埼玉のヤマトイモの自慢は独特の粘りと味の濃さ!埼玉県北部の利根川沿い産地の収穫に密着
2025年11月17日 18時00分更新
埼玉県北部の利根川沿いで栽培される歴史ある農産物・ヤマトイモ。昨年の初冬、その伝統を受け継ぎ収穫作業にいそしむ生産者、小林久次さんの畑を訪ねました。
■利根川沿いの肥沃な土壌で育つ
明治時代の初期から始まったという埼玉県のヤマトイモ栽培。県内では熊谷市、深谷市、本庄市などで盛んに作られていますが、なかでも県北部の熊谷市妻沼小島地区は特産地。栽培にうってつけの土壌に恵まれ、滋養たっぷりのヤマトイモが採れると評判です。
写真の150アールもの畑も妻沼小島地区。収穫作業中の小林さんによると、実はこの辺りはもともと養蚕業が盛んで、時代と共に生糸の需要が減少しヤマトイモ栽培に転じる農家が増えたのだとか。小林さんのこの畑でも、以前は桑の木を育てていたそうです。立派に育ったヤマトイモを目の前に、肥沃な土壌のありがたさをしみじみと話してくれました。「すぐそこに利根川が流れていますが、昔は堤防がなかったからこの畑も川でした。だからね、土の水はけがいい。いいイモには水はけがいちばん大事ですから」
そのうえ、川などが運んだ土砂が低地に積もってできた沖積土壌で、肥料の吸収力もある。発展した理由は大地の力にあるのです。
■収穫は二人三脚。一つ一つ手作業で
小林さんが育てているヤマトイモは、すらりとした棒状の中首と長首(前者は短く、後者は長い)が主。以前はイチョウの葉のような扇形が一般的でしたが、扱いやすさや料理のしやすさから、近年は棒状が主流になっています。土をふかふかの状態に耕し、適宜かん水(農作物への水やり)を施して、真っすぐに育てます。
収穫期は夏の間に茂った緑の葉が冷気にさらされ、成長が止まって黄色くなり始める10月中旬から、翌年の3月までという長丁場。霜が降りても土の中までは凍らないので、真冬でも収穫ができるのです。畑を訪ねた日は11月で、ちょうど収穫の真っ最中でした。「まず機械を使い土を50㎝ほど掘ってヤマトイモを持ち上げ、その後、一つ一つ手で抜いていくんですよ」
腰を曲げての手作業ですからかなりの重労働です。小林さんをはじめとした男衆が掘り出し、奥さまや娘さんなど女衆がコンテナに詰めていく…。いつしかそのスタイルになったと言いますが、育てたヤマトイモがきっと健康の源なのでしょう、先代から栽培を受け継いで40年というご夫妻の笑顔はとても朗らかで、元気いっぱいでした。
■決め手はかん水技術。種イモ作りも自分で
1年のサイクルについても聞いてみました。収穫期以外には、どんなご苦労があるのでしょう。「収穫が終わったら、畑に緑肥用の麦をまきます。この辺りは、冬は赤城おろしと呼ばれる冷たい強風が吹く地域なので、風に飛ばされないように土を保護する意味もあるんですよ」
また、春から夏にかけては、次年度の作付けに備えてイネ科の植物で土壌改良などに役立つソルゴーをまいたりもするそうです。「その後、土を耕して5月の連休明けから種イモの植え付け。苗の成長を見守りながら、梅雨が明けたらずっと水まきです」
特に夏の雨が少なくなった昨今は、このかん水の案配は出来の良し悪しに関わる大事な工程。土中の水分によってヤマトイモの形が変わるため、土の乾き具合と柔らかさを見計らいつつ水をやり、真っすぐ成長するよう促します。
さらには、種イモも自分で用意します。ヤマトイモを70gほどのサイズに切り分け、青カビを防ぐために消毒して、設定温度を2℃に保った冷蔵庫で大切に保管。次の植え付けに備えるのです。「ヤマトイモはどこを切っても種イモになり芽が出ます。それから、種イモ一つにイモ一つしかならないのも特徴だね」
また、夏の畑では青々とした葉が地上を覆うこと。そして秋には紅く色付く葉がとても美しく、茎先には塩茹でにするとおいしい「むかご」ができること。目を細めて、そんな楽しいよもやま話もしてくれました。
■生でも加熱してもおいしいヤマトイモ
こうして地元の直売所などへ運ばれますが、すりおろしたり刻んだりと生のまま食べられるのがうれしいところ。独特の粘りをもたらす物質・ガラクタンは、タンパク質を吸収する助けにもなるといいますから、栄養たっぷりです。
小林家でも毎日のように食べているそうで、奥さまがヤマトイモチップスを振る舞ってくれました。「皮をむいてスライサーでスライスしながら、180℃に熱した油に落として、色が付くまで揚げるだけ。青のりと塩を振って食べるとおいしいですよ。コツはイモ同士がくっつかないように、菜箸を使って油の中でばらすことかな」
パリッとして、イモの味が濃いヤマトイモチップスは手が止まらないおいしさでした。
(取材にご協力いただいた生産者さん)
小林久次さん(66歳)…先代が50年前に始めたヤマトイモ栽培を受け継ぎ、はや40年。高齢化や後継者不足の影響で生産者の数が減るなか、種イモ作りから栽培、出荷までを手がけ、地域活性化に尽力している。写真右は、ヤマトイモ料理を教えてくれた奥さまの久美子さん(64歳)。
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