムチケットブースにて販売(販売時間 10:00~16:30)

■公式サイト:https://metsa-hanno.com/hypermuseumhanno/

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