第127回
エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「大阪・関西万博をブラタマキ」 第21回
万博・イタリア館にイタリア国外初のペルジーノ『正義の旗』が登場。最後の最後まで“すごい”パビリオンをガチ取材
2025年09月25日 19時00分更新
4度目も正直!? 本連載「大阪・関西万博をブラタマキ」も21回目だが、複数回やっているのはイタリアだけで、しかも4回目。
今回は、ペルジーノの宗教画『正義の旗』を見にやってきた。2025年8月31日から、ウンブリア州のイベントに合わせて展示が始まった。
『正義の旗』は1496年に制作され、縦およそ2.2m、横およそ1.4m。聖母子や天使などが描かれている。ウンブリア州の州都ペルージャにあるウンブリア国立美術館所蔵で、同作品がイタリア国外に出るのは初めてだという。作者のペルジーノはルネサンス三巨匠の一人、ラファエロの師匠としても知られている。
イタリアパビリオンは訪問する度にパワーアップし、変化しているが、いよいよ万博の閉幕も近づき、おそらく今回が最後の訪問。
ペルジーノ以外にも、待望のグッズ売り場オープンや『ボッチョーニのフィスト』、「サローネサテリテ常設コレクション展」(9月20日までで終了)も見ることが出来た。開幕から走り続けた展示の数々で、イタリアのクリエイティブの真髄に触れることができた。本当にありがとう。素晴らしいパビリオンだ。
一度、イタリアパビリオンの素晴らしい展示を振り返ってみよう。イタリアパビリオンのテーマは「L'Arte Rigenera la Vita(芸術が生命を再生する)」。このテーマに基づき、イタリアの芸術と技術の融合を体感できる展示が企画されてきた。以下、写真は今回の取材での撮りおろし。
会期開幕当初からだと、バロック期の巨匠カラヴァッジョの代表作『キリストの埋葬』は、同パビリオン内に万博初の出展となるバチカンパビリオンの特別展示物として、話題を集めた。バチカン美術館で唯一のカラバッジョの作品で極めて重要な作品だが、先の教皇フランシスコの強い遺志により万博にやってきた。
『ファルネーゼのアトラス』 は紀元2世紀の大理石彫刻で、ナポリ国立考古学博物館の至宝として知られている。天球儀を背負う巨人アトラスの姿は、古代の天文学を物語り、来場者に壮大な宇宙と人間のつながりを体感させた。
レオナルド・ダ・ヴィンチの直筆スケッチ『アトランティックコード』は「万能の天才」と称されるダ・ヴィンチの探求心と発想力を感じられる貴重な直筆スケッチが展示され、科学者としての一面を伝える解剖学の緻密な観察図や機械の設計図などが含まれていて、多くの人が列を作った。
ルネサンス期の画家、ドメニコ・ティントレット作『伊東 祐益 マンショ』は、天正遣欧少年使節の一員である伊東マンショを描いた肖像画で、日本とイタリアの歴史的なつながりを示す貴重な作品として、大きな関心を呼んだ。
その後は5月18日に、ミケランジェロ作『復活のキリスト』 が登場。ミケランジェロの代表作ともいえる『復活のキリスト』だが、実は2体ある。初版と第二版があり、展示されているのは2000年に再発見され、ミケランジェロの作品として認証された初版。
この他にも、イタリアウィーク開催を記念し、9月7日には、ナショナルカラーのリボンがイタリアパビリオンと大屋根リングをつないだ。会期中を通じて週替わりで各州の展示があり、そのたびに新しい貴重な展示物が来るなど、話題が尽きなかった印象だ。
Moleskine Foundation(モレスキン財団)が所蔵する1600冊を超えるノートブックアートの中から、その⼟地の⽂脈に合わせて厳選された作品を展⽰する巡回展『Detour Osaka』も7⽉31⽇~8⽉23⽇の期間、展示された。
ペルージャの人=ペルジーノの『正義の旗』は
イタリアのアイデンティティを象徴する傑作
イタリアパビリオン4回目の取材で新しく見たものとしては、2025年8月31日から展示が始まった『正義の旗』、『ボッチョーニのフィスト』、「サローネサテリテ常設コレクション展」(9月20日までで終了)などがあるが、待望のグッズ売り場もうれしかった。屋上庭園にイタリアちゃんなどのフィギュア像が増えるなど、最後の最後まで常に変化を続けるパビリオンだった。
■ペルジーノ作『正義の旗(Gonfalone della Giustizia)』
『正義の旗』(1496年作)は油彩画で、縦218cm、横140cm。作者は、ピエトロ・ヴァンヌッチ(通称「ペルジーノ」。ペルージャの人という意味)。ペルージャのウンブリア国立絵画館所蔵。
『ファルネーゼのアトラス』の後ろが次のスペースへの入り口になっていたのをふさいで、反対側に展示されている。
