元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編

新潟県・越後妻有の「大地の芸術祭」を現地リポート

 2022年4月29日に開幕した第8回「越後妻有 大地の芸術祭 2022」に、一足早く、4月28日のプレスツアーに行ってきたので、現地リポートする。これまでの開催期間は約50日だったが、今回は、11月13日までの145日間。春・夏・秋と季節をまたいで、総数333作品(展示時期は作品によって変わる。新作、新展開の作品は123点)が展示される。これまでの7回は夏の開催だったので、今回初めて、初夏というか、遅い春に訪れた新潟県十日町、津南町は雪解け水が威勢よく流れ、多くの花が咲き誇る美しい季節だった。

 今回は新作を中心に回り、2021年に改修されてリニューアルオープンした「越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)」(越後妻有里山現代美術館[キナーレ]を改名した)や、宿泊もできるようになった築100年の茅葺の古民家「うぶすなの家」、イリヤ&エミリア・カバコフ『手をたずさえる塔』などを巡った。「うぶすなの家」は、近所のお母さんたちの提供する食事が人気の芸術祭のランドマークだが、今年は2階部分に布施知子の紙のアートが展示される。早速、紹介していこう。

「うぶすなの家」にて、お母さんと筆者

<うぶすなの家>

公式サイトより☞
 “1924年築、越後中門造りの茅葺き民家を「やきもの」で再生しました。1階には、日本を代表する陶芸家たちが手掛けたいろり、かまど、洗面台、風呂、そして地元の食材を使った料理を陶芸家の器で提供する作品兼レストラン。2階は3つの茶室から成るやきものの展示空間。温もりのあるやきものと茅葺民家、集落の女衆たちの溌剌とした笑顔とおしゃべりが人気を集めています。”

 うぶすなの家の辺りは、2004年に起きた新潟県中越地震の激震地で、大きく被災し、解体が決まっていた古民家だった。地震の爪痕は大きく、2006年の第3回「大地の芸術祭」から、解体しなければいけないような空き家や施設が多く芸術祭に参加することになり、一つの転機になったが、その中でも、再生された「うぶすなの家」は象徴的な施設になった。多くの災害と切り離せない日本という風土の中で、被害家屋が取り壊され、人が住めなくなることによる喪失感をアートにより景色を生まれ変わらせる可能性が示されたのだ。

 「うぶすな」は漢字で「産土」。八百万の神様で、土地の守り神とのこと。土を産むという言葉から、5人の陶芸家(澤清嗣、鈴木五郎、中村卓夫、吉川水城、加藤亮太郎)が集い、建物自体が、陶芸美術館のような趣に。大きな釜や風呂、手洗いなどが陶器になっている。

*4.29(金祝)~5.8(日)毎日、5.9(月)~7.29(金)の土日祝、7.30(土)~9.4(日)の火水以外、9.5(月)~11.13(日)の土日祝。特別開館にて閉館日の団体の予約受付あり。
*うぶすなの家を利用の際は、事前に近くの検温スポットに立ち寄りが必要。うぶすなの家の最寄りの検温スポットは、十日町市利雪親雪総合センター(旧みよしの湯/十日町市下条4-281-3)。

・作品鑑賞が可能な時間:11:00~16:00
・料金・入館料:大人500円、中学生以下無料
・電話番号:025-755-2291(うぶすなの家)

【食事】
●大地の芸術祭2022会期 新メニュー

うぶすなごはん
・お母さんが作る季節の小鉢と妻有ポークの煮豚&車麩の山菜だれ  2,000円
・お母さんが作る季節の小鉢と車麩の山菜だれ 1,500円
春)5月末まで+500円でとれたて山菜の天ぷらを付けられる
夏)こちらのメニューにくわえ、ばあばの気まぐれカレーを提供予定

●予約
下記期間は、食事利用の際に予約が必要。
・GW〈4.29(金祝)~5.8(日)〉
・春〈5.9(月)~7.24(日)の土日祝〉
・秋〈9.10(土)~11.13(日)の土日祝〉※8月より予約受付を開始
予約フォームから、希望の日にちと利用時間(11:00〜12:30/12:30〜14:30)を選択する。
予約フォーム☞https://urakata.in/new_reserve/calendar/tsumari_artfield?course_id=23051
※WEBでの予約は2日前まで。当日空きがある場合は、電話にて予約が可能。うぶすなの家(Tel 025-755-2291)まで問い合わせ。

