甘味ととろみが自慢のイチジク!旬の夏にみずみずしい実を収穫する埼玉県・加須市の生産者に密着

2026年07月06日 12時00分更新

果汁が滴る摘みたてのイチジクの実

埼玉県北部に位置する加須市は近年人気上昇中の果物・イチジクの産地。旬を迎える夏の日の早朝、みずみずしい実を収穫する生産者・若山和一さんの畑を訪ねました。

肥えた土壌に実るのは夏の暑さに強い「ドーフィン」

イチジクをコンテナいっぱいに収穫する若山さん。実が傷つかないよう、コンテナの底にはタオルを敷く

加須市でイチジクの栽培が始まったのは、1983(昭和58)年。それまで盛んだった水田の転作作物として、甘さと肉質が優れた品種・ドーフィンが採用され、意欲あふれる生産者たちの手で行田市や羽生市にも広がりました。

色付いたイチジクがたわわに実るこの畑の主・若山さんも、稲作からイチジク栽培へと舵を切ったひとり。8月から11月上旬までの収穫期は、写真のように毎朝畑に出て汗を流します。「ドーフィンは暑さに強いんです。最近の夏は酷暑だし雨も少ない。雨が少ないと実が小さくなってしまうんだけど、うちは井戸水が出るからそれで潅水(かんすい)できる。昔は水田だったから、土壌もよくて、おいしいのができるんですよ」と若山さん。

聞けば、ドーフィンは国内で最も多く流通している品種。歴史は古く、明治時代、広島県の桝井光次郎氏がアメリカから苗木を持ち帰り、栽培したのが始まり。“桝井ドーフィン”と呼ばれることもあるそうです。

愛情を込めて一つずつ両手で摘み取る

摘み取りは、一つずつ両手で優しく丁寧に。傷がつかないよう細心の注意を払う

どこからともなくカエルの声が聞こえてくるのどかな畑で、若山さんはイチジクの摘み取り方を教えてくれました。「コツは、両手を使うこと。両手で実を包むようにして軸を押さえ、実を少し上げると、ポキっときれいに切れます。これを片手でやるとうまくいかない」

なるほど、とても繊細な作業。消費者の手元に届くまで鮮度を保たせるためにも、軸を少し残しておくことが大切だそうです。「色付き具合も見ます。熟す少し前、まだ緑色が残っているくらいがいい頃合いだね。それから、実のお尻が少し鳩の目のような形に割れたもの、“ハトメ割れ”しているのがいいんですよ」

そう話しながら、コンテナにイチジクを次々と入れていく若山さん。1本の木からおおよそ40本の枝が伸び、ひと枝ごとに17~18個の実がつくそう。合計すればなんと約700個!

毎日休むことなく、早朝6時から台車を押しながら畑を回り、一つ一つ実の色を見極め、手作業でそれだけの数を摘み、そのすぐ後にパック詰めまで行う…。午後2~3時には3ケース入りの箱を20箱も出荷すると言い、忙しさと苦労がうかがわれます。

枝を横に伸ばし樹高を抑える“一文字仕立て”

程よく赤みが差してきたら収穫どき

もちろん、イチジク栽培の苦労は収穫時だけではありません。木がたくさんの実をつけるのも、計画的で地道な作業の積み重ねがあってこそ。若山さんに年間の取り組みも伺いました。

「秋の収穫後は、実をつけることで消耗した木を元気にするためにお礼肥え(肥料やり)をします。その後、木が成長を止める休眠期の2月ごろには、太くどっしりとした主幹にある二芽ほどを残して、枝葉をすべて切り落とす。それなのに翌年の夏には枝葉がまた生い茂って実をつけるのだから、すごい生命力でしょう?」

そして、3~4月には実を甘くするために肥料を与え、春を感じて顔を出した新芽を横にはわせて伸ばしていきます。上方向ではなく横に伸ばすのは、人が手で収穫できる高さに樹高を揃えるため。確かに、畑には整然と同じ高さの木が並んでいます。樹形から、この栽培法を“一文字仕立て”と呼びます。

鮮度の良さが伝わる白い樹液。しかし手につくとかぶれのもとになるため、作業は手袋必須

ほかにも、実が傷つかないように木の間隔を十分にとったり、伸び過ぎた葉を落としたり…。おいしさと美しさ、その品質を維持するためには細かい気配りが必要。白い樹液にタンパク質分解酵素・フィシンが含まれるので、手がかぶれないよう作業時に手袋を着用するのも決まり事です。

毎日食べるイチジクが元気の源

重さごとに3LからBまで分けてパック詰め。写真はLサイズ(80~94g)5個入り。品種はドーフィン(右)とバナーネ(左)

そんな努力の末に採れたイチジクを、若山さんが振る舞ってくれました。勧められるまま皮ごと頬張ると、とろける柔らかさと甘味が口いっぱいに広がります。「私も毎日食べています。食物繊維がいっぱいで便秘予防になるし、血圧やコレステロールを下げるっていうし。冷凍してもいい」

若山さんは、1985(昭和60)年に“騎西いちじく組合”として発足した加須市騎西いちじく組合の顧問で、昨年までの5年間は組合長を務めていました。栽培を40年も前に始めたのだから、先見の明があったということですね? そう尋ねると、「いえ、まだまだひよっこの生産者です」と返してくれました。最後に、生産者さんならではのこんな裏話を…。

「この辺りにいるタヌキもおいしさを知っててね、せっかくなった実を食べられちゃうことがある。うちでは、ドーフィンより白い色をしたバナーネという品種も育てているけど(出荷はドーフィンのみ)、ねっとりとした果肉で甘いからよく狙われるんですよ(笑)」

皮が薄緑色の品種・バナーネ。果肉の色は一般的なイチジクと同様だが、ねっとりと濃厚な舌触りが特徴

(取材にご協力いただいた生産者さん)

若山和一さん…加須市騎西いちじく組合の顧問として、地域の発展とイチジクの生産量拡大に尽力している。別業種を定年退職した後、もともと水田だった土地を畑に転換して栽培を始めた。主に手がける品種はドーフィンで、バナーネとホワイトゼノアも少量栽培している。写真左は奥さま。

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