今回、ペルージャのウンブリア国立絵画館、さらにウンブリア州とピエトロ・ヴァンヌッチ美術アカデミーの協力によって、イタリアパビリオンにて見られるようになった。展示は閉幕の10月13日まで。イタリア国外では初の展示になる。
この作品は、イタリア館にとって国家精神を体現する作品として選ばれた。また「芸術が生命を再生する」というイタリア館のコンセプトを表現している。この重要な絵は、他の著名な芸術作品とともにイタリアのアイデンティティを表現し、また他文化へと開く能力をそなえている。
ウンブリア国立絵画館は13世紀末に建てられたプリオーリ宮殿内にある。近年、最新の博物館学基準に基づいて全面的に改装された40室の展示室には、中世から現代までの絵画、彫刻、金細工作品、美術品など、イタリアでも屈指の充実したコレクションが収蔵されている。
また、世界でもっとも多くペルジーノの絵画作品を集めている場所でもある。1496年に描かれた『正義の旗』は、偉大なパトロンであったアゴスティーノ・キージがペルジーノをイタリア最高の巨匠と称えた最高傑作。
画面は上下2段構成で、上部では、聖母子がセラフィムと踊る天使たちに囲まれている。下部では、アッシジの聖フランチェスコと聖シエナのベルナルディーノが、フードをかぶっている修道士と信者たちとともに祈りを捧げている。
この作品には、当時のペルージャの町の景色が描かれている。例えば、あの時代に存在していた城門や塔屋、プリオーリ宮殿、サン・ロレンツォ大聖堂の鐘楼、そして破壊されたサンタ・マリア・デイ・セルヴィ教会などを見ることができる。
本作は、ペルージャの聖ベルナルディーノ信徒会(正義の会衆)が公共の行列用の旗(ゴンファロン)として委託したもので、ペルジーノの成熟期にあたる1496年に制作された。
ペルージャは、イタリア共和国中部にある都市で、ウンブリア州の州都であり、ペルージャ県の県都である。 1308年設立のペルージャ大学の大学町でもある。付近にはアッシジがある。
元サッカー選手の中田英寿氏が、日本代表の初出場となった1998年フランスW杯で活躍したことから、同年7月、21歳でイタリアのセリエA・ペルージャへ移籍したことでも知られる。中田氏は、2000年にASローマへ移籍するまでをペルージャで過ごした。
■ジャコモ・バッラ作『ボッチョーニの拳』(1915年以降)
イタリアの前衛芸術運動「未来派」のアーティスト、ジャコモ・バッラ(1871〜1958)による「ボッチョーニの拳」は、「ボッチョーニの拳の力の線」としても知られている「未来派」のイコン的な作品だ。
塗装された段ボールと木製で、80×75×33cm。ビロッティ・コレクションの一部であるこの作品は、3点限定の作品で、アーティストが最初に考案した、塗装された木と段ボールで作られた唯一のものになる。
この版は、バッラの相続人であるヴィットリオ、パトリツィア、アレッサンドロの監督の下で認可され、制作された。2番目の作品はレンデ城(コゼンツァ)の現代美術館の常設コレクションに保管されており、3番目の作品はカサ・バッラに展示されており、ドアの上の専用棚にある「レッド・スタジオ」に配置されている。
これはイタリアの抽象芸術のもっとも初期の例のひとつであり、同パビリオンに展示されているウンベルト・ボッチョーニ作『ユニークな形の連続性』とも深く連動している。また、フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティが未来派運動の象徴として選んだほど力強く表現された例でもある。「タイトルと彫刻は、イタリアを20世紀に導こうとする未来派の強い希望の革命的な象徴として立っています」とアルバート・エルセンは『現代彫刻の先駆者』(42ページ参照)で書いている。
未来派(Futurismo)は、過去の芸術を破壊し、機械化によって実現された近代社会の速さを称えるもので、20世紀初頭にイタリアを中心として起こった前衛芸術運動。この運動は文学、美術、建築、音楽と広範な分野で展開された。坂本龍一のアルバム『未来派野郎』(1986年)もこの運動にインスパイアされている。
筆者もダダイズムやシュールレアリズム同様、学生時代から強く惹かれてきた運動で、その作品に触れられるとは感慨一入(ひとしお)だ。
バッラは絵画の形式的な要素を利用して、爆発的なエネルギーで空間を貫く力の線からこの彫刻を形作った。「抽象的なリズムの喚起力に対する確固たる信念のもと、バッラは未来派が表現しようとしていた攻撃的な行動を体現するシンボルを作成しようとしました。彫刻の慎重に検討され、単純化された線を通じて、彼は未来派の戦闘的な精神を肯定しました」(テイラー、MoMA展覧会カタログ、p.113を参照)。