十日町の名産である「明石ちぢみ」のコマーシャルソングとして作られた 十日町小唄を歌い踊るお母さんたち

うぶすなごはん「お母さんが作る季節の小鉢と妻有ポークの煮豚&車麩の山菜だれ」。もう一膳つく

布施知子
『うぶすなの白』

公式サイトより☞
 “「うぶすなの家」に宿る精霊のようなものに対する尊敬を、白い紙を折ることで表す。「風の茶室」「闇の茶室」には、一つが二つに分かれ、それがまた二つに分かれ、どんどん無限に分割していく「無限折り」を使った白い紙の作品を中心に展示。「風の茶室」には、螺旋状の雫のような折りの作品も吊るす。「光の茶室」には、色を使った折り紙の「入れ物(箱)」を並べ、人間の営みを表現する。”

 うぶすなの家の2階に展示されている。布施知子は1951年新潟生まれ、大町在住。折り紙作家。パーツを組み合わせてつくる「ユニット折り」の第一人者。工業製品も手掛け、著書が多言語に翻訳されるなど、国内外で活躍している。

・制昨年:2022年
・公開日:うぶすなの家と同じ
・料金:うぶすなの家の入館料に含まれる

<松代エリア>

イリヤ&エミリア・カバコフ
『手をたずさえる塔』 『手をたずさえる船』

 カバコフは、ウクライナのドニプロで、ユダヤ人の両親のもとに生まれた。当時は旧ソ連のドニエプロペトロフスク。第二次世界大戦の激戦地となり、ナチスを逃れてサマルカンドに疎開した。1950年末から1970年代にかけて、ソ連の文化統制下、自分のための作品は隠れて制作し、公的には絵本作家として生活をした。80年代にドイツを経てアメリカに移住するまで作品を発表できなかったのだ。

 『手をたずさえる塔』は、民族・宗教・文化を超えたつながり、平和・尊敬・対話・共生を象徴する作品。塔上のモニュメントは、問題が生じたとき、良いニュースがあったときなどによって、色が変わる設定だったが、ウクライナ侵攻により、ウクライナ国旗の色、青色と黄色が交互に灯されることになった。塔内には、世界各地で制作している、カバコフ自身がデザインした船に世界の子供たちの絵を組み合わせて作った帆を掲げる『手をたずさえる船』の模型と6枚のドローイングが展示されている。

*4.29(金祝)~5.8(日)毎日、5.9(月)~11.13(日)の火水以外

・制昨年:2021年
・料金:一般500円(パスポートまたはフィールドミュージアム券提示で無料)

<越後妻有里山現代美術館 MonET>

 2021年に改修されてリニューアルオープンした「越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ)」(越後妻有里山現代美術館[キナーレ]を改名した)もしっかり回った。同館は、2003年に誕生した十日町ステージ 「越後妻有交流館・キナーレ」の一部が2012年、「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」に生まれ変わり、昨年、MonETになった。十日町の名称のもととなった節季市をイメージし、圏域全体のヒト・モノ・情報が交差する場として、梅田スカイビルや京都駅で知られる建築家・原広司氏が設計、豪雪地では珍しい半屋外の回廊をもつ。翌日の開会式の準備があわただしい中、北川フラム・総合ディレクターに話を伺った。

 「原広司さんは、世界中の集落を巡っていて、砂漠の中のオアシスとしてこの美術館をイメージした。それなりに転用できるように、いろいろな形で使えるように考えた。2013年には、少し展示ができるようになったが、今回の改修は、現代美術館としてやっていけるように。我々も力がついて現代美術館としてやっていけるようになった。一部残っているが多くを入れ替え、残っているものも展示形態を変えた。

 今回、大地の芸術祭に間に合ったのが、ウクライナの女性アーティスト、ジャンナ・カディロワ。ロシアのウクライナ侵攻の後、戦火のキーウからウクライナ西部へ避難した。避難先の山村の河原を歩いていて石を拾って作品にしたい、と思ったそうだ。その後の避難先の集落で石をパンに見立てて展示をした、という連絡が彼女からあって、大地の芸術祭でもやれないだろうかと打診したら、イタリア経由で石が届いた。(取材の)今日の朝、肖像画も届いた。ウクライナのアーティストの展示としてはアジアで最も早いのではないか。

