エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「大阪・関西万博をブラタマキ」 第23回 最終回

万博の記憶と記録、アーカイブは大事だ。きっちり次の世代に受け渡すまでが大阪・関西万博なのだ

万博会場内の記念写真

 半年間の熱狂とともに、大阪・関西万博は2025年10月13日、その幕を閉じた。開幕前から、万博を追いかけてきた「大阪・関西万博をブラタマキ」もこの第23回をもって閉幕である。

 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会は10月14日に、開幕日(2025年4月13日)からの来場者数と、販売開始(2023年11月30日)以降の入場チケット販売数について発表をした。

 累計来場者数は2025年10月13日(月)時点で2901万7924人(うちAD証入場者数343万8938人)。累計チケット販売数は2025年10月13日時点で2206万9546枚(チケット販売数は、閉幕後に来場実績を踏まえた精算等を実施するため、現時点での暫定値)。この中に筆者も入っているわけだ。開幕前に2回、開幕後の期間中に13回訪れた。ちなみに、1970年の大阪万博の際は小学校3年で6回入場していたので、倍増したことになる。

 アフター万博の話で、夢洲をどうするのか、IR(統合型リゾート)はどうなるのか、この半年で得られた世界中とのネットワークをどう生かしていくのか、などなど重要なことは山ほどある。しかし、この最終回で伝えたいことは、

「万博の記憶と記録、アーカイブは大事だぞ」

 ということである。

グラングリーン大阪のVS.「安藤忠雄展 | 青春 TADAO ANDO YOUTH」会場で、大屋根リングの建築家、藤本壮介氏とばったり

万博の会場で、チェコ共和国パビリオンのマスコットキャラクター「レネ」と。1970年の大阪万博で展示されたガラス作品を制作したアーティスト、レネー・ロゥビチェク氏にちなんで名付けられた

 文筆家、編集者、色彩研究、美術評論などで活躍されている三木学氏と筆者は、一緒に大阪府日本万国博覧会記念公園運営審議会の審議員を務めていたのだが、1970年の大阪万博跡地である万博記念公園の活用について多くの議論を重ねてきた(筆者は2期8年で満了となって今は離れている)。

 ほかの審議員の方々ともさまざまな議論をしてきたが、三木氏と筆者、2人で一致していたのは「アーカイブ」の整備だった。特に三木氏は中之島美術館のアーカイブの担当者の方などさまざまな人たちとアーカイブのあり方を探っておられた。

 筆者も、アーカイブについて提言してきた。70年万博は資料の保存がすばらしく、音声資料も多く残っていた。昭和の現代音楽、アニメ・特撮音楽、映画音楽などを研究し、実際の演奏会など多くをコーディネートしてきた西耕一氏に協力をしてもらって掘り起こし、現代美術家、映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家として活動している宇川直弘氏と協同して、「大阪万博50周年記念展覧会」(2020年2月15日~24日。会場はT-ART HALL 東京・天王洲)で、「NO BREATH/EXPO70 EDITION」という作品を作ってもらった。

 残された音声資料は膨大で、たとえば、万博で働く人に向かって岡本太郎(太陽の塔を作った現代アーティスト)らが訓示する声なども記録されていて、そういった当時の音声を使って作品を作った。ある意味筆者が作った「太陽の塔ウォーカー」というムックもその一環だったが、2025万博も今後はそう言う立体的な記憶を形作っていくことが大事だ。

 今回のより開かれた万博でも、誰でもアクセスできる「アーカイブ」を作ることが急務だ。 日本国際博覧会協会の公式資料の整備はもちろん、訪れた観覧者の記録、そして、万博ミュージアムを作られた白井達郎さんのコレクションのように、個人コレクターたちの、万博のスタンプ、グッズ、記念品、紙資料などなど、莫大な関連コレクションも見通し良くなっていってほしい。 

 また、膨大な映像記録も気になる。三木氏がFacebookやXにもポストされていたが、今回の万博は70年万博のようなきちんとした記録映画の話を聞いていない。70年万博では、谷口千吉総監督『公式長編記録映画 日本万国博』という公式の映画があり、万博の全貌を記録した公式の長編記録映画として、1971年に劇場公開された。

 しかし、今回は、1970年とは違い、2900万人の入場者はすべて、スマホなどの映像記録デバイスを持っており、未編集の動画、音声、写真の数はとんでもなく前回より多いはず。さまざまなリポートや記録は作られるだろうが、これらの大衆による記憶媒体を“編集する”のはドキドキする作業になるだろう。

 自分の15回の万博訪問はすべて取材で、その素材だけでも多い。2度目の東京オリンピックの映画はシグネチャーパビリオンのプロデューサー、河瀨直美さんが撮影したが、大阪で2度目の大阪・関西万博は映画としても受け入れられる可能性は高い。

 初めてのSNS万博として得られた膨大な映像を編集すると、すごい作品になるだろう。著作権処理は大変だろうが……。

 今回は公式のプロモーション、情報発信も進化していて、公式のショート動画が毎日上げられ、しかも、センスが楽しい。説明的ではなく感覚的だが、そこにいる人の情緒を捉えた映像が多く発信された。この映像も膨大に撮られているだろう。

