第124回
エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「大阪・関西万博をブラタマキ」 第20回
関西万博の熱狂を、その先へ。日本のすっごい「町工場」を世界へ連れて行く壮大な計画「Beyond-EXPO」が動き出した!
2025年09月23日 12時00分更新
近畿経済産業局と八尾市は「関西オープンファクトリーフォーラム Beyond EXPO2025 Vol.35」を2025年9月17日、大阪・関西万博内の大阪ヘルスケアパビリオン・ステージで開催した。
オープンファクトリーとは、全国各地の日本が誇る様々な職人さん、工場(こうば)の魅力を広く開示して、パビリオンのように見てもらうことで、国内外の人に日本のものづくりを知ってもらい、若い世代には仕事として興味を持ってもらう取り組みだ。工場見学の進化系として10年以上にわたって現場の人や近畿経済産業局や自治体などが取り組んできた。
今回「大阪・関西万博を好機」と捉え、地場産業活性化の鍵としての地域一体型オープンファクトリーの発展期に繋げるために、各地のキープレイヤーが集まり「万博後のオープンファクトリー(Beyond-EXPO)」について考えるフォーラムが企画された。
筆者は過去のフォーラムにも参加し、いくつかの地方での動きにも参加してきた身なので、いよいよ万博会場で開催されると聞き、矢も盾もたまらず会場に駆けつけた。今回は、そんなオープンファクトリーフォーラム Beyond EXPOの様子をご紹介しよう。
万博でオープンファクトリーイベントを開催するワケ
「オープンファクトリー」とは、ものづくり企業が生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取り組み。従来から工場見学やツアーといった形態で実施されてきたが、 近年では、ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など、一定の産業集積がみられる地域を中心に、企業単独ではなく、地域内の企業等が面として集まり、地域を一体的に見せていく「地域一体型オープンファクトリー」へと進展をみせている。
日本政策投資銀行が2025年3月に発表した調査資料によると、「地域一体型オープンファクトリー」は、全国各地で急増している。これらはオープンファクトリーイベントが開催を重ねる中で、地場産業の認知度向上や産業観光、そして BtoC事業振興などの効果を地場企業や産地にもたらしてきた事が大きい。特に関西地域では、万博との相乗効果を期待する産地が多く、実際に効果も上がっているが、逆に、万博開催をピークに地域一体型オープンファクトリーへの期待や関心の低下(衰退期への突入)を懸念する声もある。
そこで、実際に万博会場に乗り込み、超人気パビリオン前のステージで、オープンファクトリーの実際と現状、その楽しさを知ってもらい、さらに、キーマンを集めて、これからの課題やさらなる発展の可能性についてパネルディスカッションを繰り広げたわけだ。
八尾市が仕掛ける
ものづくりの魅力発信企画「とにかく触る博」
また、共催の八尾市は「OPEN FACTORY CITY YAO」を産業スローガンに自治体で唯一、大阪ヘルスケアパビリオンの展示・出展ゾーンに出展。「まちこうばのエンターテイメント!~みせるばやおモデル~」をテーマに、八尾市内の企業13社(空間プロデュース1社+個別展示・出展12社)による、ものづくりの魅力と企業の想いを一体化した「とにかく触る博」を開催。9月16日~22日の7日間に渡り、万博の舞台から未来へ、そして子どもたちへとつなぐ展示及び体験型イベントを実施した。
「関西オープンファクトリーフォーラム」では、地域のディレクション、現場の見せ方 ONLINE工場見学などから構成。楽しく、モノづくりの現場を見せてくれた。
Beyond-EXPO 地域のディレクション
とにかく触る博のトークステージ。「地域のディレクション」がテーマのセッション。
ファシリテータは、京都橘大学の丸山一芳教授が務め、新潟から一連の運動の先駆けともなった「燕三条こうばの窓口」 斉藤和也氏、愛知県・岐阜県にまたがる尾州からは、ウールのシャツで参加の「ひつじサミット尾州」 岩田真吾氏、地元の八尾市からは「ファクトリズム」松尾泰貴氏、福井県鯖江市からは「RENEW」新山直広氏という、非常に成功したオープンファクトリーで先導するキーマンが集まった。
ファクトリズムの松尾氏は、以下のように自己紹介。
