一杯のコーヒーに託したホンジュラスへの恩返し。知識ゼロから輸入・焙煎に挑んだ、愛媛のコーヒー店主の原動力
2026年03月16日 10時00分更新
26年3月8日の「国際女性デー」に合わせ、JICA(独立行政法人国際協力機構)内の有志が手掛ける「Hikari Project」から、一冊の書籍が発行されました。タイトルは『逆境の先に 世界の女性10名が紡ぐ“ひかり”の物語』。本書に登場する一人が、愛媛県伊予市双海町で「カトラッチャ珈琲焙煎所」を営む今井英里さんです。
JICA海外協力隊として赴任したホンジュラスで、過酷な現実に涙した経験から、まったくの未経験だったコーヒーの世界へ飛び込んだ今井さん。すべては「ホンジュラスのために」という一途な想いから始まった、彼女の活動の原点と哲学を伺いました。
算数を教えるよりも大切なこと。目の前の少女を救えない無力さに震えた日
――今井さんがホンジュラスで直面した「現実」とはどのようなものでしたか?
今井さん:赴任したホンジュラスでは、子どもたちに算数を教えていました。教えて感謝されることで達成感はありましたが、一歩外に出れば、ゴミ袋を抱えて空き缶拾いをする子どもたちが「お金をちょうだい」と寄ってくる現実がありました。ボランティアの私には助ける術がなく、毎日帰宅しては悔しさで涙が止まりませんでした。
中でも忘れられないのが、小3のレティシアという女の子です。彼女が学校を休んでいた時期があり、そのことを別の先生が問い詰めると、あるおじさんの家で働かされ、過酷な労働や売春を強要されていたことが分かったんです。あんなにかわいらしく人懐っこい子が受けた理不尽な暴力に、激しい衝撃を受けました。「算数よりも大事なことがある。この国を支える産業から関わらなければ、この子たちは救えない」という強い想いが、今の活動のスタート地点です。
――そこからどのようにしてコーヒーの輸入にたどり着いたのでしょうか?
今井さん:当時の私は、コーヒーの知識なんてまったくありませんでした。むしろ、それまでは自分にとってコーヒーはただ苦くて飲みづらい飲み物だったんです。でも、何ができるかを模索していた時に出会ったのが、ナンシーさんのコーヒーでした。
ナンシーさんは、ホンジュラスの第二の都市・サンペドロスーラで大きな看板に掲げられているほど、国内のコーヒー界では誰もが知るビッグスターのような生産者。彼女のコーヒーを一口飲んだ時、あまりのおいしさに概念が覆されるほどの衝撃を受けました。「このコーヒーを日本でお客様に届け、正当な対価を現地へ送ることができれば、子どもたちを救う循環が作れるはずだ」と確信し、ゼロから輸入と焙煎を学び始めました。
農家の想いを一滴も無駄にしない。ナンシーさんと共鳴する「循環」への敬意
――ホンジュラスのコーヒーには、どのような魅力があるのでしょうか?
今井さん:サトウキビをかじったようなフルーティーな甘みや、チェリーのような酸味ですね。これは次の世代にもきっと愛される味だと思います。その豊かな風味を壊さないよう、カトラッチャ珈琲焙煎所では提携農家と協力して真空パックで輸送し、鮮度と香りを守ることにこだわっています。
――今井さんのお店では、素材を非常に大切に扱っていると伺いました。
今井さん: 農家さんが作ったものを一滴も無駄にしたくないんです。例えば、通常は捨てられるカカオの皮(ハスク)も、ポリフェノールたっぷりのティーバッグに加工して商品化しています。可能性のあるものは、どうにかお金に変換し、現地へ回したいと思っています。私の活動の根底には「巡り巡って子どもたちの元に届いてほしい」という想いがあり、それは社会的に農園を助けたいというナンシーさんの理念とも強く通じ合っています。現地の農家さんは単なるビジネスパートナーではなく、お互いの人生を支え合う「仲間」だと思っています。
「待つ」ことは、相手を信頼すること。社会の波に飲み込まれないための覚悟
――書籍のテーマでもある「逆境」との向き合い方について、読者へメッセージをお願いします。
今井さん:私が大切にしている「待つ」ということは、諦めることではなく、相手を信頼し、タイミングが来るのを信じるということです。今しんどい思いをしている人も、どうか一人で抱え込まないでください。その苦しみはあなただけのせいではなく、社会の仕組みが絡み合って起きていることでもあります。
良い時期が来るまで、のんびりと、のほほんとしながらでもいいから、とにかく生き延びて、その時を待っていてください。ホンジュラスの農家さんも「収入にならなくても、コーヒー豆を作り続け、その時を待つ」とよく言っています。終わらせてしまうのではなく、生き延びて、待つ。逃げてもいいです。生きていれば。その先に必ず、新しい出会いと光が見えてくると信じています。
書籍名:逆境の先に 世界の女性10名が紡ぐ“ひかり”の物語
内容:JICAのHikari Projectにより制作されたインタビュー集。ジュエリーアーティスト、シングルマザー、ジャーナリスト、町長など、逆境を乗り越えて生きる10人の女性たちの等身大な記録です。
「逆境の先に」は下記URLで公開されており、手軽に読むことができます。英語版も同時公開中。 https://www.jica.go.jp/information/blog/1579092_21942.html
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