 また、大地の芸術祭が始まって23年間、多くのアーティストが亡くなった。昨年は、(芸術祭の顔でもあった世界的なアーティストの)クリスチャン・ボルタンスキーが亡くなった。彼らを惜しむ展覧会「大地の芸術祭2000-2022 追悼メモリアル ― 今に生きる越後妻有の作家たち」を企画した。2週間ごとに12本。1回目は、ジャン=リュック・ヴィルムート。彼は、本当なら、大アーティストの道を歩けただろうが、ワークショップに集中したアーティスト。何度も日本に来ている。(取材の日)今日、パリから同僚たちがやってきた。最後の手直しも行った」

・営業時間:10:00~17:00(最終入館16:30)。冬季は営業時間が短縮する可能性があり。火水曜休館(祝日の場合は翌日休館)
・料金・入館料:常設展示は一般1000円、小中500円。特別企画展(常設展示含む)は一般1200円、小中600円。

レアンドロ・エルリッヒ『Palimpsest: 空の池』。中央にある回廊に囲まれた大きな池の水面に光が反射し、空や建物を鏡のように映し、底にある写真と一体化する

北川フラム・総合ディレクター

ジャン=リュック・ヴィルムート展

ウクライナの女性アーティスト、ジャンナ・カディロワ『パリャヌィツャ』。カディロワのコメント「『パリャヌィツャ』はウクライナ語で丸パンを指す。ウクライナ語を母語としない者には発音しにくい単語であり、偵察者かどうかを見分けるために使われる言葉でもある。作家は2022年3月、戦火のキエフからウクライナ西部の山間の村に避難し、川で石を集め、デニス・ルバンと共にパンのオブジェを制作し始めた。パンは幸福、生命、平穏な生活の象徴である。戦争で平穏な日常を失った作家が最初につくった作品がパンだったことは、日常や平和が再び戻るようにという願いのようでもある。このオブジェの売り上げはウクライナの市民のために寄付される。『戦争が始まった当時、私は芸術は夢のように儚いものだと感じた。しかし今は、美術は声を届けてくれると信じている』」

中谷ミチコ『遠方の声』。作者のコメント「2018年、作品制作のために地域の方からの聞き取りをさせていただきました。雪深い時期に一軒一軒お邪魔すると、すぐに炬燵に招き入れられ漬物とお茶をいただきながらホコホコと緩やかな時間の中で、もしかしたらこのまま居眠りをしていっても許されるのではないかと思えるほどに暖かい優しい空気の中、鮮やかな昔話や幼い頃の思い出、お唄を伺った。親密で豊なそれぞれの記憶から生まれるイメージは真っ白な窓の外の雪原に投影される様でした。私はそのイメージをそのまま彫刻化し、上野公民館に個人的な祈念碑を制作しました。2021年、前回の様な訪問は叶いそうにありません。あの記憶に触れた時間自体が記憶となり、私はその糸を手繰り寄せています。コロナ禍で生まれた距離と、川の向こうで聞こえる声を重ねながら、イメージの実態を探るつもりです」

<十日町エリア>

河口龍夫
『農具の時間』

公式サイトより☞
 “この地域の農夫が永年にわたり使用し、納屋に眠っていた古い農具には持ち主との関係性が濃厚に染み付いている。作家はこうした農具に植物の種子を植えつけ、鉛で栓をした。展示空間は一面、黄色一色で塗られ、吊られた農具は地域の方が実際に振るっている姿をトレースし制作された。鑑賞者はストップモーションのように展示された農具に触れることができる。人に従っていた農具に、逆に人が従うというコンセプトが込められた。”

 実際に使われる高さに吊るされていて鑑賞者がまさに使うように持てる。

*4.29(金祝)~5.8(日)毎日、5.9(月)~7.29(金)の土日祝、7.30(土)~9.4(日)の火水以外、9.5(月)~11.13(日)の土日祝

・制昨年:2022年
・時間:10:00~17:00(10・11月は16:00まで)
・料金:個別鑑賞券500円(妻有田中文男文庫 施設入館料)もしくは、作品鑑賞パスポート。