「ファクトリズムは、八尾市で、92社の企業と13市町村が参加してオープンファクトリーをやっています。町工場さんは普段から皆さんの生活を支える仕事をしているんですが、あんまり見ることができないところの部品を作っていたり、みなさんの目に触れるような最終製品を作ってる人が少ないので、なかなか褒めてもらえないとか、喜んでもらえない、ありがとうって言ってもらえないみたいなところがあるので(笑)、4日間だけ、みんなに『自分のやり方』をアピールしてもらえる日を作ろう、みたいな感じで、いろいろな方に工場を開くっていうことをやってます。
町工場の方たちは、プレゼンがヘタだったり、おしゃべりも上手くなかったりするんですけど、それも慣れてもらって、4日間でとにかく工場自体が、エンターテイメントに変わっていく瞬間を作ろうという活動をしてます。
元々私は、市役所の職員でしたが、6年前にファクトリズムを始めました。13年間市役所に勤めたんですけど、最後はやっぱり地域の活性化に繋がっていくんです。地域の人達って、どうしても自分たちがいる場所だけに目が向いちゃいがちなんですけど、広域で市町村が連携してやることで、地域活性化していこうっていう取り組みをファクトリズムでやっています。
この会場にある大阪ヘルスケアパビリオンの中では、八尾市のリボーンチャレンジというのをやっていて、町工場さんの技術などに触れてもらいたい、とにかく触りまくってもらう、ベタベタ触ってもらう、職人さんの思いに触れてもらうという事をやっています」
また、燕三条こうばの窓口の斉藤氏はこう語った。
「今、3000社ぐらい、地域の工場があって、この地域の工場はひとつひとつがとても魅力的なんですけど、その伝え方、アピールの仕方が分からない。やっぱり技術の見せ方に特化しなければならないのですが、溶接ってどうやったら見せたらかっこよくなるのか、貯蔵ってどういう風に見せたら美しく見えるのかなというのは、一社一社がやることはなかなか大変なので。そうした工場の魅せ方の取りまとめをやっています。
1年に1回、『こうばの祭典』というイベントがあって、今年は126社ほどが参加するので、分業している工場だったり、包丁を作ってる会社さんの一貫生産の方法を見たりなど、色んなところを技術を再現してもらおうということをやっています。
燕三条(燕市と三条市のエリア)は、やっぱり、いい街なので、是非皆さんに遊びに来てほしいです。あと、僕は、燕三条の海賊王になる男なんで、是非覚えておいていただきたいなと思います。必ず世界一になると、いうところだけ、今日はお伝えできたらなと思っています(笑)」
ひつじサミット尾州の岩田氏は以下のように説明した。
「皆さん、岐阜羽島駅って知ってますか? 多分知ってる人は大勢いるけれど、ほとんど通り過ぎたことしかないと思うんですよ。その通り過ぎたことしかない岐阜羽島駅から、僕は今日来ました。
で、愛知県の北部から岐阜県の南部というのが、織田信長や豊臣秀吉がいた尾張の国で、古い言い方で尾州と呼びます。なんで羊なのかっていうと、羊を飼ってるわけではなくて、1891年に濃尾震災という大きい地震があった後に、産業復興をしなきゃいけないという流れの中で、世の中は文明開化というのでみんなが洋服を着るようになっていたわけです。
その需要をキャッチして、当時としては最先端の繊維だったウール、毛織物に、僕たちの先祖が頑張り出して、その後に、皆さんの中でもしかしたら『ガチャマン』って言葉を聞いたことある人もいらっしゃるかもしれませんが、ガチャンと1回織ると1万円儲かるという、今のAIみたいな時代があったんですよ。
繊維産業が日本の産業を支える時代があって、トヨタも実は最初織機を作ってたみたいな背景がある産地なんです。お2人も言っていたとおり、工場っていうのは、基本的にはクローズの閉じた場所なんですよね。
守衛さんがいて、普通の人が入ってきたら入れませんよって言われる所だったんですが、そこに一般の方に来てもらって楽しんでもらったり、作り手同士が繋がることによって新しいものづくりができたり、働いている職人ひとりひとりが自分というものを持てるという場所にしたいという思いがあります。
僕は経営者で、五代目の跡継ぎなんですけど、僕たちが勝手に、現場の職人は口下手で、人見知りで、人となんか喋りたくないんじゃないかと勝手に思い込んでいたのが、いろんな人が来てくれて、『すごいです』とか、『どうやってやるんですか』って聞いてくれると、嬉しそうに喋り出すんですよ。
市役所は全然、人もお金も出してくれないので、民間が始めて、ボランティアでやってるので、仕事が終わった後の部活動みたいな感じでやってるんです。毎年毎年やって、今5年目。今年10月の24・25・26日にまたやりますので、万博が終わった後の週末、どうしようかなっていう人は、ぜひ初めて岐阜羽島駅に降り立っていただけたら嬉しいなと思っています」
