中年の夢をかなえる関東一円バイク旅「代走、オレ」

一気に食べても頭痛なし!? 長瀞の「ミラクル天然かき氷」

2022年10月06日 11時00分更新

 今年、2022年の日本人の平均(中心)年齢は48.6歳。そう、全国民の中心は間違いなく、団塊ジュニアの「おっさん」たちである。

 なのに、現実はどうだ。今の世の中、若さしか勝たん!とばかりに、中年の肩身はどんどん狭くなる一方。自宅に帰れば家族から雑に扱われ、宴会嫌いな若い衆の突き上げを食らい、ちょっとした物音や自分の枕の加齢臭で、夜中にハネ起きる。それから二度寝できなくなるのも「おっさんあるある」だ。

 かつての名言「偉くなくとも、正しく生きる!」(byエンペラー吉田)を胸に日々をやり過ごすフツーなおっさんに、日々溜め込んだウップンを晴らすアテはないのか。犯罪以外で。

ストレスまみれなおっさんの癒され願望を叶えたい

 その切なる思いに天も哀れみを覚えたようで、こんな仕事話が突如舞い込んできた。

『何かとストレスフルなおっさん世代の癒され願望を、叶えてみたくない?』
「……ホントに!? こんな私でいいんですか?」

 弟が勝手に応募したオーディションに受かったアイドルよろしく、わざと恥じらいながらも即オッケーしかない。しかも、仕事とあらば経費も出るし、白昼夢のようだ。

 こうして話が決まれば、次はおっさんのモヤモヤ気分を忘れさせる願望探し。なんたって当の自分がアラフィフど真ん中。見聞きしてきたモノやコト、心持ちは一緒だ。周囲の同年代にも聞き込んだ結果、出てきたのは「一気にかき込んでもアタマが痛くならない」という、ニワカに信じ難い「天然かき氷」の存在。その伝説級の一杯は、埼玉の山奥にあるとか。

 だが急に聞かされたところで、すぐ行きたくても行けない人は多いだろう。仕事や雑用は山ほどあるし。それなら、この自分が少々厚かましいながら、おっさん世代の癒され願望を代わりに叶えて、ストレス発散の手伝いをさせてもらうのが、今回の新企画「代走、オレ」。

 関東一円を股にかけ、知る人ぞ知る秘境温泉や絶景、ローカルグルメなどなど、おっさん世代が憂さ晴らしできるアレコレへ突撃体験しに行くぞ。

 そんなわけで、記念すべき第1回の目的地は、埼玉の山間部・長瀞にある、ウワサの天然かき氷を出す店「阿左美冷蔵 金崎本店」に決定。果たして、一気に食べても本当に頭が痛くならないのか? その真偽を確かめるのが、今回のミッションだ。

 現地への交通手段はバイク。なぜなら、皆の代行人である以上、己だけ楽してクルマなどあってはいけない。季節の移り変わりと風雨酷暑をモロに浴びてこそ、だ(実は30年来のバイク好きなので、何の苦にもならないだけ)。我が愛車は、リッター40キロ近く走る燃費抜群のホンダPCX150。ガソリン代高騰の昨今、フトコロにとことん優しい孝行者でもある。

気温36度の炎天下で取材敢行! 一路長瀞へ関越道を北上

 取材当日。自宅のある大田区から意気揚々と愛車で出発! 早くも午前中で気温36度を超え、かき氷には絶好のコンディション。目指す長瀞へは、環八から関越道の練馬ICで乗って北上するのが最短ルート。大田区から約2時間少し、炎天下を走り続けることになる。アラフィフおっさんには、高校の部活以来、数十年ぶりの試練だ。暑さでココロが折れないよう、脳内で「DANGER・ZONE」をひたすらリピート。こないだ、追いトップガンしといて正解だった。

 練馬ICから1時間ほどの花園ICで降り、秩父長瀞方面へ向かう道中、ノドが乾いて休憩したのが秩父鉄道の波久礼駅。1時間に2本程度の往来しかない静かな無人駅を眺めて、プチトリップ気分に束の間浸ってみよう。特にローカル鉄ちゃんなら、この木造駅舎の風情だけで半日は過ごせるかも。

目的地は創業明治23年、貴重な天然氷の蔵元

 自宅を出てから2時間強で、ようやく目指す「阿左美冷蔵 金崎本店」に到着。バイクを停めて店の敷地内に入ると、待ち客の大行列! だが当日は繁忙期ながら平日だったため、恐れていた最大3時間待ちというカオスは回避。結果、1時間も待たずして入店できたのは、皆の代行人ゆえの、見えない御加護があったのだろう。