椛田ちひろ
<ゆく水の家>

公式サイトより☞
 “空き家に残された建具を用いて、古い流れと新しい流れが同居してきた市ノ沢集落の歴史が表現されている。建具に貼った「流れ」を描いた障子紙には、裏側から光が灯されることで、黒壁の暗い室内に川の「流れ」が浮かび上がる。上階は一転して白く明るい空間に、透明なメディウムで描き出された山谷の連なりが広がる。今も昔と変わらずに集落を囲む山々が、幽かな陰によって描き出される。”

 二つの川が合流する土地に建つ空き家は雪解け水の音が気持ちよく響いている。ボールペンで書き込まれた川の流れは髪の毛のようでもあり、中に入ると変化する光が少し怖いような自然の力を感じさせてくれる。夏には二階に、逆に真っ白な明るい作品が一階の世界との対比のように出来上がるそうだ。

近所のおじさんたちが、この家の近くの樹に着物を着せていた。芸術祭を訪れる人たちへのおもてなしなのだそうだ

<津南エリア>

早崎真奈美
『Invisible Grove 〜不可視の杜〜』

公式サイトより☞
 「菌や植物などの顕微鏡イメージを拡大し、紙から切り出しオブジェを作成する。ミクロな対象を森や宇宙などマクロなものとイメージを重ね合わせる。オブジェをテグスで吊っていく。紙のオブジェはゆっくり空気の動きで水平に回転するものもある。角度によって見え方が変わり、平面でありながら立体的に空間を浮遊する。それは『平面と立体』『光と影』『ミクロとマクロ』など、二極に見えて境目が曖昧なものを表している」(作家コメント/抜粋)

 地元の酒屋、苗場酒造の二階の貴賓室に展開する繊細な世界。切り絵が生花のように、調度に収まり、陰に見えて実はマッピングという動く影の微細な表現に痺れた。部屋の各所にひっそりあつらえられた作品を見つけるのも一興。漆を塗ったものや金箔を使った作品も。

*4/29(金祝)~5/8(日)の5/4(水)以外、5/9(月)~9/4(日)の火水以外

・時間:10:00~17:00
・料金:個別鑑賞券300円もしくは、作品鑑賞パスポート。

■開催概要

「越後妻有 大地の芸術祭 2022」作品鑑賞パスポート
【販売開始】 発売中 ※早期割販売は7/29(金)まで

【オンライン販売】https://www.asoview.com/channel/ticket/9nqy9Vjt7P/ticket0000001409/
※上記URLから購入出来る。引換場所にて、引換券又は確認画面を提示。パスポートと引き換えられる。

【有効期間】 2022/4/29(金祝)~11/13(日)※会期中有効

【販売場所】 十日町市総合観光案内所、松代・松之山温泉観光案内所、津南町観光協会、MonET、農舞台 など

【引換場所】十日町駅西口案内所、まつだい駅案内所、津南案内所(苗場酒造敷地内)、MonET案内所、まつだい「農舞台」案内所、清津峡案内所(清津峡渓谷トンネル入坑者用)、下条案内所(利雪親雪総合センター)※期間限定、清津倉庫美術館案内所 ※期間限定
※引換期間: 2022/4/29(金祝)~11/13(日)

【料金】
・早期割料金 一般3,500円/大学・高校・専門2,500円/中学生以下無料
・通常料金 一般4,500円/大学・高校・専門3,500円/中学生以下無料

【利用条件・特典など】
・パスポートの提示で越後妻有地域のお店で利用できる割引サービスの特典あり
・清津峡渓谷トンネルは、パスポートの提示で入坑料が割引 ※要事前予約期間あり
・パスポートの提示でイベント割引あり
・2回目以降の利用はパスポート提示で半額
※ただし、以下の施設は3回まで入館可(4回目以降パスポート提示で半額)
<3回まで入場可能な施設/作品>
・越後妻有里山現代美術館 MonET
・鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館
・まつだい「農舞台」
・奴奈川キャンパス
・越後松之山「森の学校」キョロロ
・越後妻有「上郷クローブ座」、香港ハウス

【パスポートの種類】
・紙パスポートのみ販売。電子パスポートの販売は無い。
・2021年9月にリリースしたスマートフォン向け大地の芸術祭公式アプリ「大地の芸術祭 電子パスポート&ガイド」は、「越後妻有 大地の芸術祭 2022」では、作品情報検索機能及びスタンプラリー機能として、無料で利用出来る。

【公式サイト】https://www.echigo-tsumari.jp/

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