最後にRENEWの新山氏の話は以下のとおり。
「福井県鯖江市からやってまいりました新山と申します。出身は大阪の吹田出身なんですけども、17年前に福井に魂を売って移住しました(笑)。
福井といえば、東尋坊とか恐竜博物館とか、関西パビリオンのところで福井ブースもありますので良かったら立ち寄って欲しいんですが、色んな観光資源があるんですけど、今日、僕がお話しするのは、鯖江市、越前市、越前町で展開している『RENEW』というオープン・ファクトリーイベントについてです。2015年からやっております。
鯖江と言えばメガネが非常に有名で、国内の96%ぐらいのメガネを作っているんですけど、それ以外にも、漆器だとか、和紙、刃物など7つの地場産業が半径10km圏内に集積しています。
バブル時期まではすごく調子が良かったんですけど、バブル崩壊以降、仕事がどんどんなくなっていって、このままじゃやばいと。ものづくりの伝統工芸の価値をどう伝えるかという時に、工芸を置いてるだけじゃなかなか伝わらないので、いっそのこと来てもらって、ものづくりの背景だとか、職人さんの思いを知ってもらって買ってもらうのが一番伝わるんじゃないかなと思って始めたのが『RENEW』というイベントです。
工場見学だとか、ワークショップ、トークイベントなど、色んなイベントをやりながら、10年ぐらいやってきたのですが、最初は本当に、工場を開いて技術を盗まれたらどうするんやと言われたり、産地自体も結構やさぐれていて、飲みにいっても結構どよんとしてる感じだったのですけど、お客さんに来てもらって、『なんかすごい』って言われると、やっぱり皆さん嫌な気持ちにならないので、じゃあ頑張ろうみたいな、ちょっとずつ自信を取り戻していったわけです。
今我々の街は、40店あまりの工場直営店みたいなものができたり、色んな自社ブランドというものができて、すごく元気になりました。それに感化されて、若い人たちが移住してきてくれてて、職人さんも、次何仕掛けるの? みたいな雰囲気になってきました。
こういったフォーラムなどを通して、自分たちのものづくりだけじゃなくて、ほかのエリアの職人さんも、ある意味ライバルでもあるかもしれないけど、仲間でもあるみたいな、そういう雰囲気ができてるのは、いいところだなと思っています。
今年の『RENEW』は、10月の10日から12日までやっています。万博も残り1ヵ月で終わりますが、『RENEW』に来たら疑似万博体験ができるんじゃないかなと思っています」
「燕三条こうばの窓口」
https://factory-window.jp/
「ひつじサミット尾州」
https://hitsuji.fun/
「ファクトリズム」
https://factorism.jp/
「RENEW」
https://renew-fukui.com/
Beyond-EXPO 現場の見せ方
続いては、「現場の見せ方」がテーマのセッション。
ファシリテータは、オープンファクトリーの仕掛け人である近畿経済産業局の津田哲史氏が務め、メンバーは大阪府八尾市を中心にしたオープンファクトリー「ファクトリズム(FactorISM)」に携わる中小企業のキーマンたち。錦城護謨株式会社の太田泰造氏、株式会社小泉製作所の小泉達哉氏、株式会社河辺商会の福田康一氏、株式会社一瀬製作所の一瀬勇樹氏。オープンファクトリーに参加する工場側の人たちが集まった。
錦城護謨株式会社は八尾市に本社を置くゴム製品メーカーで、土木事業や福祉製品も展開している。 株式会社小泉製作所は金属加工・試作専門のメーカー。パイプ加工、溶接、表面処理をワンストップで対応する。株式会社河辺商会は堺市西区のプラスチック成形専門メーカー。自動車・AV機器・光学関連の部品を生産している。株式会社一瀬製作所は門真市の板金加工・ステンレス建具メーカー。建築装飾金物や産業機械筐体を専門にしている。
トークセッションでは、それぞれの取り組みについて熱い話があった。5年間のファクトリズム(FactorISM)の取り組みが、2025年大阪・関西万博出展という「頂き」を達成したのだが、これは「通過点」に過ぎない、と言う意見に。
万博で得た気づきや関係性を、2025年10月23〜26日のファクトリズムに引き継いでいく。国内のものづくり・地域活性化を推進し、世界市場に日本のスペシャリティを発信していく。産地全体の力で未来を構築する。万博はスタートポイントだということを強調していた。
ステージではオンライン工場見学も!