 素材としては、1970年万博とは比較にならない量。はたして、どう活かされるのだろうか。

 以下は、筆者の22回におよぶ、万博会場取材の記事一覧だ。今回、エリアLOVEウォーカーでの万博特集は全143回に達し、チームで期間中の平日にアップした「日刊大阪・関西万博」も筆者の署名で101回を数え、ブラタマキと合わせて、筆者の署名記事はこの記事を合わせて124回となった。

「大阪・関西万博をブラタマキ」一覧

第22回
「万博はまだ終わらない。大阪・江之子島の「こみゃく」パビリオンを観に行こう」
https://lovewalker.jp/elem/000/004/326/4326652/

第21回
「万博・イタリア館にイタリア国外初のペルジーノ『正義の旗』が登場。最後の最後まで“すごい”パビリオンをガチ取材」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/322/4322061/

第20回
「関西万博の熱狂を、その先へ。日本のすっごい「町工場」を世界へ連れて行く壮大な計画「Beyond-EXPO」が動き出した!」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/321/4321313/

第19回
「現代魔法(3DCG)で大阪万博会場に完全顕現した「'70年万博」について当時小3だった僕が語り尽くそう」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/321/4321123/

第18回
「万博でリピーター続出の「ハンガリー・パビリオン」はリアル音楽体験でカルパチアの森に飛んでいける唯一無二の空間」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/313/4313574/

シアタースペースでの歌唱は神秘的ともいえる美しさだが、同時に素朴で日本人である筆者にも沁みてくる。公式写真より

第17回
「【胸熱】万博のアンゴラ共和国パビリオンが掲げる巨大な「健康教育」の文字はいったい何? そこには感動のストーリーがあった」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/314/4314061/

第16回
「超人気の万博・イタリア館にまたも必見の展示が登場! 伝説のノート『モレスキン』を素材にしたアート作品がすごい」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/311/4311794/

第15回
「伝統芸能「能」の力で万博会場に大きな踊りの輪ができた! 「いのちの遊び場 くらげ館」の中島さち子Pと大阪の山本能楽堂がスペシャルコラボ」
https://lovewalker.jp/elem/000/004/311/4311459/

第14回
「万博の最強シンボル「大屋根リング」を会場と森美術館(六本木)で登ってくぐって、藤本壮介の建築を体感した」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/297/4297028/

第13回
「ようやく対面できたミケランジェロ『キリストの復活』の数奇な運命を徹底解説。2度目の万博・イタリア館訪問を堪能」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/294/4294614/

第12回
「“ブラック・ジャックがアトムに心臓を移植する”胸熱なストーリーとともに案内される「PASONA NATUREVERSE」に行ったら「いのち、ありがとう。」と言いたくなるはず」
https://lovewalker.jp/elem/000/004/293/4293932/

印象的なアンモナイトを思わせるパビリオン ©TEZUKA PRODUCTIONS

第11回
「完全予約制の万博サウナ「太陽のつぼみ」で“ととのう”の向こう側へ行きました……新しい体験「サウナリチュアル」は次元が違う気持ちよさ」
https://lovewalker.jp/elem/000/004/292/4292620/

第10回
「ディーン・フジオカさん、ビビアン・スーさんも夢中になっちゃう! 大阪・関西万博の「TECH WORLD」パビリオンで台湾の最新デジタル技術を堪能した」
https://lovewalker.jp/elem/000/004/280/4280840/

第9回
「大阪・関西万博に混雑を避けて入場したいなら西ゲート直通のシャトルバスが狙い目! 実際に乗ったら便利で楽ちんだったぞ」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/280/4280316/

第8回
「マツコロイドと目が合ってびっくりしていたら、1000年後の未来の人間が現れた 大阪・関西万博「いのちの未来」パビリオンの衝撃的な展開を体験してほしい!」
https://lovewalker.jp/elem/000/004/278/4278739/

第7回
「誕生70周年のミッフィーグッズもいっぱい! 万博のオランダパビリオンは日本と同じ「水との共生」がテーマ 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/278/4278742/

第6回
「いのちは合体・変形だ! 河森正治「いのちめぐる冒険」は高精細スクリーンと大音響で大阪・関西万博のテーマをドライブする」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/277/4277345/

第5回
「ガンダムを通じてリアルな“宇宙世紀”を体験できる! 大阪・関西万博の「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」はパビリオンではなく一つの作品だ」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/277/4277099/

関西初登場の実物大ガンダム像©創通・サンライズ

第4回
「円環、循環、日本館。「大阪・関西万博」の日本館はハローキティにも火星の隕石にも出会える「ごみ」から「水」への物語」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/274/4274186/

第3回
「Perfumeのステージを超技術でリアルに体感できる! 「大阪・関西万博」NTTパビリオンで時空を旅する経験をしてしまった」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/269/4269169/

第2回
「「大阪・関西万博」一番人気のイタリアパビリオンをガチ解説! カラヴァッジョの名画、ダ・ヴィンチの至宝が生で見られる! ミケランジェロ「復活のキリスト」もやってくるって!?」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/268/4268276/

第1回
「大阪・関西万博にてコブクロが熱唱、だんじりばやしが響く! “大阪てんこ盛り”の大阪ウィークが始まった」 
https://lovewalker.jp/elem/000/004/268/4268053/

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