 こちらの阿左美冷蔵は明治23年創業、130余年の伝統ある天然氷の蔵元だ。その6代目当主の阿左美幸成さんから、いろいろと興味深い話も伺えたので、少々襟を正してお伝えしたい。

 「家業が今日まで長く続いたのは、明治~昭和まで秩父で盛んだった養蚕業での需要に支えられ、併せて観光地・長瀞の旅館や飲食店からの業務用冷蔵器などへの供給もあったので、電気冷蔵庫の普及後も事業が成立したことです。周辺の環境のおかげですね」

 現在では、全国で6か所(関東に5か所、うち秩父に1か所)しか天然氷の蔵元は残っていないので、その存在自体の貴重さが分かる。

 和洋入り交じったカフェ調の店内外のデザインは、木版画家でもある先代が担当。店舗は本館と新館があり、古民家から洋風モダンなど多様な建物が混在して「常に新しく居心地のいい、誰かを連れてきたくなるような空間づくり」に努めている。自分のようなおっさんのおひとり様でも、疎外感なく落ち着いて過ごせる雰囲気だ。これはかなり大事。

天然氷は毎年、採れる量が限られている

 店の看板である天然氷とは、自然の環境下で数か月、ゆっくり時間をかけて凍らせた氷で「結晶が大きく、それにより結晶同士のすき間が少ないので、不純物が入りにくい氷になります。また、大きな結晶であることから、スライスした削り粉も長く、比較的良好な食感を得られる」ことが特徴だ。

 その年の冬の冷え込み次第で、氷の採れる量が変わってくるのも天然だから。

 その氷を生む秩父の水も「秩父セメントで有名ですが、石灰質の地域でミネラルのバランスもよく飲みやすい。当店の氷の源水も、山の沢から取水した天然水です」。

 なるほど、地質の恵みを受けた良質な水があってこその天然氷。もうひとつ、氷自体の質や味の変化も「質は毎年の寒さによるので、昔と変わらない」という。

 近年起こった高級かき氷ブームでは「斜陽産業だった氷雪関連業(天然氷生産)が、息を吹き返したことをうれしく感じています」とも話してくれた阿左美さん。真面目な話、これから対面するかき氷は、そこらのフツーのかき氷ではない。秩父の自然と蔵元を守ってきた先人たちの、永きにわたる情熱がこもった特別な一杯なのだ。

ついにご対面! 麗しの白き孤峰
超絶フワフワ食感のかき氷

 案内された席に座ってしばらくすると、入店時にオーダー済みの定番にして王道「あさみの氷みつ いちごシロップ添え 練乳付き」1300円(トッピングで白玉5個200円)が運ばれてきた。

 どうですか、この天然氷の麗しき白肌! すぐシロップをかけてはもったいないと、酷暑も忘れてうっとり見入ってしまった。

 阿左美さんによると「昨冬は特に寒かったので天然氷の出来がよく、年内いっぱいは在庫も大丈夫」と、うれしいお言葉。逆に暖冬で出来が厳しい年は、8月末にはなくなってしまうとか。最新情報は店の公式サイトで事前に確認を。

 フルーツシロップは極力、自然な材料のみで仕上げるので色などは地味に見えるも、果物の持つ本来の味が楽しめるもの。このいちごシロップも、たっぷりかけようが過度な甘さにならず、スッキリしたフルーツの酸味と一緒に舌の上を通り抜け、なんとも絶妙な後引き具合なのだ。ゴテゴテな人工甘味料で育った両津勘吉ファンの世代には、「おおっ!」と瞳孔全開になる思いがする。

 透明な氷みつ(写真右下)もこの店専用に作られたオリジナルで、イヤな後味もまったく感じない。主役のいちごの風味を引き立てる品のよい甘さが、口に入っては消えていく氷のフワフワ食感と相まって、スプーンの高速回転が止まらない。もっと濃い甘さが欲しい向きは、ポット入りの練乳をお好きなだけ。器に残った最後の一滴まで飲み干せてしまう、不摂生なおっさんにはどうにも罪深い一杯だ。口直しの梅干しも、自然な酸味が心憎いばかり。

 先ほど言った、フワフワした舌触りになる秘訣は、第一に氷の温度管理にある。「冷凍室から出して十分に溶けた氷を使います。温度が高い方が氷も軟らかく、シロップの乗りもいいです。あとは削り刃の交換とセッティングは頻繁に行っていることですね」。

なぜだ!? 一気に食べても頭痛がしない

 ウワサで聞くところでは、天然氷は食べても頭が痛くならないという。それは本当なのか? 半分ほど一気に食べてみたが、いつもキーンと襲い来る、通称「アイスクリーム頭痛」がまったく来なかった(個人差あり)。