ステージではトークショーだけでなく、ファクトリズムの松尾氏、近畿経済産業局の津田氏がファクトリズムに参加している工場とオンラインで結んで、現場の様子を「工場見学」させてくれた。
近畿経済産業局の津田氏に今回のフォーラムの手応えを聞いた。
「本当に万博が目的で、各地のオープンファクトリーを増やしたり、活性化したつもりじゃないんですけど、万博があるから各地が盛り上がっていただけたという思いは実際ありますね。今回、万博という場に、各地のオープンファクトリーの優れた方々に登壇していただけたというのは、すごく良いタイミングだったかなと思います。
でも、やはりあくまで通過点であって、インバウンドで海外のビジネスパーソンにも万博に訪れていただいて、オープンファクトリーを知っていただけたのが、今のタイミングだと思っていますので、これを機に、今後はアウトバウンドしていきたいです。
魅力を知ってもらった海外の方々に売り込んで、ビジネスに繋げていけたらなと思っています。これからまだまだ続けて飛躍ができるような取り組みになっていけばいいなと思います。
10年以上続けてきたオープンファクトリーですが、この万博のステージを経て、今回、まさに海外と繋がったっという感じはあります。アフター万博では、海外に出していく流れをうまく作っていきたいなと思います。八尾市には、たくさんの海外の方が来られているので、ビジネスに繋げていきたいなと思っています」
近畿経済産業局「地域一体型オープンファクトリー」
ウェブサイトから引用。
「地域一体型オープンファクトリーは、開催する地域社会(住民)にとっては、自らのまちの魅力や奥行きを再認識する契機となり、企業にとっては、地域社会と新しい接点を持つことで、 地域の企業としての意識(ローカル・カンパニー・プライド)の芽生えやイノベーティブな着想を得る機会につながっています。また、継続的に実施されている地域一体型オープンファクトリーが持つ集客力や求心力は非常に強力であり、 地域内外から多くの集客を獲得しています。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大の時代背景においても、情報通信技術を活用したオンライン開催など、手段の多様化により、地域の新たな魅力発信手段として注目されていくものと推測されます。
こうした現状をふまえ、2025年大阪・関西万博を見据えて、新たな関西の魅力を発信する手段としての地域一体型オープンファクトリーの意義を改めて整理する必要があることから、 関西各地に広がる地域一体型オープンファクトリー内でどのようなイノベーションが生まれているのか、その要因を調査するとともに、各キーパーソンのネットワークを構築・活用することで、 中小企業が主役となる地域一体型オープンファクトリーと外部資源(大手企業、ベンチャー企業等)との協業可能性を検討することを目的として調査を実施するなど、様々な角度から取組を行っています」
※地域一体型オープンファクトリー:ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など、一定の産業集積がみられる地域を中心に、企業単独ではなく、地域内の企業等が面として集まり、生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取組
https://www.kansai.meti.go.jp/1-9chushoresearch/openfactory/openfactory.html
『大阪・関西万博 攻略MAP ウォーカームック』
発行:株式会社角川アスキー総合研究所
発売:株式会社KADOKAWA
発売日:2025年06月30日
定価:1078円 (本体980円+税)
ISBN:978-4049112665
サイズ:A5判/84ページ
詳細はKADOKAWAサイトへ
【目次】 大阪・関西万博とは
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