ボッチョーニの死からわずか8日後の1916年8月25日、同じ画像がイタリア・フューチュリスタの一面に掲載され、ボッチョーニに捧げられた号に掲載された。 バッラの『ボッチョーニの拳の力の線』とボッチョーニの『空間におけるユニークな形の連続性』は、どちらも、明確な彫刻言語を通じてアプローチしながらも、前進する態勢を整えている人物を体現している。この2つの作品が並んで展示されることは極めて意義がある。感動した。
■「サローネサテリテ常設コレクション展」(9月20日まで)
「サローネサテリテ常設コレクション展」は、9月7日に始まった「イタリアウィーク」と同時に開幕した。
“国際的若手デザイナーの登竜門”とうたわれる「サローネサテリテ」は、1961年にスタートした世界最大規模の家具・デザインの祭典「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」で、1998年から始まったイベント。今回の展示は、サローネサテリテで発表された後に企業によって製品化された、47点のセレクションを紹介している。家具や照明器具、小物などが所狭しと並んでいる。
今回のキュレーターであるマルヴァ・グリフィン・ウィルシャー(Marva Griffin Wilshire)はサローネサテリテの創始者兼キュレーターだ。展示・グラフィックデザインはリカルド・ベッロ・ディアス、アリアドナ・ピネート、プロジェクトコーディネーター兼コンサルタントはポルツィア・ベルガマスコが務めた。
これまでに、58ヵ国から1万5000人ほどの若手デザイナーがサテリテに出展し、その中でも最も多いのが日本人デザイナーで、226人が参加しているという。毎年選出しているサテリテ・アワードでは、これまで日本人は9名が受賞している。
■屋上庭園にフィギュア像3体が登場
迷路のような独特の庭園になっていて、大人気のレストラン、イータリーもある屋上。今回取材に行ってみると、イタリアちゃんのフィギュア像や、伊東マンショ、フェラーリンのフィギュア像も立っていて、良いフォトスポットになっていた。
■グッズ売り場
イタリアパビリオンのショップは6月にオープンし、現在も内容はどんどん充実していっている。ショップは出口の手前にあり、ショップだけに入場することはできない。細い通路を兼ねたところがショップになっている。
といっても、人気はイタリアちゃん。グッズも数多い。
バチカンパビリオンからは、2025年ジュビリーの公式マスコットのルーチェのグッズが。tokidokiの共同創設者兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーのシモーネ・レーニョによってデザインされた。彼はイタリアちゃんのクリエイターでもある。カトリックの巡礼者をイメージしていて、ルーチェには、サンティーノ(Santino)という名前の犬と、フェ(Fe)、シン(Xin)、スカイ(Sky)という3人の友達がいる。
もちろん、ほかのイタリアパビリオンの人気アイテムや、イタリアと言えばのカメオブローチ、イタリアパビリオン公式スパークリングワイン”フェッラーリ・オマージュ”など、魅力的なグッズが多くそろっている。
あと、何が入っているのかシークレットのグッズを買ってみた。シルエットから多分、イタリアちゃんかルーチェ。答えはイタリアちゃんのアクスタだった。
■イタリアパビリオン公式サイト
https://www.italyexpo2025osaka.it/ja
■関連サイト
・「大阪・関西万博」一番人気のイタリアパビリオンをガチ解説! カラヴァッジョの名画、ダ・ヴィンチの至宝が生で見られる! ミケランジェロ「復活のキリスト」もやってくるって!?
・ようやく対面できたミケランジェロ『キリストの復活』の数奇な運命を徹底解説。2度目の万博・イタリア館訪問を堪能
・超人気の万博・イタリア館にまたも必見の展示が登場! 伝説のノート『モレスキン』を素材にしたアート作品がすごい
『大阪・関西万博 攻略MAP ウォーカームック』
発行:株式会社角川アスキー総合研究所
発売:株式会社KADOKAWA
発売日:2025年06月30日
定価:1078円 (本体980円+税)
ISBN:978-4049112665
サイズ:A5判/84ページ
詳細はKADOKAWAサイトへ
【目次】 大阪・関西万博とは
大阪・関西万博でやりたいコト25
万博を楽しむ「いろはのい」
エリア別攻略ガイド
大屋根リングの絶景ポイント10
東ゲートゾーン
エンパワーリングゾーン
シグネチャーゾーン
セービングゾーン
静けさの森ゾーン
コネクティングゾーン
西ゲートゾーン
フューチャーライフゾーン
コラム:万博攻略法 イベントを見るならココ! パビリオンINDEX
エリアLOVE WALKERの最新情報を購読しよう