 一説では、不純物の少ない天然氷は、固く溶けにくいので細かく削れる⇒口の中で溶けるのが速くなる、さらに氷自体の温度を高くして出せるなどが合わさり、痛みを感じにくいとも言われている。しかも、おっさんの歯にしみなかったことで、これもポイントアップだ(個人差あり)。

 メニューには、メロンや抹茶など定番品のほか、季節限定のフルーツや、大人向けのプレミアムフレーバーとしてアルコール入りもある。店舗前の受付に張り出されているのでチェックしよう。

奥地の長瀞まで来たのなら
追いかき氷せずには帰れない

 いちごのかき氷を平らげたあと、まだ並んでいる人たちを横目に帰路に就くはずが…。バカみたい、いや、ぜいたくに早食いしてしまったため、今度はゆっくり味わってみたくなった。ここのかき氷に敬意を表するなら、そうすべきだ。幸運にも今日は行列がかなり短い。そもそも代行の命を負う者ならば悩む以前の問題だと、早速もう一度並ぶことにした。先日は追いトップガン、今日は追いかき氷。幸せと暑さでどうにかなりそうだ。

 2杯目は、趣を変えて純和風テイストの「蔵元秘伝みつ 小豆あん&黒みつ付き」1300円。蔵元秘伝みつは、お客さんからの支持がトップなのだとか。小豆あん(写真左奥)と黒みつも、シロップ同様に同店専用で作られた特製品。

 そして気になるのは、店の一番人気である蔵元秘伝みつの製法。当主の阿左美さんも大好きな味だそうで、その秘密はダメもとで聞かねばなるまい。

 「四国・阿波の和三盆糖を煮詰めて作ります。製法はこのくらいで(苦笑)。氷という自らの主張が少ない食材を味わって頂くには、シンプルなみつ。そして、私たちが100年以上続けている日本の文化継承としても、和三盆を使ったみつが一番だと思います」。

 当主にここまで言わせる、秘伝のみつとかき氷。枕草子に出てくる「甘づら」のみつの味を現代に再現したという、奥ゆかしい日本古来の甘味が奏でるハーモニーで、お替わりも瞬く間に平らげてしまった。

 2杯目は味わって食べるはずでは? 鳥類並みの忘れ方に、我ながら呆れるばかりだが、追いかき氷もこれまた正解だ。

天然氷のついでに天然記念物観光!
地質&三国志好き必見の秩父‟赤壁‟

 大満足のかき氷突撃の帰り道は、ついでに名所も見ていきたいところ。そう言えば、ここは人気観光地の長瀞。有名なライン下りや、ブラタモリでも大々的に特集された天然記念物の岩畳なる名勝がある。本来は地中深くにある太古の岩が露出しているので「地球の窓」とも言われる、珍しい地だ。

 その岩畳の対岸にあるのは、8500万年~6600万年以上前の岩壁。あの三国志の一大決戦地・赤壁に似ているので秩父赤壁と称される、三国志好きなら必見の場所。この日はたまたま川の水が濁っていたので、荒川が大河・長江に見えなくもない。そこはおっさん世代の豊かな妄想力でフォローしよう。

新企画「代走、オレ」第1回総括
「頭痛なしのかき氷は実在した!」

 記事冒頭のチャラい気分で向かった、今回のウワサのかき氷体験だが、実際に2杯完食した直後でも、頭痛ゼロだったことにビックリ。さらに阿左美冷蔵の歴史、天然氷やシロップへのこだわりを聞くにつれ、記事後半では、ダラけたおっさんの背筋もシャンと伸びてしまった。かき氷の概念が覆る、ぜひとも食べてほしいアメージングな逸品だ。

 酷暑も大型連休も過ぎたこれからが、ピークの大行列もだいぶ減って、行きやすくなるチャンス。それでも超人気店なので、なるべく休日よりも平日が◎。長瀞は食あり名所ありで、東京からバイクでちょい旅するにも絶好の距離感。スカッとした1日が過ごせるぞ!

 以上、突撃代行体験記「代走、オレ」第1回は、いかがだっただろうか。次回も、おっさん世代のどんな癒され願望を叶えに行くのか!? お楽しみに!

★代走おまとめ帳
・走行距離=東京・大田区~埼玉・長瀞 ※片道約105キロ、往復約210キロ
・所要時間=片道約2時間20分
・交通費=関越道通行料 練馬IC~花園IC 片道軽二1550円(ETC割引なし)、ガソリン代840円(リッター160円換算)、長瀞駅付近有料駐車場100円
・食費=かき氷2杯1400円+1300円 ●合計=6740円 

★スポットデータ
「阿左美冷蔵 金崎本店」
埼玉県秩父郡皆野町金崎27-1
・繁忙期は店の駐車場がクローズのため注意。バイクは可
http://asamireizou.blog.jp/

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