安城市で起こった「リアル下町ロケット」!? 地方の町工場が国家プロジェクトに参加【イセ工業株式会社】

2023年03月09日 10時00分更新

技術力を買われてH3ロケットで使われる部品を手がけることに

 愛知県安城市は、持続可能なまちづくりとSDGsに取り組む企業・団体と共にSDGsの目標達成を目指す「あんじょうSDGs共創パートナー制度」を立ち上げ、現在190社を超える企業と団体がパートナーとして登録している。

 シリーズ企画として、そんな共創パートナー企業・団体を広く発信。事業内容やSDGsの活動をはじめ、地域との結びつきまで、「実はこんなユニークな取り組みを行っていた!」と、共創パートナー各企業・団体の知られざる魅力を深掘りしていく。第9回は、愛知県安城市に本社を置くイセ工業株式会社を紹介する。

「H3ロケット」に使われる各種パイプの開発・設計

設計・試作から小ロット品の製作まで、多くのメーカーの開発に関わるイセ工業

 イセ工業は、パイプや配管の曲げ、溶接、プレス加工などを行う、自動車部品のモノづくり企業だ。特にパイプの各種加工技術は秀でたものがあり、取引先から絶大な信頼を得ている。

 そんなイセ工業は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱重工業が共同開発中の次期基幹ロケット「H3ロケット」にも関わっていて、同社が製造したパイプがロケットに使われている。地方の町工場がなぜこのようなプロジェクトに!? 代表取締役を務める秋庭新吉さんは「ご縁がきっかけでした」と振り返る。

「2018年ごろです。安城市役所に『コストダウンのためにロケット部品を国内で調達したいと考えていて、技術力のある企業を探している』と相談がありました。H3ロケットに関わっている方が安城市在住で、それで市役所に相談したようです。市役所の職員さんが当社のことを知っていて、私たちと三菱重工業さんをつないでくれたのです」(代表取締役・秋庭新吉)

H3ロケットに使われている各種パイプ

 ロケットの打ち上げにかかる費用は1回で100億円前後ともいわれている。部品は海外から調達するのが基本で、高コストが課題となっていた。開発関係者は国内での生産を検討。そこで、イセ工業に白羽の矢が立った。

 「当社のパイプ加工の技術に期待してくれていること、そして航空宇宙産業へ進出するチャンス…私にとっても夢のような話でした。しかし、いざ話を聞いてみると、とても簡単なものではなかったのです。当社は優れた技術とノウハウを蓄えてきたつもりです。しかし、クライアントから求められた“軽量化”と“複雑な構造”は、自動車部品とは異なるまったく新しいものでした」と秋庭さんは振り返る。

 素材は柔らかくて加工しやすいアルミニウムを使用。ただし、パイプを軽量化するために厚みを薄くする必要があった。曲げる際には「曲げR」と呼ばれる数値が関わってきて、一定の厚みの下で急激に曲げると折れてしまう。これまでの常識が通用しない複雑な構造もそう。秋庭さんは「一度考えさせてください」と伝えるしかなかった。

普段、同社が作っている自動車関連企業に向けたパイプ

「下町ロケットだ!」困難を前向きに乗り越えた仲間たち

 自分たちにできるのだろうか? 秋庭さんは社内で検討した。しかし、クライアントから「(他社ではイセ工業にある)同じような設備で製造している」と聞かされた。それなら自分たちにもできないはずはない。

 社内で「RPJ」と名付けたロケットプロジェクトチームを立ち上げて、部署の垣根を超えて有志を募った。A、B、Cと仮説を立てながら試行錯誤を繰り返し、約1年かけてクライアントが求めている水準のパイプを作り上げた。

「私自身がRPJのプロジェクトリーダーを務めていましたし、参加者は『失敗しても社長が責任を取ってくれる』と思っていたのかもしれませんね(笑)。大変でしたがみんな前向きで、『下町ロケットだ!』なんて言いながらやっていました。私たちにとっても自信になりましたし、これをきっかけに新しい仕事につなげていけたらと思っています」(代表取締役・秋庭新吉)

自分たちが持つ加工技術を生かしたSDGsの取り組み

 パイプ加工の技術を生かし、地域貢献や地域連携などのSDGsにも取り組んでいる。 ハーブやエッセンシャルオイルの製造販売を手がける安城市の株式会社ランドから相談を受け、「水蒸気蒸留装置」を共同開発した。これは刈り取った後の草花や果実の皮を使って蒸留する装置で、例えば廃棄するはずのオレンジの皮からオレンジの香りがするエッセンシャルオイルなどが作れる。マフラー製作で培ったイセ工業の加工技術が存分に生かされている。

 この装置を使って、再利用体験のSDGs授業を地元の小学校や中学校で行った。安城農林高校の生徒とタッグを組んで、オイルの商品化も目指した。結果的に商品化には至らなかったが、学生たちは貴重な経験ができたはずだ。

 最近は自社の技術を生かし、まきストーブを自社開発。こちらは安城市が開催する自称ナンバーワングランプリ「J-1グランプリ」に出展。惜しくもグランプリ受賞とはならなかったが、最終選考まで残り、今後は改良を加えて商品化を検討している。

まきストーブ。試作の段階だが、商品化を目指して検討している

 自動車業界は今、変革の時期を迎えようとしている。現状維持は後退への第一歩。社員が安心して働ける環境をつくるため、働きがいも経済成長も目指すため、自分たちの長所を生かして、新しい分野に次々と挑戦。社員も社会もハッピーにするべく、イセ工業は地域貢献につながるモノづくりを続けていく。

(提供:安城市)

この記事をシェアしよう

エリアLOVE WALKERの最新情報を購読しよう

この特集の記事

PAGE
TOP